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2020年のGOOD-BAD-UGLY [ご挨拶]

振り返ってみれば、今年はどう考えても帰国前の3月がピークで、それ以後はどんどん落ち込んでいった1年でした。来年控えていることを考えると、まったくどん底の状況で年末年始を迎えていても、2020年は反転上昇が期待できます。下がるだけ下がったので、あとは上がるだけです。それを期待して、2020年を迎えたいと思います。

1年前のブログで、僕はそう書いていました。どん底だと言っていた2019年末でしたが、振り返ってみると本当の底は2020年の最初の3カ月でした。その当時僕のメンタルの不調に絡んだ人々のことは、決して忘れません。因縁の職場とは、新型コロナウィルス感染拡大に伴う4月の緊急事態宣言を契機におさらばしましたが、僕の後任ではないものの、今年1月から採用になりうちのチームに加わった若手のスタッフにも同じような体の不調が生じていると聞くと、心が痛みます。

チームの顔ぶれが変わっても、なんで同じようなことが繰り返されるのだろうか―――。

僕個人に話を戻すと、そこからは反転上昇だと期待していた4月の異動は、次のステップに向けた短期の腰かけ的なポジションだろうと考えていました。ところが、新型コロナウィルス感染拡大の影響が思っていた以上に長引き、居候のつもりが戦力カウントされることになってしまいました。所属組織では退職年齢に近い今、将来的に自分のやりたいことに専念できる環境を作っていきたいと思っていたところに、どんどん別の作業の指示が来ます。しかも、勤続30年近くなると仕事はどんどん複雑化してきていて、作業手順書や説明資料がどんどん増殖しています。久々に本社でデスクオフィサー的な仕事をやってみると、複雑な作業内容を理解するのが大変で、とりあえずなんとか期限に間に合わせた作業も、後から「ここが違う、あそこが違う」などと、若いスタッフに指摘を受ける体たらくです。

昨年度籍を置いていた部署での精神的につらい仕事からすると、些細なことだと思いますが。

結局、この状況のまま、年末を迎えようとしているわけです。今年は、コロナ禍で様々なイベントも自粛が相次ぎ、ろくな外出もできず、妻と計画していた結婚25周年の台湾旅行も実現しませんでした。なんか、何もせずに年末を迎えてしまった感じがなきにしもありません。

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『雲を紡ぐ』 [読書日記]

雲を紡ぐ (文春e-book)

雲を紡ぐ (文春e-book)

  • 作者: 伊吹 有喜
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/01/23
  • メディア: Kindle版
内容紹介
「分かり合えない母と娘」―――壊れかけた家族は、もう一度、一つになれるか? 羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげられた「時を越える布・ホームスパン」をめぐる親子三代の「心の糸」の物語。いじめが原因で学校に行けなくなった高校生・美緒の唯一の心のよりどころは、祖父母がくれた赤いホームスパンのショールだった。ところが、このショールをめぐって、母と口論になり、少女は岩手県盛岡市の祖父の元へ家出をしてしまう。美緒は、ホームスパンの職人である祖父とともに働くことで、職人たちの思いの尊さを知る。一方、美緒が不在となった東京では、父と母の間にも離婚話が持ち上がり……。実は、とてもみじかい「家族の時間」が終わろうとしていた――。「時代の流れに古びていくのではなく、熟成し、育っていくホームスパン。その様子が人の生き方や、家族が織りなす関係に重なり、『雲を紡ぐ』を書きました」と著者が語る今作は、読む人の心を優しく綴んでくれる一冊になりました。

僕が長年愛用している読書記録管理用SNS「読書メーター」では、この年末、「読書メーターOF THE YEAR 2020」というランキング発表をやっていた。そこで紹介されている上位ランク10冊を全部読む気は当然ないが、中には過去に作品を読んだことがある作家の最新作も含まれていて、それを知って、近所のコミセン図書室で本を借りる際に、それを参考に書架を物色したりもしてみた。小野寺史宜『まち』もそうやって借りた作品だし、今回の伊吹有喜『雲を紡ぐ』もそうだ。この手の小説の最新作を待ち時間なしに借りるには、コミセン図書室が最も適している。

