『そして誰もゆとらなくなった』 [朝井リョウ]
内容紹介【購入(キンドル)】
『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』に続く第三弾にして完結編。怒涛の500枚書き下ろし!頭空っぽで楽しめる本の決定版!修羅!腹痛との戦い/戦慄!催眠術体験/迷惑!十年ぶりのダンスレッスン/他力本願!引っ越しあれこれ/生活習慣病!スイーツ狂の日々/帰れ!北米&南米への旅etc…… 一生懸命生きていたら生まれてしまったエピソード全20編を収録。楽しいだけの読書をしたいあなたに贈る一冊です。
「岐阜県推し」と申しつつ、最近、朝井リョウの作品読んでないことに気付いた。
『正欲』とか『死にがいを求めて生きてるの』とか、この間にリリースされてた著書もあったのだけれど、タイトルだけ見てあまり買う気が起こらず、なんとなく敬遠して現在に至っている。
デビューしてからもう13年も経つのか。デビュー当時は早稲田の学生だったから、今やリョウ君も30代か。僕自身が彼の親ぐらいの世代であるため、彼が作品で取り上げるテーマに途中からちょっとついて行けなくなったわけだが、小説はついて行けなくても、エッセイが切り取る彼の日常ぐらいはちょっと覗いても面白いかも―――そう考えて今回は、最新のエッセイ集をダウンロードすることにした。
「ゆとり」三部作も、一作目の『時をかけるゆとり』を読んで面白いと思ったのは7年前。途中の二作目はすっ飛ばし、最新作にして完結編と銘打たれている本書に直接向かうことにした。なにせまだ発刊から2ヵ月しか経過してない。彼の近況を知るには最も適した1冊だ。
『発注いただきました!』 [朝井リョウ]
内容紹介
『桐島、部活やめるってよ』でのデビューから十年。森永製菓、ディオール、JT、JRA、アサヒビール、サッポロビール、資生堂、JA共済など、様々な企業からの原稿依頼があった。原稿枚数や登場人物、物語のシチュエーションなど、小説誌ではあまり例を見ないような制約、お題が与えられるなか、著者はどのように応えてきたのか!? 「キャラメルが登場する小説」「人生の相棒をテーマにする短編」「ウイスキーにまつわる小説」「20を題材にした小説」など、短編小説14本、エッセイ6本。普段は明かされることのない原稿依頼内容と、書き終えての自作解説も収録された1冊。十周年に合わせて依頼された新作小説も収録。
つくづく、小説家というのは当たってナンボの自営業者なんだなと思う。月刊の文学誌で短編を書くだけでなく、長編書き下ろしも書く。それも、ある程度の評価を受け続けなければ執筆の依頼は来ない。長編は書き下ろしだけでなく、新聞雑誌での連載というのもあるだろうし、これも依頼だろう。
売れっ子だったら、それ以外にも、企業の機関紙とか、企業主催の何かのイベントのパンフレットにも書いて欲しいと依頼が舞い込んで来たりもするのだろう。単に、お馴染みの本や雑誌といったメディアだけでなく、活字メディアにはもっといろいろあるんだというのと、それぞれのメディアの制約により、文字数も規定されるし、テーマも規定される。
本作品は、そういう執筆依頼を受けた朝井リョウ君が、どうさばいたかというのの記録集といえる。20本も収録されて1600円というのは、かなりコスパも良いし、小気味よいいい作品が集められているとも思う。多少冒険したところはあったらしいが、どの執筆依頼にも真摯に応え、いい作品を書いて納めているように思う。これでギャラって幾らぐらいなんだろうか? 依頼先の売れっ子具合によって変わって来るんだろうけれど、朝井リョウクラスだったらいくらぐらいが相場なのか、誰が決めているのか、興味は尽きない。
おかげで、彼の岐阜県での小中高校生時代の様子が窺える作品もチラホラ含まれている。最近の朝井作品はどうしても東京舞台で僕にはついて行けない20代やよくて30代の人々を描いたものが多く、手に取るのに勇気が必要だったが、高校生かそれよりも若い子どもたちが出てくる話は、多くが岐阜県での彼の少年時代を想起させるもので、僕にはまだイメージがしやすい。何しろ、彼の高校時代のクラスメートの母親というのが、僕の小学校時代の同級生だったりする。お陰で、同窓会でそんな話題が出たりする。
だから、彼のことは応援し続けている。
『どうしても生きてる』 [朝井リョウ]
内容(「BOOK」データベースより)
