『これだけ!電子回路』 [仕事の小ネタ]
内容紹介【MT市立図書館】
小中学校で習う豆電球をつかった電気回路やオームの法則を覚えていますか? これらは高校物理で習う電子回路へとステップアップしていく大事な項目です。本書は、小中学校の理科で習う理科の基礎知識から再入門する電子回路の入門書です。電圧、電流、コイル、コンデンサ、オームの法則、キルヒホッフの法則といった基礎から、半導体、電子回路素子、トランジスタ、電子回路、演算増幅器までを初心者むけにやさしくざっくり解説します。
電子回路の勉強をしていると、小学校や中学校の理科の時間に電気について何を習ったのか、今一度教科書を読み返したいとの思いに駆られることがある。豆電球や電池の直列つなぎや並列つなぎとそれによる電流計算、電圧計算は小学校で習ったし、オームの法則や電磁石のSNのでき方は中学校で習った。そういうのを思い出してもう一度当時の状態にまでキャッチアップするだけでも今の僕にとっては大きな前進になる筈だ。しかし、当時の教科書なんか手元にないし、書店でも手に入らない。かといって、学習参考書を今さら購入する気にもなれない。さすがに、電気以外の記述も相当量含まれていて、値段もお高い学習参考書はちょっと違うだろという気がしていて…。
本書は、タイトルに「これだけ!」とあったし、まえがきにおいて、小中学校の理科で習う基礎知識から再入門すると謳っていたので、それならまあ読んでみようかということで図書館で手に取った。
確かに、第6章「半導体と電子回路素子」あたりまでは小中学校の復習だという記述が続いた。挿入される図表やイラストと、本文の解説のバランスもよく、いい復習にはなったと思う。
でも、その後がいけない。本書のレビュアーのほぼ全員が指摘しているが、第7章「トランジスタと増幅回路」から突然難易度が爆上がりした。変な例えだが、シリコンダイオードの立ち上がり電圧みたいな感じ(笑)で、しかもこのシリコンダイオードの記述があるのが皮肉にも第6章第2節。このあたりから爆上がりの幕が切って落とされる。
それでも第6章あたりまでは、挿入されたイラストにちょっとした吹き出しコメントも付けられていて、ちゃんと説明しようという誠意も見られた。それが急に途絶えるのが、第7章第1節でバイアス回路を取り上げて以降である。
本書は、「これだけ!」と謳っているけれど、僕が今図書館から借りてきていて手元にある電子回路工作の解説書で、「バイアス回路」を取り上げているものは一冊もない。これは今の僕にとっては座右の書だと思っている後関哲也『電子工作の素』ですら、バイアス回路に関する記述はない。いったいどこが「これだけ!」なのか。
しかも、そのあたりから解説が雑になった印象で、イラストにも吹き出しコメントが付されなくなる。「これだけ!」と銘打っておきながら、その「これだけ」の知識を読者に理解させるだけの編集努力がされているとは思えない。著者にも葛藤があったのだろう。たぶん、本当に描きたかったのはこの第7章以降の記述だったと思われる。それに、編集者から「小中高校の教科書レベルからの復習を」という注文を付けられ、著者なりに何とか努力したというのが実際なのではないだろうか。
繰り返すが、第6章までの記述は易しい。どうせなら、小中高校の理科や電気の科目の教科書に書かれていることだけを集めて1冊の本にしてくれたらいいのに。そこに元々著者のご専門の領域の知識をなまじくっつけようとするから、ダイオードの立ち上がり電圧のグラフみたいな難易度の急騰が起きるのである。
1500円ちょっとで買えるのだから文句を言うなというご意見もあるかもしれない。だが、本当に小中高校の復習だけに絞ってくれていたら1500円は安いと思うが、このどっちつかずの編集で、後半がまったく理解できなかったものに、1500円払うのはかなり躊躇する。
なまじ「これだけ!」と銘打っているだけに、途中から理解できなくなった僕の自尊心はズタズタだ。ただでも気分的に落ち込んでいたここ数日、本書のせいで余計に暗くなった。
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