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『こころのつづき』 [森浩美]

こころのつづき (角川文庫)

こころのつづき (角川文庫)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/12/25
  • メディア: 文庫
内容紹介
"やさしさ"はきっと近くにあるから――日常の些細な出来事を丁寧に掬い取った、心あたたまる感涙の家族小説集。ロングセラー『ほのかなひかり』に続く、シリーズ第二弾。

前回森浩美作品を読んだのは2017年3月の『終の日までの』以来であった。今、とんでもない大部の本と格闘していて、あまりにも読み込みスピードが遅くなっているので、息抜きに小説でも読もうと思って贔屓の作家の新作はないかと当たってみた。久しく読んでいないという意味では重松清なんかもそうなのだが、キンドルでダウンロードできないので諦めた。今回探し出した『こころのつづき』は新作ではないが、森浩美は続けて読むとありがたみが落ちるので、ある程度間を置こうとあえてリザーブにしていたのだと思う。

お陰で森作品を読み始めた頃に感じたような新鮮さを感じながら、改めて読むことができたと思う。重松清と扱うテーマがわりと似ているけれど、重松作品のように読者にある価値観を押し付けてくるようなところがなく、ある程度読者側の感受性に委ねてくれる余韻を残して終わらせてくれるほどよい作品が多いという印象。収録作品は順番に「ひかりのひみつ」「シッポの娘」「迷い桜」「小さな傷」「Fの壁」「押し入れ少年」「ダンナの腹具合」「お日さまに休息を」である。どうも同じ短編集の中でも限界効用逓減の法則は働くみたいで、個人的には最初の作品「ひかりのひみつ」がいちばん良かった。

ただ、本書はどうやら作品の並べ方にも仕掛けがあるようで、最初の「ひかりのひみつ」と最後の「お日さまに休息を」は対を成していたりする。シングルマザーに育てられた女性が、結婚を翌年に控えた12月、自分が生まれる前に死んだと聞かされていた実の父親が軽井沢で働いていると聞き、ひとり訪ねて行って、ランタンが灯る教会で意外な真実を聞かされるという前者は、これだけ読めばウルっと来る話なのだが、結婚前に実父に会ってわだかまりを解消できた後のこの主人公が、結婚後に新郎の親族からどのように見られているのかというのが最後の「お日さまに休息を」では登場する。この主人公・奈々にしてそうなのだから、他にも「周囲は自分のことをこう見ているんだけど、実際の自分はこうなんだ」という意外性をどこかに残しながらどの話も展開していく。驚きがあるわけではないけれども、ものの捉え方は当事者ひとりひとりによって異なるものなのだというのが改めての学びかと思う。

一方でちょっと難しかったのは、55歳という年齢のオッサンがこの8つの短編の中でどのように位置付けられるかという点。最愛のペットの死とか、いじめとか、姉さん女房とか、設定的に僕の世代の男性が登場しにくい話だったりして作品世界にイマイチ入り込めなかったところもあったし、名前としては登場しても、実物が作品の中に出てこないところで僕らの世代のオヤジが語られている作品もあった。実際にその人も登場して主人公と会話も交わすというシーンがあるという点でも、最初の作品「ひかりのひみつ」は良かった。

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『終の日までの』 [森浩美]

終の日までの (双葉文庫)

終の日までの (双葉文庫)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2017/02/16
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
母が他界した五年後に、独り暮らしの父が亡くなった。納骨を済ませ子供たちは実家に集まり、ぽつりぽつりと両親の想い出話をする。遺品整理を始めたところ、父は意外なものを遺していた。そして初めて父の家族に対する想いを知るのであった(「月の庭」より)。大切な人の死や老いに直面したとき、生きている今、何をすべきか…。前向きに生きるその先には、救いの光が見えてくる。“人生の閉じ方”を描く「家族小説」第八弾!

