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『メダカ、太平洋を往け』 [重松清]

めだか、太平洋を往け (幻冬舎文庫)

めだか、太平洋を往け (幻冬舎文庫)

  • 作者: 重松清
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2021/08/05
  • メディア: Kindle版

内容
小学校教師を引退した夜、息子夫婦を事故で失ったアンミツ先生。遺された血縁のない孫・翔也との生活に戸惑うなか、かつての教え子たちへこんな手紙を送る。〈先生はみんなに「太平洋を泳ぐめだかになりなさい」と言いました。でも、ほんとうに正しかったのでしょうか〉。返事をくれた二人を翔也と共に訪ねると――。じんわり胸が温まる感動長篇。
【購入(キンドル)】
あれだけ読んでた重松作品だが、このところの発表作品にはパワーダウンの感があり、なかなか良作がないなと思っていたが、最初に言っておくと、個人的には本作品は相当なヒットだと思った。

著者は東日本大震災以後、三陸を舞台とする著作が結構目立つ。津波で突然亡くなられた方、家族や友人、同僚などを津波で失い、残された方、それぞれの人々の生きておられた記録を残し、残された人々の思いや、絶望の淵から立ち直ろうとする姿を描いて来られている。

それ以前から題材としてよく扱ってきた、交通事故等により突然最愛の人を亡くすケース、癌の進行とともにゆっくりとその日を迎えていくケース、さらに舞台としても、団地やニュータウン、衰退する商店街などが扱われるケース、そして小学校時代のクラスメートや教員が、何十年かの時を経て再会するというストーリーも多かった。

そうしたこれまでの重松作品の諸要素を、うまく配合して構築されたのが本作品だといえる。教員が主人公でも、女性教員というのはこれまでの重松作品ではあまり記憶にない。学童保育や外国人子女教育、「ガイジン」問題、モンスターペアレンツ問題などが扱われたことも今までなかったと思う。そういう新たな要素も盛り込みつつ、いいストーリーに仕上がっている。主人公を女性にしたことも、展開に生かせた。

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『旧友再会』 [重松清]

旧友再会

旧友再会

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
あの人にいま会えたら、何を伝えますか?子育て、離婚、定年、介護、家族、友達。人生には、どしゃぶりもあれば晴れ間もある。重松清が届ける5つのサプリメント。

市立図書館が貸出業務を再開したことに伴い、借りて読むことができた。発刊当時には既に存在を承知していたが、わざわざ購入してまで読む気にはなれず、図書館に所蔵されるのを待っていた。週末の息抜き読書にはちょうど良いボリュームで、半日あれば読み切れる。

アマゾンの書評欄では五つ星が少なく、四つ星をピークとして最低が二つ星になるような正規分布に近いカーブが描かれている。感情移入できない読者が結構いるということなのだが、僕からすると、登場する主人公のほとんどが作品発表当時の僕と同じ50代前半で、小中高生時代の友人とは疎遠で、でも故郷に残された年老いた両親はいずれかがまだ健在で、一方で我が子との関係の取り方では悩んでいる―――そんな作品の構成要素への共感が強く、僕らの世代の言葉にならない漠然とした不安を、シゲマツさんが代弁して言葉に紡いでくれているような気がしてしまう。これに、舞台が団地だったり、離婚を絡めたり、兄嫁との折り合いの悪さや野球など、作品ごとに別の要素が絡められている。

これらは、僕が重松作品をよく読むようになった2000年代には著者がお得意としていたフォーマットで、僕自身もそれに惹かれて作品を読み始めたので、最近の変にコメディやミステリーを絡めたりする作品群と比べると、僕にとっては受け入れやすい内容になっている。

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『ひこばえ』(上)(下) [重松清]

ひこばえ (上)

ひこばえ (上)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: 単行本

ひこばえ (下)

ひこばえ (下)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: 単行本
内容紹介
世間が万博に沸き返る1970年、洋一郎の父は母と離婚後音信不通に。48年ぶりに再会した父は、既に骨壺に入っていた。遺された父の生の断片とともに、洋一郎は初めて自分と父親との関係に向き合おうとする。朝日新聞好評連載、待望の刊行!