死んでしまいたい、と思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。(『健やかな論理』)。家庭、仕事、夢、過去、現在、未来。どこに向かって立てば、生きることに対して後ろめたくなくいられるのだろう。(『流転』)。あなたが見下してバカにしているものが、私の命を引き延ばしている。(『七分二十四秒めへ』)。社会は変わるべきだけど、今の生活は変えられない。だから考えることをやめました。(『風が吹いたとて』)。尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が映されているような気がした。(『そんなの痛いに決まってる』)。性別、容姿、家庭環境。生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。(『籤』)。現代の声なき声を掬いとり、ほのかな光を灯す至高の傑作。
意味深なタイトルだな。『どうしても生きてる』―――生に必死でしがみつこうという姿、生き抜く意志のようなものが「生きてる」という言葉から伝わってくるようでもあるし、逆境の中、何度も「死」が脳裏をよぎってもそれを選べない、そんな様子が伝わってくるようでもある。どちらにもとれる作品が収録されているような気がする。タイトルとしては絶妙だな。
久々に朝井リョウ作品を読んだ。母校の後輩の作品は無条件で読むと宣言しているので。初期の朝井作品は舞台が高校や大学であるケースが多かったので、40代後半になって初めて読んだ時にはすごい世代ギャップを感じた。その彼も大学を卒業して、いったんは会社員になった。それからは作品にも会社員の登場頻度が高まり、相変わらずリアルな場面設定も、おそらく会社やその周辺での観察の成果が生かされているのだろう。初期は20代の会社員、学生から社会人への端境期の若者が多く登場していたが、本日ご紹介の『どうしても生きてる』は、登場人物が30代後半から40代で占められるようになってきている。
朝井リョウもそういう年代の人物を描くようになったのだ。感慨深いものがある。初老の域に達しようとするオジサンが言うのもなんだが、ちょっと彼の作品との距離感は狭まったような気もする。
『何様』 [朝井リョウ]
内容紹介
生きていくこと、それは、何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。光を求めて進み、熱を感じて立ち止まる。今秋映画公開予定『何者』アナザーストーリー集。
光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。
理香と隆良はどんなふうに出会って暮らし始めたのか。
瑞月の両親には何があったのか。拓人を落とした面接官の今は。
立場の違うそれぞれの人物が織り成す、`就活'の枠を超えた人生の現実。
直木賞受賞作『何者』から3年。いま、朝井リョウのまなざしの先に見えているものは――。
収録作品(関連人物)
『水曜日の南階段はきれい』(光太郎)
『それでは二人組を作ってください』(理香、隆良)
『逆算』(サワ先輩)
『きみだけの絶対』(ギンジ)
『むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった』(瑞月の父)
『何様』(?!)
ただの前日譚、後日談におさまらない、『何者』以後の発見と考察に満ちた読み応えのある最新作品集。
表紙の想定を最初に見た時、すぐに『何者』のスピンオフだとピンと来た。『何者』が直木賞を受賞してから3年半が経つが、この秋、その映画が公開される。それに合わせて、『何者』の主要登場人物にまつわる前日譚、後日談で、これまでに朝井クンが書いていたもの、そして書き下ろしたものを集めてできた短編集ということになる。この作品も、僕が9月に一時帰国できていれば、1冊買ってこちらに持って帰ってきていたに違いない。
だが、仕事の方がひと段落して、久しぶりに何もない週末を過ごしたとき、手持ちぶさたで本でも読もうかと思い立ち、電子書籍版に手を出してしまったのが読むきっかけとなった。