伊吹作品は、『ミッドナイト・バス』『彼方の友へ』に続いて三作目の挑戦。前二作を読んでの印象としては、意味深なバックグランドを持った登場人物が必ず1人は混じっていて、それがストーリーが予定調和的な展開にならない要素の1つとなっているような気がしている。今回もそうで、販促オビを読んでいると高校生・美緒と彼女の母の関係という軸が中心なのかと思いきや、実は主人公はもう1人いて、美緒の父・広志と祖父・紘治郎の関係というもう1つの軸が存在する。その他にも各々の登場人物同士の関係は結構複雑、というか訳ありで、比較的安定していたのは、叔母・裕子と息子・太一が各々の登場人物との間で形成する関係性ぐらいだった。

これに、伝統工芸の継承問題とか、地域おこしとかが絡んでくる。岩手については『六三四の剣』以外での土地勘がまったくないのだけれど、羊毛のホームスパンでは結構有名なところらしい。これに、ウィリアム・モリスの「アーツ&クラフツ運動」の話や、柳宗悦の『民藝運動』への言及まである。ちなみに前者は、太一君のラフな説明によると、「(ウィリアム・)モリスが提唱した運動で、一言でいうと、毎日使うものには美しいものを使おうぜってこと」であり、後者は、「イギリスのアーツ&クラフツ運動の影響を受けて、日本でも大正時代に柳宗悦の民藝っている運動がおきたわけだよ。岩手のホームスパンは、その民藝運動の人たちの指導で盛んになったという流れ」で、「職人の手仕事の、自然で素朴な作品に美を見いだした運動」ということになる。

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『すごいイノベーター70人のアイデア』 [読書日記]

いつもの仕事と日常が5分で輝く すごいイノベーター70人のアイデア (T's BUSINESS DESIGN)

いつもの仕事と日常が5分で輝く すごいイノベーター70人のアイデア (T's BUSINESS DESIGN)

  • 出版社/メーカー: TAC出版
  • 発売日: 2018/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
【変化するこれからの時代を生き残るための、すごい人たち70人のアイデアが盛りだくさんな本です! 】
偉人を真似て行動すれば、自分は変えられる! 時代をつくるアーティスト、ニーズを先取るビジネスリーダー、便利さを生み出す発明家――誰もが知っているあの偉業、あの商品は、「ほんのちょっとの差」から生まれた。本書には、リスクを避けて過去にうまくいったことを繰り返し、変化のない毎日から抜け出せないあなたが、新たな一歩を踏みだせるようなインスピレーションやアドバイスがたっぷりつまっています。イノベーター一人につき5分で、読めばいつもの仕事や日常が変わります。
ジェフ・ベゾス(アマゾン CEO)、デヴィッド・ボウイ(ミュージシャン)、スティーブ・ジョブズ(Apple創設者)、リーヴァイ・ストラウス(リーバイス創設者)、エドウィン・ランド(ポラロイドカメラ発明者)、ベートーヴェン(ロマン派作曲家)、イングヴァル・カンプラード(イケア創設者)、サルバドール・ダリ(シュルレアリスム画家)、パーシー・スペンサー(電子レンジ発明者)、 トラヴィス・カラニック(Uber創業者)……変化するこれからの時代に知っておきたい、70人のすごい人たちのアイデア満載の一冊!

今年終盤は、読書メーターで長年「読みたい本」リストに滞留していた本の数々に、図書館ででも借りて読むか、購入して読むか、あるいは読まずに済ますかして、ケリを付けるのに少し時間を費やした。買いたいと思った本もあったのだが、先ずはお試しで図書館で借りて読んでみて、それでやっぱり購入したいとなったら購入した。でも、たいていの場合は、借りて読んでみて「ハイ、一丁あがり」ということになった。

今回紹介する、スコットランド出身の著述家・講演家・経営コンサルタント、ポール・スローンの著書も、取りあえず1回読んだらまあいいかという感じの本だった。70人もの「イノベーター」が紹介されているが、なんだか「イノベーター」の定義が相当広いし、多すぎてかえって一人一人のイノベーターの印象が薄れてしまうきらいがあった。1人分を5分で描いていて、読み進めるのにテンポは良いが、読了後に何かが残ったかと訊かれると、う~んと唸ってしまう。

