『夜叉の都』 [伊東潤]
内容紹介【購入(キンドル)】
2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の世界を描く!武士の府は、誰にも渡さない――頼朝亡き後、弟・義時とともに次々と政敵を滅ぼしていく北条政子。鬼となって幕府を守り抜いた「尼将軍」を描く、圧巻の歴史巨編!
1月にご紹介した『修羅の都』の続編である。『修羅の都』の方は、頼朝と政子、それに義時のそれぞれが主人公という感じで描かれていたが、源頼朝は劇中亡くなっていて、『夜叉の都』は、残った政子の視点から一貫して描かれた作品となっている。前作において、頼朝が亡くなって長子・源頼家が将軍に就任するシーンから、承久の乱の幕府軍出陣のシーンまでが一気に飛んでいたが、『夜叉の都』はまさにその時間的なギャップを埋める作品となっている。
但し、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の世界をよく知りたくてこの時代を取り上げた歴史小説を読もうと考えている人にとっては、この伊東潤の2作品が、お勧めできるのかどうか少し悩ましい。『修羅の都』では、自分にとっての脅威となりそうな人物を先手を取ってどんどん消していく司令塔役を頼朝が、その実行部隊を北条義時が担っていた。頼朝の死後、性格や行動が瓜二つで、将軍没後自分自身が頼朝に代わって武家の世を築くと義時が誓うシーンがあったが、『夜叉の都』はまさにその後の義時の先手必勝策が次々繰り出され、幕府創立時の頼朝近臣たちが次々と退場させられていく。
「退場」という言葉を使ったが、もっとありていに言えば陰謀に蟄居謹慎、暗殺、毒殺等が次から次へと行われる。小栗旬さんがどう義時を演じるのかわからないが、本作品を読んだら、大河ドラマでの北条義時に対する見方が、ものすごく変わってしまうことが予想される。読後感は決して良くない。読む人は心して読むべきだ。
大雪、停電、そんな中のオンライン会議 [ブータン]
写真は5日(土)朝の、宿泊先のホテルの窓から見えるクロックタワーと、ティンプーチュ(川)対岸の景色です。前日日中より雪は断続的に降っていたが、本格化したのは夜からで、こりゃ明日の朝はあたり一面の雪景色だろうと予想した。
夜中、息苦しさで目が覚めた。僕は睡眠時無呼吸症候群の治療のため、1年前からCPAPを装着して就寝するのを日課にしていて、こちらにもあのCPAPの重い機械を持ち込んでいる。鼻の部分にだけシリコン製のマスクを装着し、そこに空気を送り込む装置なのだが、これが動いている間は口が開けられない。口呼吸ができないのだ。それだけ鼻への空気供給が行われているということなのだが、何かの拍子に機械が止まると、途端に息苦しくなる。それで夜中に目が覚めたのだが、停電が起きているのに気づき、それでノーズマスクを外して寝ることにした。
5時、また目が覚めた。元々早起きして週末読書に時間を充てようと思っていたので、そのまま起きたのだが、今度は部屋の電灯も点かないし、電気ストーブも点かない。これでは寒くて仕方ないので、またベッドにもぐり込み、キンドルの弱い灯りだけで読書を進めた。この停電は、7時過ぎまで続いた。
結果ティンプー谷の谷底に近いクロックタワー広場で、朝の積雪はこんな状態だったので、それほどすごい積雪だとは思っていなかった。ただ、お隣の谷になるプナカやワンディポダンでは64年ぶりの積雪があったとか、ソーシャルメディア上では、雪に覆われたプナカのゾンの写真とか、掲載されていた。
タグ:zoom
『ハロー・ワールド』 [読書日記]
内容紹介【購入(キンドル)】
エンジニアの文椎(ふづい)が作った広告ブロックアプリがインドネシアで突如売れ始めた。そこに隠された驚愕の事実とは。検閲や盗撮などの問題を描いた表題作「ハロー・ワールド」をはじめ、インターネットの自由を脅かす行為に、知識と技術で立ち向かう文椎の、熱く静かな闘いの物語。第40回吉川英治文学新人賞受賞作。GoogleカーやAmazonのドローンが次々集まってくる「行き先は特異点」、バンコク出張中にドローンを使った政治運動に巻き込まれてしまう「五色革命」、Twitterが中国に門戸を開いたのを機にTwitterクローン〈オクスペッカー〉をアップデートしてインターネットの自由を守ろうとする「巨象の肩に乗って」、マレーシアのビットコインセミナーに参加中に拉致されてしまう「めぐみの雨が降る」。単行本刊行時にAmazonランキング1位を獲得した話題作が、これまでKindle版でしか読むことのできなかった「ロストバゲージ」を新たに加え、待望の文庫化!