収録されている「水曜日の南階段はきれい」は舞台が僕の母校と思われるので昔から好きで、以前、『何者』を読んだ時に、あ、これはあの高校3年生で学校の中庭でゲリラライブをやってた光太郎の4年後の話だとピンと来た。朝井クンが僕の母校を卒業する頃には校舎は建て替えられているため、ディテールの部分では僕の記憶と合わない箇所もあった。ただ、建て替えられる前の校舎でも、海外留学制度の掲示は生活指導室前の廊下の壁に貼られていて、挑戦するしないで逡巡した経験が僕にはあるし、学校正門を出て駅までの約3キロの「街道」は、電車通学の生徒がたむろしながら下校していき、途中のラーメン屋とかで時間を潰す姿があった(僕の時代は当然コンビニでおでんとおにぎりというのはありません。)
だから、「水曜日の南階段はきれい」が収録されていると知っただけで、無条件に購入したくなった。
タグ:就活
『ままならないから私とあなた』 [朝井リョウ]
内容紹介
「レンタル世界」――先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。
「ままならないから私とあなた」――成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。幼いときから仲良しだった二人の価値観は、徐々に離れていき、そして決定的に対立する瞬間が訪れる。
正しいと思われていることは、本当に正しいのか。読者の価値観を心地よく揺さぶる二篇。
ブータンに赴任してきて25日でちょうど1カ月となった。毎日が慌ただしく過ぎるのに、1週間が1カ月にも感じる。着任1カ月というが、気持ちとしては長いなぁという印象だ。
高地だからというのもあるし、心理的なプレッシャーもあるのだろうか、こちらに来てから時折胸の苦しさを感じることがある。それ自体はもうなんとか付き合っていくしかないなと思ってやり過ごしてきたところではあるが、さすがに1カ月近くなると体の他のところにも影響が出てきた。
24日、僕は久しぶりのひどい下痢をやった。朝から出るものがすべて液体と化している。午後になって症状はさらに悪化し、1時間のうちに何度もトイレに駆け込むひどい状態となった。翌日に持ち越せる仕事はすべて後回しにして、定時で退社してアパートへ戻った。何も食べる気がせず、ベッドに直行。毛布にくるまったところ、異常な寒気を感じて震えが止まらなくなった。みるみる体温が上がっていく自分を感じ、実際に体温計で計ると、38.1度あった。平熱が36度台前半の僕にとって、38度台は異常事態だ。解熱剤を飲み、着られるだけの厚着をして、再び毛布にくるまった。すぐに熟睡できるわけでもなく、睡眠導入作用がありそうなことをやるしかない。専門書や洋書なら眠れるが、意識朦朧の中でそんな堅いものを読んでられるわけもない。
そこで思い付いたのが、Kindleで小説を購入すること。物色していたら、僕の高校の後輩、朝井リョウ君が新刊を出しているではないか。さっそくダウンロードして読み始めた。寝るのが目的だから、お陰でその晩は早々に寝てしまい、読みかけの部分を読み切ったのは翌日夜であった。
タグ:ビッグデータ
『武道館』 [朝井リョウ]
内容(「BOOK」データベースより)4月に発表になっていた朝井リョウ君の新作、人には「おススメ」だと散々吹聴しておきながら、実は未読でここまできていた。頻繁にコミセン図書室を利用していたら6月初旬には借りることができたかもしれないが、なにせ土日にコミセンを訪れること自体があまりできていなかったので、新着コーナーのチェックがずっとできないでいた。人気のありそうな本は、よほどタイミングが合わないと図書室で出会うことが難しい。たまに訪れても、返却されて新着コーナーの棚に陳列されていること自体が激レアなのである。加えて、その手の本を読んでいる余裕もなかったのも事実だ。
本当に、私たちが幸せになることを望んでる?恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業…発生し、あっという間に市民権を得たアイドルを取りまく言葉たち。それらを突き詰めるうちに見えてくるものとは―。「現代のアイドル」を見つめつづけてきた著者が、満を持して放つ傑作長編。
それが、たまたま夏休み前の週末、コミセン図書室を訪れたらたまたまそこにあった。これぞ神の思し召しとばかり、夏休み用の図書として真っ先に借りることにした。