図書館で借りていた積読本もとうとう底をつき、週末の軽めの読書は電子書籍を物色することになった。図書館は閉まっているし、週末ともなるとカフェもファストフード店も混雑が著しい。人が大勢いるようなところでわざわざお金払ってコーヒー飲んで読書などする気にもなれず、もっぱら自宅に引きこもってキンドルとにらめっこの休日である。

そんなタイミングを狙って、出版社もいい本を並べてきた。朝井リョウの新刊、堂場瞬一の新刊も、この週末の前後で出てきたが、3月6日発売という、まさにこの週末狙いで朝日新聞社が出してきたのが重松清の新刊、しかも電子書籍ありである。タイトルがどういう意味なのかはわからなかったが、上下巻合わせて700頁というボリューム感は週末読書にピッタリ。本当はシゲマツさんの別の本をキンドルでダウンロードしたかったんだけど、そちらは電子書籍化されておらず、それで偶然見つけたのが『ひこばえ』だった。

ちなみに、「ひこばえ」とは、「樹木の切り株や根元から生えてくる若芽」(Wikipedia)らしい。1970年の大阪万博開催中の7月に家を出ていった父と、幼稚園年長組ぐらいで父の記憶があまりない息子が、48年ぶりに、遺骨と祖父になった中年オヤジとして再会するという話で、既に55歳になっている息子が「若芽」なのかというツッコミはさておき、主人公の洋一郎と僕とほぼ同じ世代であることから、少なくとも僕にとっては受け入れやすい作品となっている。また、同じく50代後半である著者自身が同じ世代のオヤジを描いているのだから、十八番でもあったことだろう。久しぶりに読み応えある著者の代表作が出てきたのではないかと思える。

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タグ:家族 介護
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『木曜日の子ども』 [重松清]

木曜日の子ども

木曜日の子ども

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/01/31
  • メディア: 単行本
内容紹介
「きみたちは、世界の終わりを見たくはないか――?」 震撼の黙示録!
「世界はこんなに弱くてもろくて、滅ぼすなんて簡単なんだってことを……ウエダサマが教えてくれたんですよ」
7年前、旭ヶ丘の中学校で起きた、クラスメイト9人の無差別毒殺事件。
結婚を機にその地に越してきた私は、妻の連れ子である14歳の晴彦との距離をつかみかねていた。前の学校でひどいいじめに遭っていた晴彦は、毒殺事件の犯人・上田祐太郎と面影が似ているらしい。この夏、上田は社会に復帰し、ひそかに噂が流れる――世界の終わりを見せるために、ウエダサマが降臨した。やがて旭ヶ丘に相次ぐ、不審者情報、飼い犬の変死、学校への脅迫状。 一方、晴彦は「友だちができたんだ」と笑う。信じたい。けれど、確かめるのが怖い。そして再び、「事件」は起きた――。

いつもとずいぶんタッチが違う重松作品だなと思った。2007年頃から角川の雑誌『野生時代』で連載されていた作品だそうで、それがなんで10年もたった今頃単行本化されたのかは知らないけれども、現在の方がリアリティがありそうな作品として取り上げられそうな気がする。

僕としては『ゼツメツ少年』で重松ファンを辞めようと思ったくらいだったから、帰国して半年間に読んだ重松作品にはちょっとした新鮮さは感じていた。その延長でとらえれば、『木曜日の子ども』のような作品もまあ許せる。(ちょっと、『疾走』を想起させる装丁と中身だったけど。)

ただ、この作品でシゲマツさんは何を訴えたかったのだろうか。こんな、誰かに模倣犯罪を起こされそうな作品を何で書いたのか。そのへんはちょっと謎だ。


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『ニワトリは一度だけ飛べる』 [重松清]

ニワトリは一度だけ飛べる (朝日文庫)

ニワトリは一度だけ飛べる (朝日文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
左遷部署「イノベーション・ルーム」に異動となった酒井裕介のもとに「ニワトリは一度だけ飛べる」という題名の謎のメールが届くようになる。送り主は酒井らを『オズの魔法使い』の登場人物になぞらえて、何かメッセージを伝えようとしているようなのだが…。

三連休であるが、このぐずついた天気では外出したいという気力もなく、また三連休というわりに行きたいと思う外出先にもアイデアがない。そもそも「原稿執筆が…」と言っている自分が「三連休だから外出」なんて言ってたら、現実逃避だとしか思われないから、自宅周辺でグダグダして過ごしている。

