『ハロー・ワールド』 [読書日記]
内容紹介【購入(キンドル)】
エンジニアの文椎(ふづい)が作った広告ブロックアプリがインドネシアで突如売れ始めた。そこに隠された驚愕の事実とは。検閲や盗撮などの問題を描いた表題作「ハロー・ワールド」をはじめ、インターネットの自由を脅かす行為に、知識と技術で立ち向かう文椎の、熱く静かな闘いの物語。第40回吉川英治文学新人賞受賞作。GoogleカーやAmazonのドローンが次々集まってくる「行き先は特異点」、バンコク出張中にドローンを使った政治運動に巻き込まれてしまう「五色革命」、Twitterが中国に門戸を開いたのを機にTwitterクローン〈オクスペッカー〉をアップデートしてインターネットの自由を守ろうとする「巨象の肩に乗って」、マレーシアのビットコインセミナーに参加中に拉致されてしまう「めぐみの雨が降る」。単行本刊行時にAmazonランキング1位を獲得した話題作が、これまでKindle版でしか読むことのできなかった「ロストバゲージ」を新たに加え、待望の文庫化!
久しぶりに藤井太洋作品を読もうと思い、手頃な文庫本としてキンドルでダウンロードした。長めの短編が5編と、その後に超短編が1つ、個々の作品としていずれも面白いが、連作になっているので、最初の「ハロー・ワールド」から順番に読み進めれば、エピソードを重ねるにつれて広がっていく文椎のネットワークと活躍の幅を味わうことができるし、今よく話題に上るサイバーセキュリティ問題やドローン宅配、コネクテッドカー、ドローン撮影、ブロックチェーン、インターネット検閲などの論点を、ストーリー仕立てで味わって、少しだけわかった気にさせてくれる。
これまで読んできた藤井作品では、中心となっているテクノロジー要素に自分自身が通暁していない点がボトルネックになり、時々何が描かれているのかわからなくなるケースがあったが、今回の作品では、わりとメディアでよく目にするテクノロジーを主題にしているからか、とっつきやすい作品が多かった気がする。1編あたりのボリュームも、1時間程度で読み切れるものばかりで、就寝前の1時間とか決めて、1週間かけて読み切るというノルマにちょうどピッタリ合っていた。
そして、何よりも、これは暇があったらまた何度か読み直してみたいとも思える作品だった。
各編とも扱われる主題が異なる上に、短編だったからか、長編の藤井作品を読んでいて、ストーリーが進むにつれてどうしても感じてしまう登場人物の「超人」ぶりを、そこまで感じずに済んだというのもあるのかもしれない。また、主人公である文椎泰洋にしても(これ、絶対「藤井太洋」もじってるよな~)、それほど尖った専門性を持っている人物としては描かれていないから、出張や長期滞在で海外に出て外国の人と仕事する時にも、これくらいの振る舞いはできるようになりたいと思わせるキャラクターだった。
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