森浩美作品は久しぶりだなと思って最後にいつ読んだか調べてみたら、2014年6月の『ひとごと』だった。その時の感想の中で、経済学の「限界効用逓減の法則」という言葉を使い、森作品を沢山読んできて、多く読むにつれて何となく展開が読めてしまい、味わえる感動も少なくなってきたなどと書いていた。

約3年のブランクを置いて久々に読んだ森作品は、ひと言で言えば新鮮だった。今回扱ったテーマも良かった。良かったという言い方には語弊もあるけれど、身近な人の死を絡めた短編が8編収録されている。家族小説というジャンルからは外れるものではないが、これだけ「死」を絡めると、ある意味では鮮度が増す。昔の重松清作品でもよく扱われたテーマで、「重松清?」と錯覚させられるぐらいにイメージが近い。そして、暗いエンディングにしていないところがいい。それに、舞台が中央線沿線っぽいのもいい。

どの作品も、扱っている「死」も誰の目線かも異なる。職場の元上司や出世頭の同僚の死だったりもするし、本人の自死だったりもする。勿論家族小説だから家族は登場するが、亡くなる人は家族でないケースもある。1編40ページほどなので1話ごとで区切って読めるのが良い。

どの作品も良かったけれど、強いて挙げるなら最後の「三塁コーチャーは腕をまわせ」だろう。僕が妻とショッピングに行くとよく言うのが「迷ったら買え」である。やって後悔するよりもやらないで後悔する方が後悔の度合いが大きい。今のように周囲が輸入品ばかりの小さな国に住んでいるとなおのことで、お店にある品物を見て買おうか買うまいか躊躇して結局買わなかったりすると、翌日同じお店に行くと、もうその品物はなかったりする。その時の悔しさといったらない。

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タグ:終活

『ひとごと』 [森浩美]

ひとごと (単行本)

ひとごと (単行本)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/02/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
交通事故で幼い息子を失い、自分を責め続ける妻。ともに悲しみを乗り越えなければならないはずの夫との間には、次第に亀裂が入っていった。一周忌の法要が終わり、夫は躊躇いながらも、妻に意外な話を切り出すが…。(第一話「桜ひらひら」)。幼い息子を虐待して殺した母親を逮捕―残酷な事件のニュースが、人々の心に起こした波紋…。8組の家族の人生の転換期を、鮮やかな手法で描いた感動の連作集。

各短編において言行が極端な男や女が登場することや、毎回親による幼児虐待、子供による親への暴力などの事件がテレビで報道されているシーンが登場するというところに共通性がある短編集。『ひとごと』と名付けられたのは、幼児虐待のような残酷な事件をテレビやラジオで流すマスコミの報道を聞きながら、登場人物が感想を述べるシーンが毎回挿入されているからだろう。そういうのを見ながら、「ひどいわねぇ、まったく世の中どうなっているんだか…」なんてひとごとのようなコメントをしながら、実のところはそこまでひどくなくてもそれに近いことが身の回りでは起きているのだという現実に引き戻されるのである。ひとごととは思えない身近なところで、極端なダメ男やダメ女がいて、主人公は虐待に近いような不当な扱いを受けていたりするのである。森作品は程度の差はあれ関係がうまくいっていない親子や夫婦が登場することが多いが、ここまで極端なキャストが登場する作品はちょっと珍しいかもしれない。

ただ、急いで読んだからかもしれないが、どれも終わり方が唐突で、そこに至る主人公の心の変化が端折られているような印象を受けてしまった。言行が極端な登場人物にはあまり変化の兆しも見えず、今の世の中、こういう奴が身近にもいる中で、なんとかやっていこうと自分に折り合いをつけて無理矢理シャンシャンと終わらせている感じだった。あまり劇的な終わり方ではないし、どうしてそうやって終わらせるのか、読者に想像の余地を与えすぎの感もある。会話があまりないため、登場人物にどいう心の変化が起きたのかがよくわからなかった。あまり心に響かなかったなぁ。

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『家族の見える場所』 [森浩美]

