再読『初秋』 [ロバート・パーカー]
内容(「BOOK」データベースより)
離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい。―スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年、ポールは彼の心にわだかまりを残した。対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ、固く心を閉ざして何事にも関心を示さない少年。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。スペンサー流のトレーニングが始まる。―人生の生き方を何も知らぬ少年と、彼を見守るスペンサーの交流を描き、ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に謳い上げた傑作。
あるブロガーの方が8月頃にロバート・B・パーカーの「私立探偵スペンサー」シリーズの名作『初秋』の表紙の写真を載せておられたのを見て、久しぶりに『初秋』を読んでみたくなった。僕のブログを読まれている方には意外かもしれないが、僕は1980年代から90年代にかけて、パーカーの作品はハヤカワ・ミステリーシリーズから新刊が出るたびに購入して読むというぐらいの大ファンで、その中でも「スペンサー」シリーズの『初秋』(原作初出1981年)と、独立系の作品『愛と名誉のために』(原作初出1983年)の2作品を推していた。この2作品は、ペーパーバックで原作も読んだし、訳本も数回にわたって読んでいる。
そして、SSブログでも、前回『初秋』を読んだ時の記事が書かれている。11年前の秋のことだ。
https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2009-11-16
その時に書いた記事で本作品の概略はご理解いただけると思う。今回11年ぶりに再読してみて、僕が歳を重ねたことや、その間の読書遍歴の厚みもあって、前回気付かなかった新たな発見もあった。蔵書も読了後ただ単に書棚の肥やしにしておくだけでなく、ある程度間を置いて読み直してみると、その都度その都度新鮮な発見があって、いい読書体験になるなぁと改めて思った。
1つは、スペンサーの語り口。おしゃべりなだけでなく、一見すると意味不明の発言が時々飛び出し、聴いている側が「は?」みたいな聴き直しをしているシーンがある。年齢とともに口が重くなってきたことを痛感している昨今、これだけの会話は妻との間であってもなかなか成立させるのが難しくなってきた。会話の内容とテンポ、そして、スーザンに語りかける「甘~い」言葉の数々、これらを思い出すために、もう少しこのシリーズは読み返してもいいかなと今回思った。
2つめは、スペンサーは読書家で、スポーツ観戦や演劇鑑賞なども頻繁にしていることから、その体験から得られた知識をその語りの中でひけらかすシーンが度々出てくる。これは僕ら読者の知識量を試されている部分もあって、米国で長く住んでいればわかる話もある一方、本を沢山読んでいないと絶対に語れないような比喩も多い。
今回の気づきは、スペンサーがポールを連れて行って始めた森の中での生活で、ソロー(ヘンリー・ディビッド・ソロー)に一瞬言及するシーンがあったことだ。前回までの読書では読み飛ばして記憶にも残らなかった記述だが、この10年の間に、ソロー『森の生活』という作品について言及されている文献を数冊読んでいたので、今回『初秋』を読んでみて、スペンサーが『森の生活』を読んでいたということが初めてわかった。
やっぱり古典――というか有名作品はちゃんとよんでおかないとなぁ…。
ロバート・B・パーカーの訃報に昔を想う [ロバート・パーカー]
スペンサーシリーズの著者、R・B・パーカー氏が死去昨年、思い出の本ということで『初秋(Early Autumn)』や『愛と名誉のために(Love and Glory)』を紹介したのは虫の知らせだったのか、ロバート・B・パーカーがお亡くなりになった。1996年の『チャンス(Chance)』を最後にパーカーの作品は殆ど読んでいない自分がこんなことを言うのは筋金入りのパーカー・ファンには大変失礼かもしれないが、やっぱり残念です。スペンサー・シリーズは1973年の『ゴッドウルフの行方(The Godwulf Manuscript)』でスタートしているが、その時点でプロボクサーを引退して私立探偵を開業していたスペンサーが30歳ぐらいだったとして、2010年には67歳を迎えていることになる。同じく還暦を過ぎたスーザンと今もお熱いというのはちょっとイメージがしづらいが、多くの読者を惹き付けたハードボイルド作家だったと思う。