長男も僕が小学校に上がる頃だっただろうか、父がポプラ社の子ども伝記全集を買ってくれた。エジソンやキュリー夫人、ナイチンゲール、ヘレン・ケラーといった、当時の僕には知らない偉人の伝記が多くて、とても全巻読破には至らなかったが、それのお陰で豊田佐吉や豊臣秀吉、野口英世、湯川秀樹、ベーブルースなどの功績は知ることができた。その当時に、この45巻本の要約が、今回紹介するポール・スローンの著書のような形でまとめて紹介されている1冊があれば、少なくとも子供に買い与える親にとっては便利な1冊だったに違いない。(当時は、親はこの偉人の功績は知っていて当たり前という前提で、子どもに「読め」と言って与える読み物になっていた。)

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『まち』 [読書日記]

まち

まち

  • 作者: 小野寺史宜
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2019/11/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
尾瀬ヶ原が広がる群馬県利根郡片品村で歩荷をしていた祖父に育てられた江藤瞬一。高校卒業とともに上京し、引越の日雇いバイトをしながら荒川沿いのアパートに住んで四年になる。かつて故郷で宿屋を営んでいた両親は小学三年生のときに火事で亡くなった。二人の死は、自分のせいではないかという思いがずっと消えずにいる。近頃は仕事終わりにバイト仲間と他愛のない話をしたり、お隣の母子に頼まれて虫退治をしたり、町の人々に馴染みつつあった。そんなある日、突然祖父が東京にやって来ると言い…。じいちゃんが、父が、母が、身をもって教えてくれたこと。

自分の読書記録管理のために長年利用している読書メーターで、最近「おススメの本」に挙げられていたので、コミセン図書室に先週本を返却に行った時、書架で物色して見つけた本。先日ご紹介した宮本輝『灯台からの響き』とともに借りたのだが、宮本作品の余韻を感じていたところにこの作品というのは、かなり分が悪い気がする。

なにせこちらは57歳のオジサン読者である。62歳で板橋在住の同じオジサンが主人公の作品ならともかく、『まち』の主人公の瞬一君は、僕の半分しか生きてない23歳の青年で、僕には土地勘がまったくない江戸川区平井在住である。生活圏がまったくかぶらないから、共感が得にくいのである。その点では著しく『まち』に不利なタイミングでの読書だった。その点は申し訳ない。

展開としても盛り上がりが少なく、特に序盤の展開がゆるやか、かつ登場人物のプロフィール紹介が詳しすぎて、なんでそこまで詳述しなければいけないのか、なんで直前までの話の展開の次がこの話なのかと、戸惑うことが多かった。終盤になってそこまでに播かれていた伏線はほとんどが回収されたので、読み終えればそれなりの満足感は得られると思うが、50代後半のオジサンが云々できるような小説ではないと思う。

ただ、地方出身で上京してきた青年が主人公の話というと、どうしても吉田修一『横道世之介』と比べてしまう。そして、そうすると、『横道世之介』の方がいいなぁと思ってしまうのである。吉田修一作品はオジサンでも読めるが、小野寺史宜作品がターゲットにしている年齢層はもっと若く、そして狭い年齢層なのではないだろうか。

逆に言えば、10代や20代の読者には、この作品の世界観は合っているのではないかと思える。

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『Voluntary Architects' Network』 [仕事の小ネタ]

Voluntary Architects' Network──建築をつくる。人をつくる。

Voluntary Architects' Network──建築をつくる。人をつくる。

  • 出版社/メーカー: INAXo
  • 発売日: 2010/07/10
  • メディア: ペーパーバック
内容紹介
建築家・坂茂が立ち上げた「Voluntary Architects' Network」は、20世紀末から世界で漸増する地域紛争や自然災害の復興支援を行なってきました。《紙の教会》を建てるきっかけになった1995年の阪神淡路大震災から、2010年のハイチ地震復興活動までを貫く坂茂の「Voluntary Architects' Network」による活動が、21世紀の新たな建築家像を描き出します。本書では、坂茂+慶應義塾大学SFC坂茂研究室による約20の活動を紹介・解説するとともに、その活動に共鳴するブラッド・ピット氏(俳優、カトリーナ被災地復興支援組織「Make It Right」主催)、北山恒氏(横浜国立大学Y-GSA、2010年ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナー)との対談、その他資料を収録。「紙の建築家」「行動する建築家」と呼ばれてきた坂茂の核心に迫る一冊です。

今月に入り、住んでいる街の生涯学習センター主催の市民向け講座「世界の都市から学ぶ」というのに申し込んだ。受講料3000円も払ったけれど、1回目の台湾編を受講して、3回目のバルセロナ編では僕が期待していたような話が多分聴けないだろうと思ったので、通うのを辞めてしまった。