家族の見える場所

家族の見える場所

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 単行本
内容紹介
ラジオ局のベテランアナウンサー、寺田武は長年担当してきた生放送番組の、最終回に臨もうとしていた。
そこへ入院中の母が危篤との報が入る。武は子どもの頃から飽き性で、母にはよく叱られた。
「お前は物事を全うしたことがない」と。
“地味な番組だけど今度こそ、この番組こそはと思ってやってきたんだ。
母さん、もう少し待っててくれ……"『最後のお便り』ほか、家族の日常に起きるドラマチックストーリー。
40万部を誇る家族小説短編シリーズの第7弾。
別の記事でもご紹介した通り、僕は今週はずっと体調が良くなくて、木曜日には大事を取って1日お休みをいただいた。それで大事なミーティングを1つ欠席してしまったのだが、翌日の金曜日には50人ほどの人々を前にして講義を行なう仕事を引き受けていたため、そちらの方を休んだ方が迷惑をかける度合いが大きいと判断し、泣く泣くミーティングを1つ犠牲にしたのである。無理すれば行けたのではないかと思われるかもしれないが、朝方病院で診察を受けるために外出したところ、寒くて仕方がなかった。送り迎えしてくれた妻が「今日は昨日よりも暖かいよ」と言っているのに僕だけ寒さを感じていたということは、やっぱり体調がおかしかったのだろう。

先週末、土日両日とも、早朝4時~6時30分をファミレス、10時~12時30分、14時~16時30分を近所のコミセン図書室でのデスクワークに充て、日曜夕方に他人の原稿を読み込んで赤ペンを入れる作業を終えた。その上で、原稿に対するコメントをWORDで作成する作業を月曜早朝3時に起床して出勤前に済ませた。これだけやって月曜夕方の打合せに備えたわけだが、打合せ終了後、夜帰宅する途中で両足の股関節が痛くなり、なんだか調子の悪さを感じた。翌火曜日の朝は喉のいがらっぽさが気になるようになり、夕方には本格的に喉が痛くなった。それでも夜の忘年会までお付き合いは続いたが、翌朝は微熱があり、痰が絡むような咳が続く中、マスク姿で出勤。意識も朦朧の中で1日を耐えた。そして翌日ダウンである。

金曜日もまだ頭がふらついたが、講師を務める予定もあったことから出勤。最後まで仕事をして帰宅。この週末は本当にゆっくりと休みたいと思っている。

そんな事情は『原発ホワイトアウト』の記事の中でもご紹介した通りだ。『原発ホワイトアウト』自体は、病床にあった木曜日に読みはじめ、その日のうちに読了したものだが、今週はその前に読みかかっていた別の小説があり、木曜日はその本をまず読み終えることから始めた。それが、森浩美の最新の家族小説短編集である。

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タグ:吉祥寺

『家族往来』 [森浩美]

家族往来

家族往来

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/01/16
  • メディア: 単行本
内容紹介
弟が突然仕事の帰りに訪ねてきた。結婚の報告とともに言われたのは「姉ちゃん、コロッケ作ってくれないか」。実はコロッケには姑にいじめ抜かれて苦労した亡き母と、幼き姉弟との切ない思い出があった(「コロッケ泣いた」)。胸を打つ家族の情景。著者の家族シリーズ第6弾!
兼ねてから述べているように、近所の図書館の蔵書にはそれぞれ特徴があって、この作家の作品ならどこどこというのがある程度は決まっているように思われる。例えば、三鷹市立図書館でも、辻内智貴作品は駅前分室の品ぞろえが抜群に良いし、森浩美作品なら本館である。逆に、うちの近所にあるコミセンの図書室は、規模の割には重松清や海堂尊の品ぞろえが良いが、辻内智貴や森浩美の作品はまったく置かれていない。

それなのに、この森浩美の近刊本は、なんとコミセン図書室の新着本の棚で発見した。ここのところ専門書の読み込みが続いていたので、週末の息抜きに読んでみようかと思い、コミセンで借りることにした。

収録短編数は8編なので、1編当たり30頁程度と、朝風呂だとかトイレのひと時とかを利用して1編また1編という感じでどんどん読み進めていける。先週末は結局忙しかったこともあって週末だけでは読み切れなかったけれど、週明けに持ち越した分量も大したことなく、あっという間に読み終えてしまった。中高生以上向けの読み聞かせ、ラジオドラマなどにはちょうど良い長さの作品が多い。元々森作品は高校入試の国語の問題で使用されるものも多いそうで、なるほど読んで少しばかり言外の意味を想像させる作品が多いという特徴がある。リストラだったり、家業の業績悪化だったり、離婚だったり、嫁姑の関係のこじれだったり、父と娘の関係だったり、家族の間では話題になったり問題として持ち上がったりすることがいろいろある。それを「ああまだこういう切り口があったか」と唸らされるような状況設定で描いていくので、ある程度のインターバルを取りながら読むのにはちょうど良い短編集が多くなっている。今回は、