『スペードの3』あたりから感じていたのだが、朝井君の扱うテーマにちょっとついていけないものを感じていた。芸能界を扱い始めたことに伴う違和感だったが、『スペードの3』がミュージカル女優とそのファンクラブの人々の話だったのに対し、今回の『武道館』は女性アイドルグループ。まあ自分が多少なりともこの類の女の子達に関して免疫ができたからだろうと思うけれど、前作に比べたら入っていきやすくなった気がする。『あまちゃん』のおかげかもしれないし、ももクロのおかげかもしれない。さらに言えば、ちょうど主人公と同年代で、5人組で、さらにボーカルにダンスを合わせるよりも曲にダンスを合わせているという意味では、『東京女子流』を連想させる。オジサンが言うセリフじゃないかもしれないが、『東京女子流』はなかなかいい!メンバーの年齢にバラつきがあるという点では東京女子流とはちょっと違うかもしれないが、今の女子アイドルユニットの中でのポジションや楽曲の特徴などを考えると、意外と東京女子流をモデルにしていたのかもしれないという気がする。
それともう1つ、『武道館』というタイトルから想起させるのは、僕にとっては剣道だったわけだけど、朝井君、その予想通りで、作品の中でうまく剣道を使っている。剣道が出てくるのは朝井作品では初めてのことで、さすがにあまり突っ込んだ描写はないけれど、同じ『武道館』でも、九段の日本武道館じゃなくて綾瀬の東京武道館の取材もちゃんと行ない、綾瀬駅から東京武道館までの歩道の描写もしっかり入れている。
以上の2点だけで、僕にとっては許容範囲の作品といえる。芸能界のドロドロとしたところまで描いたら読む気をなくしていたと思うけれど、アイドルを目指す女の子って結構普通っぽいんだなとむしろ感じ、読みやすい作品だった。確かに、普通の女の子にしてみれば当たり前のことが、アイドルであるが故に「普通」と見なされないという意味での苦悩はあると思う。それが本書の主題でしょう。
『時をかけるゆとり』 [朝井リョウ]
内容紹介
戦後最年少直木賞作家の初エッセイ集
就活生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。この初エッセイ集では、天与の観察眼を駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』改題。”圧倒的に無意味な読書体験”があなたを待っている!?
のっけから別件になってしまうが、このブログ更新記事を書いている数時間前、ニッポン放送『オールナイトニッポン・ゼロ』(午前3時~5時)で、朝井リョウ君が同じく小説家の加藤千恵さんとともにパーソナリティを務める第1回の放送がされていたらしい。事前に気が付いていれば無理してでも起きて聴いていたのだが、なにしろ昨夜は22時過ぎまで残業して、帰宅したのが午前零時を回っていたし、今週はずっと睡眠不足が続いたので、3時まではとても持たなかった。朝、スマホを見ていたらやたら検索ワードで「朝井リョウ」が上位に来ていたので、何だろうと思って調べたところが、オールナイトニッポンのことに気づいたという次第。なんだか評判が良かったらしい。パーソナリティ2人のトークが予想以上に良かったということで。来週――は海外出張中で聴けないけど、再来週からは聴きたいと思う。
さて本題。その朝井リョウ君の最新刊『時をかけるゆとり』、図書館の順番待ちがようやく終わり、借りて読むことができた。朝井君の初エッセイ集で、以前彼が単行本で出した『学生時代にやらなくてもいい20のこと』を改題して文庫化したものである。元々この『学生時代に~』も発刊当初は面白いと評判だった本なので、文庫化されたのを読むのは楽しみだった。
作家の書いたエッセイというのははずれも結構多いと思うので、あまり積極的には読んでこなかったのだが、さすがは単行本が面白いと評価された通りで、実際に読んでみてこれは確かに面白いと思った。彼の作品を読むといつも感心するのは、その豊かな表現力だ。同じものや出来事を見ていても、それをひと言で言ってしまったら身もふたもないくらいにそっけない単語にしかならないものが、彼の手にかかると様々な形容句がくっつき、いろいろな思いがこめられた事物として踊りはじめる。原稿用紙でエッセイ用にあてがわれた文字数を確保するのに文章を膨らませる一種のテクニックなのかもしれないが、これだけ豊かな表現ができる作家は少ない。作家中の作家だと思う。小説だけじゃなく、エッセイでもその良さが存分に出ている。
