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『百年の藍』 [シルク・コットン]

百年の藍

百年の藍

  • 作者: 増山 実
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2023/06/28
  • メディア: 単行本
内容紹介
ジーンズに懸けた人々の百年にわたる物語。鶴来恭蔵は、故郷の岡山県児島から浅草に来ていた。車夫の政次のアドバイスにより、憧れの竹久夢二に奇跡的に会うことができた。しかし翌日の大正十二年九月一日、関東大震災に遭遇。親を亡くした娘りょう、政次とでしばらく避難生活をしていた。りょうと児島に戻るという時に、政次からアメリカの救援物資にあったズボンを受け取る。生まれつき色覚に異常があった恭蔵だがズボンの藍色に魅せられ、国産ジーンズを作りたいと考えるようになる。時代は進み、日本は太平洋戦争に突入し、鶴来家もその大きな波に巻き込まれた。戦後、世の中が激動する中で鶴来の会社を支えたのは、りょうだった。そして、彼女も日本でジーンズを作るという恭蔵の夢を忘れてはいなかった。ある日、鶴来の家をひとりの男が訪ねてきた。恭蔵の思いは、途切れることなく繋がっていた――
【コミセン図書室】
ちょっと前に成田成璃子『世はすべて美しい織物』をご紹介した。そちらは群馬県の桐生で昭和のはじめの頃から現在に至るまでの歴史をフィクションを織り交ぜて描いた作品だったが、今回ご紹介する作品は、岡山県の児島を中心とする国産ジーンズ開発の歴史を、大正12年(1923年)の関東大震災にまで遡って描いている。この2作品を間髪入れることなく読んでみると、似た構成になっており、両作品を同時期に図書館に所蔵したコミセン担当者にも、何か含むところがあったのではないかと感じざるを得ない。

国産ジーンズ開発の歴史については全く知らなかったが、昭和40年代は自分もボブソンのジーンズを履いていたので、なぜあの時代にボブソンだったのか、改めて考えるいい機会にもなった。途中で笠置シズ子の『買い物ブギ』が唐突に出て来たのには、朝ドラとのタイミングがばっちり合っていて、偶然以上の何かを感じた。それに、60歳になって生活の拠点を児島から神戸に移したりょうの生き方も、今同じ60歳を迎えて、定年延長の打診を断って会社を辞め、生活の拠点も東京から別の地に移そうとしている自分自身と重なるものを感じた。

「自分の信ずる途を行け」———そんな言葉が作品内で何度か出てきたかと思うが、僕も同じ心境だ。

ただ、100年かつ三世代も連なる年月を描くわりに、鶴来恭蔵が追い求めたジーンズの染めの技術の種明かしが、縁者の回想シーンとして最終盤になって語られたのにはちょっと拍子抜けした。竹久夢二や中原淳一の絵画を絡めた序盤と戦前戦中を描いた中盤の展開がものすごく書き込まれているわりに、終盤になってはじめて登場する三世代後の人物を中心とするストーリーがあまりにもサラッとし過ぎていて、ちょっと拍子抜けする終わり方だったなというのは残念な気がする。たぶん、回収されていない伏線が相当散らばっているような気もする。

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