とはいえ、原稿執筆以外にやりたかったことはいくつかあった。この、近所のコミセン図書室で7月5日に借りた重松作品を読み切るのもそうした「やることリスト」のトップに掲げられていたことである。「原稿執筆が…」と言ってる奴が小説など読んでたらそれこそ現実逃避と思われるかもしれないが、原稿は今あるネタで書ける部分は書いて、あとは少し情報収集せねば書けないというポイントにさしかかってしまったので、息抜きを考えるなら今のタイミングだなと思い、日曜夜から読み始めて月曜朝には読了した。

それにしても、重松作品を読み慣れている読者にとっては、ちょっと異色な作品だった。若干たりとも重松テーストが感じられたのは主人公・裕介の家族や妻の両親の介護の問題が垣間見えるシーンぐらいか。そもそもサラリーマンが主人公の作品というのも久しぶりな気がする。重松作品によくみられる、「述語の前に読点」―――例えば、「思い通りにいかないことは、この世の中には、多い」的な表現も、本作品では抑えめである。この表現が頻繁に出てくると「ああ、シゲマツさんだな」と感じるのだが、それが少ないだけでこれって本当に重松作品なのかと思ってしまう。

さもありなん。この作品は2003年頃に週刊朝日で連載されていたのが、そのままお蔵入りになっていたものらしい。それくらい前の重松作品では、あまり多用されていなかった表現だったのかもしれないし。

この作品のベースになっているのは、その頃に実際に起きた食品偽装事件らしいが、それからトレーサビリティとか厳しく見られるようになってきているし、そもそも今の世の中、「イノベーション・ルーム」なんて、左遷部署ではなく花形部署になっている企業の方が多いのではないかと想像する。満を持して文庫版として世に出すにしても、連載当時のオリジナルをそのまま載せるというよりも、多少時代背景を考慮して加筆修正があってもよかたかもしれないですね。

さあ、三連休のノルマをもう1つクリア。次の課題に取り組むか!

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『どんまい』 [重松清]

どんまい

どんまい

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/10/18
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
“ちぐさ台団地の星”と呼ばれたかつての甲子園球児、要介護の親を田舎に抱えるキャプテン、謎多き老人・カントク、そして夫に“捨てられた”洋子と娘の香織―草野球チームを通して交錯する「ふつうの人々」の人生を鮮やかに描ききった傑作長編小説。

本帰国するまで我慢していた重松清の新作を読んだ。電子書籍版があれば発売直後に購入していたと思うが、残念ながら電子書籍版はなく、帰国早々始めた歯医者通いの後、ちょっとの時間で近所のコミセン図書室に立ち寄り、たまたま未貸出で新着書籍の棚に置いてあった本書を即座に借りることにした。この週末をかけて読んだ。

祝・2019年プロ野球ペナントレース開幕。本書は表紙のイラストが1975年の広島カープ初優勝の時のユニフォームになっていて、この年のカープのユニフォームを身にまとった東京郊外の団地の草野球チームの面々のお話である。1975年のカープ優勝は、その前年に中日ドラゴンズが20年ぶりのセリーグ優勝を経験した直後だけによく覚えているが、当時小学校六年生だった僕はそれから43年が既に経過して、今や55歳になっている。

つまり、少なくとも本書の設定では僕と同世代である筈の主役の1人・洋子が、本書では40歳という設定だということは、今から15年前―――2003年頃が舞台となっている作品ということになる。1975年の広島カープに関する記述は作品中でよく出て来るが、今が何年で今の広島カープにどんな選手がいるのかにまでは言及されていない。もう1人、明らかに松坂がモデルだと思しき登場人物が出て来るが、松坂が西武入団したのが1998年秋で、それから5年稼働した時期というのは2003年ということになる。松坂は今も現役だが、本書で登場する同世代の旗手たる「吉岡」は本作品の最後に引退という選択肢を選ぶ。

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再読『卒業』 [重松清]

卒業 (新潮文庫)

卒業 (新潮文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/11/28
  • メディア: 文庫
内容紹介
「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、14年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが――。悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。著者の新たなる原点。

この週末は息抜き、読書三昧をと決め込んでいた。前回ご紹介した『Never Lost Again』を土曜日に読了し、日曜日は大学院で使っているテキストを4章読み込み、さらに息抜きで重松清の中編小説集『卒業』を読んだ。『卒業』は、日曜日のうちに読了した。月曜以降の仕事を多少窮屈にする可能性もあったけれど。