この本で、著者は以前に書いた作品の続編的な物語や、以前登場した人物を再登場させるという仕掛けをほどこしたとあとがきで述べている。そういう連作短編を書く作家ではなかったので、このあとがきは不意打ちに近い。どの作品が過去のどの作品と繋がっているんだろうか。収録短編の1つ「心のくしゃみ」に出てくる母娘は、どこかで登場していたかもしれないなと思うのだが…。あと、場面設定が二子玉川になっている作品は、以前もう1つあったように記憶はしているが、今さら以前の森作品を読み直してみる気にもなれず、仕掛けを見破るスリルは、暇な時のためにとっておきたい。

さて、本書の収録作品の中でも特に泣かせるのはやはり「コロッケ泣いた」であろう。

『家族ずっと』 [森浩美]

家族ずっと

家族ずっと

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2012/04/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
累計30万部を超す著者の家族小説シリーズ、第五弾。ひと月前に再婚した夫には女の子の連れ子がいる。まださん付けで呼ばれる私は授業参観の日が近づき、遠慮と希望が入り交じった複雑な気持ちになる。そして母の日が来て……。「ピンクのカーネーション」など、親子のあり方を見つめる8編。
先週、集中して読書をしたいと思って駅前の図書館に2時間ほどこもったことがあったが、その際に同じフロアにあった文学文芸の書架を何気なく物色していて、森浩美の新作が所蔵されているのに気がついた。善は急げだと思ってすぐに借りて、週末から週明け15日(月)朝にかけて読み切った。8編が収録されていて区切りが良いため、朝、お風呂で湯船につかりながら1編、トイレで踏ん張りながら1編、出勤前に1編、帰宅後、夜、消灯前にもう1編――といった具合にコツコツ読み進めることができる。

毎回書いていることだが、森浩美作品は、目線が僕らと同世代の父親または母親であることが多く、そこが作品に入っていきやすいのだと思う。同じ家族を扱っていても、重松清の作品は子供の目線から描かれていることも多いし、また僕らと同じ40代の男性または女性が主人公だったとしても、その視線が子供達に注がれるだけではなく、年老いた自分達の父や母に注がれるという作品が多い気がする。家族を主題にしつつも、森浩美の場合は描かれている作品のパターンが決まっている。だから、マンネリ化する危険性が常にあるように思う。(但し、僕ら同世代の男性にしても女性にしても、心理を掴んで描写する手法は、森作品の真骨頂である。)

そう考えると、個人的な印象論になってしまうが、森作品にしてはちょっとハズレが目立った短編集だという気がした。序盤に収録されていた「ピンクのカーネーション」は確かにいい話で、読んだらウルッと来た。同じ感想を持たれる方は多いだろう。でも、その後がいけない。後続の作品に「ピンクのカーネーション」ほどは心に響いて来なかった。

その理由の1つは、父親に対して大学生や高校生の娘が投げかける心ない言葉や、妻の言動、逆に立場を変えて母親の家事での献身に対して夫や娘・息子が吐く思いやりのほとんど感じられない言葉など、今どきの家族の会話ってこんなに思慮に欠けるものなのかと、違和感を感じたからである。(我が家ではここまで極端な事態はあまり経験したことがない。)最近の子供たちは、父親や母親に対してここまで言っちゃうんだろうか。そう思うと少し寂しくなった。勿論、森作品でおなじみの、少しだけ明るい未来を想像させるエンディングにはなっていたものの、十分な後味の改善には繋がらなかった。個人的な見解に過ぎないが。

ただ、舞台として吉祥寺、三鷹、武蔵境、武蔵小金井あたりがよく登場するのはちょっと嬉しい。

『家族の分け前』 [森浩美]

