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TVET改革承認で今さら思う、日本の「高専」の魅力 [ブータン]

技術教育・職業訓練改革案、閣議承認される
Cabinet approves TVET reform plan
Yangchen C Rinzin記者、Kuensel、2021年8月13日(金)
https://kuenselonline.com/cabinet-approves-tvet-reform-plan/
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【要約】
労働省の「国家技術職業教育訓練(TVET)改革計画2021」が閣議決定された。このTVET改革計画は、前の2政権から続く長年の懸案事項で、7月27日の閣議承認され、先週承認書が労働省に充てて発給された。今後実施責任は労働省に委ねられ、併せて改革計画を迅速に進めるため、優先品目またはサービスを調達するため、財務省国有財産局と協議するよう労働省には指示された。

ウゲン・ドルジ労働相によれば、計画は一気に実行されるものではなく、ニーズに基づいて実行に移される見込み。例えば、どの職業訓練校が大規模な改修を必要としているのか、また様々な業界の専門家がTVETカリキュラム改革に関与する必要があるのか​​などを見極めて実施に移していくという。

一方、同省はTVET改革計画の具体的内容の共有は拒否している。労働相の説明によれば、これには広範な分野をカバーするアプローチが必要で、同省が調整方法について様々な機関との協議を含め、実施する計画を最終決定する必要があるからだという。戦略を実施する際に計画が変更される可能性が示唆される。

この改革の内容について、大臣は以前、本紙の取材に対し、TVETは多くの人にとって最後の選択であり、改革が対処すべき最も重要なことはTVETを魅力的にすることだと述べていた。TVET改革の第一の目標は、TVET機関を健全で魅力的な教育の場とすることだと考えられる。

また、第二の目標は、国際カリキュラムを参照し、現行カリキュラムがそれを反映したものとなるよう、カリキュラム開発枠組みを改革することだと考えられる。改革では人材育成にも目を向け、インストラクターが国際標準の資格を取得できるよう能力向上の機会を提供するのだという。そのために政府は、すでに韓国、ドイツ、スイス、オーストラリア、シンガポールとインストラクター教育に関して協議を進めている。

さらに、政府は、様々な業界と協力し、TVET機関と連携して修了生に就業機会を提供するよう取り組むことが指向される。現状、業界とTVET機関との連携は乏しく、TVET機関の卒業生は、失業状態にあるケースが目立つ。

一方、TVETを労働省から切り離すという改革の主眼の1つは、改革計画では言及されておらず、棚上げされた可能性が高い。政府は2019年にTVET改革を開始し、首相府が省からTVETプログラムを引き継いだ。しかし、それから2年が経過し、首相府のTVET仮事務所は、改革実施の責任を労働省に戻すことになる。TVET改革は第12次5カ年計画の優先事項であり、21億ニュルタムの予算が配分されている。TVETセクター改革は2000年代初頭に開始、 2003年に労働省の直接管理下に置かれた。

ブータン入りして3カ月が経過したが、この間、あまり「TVET」という言葉を耳にする機会がなかった。僕が今仮住まいにしているホテルのオーナーのご主人が、この記事で出てくる「首相府TVET仮事務所」の代表なので、ここに泊まっていればTVET改革について非公式に情報を聞き出せるかと期待もしていたが、あまりホテルでお見かけする機会もなく、また僕がどのような仕事でこちらに来ているかをご存じであるにも関わらず別に声をかけてもらうこともなかった。

人のうわさで聞いたのは、労働省はもうTVETはやらないというものだったが、この報道を見ると、彼が今TVET改革についてあまりアクティブではないというのも頷ける気がした。彼はそのネットワークを駆使して、諸外国でのインストラクター研修受入れや、逆に外国からのインストラクター派遣の道筋を既に作ったということなのだろう。