僕自身が勝手に、重松清作品史上、最もおススメだと思っているのが『卒業』である。僕は2006年8月に一度読んでいて、その後受けた当時の職場の社内報でも、おススメの1冊として『卒業』を挙げている。12年ぶりの再読に期待したのは、今でもおススメなのかの確認だ。当時の僕は、収録された4編の中編小説に出てくる主人公とほぼ同じ40代の前半だった。だから余計に感じたものがあったのだとも思う。

特に、僕らを育ててくれた肉親の死というのを初めて眼前に突き付け、読者に考える機会を与えた作品だったように思う。死を近い将来迎えようとする親の今と、何らかの理由で関係がこじれ、長年にわたるわだかまりを引きずることになった昔とをつなげ、和解の糸口を今に見出し、明日を生きていくきっかけになっていく―――そんなパターンの作品集だった。

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『ノスタルジー1972』 [重松清]

ノスタルジー1972

ノスタルジー1972

  • 作者: 中島京子、早見和真、朝倉かすみ、堂場瞬一、重松清、皆川博子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
あの頃の未来は、どんなだった?現在の根っこはここにある。近くて遠い、日本の原風景を描いた、豪華執筆陣による6つの物語。

一時帰国中に買ってきた小説等をようやく読める心の余裕ができた。といっても、読み始めたのは数日前からで、アンソロジーだけに小刻みに読んでいって、ようやく自由時間が多少できたこの日曜日に、残っていた2編を一気に読んでしまった。

ご想像の通りで、このアンソロジーは、1972年の記憶がある作家さん(1977年生まれの早見さんを除く)が、1972年に起こった出来事を中心に描いた短編で構成されている。1972年って何があっただろうか。ウィキペディアで主な出来事を拾ってみる。いずれもこの作品集の中で言及ある話である。

1月: グアム島で元日本陸軍兵士横井庄一発見。
2月: 札幌オリンピック開催。連合赤軍によるあさま山荘事件。
3月: 東武東上線成増駅前にモスバーガーの第一号実験店舗が開店。
4月: 外務省機密漏洩事件で毎日新聞の西山太吉記者らが逮捕される。川端康成が逗子市でガス自殺。
5月: アメリカから日本へ沖縄返還。
9月: 田中首相訪中し、日中国交正常化の共同声明。
10月: 巨人が8年連続セ・リーグ優勝(V8)。
   フィリピンのルバング島にて警察と生き残りの日本兵とで襲撃戦が発生する。
   日中国交正常化を記念して上野動物園にジャイアントパンダのランラン、カンカンが来園。
11月: 国鉄北陸トンネル内で列車火災。羽田空港発福岡空港行きの日航機がハイジャックされる。
   衆議院解散(日中解散)。ソ連に亡命していた女優の岡田良子が一時帰国。
   日本航空シェレメーチエヴォ墜落事故。
12月: 八丈島東方沖地震が発生。第33回衆議院議員総選挙投票

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『たんぽぽ団地』 [重松清]

たんぽぽ団地

たんぽぽ団地

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/22
  • メディア: 単行本
内容紹介
昭和の子どもたちの人生は、やり直せる。新たなるメッセージが溢れる最新長編。元子役の映画監督・小松亘氏は週刊誌のインタビューで、かつて主人公として出演したドラマのロケ地だった団地の取り壊しと、団地に最後の一花を咲かせるため「たんぽぽプロジェクト」が立ち上がったことを知る。その代表者は初恋の相手、成瀬由美子だった……。少年ドラマ、ガリ版、片思い―― あの頃を信じる思いが、奇跡を起こす。

海外赴任まで残り2カ月となり、赴任前に読んでおきたい本をできるだけ読み漁りたいと思っている中、意外にも早くチャンスが巡ってきたのが、未だ昨年末に出たばかりの重松清の新刊。購入しようかどうしようかと考えていたところ、偶然にもコミセン図書室の新着本コーナーで発見。直前に返却してくれた借出し第1号の方に感謝したい。

こうして幸運に恵まれて早めに読むことになった重松作品、団地が舞台ということで、どうしても『ゼツメツ少年』や『一人っ子同盟』との比較で書いてみたくなる。どちらも団地やニュータウンを舞台にした、最近の重松作品だ。