家族の分け前

家族の分け前

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2011/05/18
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
『家族の言い訳』シリーズ第4弾!初めは照れくさく、そのうち面倒くさくなり、いつしか伝える言葉も忘れてしまった。夫婦同士、親が子を、子が親を思う気持ち。大事な思い。けれど、確かにそこにある。家族の絆、再生の物語。
あまり公に披露するような話でもないが、くせ毛の僕は朝風呂派で、毎朝早起きして6時頃から約30分間湯船に浸かることを日課にしている。多少開始時刻は後ろにずれるが、このパターンは週末であってもあまり変わらない。湯船にゆっくり体を浸し、お湯が冷めないよう蛇腹式のふたをなるべく締めて過ごす。長時間浸かっていればそれなりに汗も出てくるし、体も芯から温まる感じがする。

どこで聞いたかは思い出せないが、お風呂を勉強の場としている人もいる。蛇腹のふたをしてその上に本でも広げれば、体を温めながら30分程度の読書タイムにすることはできそうだ。勿論、風呂掃除の直後とか、誰かが先に風呂に入ったりしていると、ふたも濡れていて本の置き場に困る。従って、風呂で読み物をやるなら、朝をおいて他にはない。

但し、体が完全に目覚め切っていない朝に風呂で専門書など読んでいたら眠気が襲ってくるのは当たり前のことだ。僕は従って、専門書を風呂で読むことは少なく、多くはストーリー展開によっては読んでいて逆に目が覚めるような小説を読むことにしている。20分程度で読み切れる短編小説ばかりを収録した作品集なんてベストだ。

森浩美作品は、そうした状況で読むのには適している。1話がだいたい40頁程度なので、1風呂1話ペースで読めるわけだ。30分という時間は、1時間単位で仕事を考えている僕にとっては短すぎる。そのため、30分程度のまとまった時間であれば、風呂であろうがなかろうが、小説を読んで過ごすことが多い。通勤電車もちょうど30分程度の乗車時間になる。逆に、コーヒーショップは1時間単位で考えているので、小説を読むよりもちゃんとした勉強や仕事の時間に充てている。

繰り返すが、森浩美作品は、30分程度の余った時間をつぶすにはちょうど良い分量の短編を平均8編収録したというものが多い。しかも、それらが日常生活のなかでも意外とありがちな話を当たり前の感覚で描いているので、スラスラ読めるのである。

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タグ:森浩美

『ほのかなひかり』 [森浩美]

ほのかなひかり

ほのかなひかり

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
大切な家族や仲間が、そっと手を差し伸べてくれる。夫を事故で亡くした綾子は、小学生の息子をひとりで育てながら、傷心の日々を送っていた。寂しく迎えたクリスマスイブの夜、解約せずにいた夫の携帯電話からメールが送られてきて…(『聖夜のメール』より)。バレンタインデーに結婚式を控えた茜だったが、婚約者に対する父親のそっけない態度が気になっていた。しかし、挙式一週間前、父が思わぬ行動に出て…(『想い出バトン』より)。心あたたまる、8つの物語。
今週は、火曜日から娘が小学校の「自然教室」とやらで3泊4日の旅に出ている。5人家族の我が家で、子供が4日間も家を留守にするのは僕にとっては初めての経験で、家族って全員いると我が家もうるさくてたまらないが、1人でも欠けると静かになってしまうものなのだなというのをしみじみと感じている。子供達が大きくなってこれば狭い我が家はますます窮屈になるが、それでも長く家を空けるような機会が増えてくると、余計に寂しさを感じたりもするのだろう。妻と2人、そういうのに徐々に慣れていかないといけないのかなと思いはじめている。

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タグ:森浩美 三鷹

『こちらの事情』 [森浩美]

こちらの事情

こちらの事情

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
『荷物の順番』―「老人介護施設に預けることにしたから、母を送り届けてほしい」。兄に頼まれ、正文は辛い役目を任される。割り切れず、思い悩む正文に、母は諭すように言う。「正文、人の手はふたつしかないからね。もっと大事なものができれば、先に持ってたものは手放さなきゃならない。世の中は順番なんだから」それでいいんだよと。当日、施設の車寄せに着き、いよいよ万感胸に迫った正文は―自分の中の「いい人」にきっと出会える作品集。
先週末、市立図書館で4冊本をまとめ借りした。うち3冊は専門書。週末からずっと格闘している分厚い専門書が手元にあるため、この3冊のうち1冊にでも手をつけるというところには現在も行けていないが、期限延長してでも読み切るつもりではいる。順番待ちで並んでいるような人もいなさそうだし。

