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『修羅の都』 [伊東潤]

修羅の都

修羅の都

  • 作者: 伊東潤
  • 出版社/メーカー: コルク
  • 発売日: 2018/02/26
  • メディア: Kindle版
内容紹介
「武士の世を創る」―――生涯の願いを叶えるため手を携えて進む、源頼朝と政子。平家討伐、奥州を制圧、朝廷との駆け引き。肉親の情を断ち切り、すべてを犠牲にして夫婦が作り上げた武家政権・鎌倉府は、しかしやがて時代の波にさらわれ滅びに向かう。魔都・鎌倉の空気、海辺の風を背景に権力者の孤独と夫婦の姿がドラマティックに描き出される。頼朝晩年に隠された大いなる謎とは?『吾妻鏡』空白の四年間を解き明かす圧巻のラストは必読!新聞連載時から大きな反響を呼んだ感動の長編エンタテインメント。
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鎌倉時代初期といったら、僕にとってはNHK大河ドラマ『草燃える』で記憶が止まっている。奥州藤原氏の部分に限っては、『炎立つ』というのもあったが、あれは三部作になっていて、泰衡が主人公となる第三部の記憶があまり鮮明ではない。

今年は、久しぶりにこの時代が大河ドラマで扱われるというので、歴史小説ででも少しおさらいしておこうかと考えた。後北条氏を作品で扱うのが半ばライフワークと捉えられている伊東潤が、鎌倉時代を描くのは珍しいが、伊豆や相模、武蔵国あたりに広がる著者の土地勘が、よく生かされているように思う。

『鎌倉殿の十三人』のキャストはあまり理解していないので、今回の読書では、源頼朝は石坂浩二、北条政子は岩下志麻、源義経は国広富之、源頼家は郷ひろみ、北条義時は松平健――といったイメージで、昔見た大河ドラマのイメージで読ませていただきました。ただ、大河ドラマは40年以上前の記憶だし、僕は大河ドラマ原作の永井路子『北条政子』を読んでないので、永井作品と伊東潤作品の頼朝像、政子像の比較はできないのだが。僕は子どもの頃から源義経が主人公の話ばかりを読んできたため、鎌倉に留まって西国での平家掃討戦の戦況や京での義経の動向を見守っていた頼朝の視点から時代を捉えた作品は読んだことがなかったため、かえって新鮮だった。

当然ながら、本作品も前半の主人公は頼朝であるが、征夷大将軍拝命あたりから、徐々に政子に移って行っている。頼朝の死因については、落馬が原因となったことぐらいは知っているが、あまり史書にも詳しい記述がないらしく、歴史上のブラックボックスだったらしい。

だからそこは小説家としてのイマジネーションの働かせどころだ。しかし、それにしても今回の仮説は「そうきたか」という驚きもあった。僕らが学校で習った頃には歴史教科書に必ず載っていた源頼朝の肖像画の聡明で冷徹そうなイメージ(足利直義とする説もあるらしい)からすると、作品中盤から後半にかけての崩れっぷりは、戸惑いを覚えるぐらいだった。また、この作品のキーパーソンとして位置付けられているのは、夫妻の長女・大姫であるが、作品で最初に登場するのは12歳ぐらいからなのに、言動がかなり大人びていて、ちょっとどころではない違和感も感じた。

この頃に起こった曽我兄弟の仇討とか、弟・源範頼の失脚とか、比企一族の勢力巨大化とか、うまく作中のエピソードしても使われていて、それなりに歴史のおさらいには役に立つが、こと頼朝の認知症に関しては、あくまでも著者なりの仮説に過ぎないから注意が必要だ。実際にそうだったかもしれないというような言動がうまく描かれている。

ただ、頼朝の退場までがものすごく長く描かれたわりに、その後の二代将軍・頼家の就任から失脚に至るまでの展開はあっという間であり、しかもそこからエピローグの承久の乱までの間に大きな時間的ギャップもある。なぜかといえば、本書には続編があり、頼朝死後の鎌倉は、『夜叉の都』という別の伊東作品でたっぷりと描かれているからだ。

で、今年の大河の主人公でもある北条義時はというと、本作でも頻繁に登場し、頼朝の意を汲んだ手を打てる有能な側近として描かれているものの、有能すぎるがゆえにかえって頼朝の不興をかうこともあって、二度ほど謹慎を命じられている。本領発揮は後編の『夜叉の都』においてではなかろうか。

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