久しぶりに藤井太洋作品を読もうと思い、手頃な文庫本としてキンドルでダウンロードした。長めの短編が5編と、その後に超短編が1つ、個々の作品としていずれも面白いが、連作になっているので、最初の「ハロー・ワールド」から順番に読み進めれば、エピソードを重ねるにつれて広がっていく文椎のネットワークと活躍の幅を味わうことができるし、今よく話題に上るサイバーセキュリティ問題やドローン宅配、コネクテッドカー、ドローン撮影、ブロックチェーン、インターネット検閲などの論点を、ストーリー仕立てで味わって、少しだけわかった気にさせてくれる。
これまで読んできた藤井作品では、中心となっているテクノロジー要素に自分自身が通暁していない点がボトルネックになり、時々何が描かれているのかわからなくなるケースがあったが、今回の作品では、わりとメディアでよく目にするテクノロジーを主題にしているからか、とっつきやすい作品が多かった気がする。1編あたりのボリュームも、1時間程度で読み切れるものばかりで、就寝前の1時間とか決めて、1週間かけて読み切るというノルマにちょうどピッタリ合っていた。
そして、何よりも、これは暇があったらまた何度か読み直してみたいとも思える作品だった。
各編とも扱われる主題が異なる上に、短編だったからか、長編の藤井作品を読んでいて、ストーリーが進むにつれてどうしても感じてしまう登場人物の「超人」ぶりを、そこまで感じずに済んだというのもあるのかもしれない。また、主人公である文椎泰洋にしても(これ、絶対「藤井太洋」もじってるよな~)、それほど尖った専門性を持っている人物としては描かれていないから、出張や長期滞在で海外に出て外国の人と仕事する時にも、これくらいの振る舞いはできるようになりたいと思わせるキャラクターだった。
プンツォリンはどうなってる? [ブータン]
プンツォリン住民、緩和を心待ちにする
P/Ling residents wait for relaxation
Rajesh Rai記者(プンツォリン)、Kuensel、2022年2月2日(水)、
https://kuenselonline.com/p-ling-residents-wait-for-relaxation/
【要約】
1)プンツォリン市民が今日からだと待ち望んでいたロックダウンの緩和は、市中感染者の増加を受けて実現困難となっている。昨日だけで、138人の新規陽性者が確認され、うち90人は市中感染、45人はその濃厚接触者、残る3人はインドからの持ち込みだった。
2)1月末に向けて、多くの市民が緩和を期待していたが、南部COVID-19タスクフォースは1月30日、ロックダウンを今日まで延長することを決めた。この決定は、1月30日時点での現地状況を勘案して現地タスクフォースが独自判断で緩和を決めても良いとの政府アナウンスを受けたものだった。このため、今日の追加緩和の発表が待たれたのだが、市中感染者の増加を受けて、それも困難となった。タスクフォースによると、1月21日以降、市中感染者の数は減少しはじめていたが、1月28日に19症例が確認されて以降、急増に転じたという。
3)保健省発表の全国状況アップデートによると、プンツォリン市内だけでh、290件の陽性者が市中で確認されている。
4)市民の間ではプレッシャーとフラストレーションが高まっている。民間被用者の1人は、プンツォリンでは1月中旬から市中感染者が出ているのに、マス・スクリーニングが行われていないと批判する。政府がティンプーに注力し過ぎているからだと述べる。政府はプンツォリンその他の南部地域を危険地帯と指定しているが、感染爆発が起きたのはワンデュポダンではないかと指摘する。別の住民は、市民は金銭的にも精神的にも最善の努力は尽くしているが、プンツォリン以外の地を外から見ているのとプンツォリン市内で自分たちが経験していることとは大きく違い、努力も限界に近付いていると述べる。
5)別の住民は、今こそウィルスといかに共生するかを学ぶ時だと述べる。「これは終わりのない物語です。政府はウイルスとの共存も選択肢だと捉えられる途を模索するべきだ。」日雇い賃金労働者と小規模ビジネスが最も損害を被っていると彼は指摘する。
6)市内繁華街の店主は、1月30日以降、お店はローテーション制で開店を許されており、以前は7店舗の開店が許されていたが、今はたったの2店舗だという。これでは2店舗に人が集中してしまうので、開店店舗数を増やして来店客を分散させた方がいい、宅配制度も有効な選択肢だと主張する。
7)中には、100%安全だと確認されるまで緩和は危険だと主張する市民も。あと1、2週間はかかると見込む。
8)市内でロックダウンを詳細に観察してきた市民は、ロックダウン解除にはマス・スクリーニングが必須だと述べる。各世帯から1人、食料品店に最も頻繁に行く家族がPCR検査を受けるべきだと主張する。