また、本書を読んで嬉しかったのは、彼が作家デビューしてから自分の母校を訪ねるエピソードが出てくる。この頃の校舎は僕が高校生活を送っていた頃とはまったく別の姿に今はなっているので、朝井君が構内のどこをどう歩いたのかは正確にはわからないが、そこで描かれた母校の在校生の様子をみると、なんだかいとおしさを感じた。それに、高校生を描いた彼の作品では、母校の校舎を連想させるシーンがよく出て来るし。
本書には、朝井君が小学生時代、あの町でどのように過ごしていたのかも描かれている。その頃から既に人に読ませることを想定して作文を書いて国語の先生から注目されていた話とかは我が家の愚息にそんなに簡単には真似させることはできないだろうが、せめて小学生時代から毎日1ページ分の日記をつけるという行為ぐらいは、高校生になった今からでも遅くはないので、うちの上の2人にはなんとか励行してくれないかと思う。
『この部屋で君と』 [朝井リョウ]
内容紹介
誰かと一緒に暮らすのはきっとすごく楽しくて、すごく面倒だ。「いつかあの人と同じ家に住めたらいいのに」「いずれこの二人暮らしは終わってしまうんだろうか」それぞれに想いを抱えた腐れ縁の恋人たち、趣味の似た女の子同士、傷心の青年と少女、出張先の先輩と後輩、住みついた妖怪と僕…気鋭の作家8名がさまざまなシチュエーションを詰め込んだひとつ屋根の下アンソロジー。
先週は水曜日から日曜日にかけて3泊5日の出張をしていた。積読状態を解消するいいチャンスということで、タンスの肥やしにしていた本を何冊か携行した。米国に出張すると時差が14時間もあるため、昼と夜が完全に逆転し、何時に就寝しても朝2時台で目が覚めてしまう。年齢とともに時差ボケがなかなか解消しにくくなってきたため、現地に滞在していた間はずっと睡眠不足に悩まされた。でも、そのおかげもあって、早く起き過ぎて夜明けが訪れるまでの4時間、仕事の準備の合間に相当量の読書を進められたし、日中も訪問先でのアポの待ち時間を使うことができた。
8人の新進作家によるアンソロジー。まあ面白かったことは面白かったが、どれも帯に短し襷に長しという感じ。強いて挙げるなら、ワシントンのダウンタウンのPotbellyでサンドイッチを食べながら読んだ越谷オサムの『ジャンピングニー』だろうか。漫画家志望の女性のアパートに上がり込んできたプロレスラーの彼氏という設定が奇抜かと。でも、全体を通しては、むしろ、どの作品をどういう状況で読んでいたかの方が記憶に残っている。
僕がアンソロジーを手にする際のポイントは、応援している朝井リョウくんの作品が収録されているからだが、実はこの本を3ヵ月積読状態にしてしまった最大の理由は、トップバッターで掲載されていた朝井クンの作品が僕的にはちょっとピンと来なかったからだ。彼独特の表現は健在で、僕らが普段何気なく見ているものをこういう風に表現できるんだという意外感は作品の随所に見られるんだけれど、どうも学生さんの同居者探しといった内容の話は、アラフィフのオジサンには合わないようだ。むしろ、同居者のどちらか一方でも40代に片足を突っ込んでいるような話なら、ちょっとは親近感が湧くが、現実的にはそういうシチュエーションは少ないのではないかと言う想像もしてしまう。
こういう本が合わない年齢になったのかなと思うと、ちょっと寂しさも感じる。
『スペードの3』 [朝井リョウ]
内容紹介忘れた頃に図書館の貸出の順番が回ってきた。あまりタイミングは良くなかったんだけど、後ろにも順番待ちの貸出希望者がいそうだから、早めに読むことにした。
ミュージカル女優、つかさのファンクラブ「ファミリア」を束ねている美知代。大手化粧品会社で働いていると周りには言っているものの、実際は関連会社の事務に過ぎない彼女が優越感を覚えられるのは、ファンクラブの仕事でだけ。ある日、美知代の小学校時代のクラスメイトが「ファミリア」に加盟する。あっという間に注目を集めた彼女の登場によって、美知代の立場は危うくなっていく。美知代を脅かす彼女には、ある目的があった。
華やかなつかさに憧れを抱く、地味で冴えないむつ美。かつて夢組のスターとして人気を誇っていたが、最近は仕事のオファーが減る一方のつかさ。それぞれに不満を抱えた三人の人生が交差し、動き出す。
待っているだけではなにも変わらない。私の人生は私だけのもの。直木賞作家朝井リョウが、初めて社会人を主人公に描く野心作!