それで専門書ばかりじゃ堅苦しいからというので1冊だけサラッと読める清涼剤の短編小説集を1冊だけ加えた。僕もそんなに小説を読んでいられる状況にあるわけではないので小説の方が過半を占めるとちょっと心苦しい。1冊ぐらいならまあいいかと思うし、短編集はある意味必要だ。僕は最近夜22時就寝で朝3時30分起床という朝型の生活パターンを作ろうとしている。でも朝がスッキリ目が覚めないことが多く、3時30分に起きてもその後二度寝してしまい、5時台になって目覚めて自己嫌悪に陥るということがたまにある。コーヒーもいいけれど、お湯を沸かしてドリップやってる待ち時間のもどかしさってのもある。朝型一発目でブログの記事を書くってのもいいけれど、最近僕は記事を週末に書きためておいて、平日に小出しにするというパターンなので、平日の朝それほど作業することもない。

何でもいいが、起きてすぐに始められる「目覚めの一服」が必要である。ということで、朝20分ほどで読めてしまう短編が幾つか収録されているのがいいなということになるのである。

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タグ:森浩美

『小さな理由』 [森浩美]

小さな理由

小さな理由

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/03/23
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
私は破れた鯉のぼりを抱え、「おかあちゃん、僕んちには本物の鯉のぼりはないの」と涙をこぼしながら尋ねた。答えあぐねている母を尻目に、「ヒデ、鯉のぼりを上げるなんてのは立脈な男の子がいるうちがするもんだ。お前みたいな子のために上げる鯉のぼりは、うちにはねえ」伯母はそう言い切った。―父のいない家庭で育ち、苦労と我慢を重ねた主人公に、訪れたささやかな奇跡とは(「夜の鯉のぼり」より)。心に沁みる家族小説短編集。
いい作品が収録されている。中年サラリーマンの話ばかりだという点で今の自分の境遇とも通じるところがあり、「そうだ、そうだ」と頷きながら一気に読んでしまった。重松清作品に近い家族をモチーフにした泣かせる作品ばかりだが、重松ほど「死」を多用していないところにはむしろ好感を覚えている。今年48歳になろうとするオヤジにとっては、重松作品で癌におかされる中年サラリーマンに出会うたびに、「明日は我が身かも…」と思って暗い気持ちになったところ。いや一家の大黒柱とは限らず、家族の一員が難病におかされてゆっくりと死を迎えるような話は読んでいてつらい。森作品にはそうした展開が少ないのがいいと思える。

但し、逆に主人公が「離婚」とか「リストラ」とかに絡む話が多いのは少々つらい。年老いた親を兄弟の誰が引き取って面倒を見るかで揉める話というのも…。やっぱり「明日は我が身かも…」と考えてしまう。

いちばん泣ける話は「いちばん新しい思い出」だろう。娘が小さい頃に妻と離婚してしまった主人公が、結婚を控えた娘の突然の来訪を受けるというお話。昨年生島ヒロシが出したCDシングル曲「もしもし、お父さんです」をちょっと連想させる。この歌は、離婚した父が出張で上京してきたついでに都会に住む娘に電話を試みるという話だったが…。

昨日は母の日だった。「手のひらが覚えてる」も、年老いた母の突然の来訪に都会に住む主人公夫妻が戸惑う話だが、こういう簡単に答えが出ないお話はとても考えさせられる。うちの母がそうなったとしても、多分住みなれた田舎を離れて僕達の住む東京に移り住むようなことにはすんなりならないだろうというのがよくわかっているから。

あとは「渡り廊下の向こう」ですかね。中学生で高校受験を控えた娘に突然彼氏とコンサートに行きたいので夜の外出を許して欲しいと懇願され、自分の中学時代の経験を振り返るという話だが、程度の違い、男女の違いこそあれ僕らも似たような経験をして、そして男として取るべき行動を取れずに後で後悔したことがあるので、そうした自分の中学時代の出来事を思い出してしまった。

著者本人がその界隈に住んでいるからか、作品中に三鷹や吉祥寺が登場するので親近感があった。