9)タスクフォースのメンバーによると、今のところ、トールサ地区の仮設住宅とアモチュ河岸地域においてクラスター検査が行われただけだという。仮設住宅地域は自己隔離環境下にあるため、感染拡大のホットスポットとなっている。1月31日には26人、昨日は29人の新規感染が確認され、トールサ地区の陽性者は、合計80人超にも及んでいる。
1月9日に「プンツォリン、72時間のロックダウン」という記事をブログでご紹介して、他人事のように僕もプンツォリンの感染拡大状況を見ていたのだが、1月中旬以降は足元のティンプーでも感染者がチラホラ出てきて、その後ロックダウンになってしまった。自分たちの身を守りながら、なんとか首都ロックダウンを耐え忍ぶことに僕自身の関心が移ってしまっていたから、プンツォリンの状況を追っていなかったのだが、たまにはプンツォリンの状況もアップデートした方がいいかと思い、本日はこの記事を取り上げた。
進級試験の延期決定 [ブータン]
教育省、進級試験を延期
Education ministry defers board exams
Phurpa Lhamo記者、Kuensel、2022年2月2日(水)、
https://kuenselonline.com/education-ministry-defers-board-exams/
【要約】
1)教育省は、昨日、2月14日に予定されていた10年生と12年生の全国共通進級試験を延期すると発表した。新しい実施予定日は近々発表される。
2)教育省発表によると、この延期措置は国内で増加している新型コロナウィルス感染を受けたもので、生徒やスタッフをリスクにさらすわけにはいかないとの判断による。「自己隔離環境下にある生徒や教員は各々の学校や施設内での滞在を継続して欲しい。他方、受験のために国内移動を検討している者には、新しい実施日が発表されるまで、移動を待つよう求めたい」(同省発表)
3)カルマ・ツェリン教育次官によると、状況が改善すれば、各県は生徒を学校に入れることを認めるか否かを判断できるという。各県庁には、それぞれのコロナの状況、及びCOVID-19タスクフォースの許可に基づき、判断をするよう求めているとのこと。同省はその判断を各県に委ねている。
4)この延期措置により、通常授業は影響を受ける。春学期開始の時期に影響が及ぶ可能性が高い。
5)延期の決定に先立ち、教育省は県教育官や省内各部署の長、教員、校長と数次の会議を行った。本誌の得た情報では、そこでは、①10年生の自動進級、②延期後の試験実施時期の2点が大きな議題だったという。①についての大勢の意見は、自動進級には反対で、10年生は授業評価と進級試験試行により11年生への進級を認めるべきだというものだった。
6)②については、延期判断は妥当との意見が多数を占めた。市中感染が出ている状況下では、いかに自己隔離環境下での試験実施であっても安全ではないとの理由による。自己隔離環境下に生徒が入った後で市中感染が起きていれば、安全だったのだがとある教員は述べた。
のっけから余談ですが、この記事を書き始める直前、首相官邸からのアナウンスで、明日からティンプー市内を歩いてもいいと発表された。全国の新規感染者数は相変わらず三桁だが、ちょっと減る兆しが見え、昨日のティンプー市内の市中感染者は新たに確認されなかったのを受けての緩和措置だ。但し、どのような形での集まりもNGということなので、ミーティングはできず、かつ市中の移動は徒歩か自転車のみとなっているため、タクシーを使わないと行けないような場所へは行くことができない。近所での買い物程度しか実際無理で、もうしばらくは在宅勤務を余儀なくされそうだ。
タグ:教育
遅いインターネット(別文脈ですが) [ブータン]
遅いインターネットに市民は苛立つ
Slow internet speed frustrates people
Samten Dolkar記者、BBS、2022年1月31日(月)、
http://www.bbs.bt/news/?p=165280
【抄訳】
ロックダウンが始まってすぐに、より多くの人が様々な目的からインターネットを利用し始める。インターネットは唯一のコミュニケーション手段となり、ネットワークに負荷をかける。携帯電話利用者が70万人以上にも及ぶ今日、インターネットの速度の遅さに人々が不満を表明する姿は、いつもの光景だ。
COVID-19やそれに関連する課題を別として、ソーシャルメディア上には遅いインターネットに関する不平不満が氾濫している。「顧客相談窓口に電話しても、ロックダウンのせいだと言われるだけ。もしそうだとしても、このロックダウンは初めてじゃない。3回目なんですよ。なんでサービス改善のための手が打たれてないんですかね」――ティンプー在住のゲム・ツェリンさんは述べる。
