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『日本型開発協力』 [仕事の小ネタ]

日本型開発協力 ――途上国支援はなぜ必要なのか (ちくま新書 1733)

日本型開発協力 ――途上国支援はなぜ必要なのか (ちくま新書 1733)

  • 作者: 松本 勝男
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2023/06/08
  • メディア: 新書
内容紹介
緊迫する国際情勢において途上国支援の役割とは何か。欧米とも中国とも異なる日本独自の貢献のかたちを紹介しつつ、めざすべき開発協力のあり方を提示する。日本の途上国支援は、現地との意思疎通を重んじるアプローチや効果的な協力モデルにより、世界的に高く評価されてきた。だが、近年では平和構築や気候変動といった国際課題を意識したものなど国際協力のあり方自体も多様化しており、とりわけ緊迫する国際情勢のなかで安全保障にも配慮した支援が求められている。はたして欧米や中国の手法とは異なる開発協力の姿とはいかなるものか。そもそもなぜ途上国支援は重要なのか。本書では、その現状を幅広く紹介しつつ、これからの日本がめざすべき持続可能な支援のあり方を提示する。
【購入】
9月後半に出かけたインドネシアへの旅行の帰路、経由地のシンガポールで紀伊國屋書店に立ち寄って購入した1冊。次のカトマンズ・チェンナイへの旅の途中で読み切ろうと考え、実際に読み切った。その足でパロからティンプーに2版滞在する際に、現地の開発協力関係者に手渡して身軽になろうと考えていたが、ブログでレビュー記事を書き上げる時間が作れず、泣く泣くプンツォリンに持って帰ることにした。

ODA——というか、現代的には「開発協力」と表現するのがいいらしいが、この開発協力への理解の促進のために書かれた本の中では、開発協力の最も大きなコンポーネントを占めるJICA経由の、特に円借款を主力としている国のオペレーションに関わっていた実務者の書かれた現場ならではの面白さがある文献だと感じた。

それに、著者の駐在経験国にインドが含まれていることから、インドでの開発協力の具体的な事例がふんだんに盛り込まれているため、10年以上前に同じくインドに駐在した経験がある僕自身も、インドの今を知る意味では興味深い情報がいくつか含まれていた。南インドの養蚕の普及における協力隊員の活動とか、今自分がいるブータンが確実に裨益するであろう北東州開発とか、ありがたい記述だ。

他方で、円借款が絡む大きなインフラ整備プロジェクトに関する記述が多いため、相対的には協力隊や草の根技術協力への言及は薄めという印象もあった。人は、それまで自分自身が見聞してきたもの、体験してきたもの、その時の立場の違いにより、1つのテーマに対するものの見方が大きく異なる結果となる。同じテーマで僕が包括的な本を書くようなことはまずないと思うけれど、仮に書いたとしても、内容は相当変わると思う。

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『日本近代科学史』 [仕事の小ネタ]

日本近代科学史 (講談社学術文庫)

日本近代科学史 (講談社学術文庫)

  • 作者: 村上 陽一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫

内容紹介
伊能忠敬、杉田玄白、佐久間象山、北里柴三郎、長岡半太郎……。明治維新から昭和を経て、科学と技術の国となった日本。紆余曲折の歴史の中、果たして日本人は、西欧に生まれ育った“科学”を、本当に受け容れたのか? 西欧の思想は、日本をどのように変えたのか? 西欧科学という「踏み絵」を使って500年を考察した、壮大な比較科学思想史!科学史研究の第一人者、村上陽一郎の初の単著『日本近代科学の歩み』(三省堂選書 1968年刊)を改題、文庫化。
【購入】
この本も、読了後は当地に置いて行こうと思って日本で半年前に購入した。読み始めるまでに時間がかかったのは毎度のことであるが、なぜ今なのかといえば、文庫本だから飛行機の旅のお供にちょうど良かったからだ。今、カトマンズ(ネパール)~チェンナイ(インド)と続く出張の途上にあるが、本書はまだ任地滞在中から読み始めていて、読了はカトマンズから経由地デリーに向かう機中でのことだった。

購入の理由は、今の仕事を引き受ける前に自分が関わっていた日本の近代化の歴史をコンテンツ化するというプロジェクトと関連する。それに自分が関わったのは2019年4月から2020年3月までの12カ月のみだが、その間に、日本の科学技術の歴史もコンテンツ化した方がいいのではないかという話が持ち上がり、自分なりに文献を読んで予習を始めていた時期があった。

結局異動もあったのでそのタスクは後任に引き継いだのだが、次の配属先が「科学技術」のカレッジだったので、話のタネとして知っておいた方がいいのではないかと改めて思い直し、それで書店で見つけた本書を買って持って来ることにした。

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『宮本常一』 [宮本常一]

今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる (講談社現代新書100)

今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる (講談社現代新書100)

  • 作者: 畑中章宏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/05/12
  • メディア: Kindle版
内容紹介
『忘れられた日本人』で知られる民俗学者・宮本常一とは何者だったのか。その民俗学の底流にある「思想」とは?「大きな歴史」から零れ落ちる「庶民の歴史」。日本列島のすみずみまで歩き、聞き集めた小さな歴史の束から、世間や民主主義、多様な価値、さらには「日本」という国のかたちをも問いなおす。傍流として、主流が見落としてきた無名の人びとの「語りの力」を信じて――。
【購入(キンドル)】
こういう本が5月に出ていたことを今頃知り、読んでみることにした。著者はわかりやすい民俗学の現代的適用の著作をやたらと出しておられる民俗学者で、どこかで聞いた名前だなと思っていたら、実は過去に僕もその著作を2つほど読んでいた。

実はこの本、書籍版だと100頁にも満たない新書で、読んでいて感じたのは、宮本常一の膨大な著作を読む前に、ちょっとさわりだけでも大雑把に把握しておこうという場合の、一種の「まえがき」のような印象を受けた。元々の著作が膨大なだけに、「まえがき」が多少長くてもまあいいだろう。膨大な著作のどこに何が書かれているのか、何が論じられているのかが本書では描かれているので、これから宮本常一の著作を読もうとしている人なら先にまとめとして読んでおくのはありだと思う。

また、僕のようにある程度その著作を読んだことがある読者が、もう一度振り返ってみる時にはこういう本はきっと役に立つだろう。「そういわれてみればそうだ」と思えるような、宮本作品からの抽出がいくつもある。

例えば、確かに民具を詳述する著作が宮本には多いようには感じていたけれど、活字媒体が伝承の手段として使われていなかった時代には、その名残りを知る手立ては確かに民具や農法だったりしたのかもしれないなと思った。今は僕のような凡人でもこうして活字で記録を残したりできるようになってきた。それだけに、こういう手法は今を生きる僕らにとっても非常に新鮮な印象を受ける。

一時期やたらと読みまくった後で間が空いてしまった現状、そのギャップを埋めるにはちょうどいい本だった。

僕も還暦を迎え、半年後には今勤めている会社も辞めるつもりでいる。少し時間ができたら、『宮本常一著作集』や『日本残酷物語』全5巻など、シリーズとしてまとめて読んでみたいと思っていた。その景気づけにはなったと思う。

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