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『八本目の槍』 [読書日記]

八本目の槍(新潮文庫)

八本目の槍(新潮文庫)

  • 作者: 今村翔吾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/04/26
  • メディア: Kindle版
内容紹介
石田三成は、何を考えていたのか? そこに「戦国」の答えがある! 秀吉の配下となった八人の若者。七人は「賤ケ岳の七本槍」とよばれ、別々の道を進む。出世だけを願う者、「愛」だけを欲する者、「裏切り」だけを求められる者――。残る一人は、関ケ原ですべてを失った。この小説を読み終えたとき、その男、石田三成のことを、あなたは好きになるだろう。歴史小説最注目作家、期待の上をいく飛翔作。
【コミセン図書室】
上の本は新潮文庫版であるが、実際にコミセン図書室で借りたのは2019年7月に出た単行本の方である。なぜかこの単行本が駅前の啓文堂書店の店員お薦め本として表紙が目立つよう展示されていたので、コミセン図書室で見かけた時には四の五の言わずに手を伸ばしてしまった。書店で最初に見かけたぐらいだから新刊なのかと思っていたら、既に文庫版まで出ているとは…。

賤ケ岳の戦いにおいて羽柴秀吉の小姓として活躍した若い将校は後に「賤ケ岳七本槍」という。加藤清正、福島正則、加藤嘉明、平野長泰、脇坂安治、糟屋武則、片桐且元のことを指す。加藤清正(虎之助)、福島正則(市松)が最も有名で、小学生時代の僕が初めて読んだ歴史小説でこの2人がインプットされた。関ケ原の戦いで東軍に寝返った脇坂安治(甚内)やその戦後処理で登場する片桐且元(助作)、どちらかというと江戸初期の大名として名前がインプットされた加藤嘉明(孫六)が含まれていたのは意外だった。

残る2人、糟屋武則(助右衛門)と平野長泰(権平)に至っては、知名度では他の5人に劣るため、気を付けて見たことがない。7人とも長浜入りして城持ち大名となった秀吉が旗下の戦力増強のために長浜で集めた若者に含まれている。本作品では、この7人に、同じくこの頃に秀吉によって登用された石田三成(佐吉)を「八本目の槍」として絡めて、7人各々の視点から他の七本槍や石田佐吉との絡みを描いていく連作短編となっており、物語が大詰めに向かうにつれて、徳川家康の存在感が増す一方で、豊臣家の御曹司が淀殿や大野治長に踊らされて家の存続を不意にし、滅びとともに七本槍も加藤嘉明を除いて徐々に退場していく様を描かれている。

構成がよく練られた物語で、面白いことは間違いない。ただ、忙しさの片手間で読み進めるには、作品中で使われている「通称」があだになっている。僕自身が還暦を過ぎて、そのあたりの認知速度が落ちてきたこともあるのだと思うが、「権平」「助右衛門」「助作」「甚内」「孫六」あたりの名前が文中で飛び交っても、それが七本槍の誰を指しているのかがすぐに理解できない。そこらへんの認知ができていない状態で読み進めるうち、その人物がこの連作短編の過去のどの話の主人公だったのかがすぐに思い出せず、それが読み進めるのに苦戦する要因となった。

面白い筈なのに、その面白さを味わい尽くせぬ歯がゆさ―――これを本作品を読んでいて味わった。

この時代を扱った多くの歴史小説は石田三成を嫌な奴として描いている。通史は常に勝者の視点から記録されるので、その分三成は割を喰っているところはある。本当はもっと戦略家として有能だったのかもしれないし、仲間との友情に厚い奴だったのかもしれない。自分の身を犠牲にしてまで次に来るポスト関ヶ原のビジョンを実現させようとする姿はちょっと出来過ぎな感じも受けるが、エンターテインメントとしての面白さはあると思う。

心の余裕がある時に読みたかった。
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