このブログでは度々書いてきたことだが、朝井クンは僕の高校の後輩なので、出された本は基本的にはすべて読むようにしている。と言いつつ、今回はお金を払って本を買うという選択をしなかったのは、この本の内容があまり興味を引くものではなかったからだ。朝井クンが比較的得意としてきたのは、高校生や大学生のキャンパスライフを基本モチーフにしたもので、そこから半歩どころか両足を踏み出して新境地を開こうという作品が『スペードの3』なのではないかと思う。登場するのが舞台女優とそのファンなので、そういう設定の本を購入して手元に置いておこうという気になれなかった。図書館での40人以上の順番待ちでも待ち続けた理由がそのへんにある。
ただ、読んでみて少し印象が変わった。確かに登場人物のほとんどが今の年齢ではアラサーかアラフォーで、やはり舞台演劇の話が中心であることは間違いないが、そこで絡み合う人間のほとんどが小学校、中学校、そして俳優学校(宝塚のイメージ?)の時代に、あまり人に知られたくない「過去」を持っていて、それが現在の行動にも微妙な影響を及ぼしているという設定になっている。作品の4割ぐらいはそうした少女時代の描写であるわけだが、これにミステリー的な要素が加えられていて、本当の話なのかどうかがわからない。オチがあるので、ちゃんと読んでいないと重要な記述を見落とすことにもなりかねない。
そういう意味では朝井クンが新境地に挑んだ作品であるという点で異存はない。登場人物のほとんどが女性で、男性の登場機会が非常に少ないという点で、今までの朝井クンの作品とはかなり違う。ましてや舞台女優とそのファンクラブの関係には知らないことも多く、戸惑うことも多かった。それに、女性ってこんなにいろいろな確執があるのかというのも戸惑いの要素である。舞台女優と別の女優との確執、ファンクラブのメンバー間、それに舞台女優とファンの間にもいろいろあった。女性読者がこの作品を読んだらどう感じるのか、興味あるところだ。
朝井クンが高校生や大学生を描いた初期の作品に見られた荒々しさは、今回はかなりなりを潜めている。作風が変わってきているのかなというのを強く感じたのが今回の作品だ。
『世界地図の下書き』 [朝井リョウ]
内容紹介今年も夏の里帰りの時期が近付いてきた。昨年は僕にとっては卒業以来となる小学校の同窓会が開かれ、懐かしさに浸る思い出深い夏休みとなったが、そこで、小3か小4の頃好きだった子のお嬢さんが、高校時代に朝井リョウ君と同級生だったと聞かされ、2人の間で話が盛り上がったことがある。このブログでは度々述べている通り、朝井クンは僕の高校の後輩にあたるので、彼がどのような作品を書こうと必ず読むようにはしてきた。それが同窓会の場で盛り上がる話のネタになるのだから、何が吉と出るかわからないものだ。(何が「吉」なのかもよくわからんが…)
「青葉おひさまの家」で暮らす子どもたち。夏祭り、運動会、クリスマス。そして迎える、大切な人との別れ。さよならの日に向けて、4人の小学生が計画した「作戦」とは……?著者渾身の最新長編小説。
そんなわけで、帰省を前にして、彼が直木賞を受賞した後の最初の作品を幸運にも読むことができた。応援していると言いつつ、それでも図書館で借りて読んでいるセコさはさておき、新刊本を発刊直後に図書館で借りて読めるなんて、超ラッキーだと思いませんか?入庫したばかりの新着本が図書室の新刊コーナーに並ぶのとほぼ同時に図書室を訪れたのが良かった。(その日は日曜日で、午前11時開場となるコミセンの屋外プールに次男と出かけ、図書室が貸出業務を開始する午後1時にはプールから上がって図書室に立ち寄った。このタイミングなら新着本をすぐにゲットできる確率がかなり高いのかもしれない。)
作品の舞台は児童養護施設「青葉おひさまの家」、主人公は、第1班の5名――高3の佐緒里、小6の太輔と淳也、小5の美保子、小4で淳也の妹の麻利である。それぞれが様々な理由で家族や兄弟と一緒に暮らせないでこの施設に身を寄せ、そこから高校や小学校に通っているという設定だ。この町には毎年夏になると提灯を熱した空気で上昇気流を作って空に浮かせるという行事があったが、3年前から途絶えてしまった。太輔は、そのお祭りに行きたいと母親にねだったが、父が仕事だったことと、母が風邪気味だったことから、お祭りに連れて行ってもらえなかった。この提灯飛ばしは、家族全員で願いを込めて行なうものだと言われて。その夜、母が父を迎えに車で駅まで向かったところ、その帰り道で交通事故に遭い、2人同時に命を落としてしまった。それが施設入所へとつながっていく。