また、TVET改革の予算面については、某国際開発金融機関が融資予定だと、そのタスクマネージャーから以前聞いたことがある。研修用機材の更新にはカネもかかるし、そのカネを持って来てくれるドナーがいちばん偉いと厚遇される国なので、僕らのように、アイデアはあってもカネを持って来れない者の話はなかなか聞いてくれない。

前回駐在時、僕はクエンセルに、「職業訓練校(TTI)は単一技能のフォーカスするのではなく、複数技能を動員できるようにして、立地する地域のニーズに答えられる機関として育てるべきで、そこにデジタル工作機械も配備できたら、地域のニーズにもっと答えられるようになる」といった提言を投稿したことがある。前述の開発金融機関のタスクマネージャーにもこの私見は共有しており、その支援計画に反映してもらえれば、例えば全国にあるTTIに3Dプリンターが配備されて、地域で必要とされる単品の小物が、どんどん作られるようになっていけるだろう―――そう期待したいところである。

一方でちょっと残念なのは、今、日本では、学歴重視の既存の価値観が崩れて、「高専(高等専門学校)」に注目が集まり始めている状況があることを、うまくこのTVET改革の動きに組み込めていないという点だ。

8月9日付の「日経ビジネス」オンライン版に、「製造業でもデジタルでも 希少性高まる高専生、知られざる実力」という記事が掲載されている。「産業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)など新潮流が押し寄せ、不確実性が高まる。2022年以降に大学卒業者が減り始める流れもあって、高等専門学校生が引っ張りだこだ。持ち味は「走りながら考える」力。その人材価値に着目し競争力へと変える企業の現場を追った」という序文で始まるこの記事。詳細までは書かないが、この記事を要約して、またクエンセルに寄稿しちゃおうかなとすら思える内容だ。

TTIがDXの動きに答えられる組織になっていけば、国王のビジョンにも沿うものになっていくだろうし、「高専」というコンテンツを輸出したいという動きも日本にはあるみたいだから、日本にとってもWin-Winとなるに違いない。

ただ、まったく今までそういう動きがブータンについてなかったのかというとそうではない。JICAの技術研修で北九州高専を訪問した科学技術単科大学(CST)の教員がいた筈だし、ジグミナムゲル工科大学(JNEC)の教員や学生も、日本の有志の招きだったか文科省さくらサイエンスプログラムだったかはど忘れしたが、東京の高専を訪問していたと記憶している。いずれも大学の教員が高専を視察するという建付けになっていて、労働行政を司るような人が高専について学んだわけではないし、いずれの視察も単発で行われていて、高専自体をブータン政府関係者に理解してもらうという取組みにはなっていなかったと思う。そのあたりのコーディネーションをうまくとって、プログラム的に動かせていれば、TVET改革への打ち込みも早期にできたかもしれない。そこは前回駐在していた当時にそこまでの考察をしていなかった自分の力不足も感じる。

閣議で既に決まってしまった改革案に対して今更対案を打ち込むのは難しいだろうし、僕自身も今はそういう政策提言を堂々と行える立場で仕事しているわけではない。指をくわえながら、TVET改革の今後の動きもウォッチしていきたいが、身の回りの課題を発見して、様々なアプローチを粘り強く反復試行し、それにデジタルの力も動員でき、実装にまでつなげていける人材を輩出できるTVET機関が育ってこれば、国王様のビジョンにも沿う、そして今のブータンの「STEM教育」熱に欠けているピースになると思うのだけれどな…。

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robotic-person

福島第一原発事故後、福島高専をはじめとする高専が廃炉作業を想定した研究開発に取り組んでいます。「「彼らをうまく利用しよう」という人々の思惑があるのでは・・」とつい裏読みしてしまう私がいます。高専の学生さんには廃炉に縛られることなく、希望の道を大学への編入を含めて歩んで欲しいと願っています。

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福島高専がロボコン最優秀賞 原発の廃炉作業想定し競う(共同通信) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/cdd347babf3fe1cd891da5901ba280a0b9bcc2b0

by robotic-person (2021-08-16 11:10) 

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