1月20日配信 ロイター
[ニューヨーク 19日 ロイター] ベストセラー探偵小説のスペンサーシリーズで知られる米作家、ロバート・B・パーカー氏が19日、マサチューセッツ州ケンブリッジの自宅で死去した。77歳だった。死因は明らかにされていない。
ボストン大学の英文学博士号を持つパーカー氏は、1973年に作家デビュー。1977年にはスペンサーシリーズ4作目の「約束の地」で、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞のエドガー賞最優秀長編賞を受賞した。
パーカー氏は、1980年代に「私立探偵スペンサー」としてテレビドラマ化された同シリーズを含め、60を超えるミステリー作品を手掛け、その多くが地元ボストンを舞台に描かれた。
何度も繰り返しになるが、僕が今までに読んだ小説の中で五指に入るのは何かと問われると、『初秋』と『愛と名誉のために』は確実に入る。加えて、意外に思われるかもしれないが、スペンサー・シリーズではないけれど『銃撃の森(Wilderness)』も好きだった。
『愛と名誉のために』 [ロバート・パーカー]
内容(「BOOK」データベースより)
21歳の夏、作家志望の青年ブーンは、ジェニファとの恋を失った。人生の目的をなくした彼は、酒に溺れ、失業を繰り返し、やがて抜け殻となった魂を抱えて流浪の旅へ出る。彼女にあてた、投函されることのない何通もの手紙とともに。が、7年の歳月を経ても変わらぬジェニファへの愛は、ある日ブーンに再生を誓わせる。青年の挫折と再生を通し、スペンサー・シリーズの著者が男の愛と誇りを問いかける感動の恋愛小説。
思い出の本である。少し前に同じパーカーの『初秋』を紹介したが、『初秋』同様、思い出の本という意味ではこの『愛と名誉のために』(原題:Love and Glory)は5本の指に入る。少なくとも4回は読んでいる。しかもそのうち1回はペーパーバックで原書も読んだ。今や訳本の方は絶版になってしまっているが、幸いなことに僕は早川書房から出ていた単行本を自宅に所蔵している。
『初秋』が父と子の関係を主題としていたのに対し、『愛と名誉のために』は男の女に対する変わらぬ愛がテーマだ。本書の紹介に描かれている通り、ニューイングランドで恋に破れたブーンは、そこから西へ西へと向かううちにどんどん転落し、放浪の旅に身をゆだねるようになっていく。昼間からウイスキーのボトルを手放さず、酔っ払って過ごす。そうして西海岸のマリブビーチ(だったと思う)に辿り着いた時、自分を磨き上げてジェニファーを取り戻す決意をするのである。波に洗われて再生への決意を強めていくシーンはとても印象的だ。
『初秋』 [ロバート・パーカー]
内容(「BOOK」データベースより)
離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい。―スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年、ポールは彼の心にわだかまりを残した。対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ、固く心を閉ざして何事にも関心を示さない少年。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。スペンサー流のトレーニングが始まる。―人生の生き方を何も知らぬ少年と、彼を見守るスペンサーの交流を描き、ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に謳い上げた傑作。
ロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズ、僕は第23作『チャンス(Chance)』までは全て読んでいた。1996年発表のこの作品を何故僕が読めたのかは定かではないが、途絶えるきっかけは1995年の海外赴任であった。毎年年末近くになると恒例の新作発表となるので、第22作『虚空(Thin Air)』は翌年の一時帰国の時、『チャンス』はその翌年の一時帰国の時に読んだのだろう。それ以降は読んでいない。
それがたまたまデリーの日本人会図書室で第7作『初秋』を発見。スペンサー・シリーズの中でも最も人気の高いのが『初秋』であり、この『初秋』と出会わなければ23作目まで読み続けるなんてことはできなかったかもしれない。僕も今まで生きてきた中で随分と多くの本を読んできているが、その中からベストな5冊を挙げよと言われたら確実にその中に入る1冊である。