「ロックダウン中は家にいるしか選択肢がない。インターネットは唯一の友だけど、退屈なものでもある。この頃は、Samuhといった新しいアプリがあるけれど、インターネットを利用しないといけない。以前なら4Gはきちんと機能したけれど、今はテレコム各社とも5Gを導入したにも関わらず、スピードは速くない。早くアップデートされないといけない」――こう述べるのは、市内在住のテンジン・デンドゥップさん。
タシセルもブータンテレコムも、この問題については認識しているものの、いろいろな課題に直面しているのだという。「モバイルデータのためのキャパシティを増やそうと思ったら、中継塔をできるだけ多く建てないといけません。でも、建てようとしたら用地確保が必要で、そう簡単に増やせないのです。この問題に関しては市当局とも取り組んでいますが、市側も用地確保は難しいと認めています。例えば、2021年、弊社はティンプー市内で21カ所に中継塔建設を申請しましたが、認められたのは9カ所のみです(後略)」――タシセル社のマネージングディレクターであるタシ・ツェリン氏はこう説明する。
「弊社にとっての難題は、こうした独占事業の事業拡大への認可取付そのものでもあります。中継塔ではなく電柱1本であっても、許可取付には困難を伴います。多くの手続きを踏む必要があるのです(後略)」――ブータンテレコム社のカルマ・ジュルミCEOもこう述べる。
2社のトップの中には、通信網をより早く拡大するのを助けるための政策が策定されることが重要になってきていると指摘した。また両社によれば、5Gが遅いインターネットにつながっているとする批判は正しくないという。5Gはただ速い速度でデータ送信するだけでなく、4Gネットワークの混雑の軽減にも寄与していると反論する。.
ロックダウンも3週目に突入しているティンプー。確かにロックダウン入りしてから、仕事をなんとか進めるために、そしてストレス解消のために動画見たりするために、インターネットへの依存度は増した気がする。何度か話題にしているように、Zoomを使ったオンライン会議やオンラインセミナー出席は増えたし、特にZoom会議を開いている最中に、接続が不安定になって相手の声が聞こえなくなったり、画像が静止しちゃったりする事態は、以前より多発するようになった。
政府高官への厳しい評価 [ブータン]
王立人事院のリーダーシップ評価で50%の高官が「失格」
50% of top civil servants fail RCSC’s leadership assessment
Phurpa Lhamo記者、Kuensel、2022年1月31日(月)、
https://kuenselonline.com/50-of-top-civil-servants-fail-rcscs-leadership-assessment/
【要約】
1)王立人事院(RCSC)が行った初めてのリーダーシップ能力評価において、対象となったエグゼクティブレベルの62人の公務員のうち、50%はRCSCが定めた期待値を下回っていたことがわかった。この評価結果を受け、RCSCはその対象者を現在のポストから外す手続に入った。降格、あるいは辞任ないし辞職を勧告するという。
2)昨日付のプレスリリースによると、62人中4人(7%)が期待値を超えるパフォーマンスを示していた。この4人については、さらに広い権限を付与してよいかどうか、さらに見極めるという。事務次官や局長級のこの4人が誰なのかは明らかにされていない。
3)リーダーシップ評価は、昨年7月に導入された。評価者は現地人と外国人から構成された。今後は部長級にまで評価の対象を拡大し、今年3月に完了する予定。
4)過去、公務員は、所管部署の年次成果評価合意(APA)に基づくパフォーマンスを近似値として評価を受けてきた。APAでは、その組織が「秀逸(Outstanding)」と評価されれば、その管理職も高い評価を受けた。これでは、組織のパフォーマンスと管理職のパフォーマンスが一致しない可能性を排除できなかった。
前回駐在していた頃から、国王の建国記念日演説で毎年指摘されてきたのが「公務員の質」の問題だった。大卒の成績優秀者は皆公務員をめざすが、公務員の働き方が効率的かとといえば、批判の対象となることが多い。昨年12月の建国記念日演説を聴いていた元国会議員の知人が、「公務員に対する国王のいら立ちがにじみ出ていた」と仰っていた。そして、それはその直後の首相の一般教書演説にも反映されていた(「首相演説ににじみ出る危機感」(2022年1月3日))。最近も、公務員のデジタルリテラシーがやり玉に挙がったばかりである(「公務員のデジタルリテラシー」(2022年1月25日))。