『たんぽぽ団地』は時空を飛び越えて過去と現在がつながるファンタジーだが、『ゼツメツ少年』は小説家の先生の物語の中に、現在を生きている子ども達を紛れ込ませるというものだ。現実の描写という手法はとらず、現在と過去、現実世界とフィクションの世界を行ったり来たりする話の展開になっている。正直言うと『ゼツメツ少年』は、各節の間で現実と虚構とのぶつ切りになっていたので話の展開がわかりにくかったが、『たんぽぽ団地』の方は、少なくとも展開自体は時系列順でつながっており、読みやすかった。

『ゼツメツ少年』はいじめや自殺という今の社会問題を正面から取り上げている。これに対して、『一人っ子同盟』と『たんぽぽ団地』は、そもそもが団地生活を取りあげている。『一人っ子同盟』は1970年代の話で、基本的にはその70年代の世界だけで話が展開する。成長した主人公が現在から70年代を振り返るシーンはないこともないけれど、現在と過去をつなげることはあまり意識されておらず、もっぱら70年代の団地のお話だ。

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『なきむし姫』 [重松清]

なきむし姫 (新潮文庫)

なきむし姫 (新潮文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 文庫
内容紹介
霜田アヤは、二児の母なのに大のなきむし。夫の哲也は、そんな頼りないアヤをいつも守ってくれていた。ところが哲也は1年間の単身赴任となって、アヤは期間限定のシングルマザーに。そこに現れたのは幼なじみの健。バツイチで娘を育てる健は、夫の不在や厄介なママ友に悩むアヤを何かと助けてくれて……。子供と一緒に育つママの奮闘を描く、共感度満点の愛すべきホームコメディ。

久々の重松作品である。昨年は結局、『アゲイン~28年目の甲子園』しか読んでない。『ファミレス』、『ゼツメツ少年』、『一人っ子同盟』と続いたハズレ感から立ち直れてないのである。

とはいえ、新刊が出たら読みたくなるのが、このブログ開設当初から作品を読み続けている重松ファンの悲しい性。年末にブックオフに大量の本の買い取りを持ち込んだ際に、代わりに購入した1冊が本日ご紹介の『なきむし姫』であった。

この冬休みはカレンダー通りで、年末年始のお休みは6連休だった。訳あって東京で過ごしたが、お陰でほぼ計画通りの生活を送ることができ、少しだけ時間の余裕もあったので、小難しい専門書よりも、文庫版の小説でも1冊読もうかと考え、『なきむし姫』を選択した。空いた時間にリラックスして読むにはちょうど良い分量と内容だ。そして、少し前までの重松作品なら当然のように感じられた、ちょっと幸せな気持ちになれる読後感を久々に味わうことができた。『ファミレス』のスラップスティック感は読んでて腹が立ってきたから。

ただ、「ちょいハッピー」ぐらいの感じでしかなくて、冷静に考えたらアヤさんの泣き虫ぶりが克服されたという感じはないし(元々そんなに泣き虫という感じでもなかったけどね)、過保護ママの留美子さんの暴君ぶりにも変化があったとは思えない。僕はこの留美子さんをギャフンと言わせるようなカタルシスが欲しくて読み進めたけど、結局成長してない。そして、相変わらず重松さんは登場人物に付けるニックネームのセンスがイマイチだ。

それでも、長男の文太クンの成長ぶりだ。最後の章でのクラスのまとめ方、そしてそれを黙って見守ろうとした健の姿勢には感動する。参加型の問題解決のお手本を見るようで、久しぶりに重松作品を読んで目頭が熱くなるのを感じた。最近の作品ではほとんどなかったことだ。はじめのうちは、健に対しては留美子さん同様、『ファミレス』的なうざったさを感じてイライラしっ放しだったが、最後の章だけはものすごく良かった。救われた気がした。

最終章を読むためだけに、読み進めることをお薦めしたい。


余談ですが、哲也が関西に単身赴任させられて携わった「プロジェクト」の中身、何だったんだろうか。接待以外には具体的な言及がなく、哲也がGWや夏休み、クリスマスを返上してまで関わらされた仕事っていったい何だったのか、ほとんど想像がつかなかった。

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