最も聴いていてつらかったのは、新型コロナウィルス感染拡大が始まったばかりの台湾に講師の先生がご夫妻で旅行されて、現地の人々ではなく建築物の写真をたくさん撮って来られて、それを見せられたことだ。このブログでも時々書いているが、僕も結婚25周年の今年は、妻と台湾旅行しようと考えていた。しかし、結局実現しなかった。2月は妻が手術入院したし、術後の経過を考えれば行けても3月下旬か4月だったが、その時期はそもそも渡航自体がNGだったから。

ただ、それだけがその後の欠席の理由だったかとそれも違う。僕は建築物とはそれを利用する人があっての建築物だと思っているが、その地域の人々への言及がほとんどない、単に建築物のデザインだけを淡々と見せられたプレゼンのあり方にも途中で嫌気がさしてきたのである。地元の人たちはそのデザインをどう思っているのか、利便性はどのようにいいのかといったことだ。

それでも、講演を聴いて、建築物はそれぞれ設計した建築家によって特徴があり、見れば誰が設計したのか想像がつくという講師の先生のお言葉は、そうなのかと気付かされた。その中の1つが、坂茂さんの設計した台南市美術館の2号館だった。

素人にはどこに坂茂の特徴があるのかよくわからなかったが、本書を市立図書館で借りてページをめくってみたらよくわかった。梁の部分は確かに特徴があるかもしれないし、そして、もしそれが防水コーティングされた紙製パイプで組み立てられたりしていたら、もっと坂茂だといえる。

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『灯台からの響き』 [読書日記]

灯台からの響き (集英社文芸単行本)

灯台からの響き (集英社文芸単行本)

  • 作者: 宮本輝
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2020/10/02
  • メディア: Kindle版

内容紹介
板橋の商店街で父の代から続く中華そば店を営む康平は、一緒に店を切り盛りしてきた妻を急病で失って長い間休業していた。ある日、分厚い本の間から妻宛ての古いはがきを見つける。30年前の日付が記されたはがきには、海辺の地図らしい線画と数行の文章が添えられていた。差出人は大学生の小坂真砂雄。記憶をたどるうちに、当時30歳だった妻が「見知らぬ人からはがきが届いた」と言っていたことを思い出す。なぜ妻はこれを大事にとっていたのか、そしてなぜ康平の蔵書に挟んでおいたのか。妻の知られざる過去を探して、康平は旅に出る――。市井の人々の姿を通じて、人生の尊さを伝える傑作長編。

2、3年前だったか、手持無沙汰で小説でもダウンロードして読もうと思い、でも適当なのがないなと思いながら物色を続けていた時、ふと『青が散る』が目に留まった。ちょうど僕らが大学生だった1980年代前半の作品で、舞台も大学、小説発刊後すぐにテレビドラマ化もされた。僕らの大学生時代の空気感にも合っていたし、なんだかすごく読みたくなった。でも、上下巻に分かれていていったん読み始めてもさすがに2冊分読むには時間も足りない。結局見送りとした。

その時の印象もあって、宮本輝という作家は、随分と昔の作家だという印象を勝手に持っていた。僕にとっては次に思い出す宮本作品といったらこれも映画化された1986年の『優駿』なのだが、そうした先入観もあって、宮本輝は1980年代の作家だと思っていたのである。

それが、近所のコミセン図書室の新着本のコーナーに、宮本作品が1冊陳列されていた。宮本輝って過去の人じゃなかったのか―――これも何かの縁だろうと思い、試しに借りてみた。それが『灯台からの響き』である。刊行は2020年。ちなみにこれをきっかけに宮本輝でAmazonの作品リストを見てみたが、これまでもほぼ毎年、コンスタントに作品を発表して来られている。

当然、作品群は膨大だ。今、征服できていない山の麓から、その頂を見上げている、そんな感覚を抱いているところである。たぶん、これをきっかけにして、何冊かの宮本作品は読んでいくことになるだろう。

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『開発なき成長の限界』 [インド]

開発なき成長の限界――現代インドの貧困・格差・社会的分断

開発なき成長の限界――現代インドの貧困・格差・社会的分断

  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2015/12/16
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
ノーベル経済学賞受賞者センが共著者ドレーズとともに、急成長を遂げるインドが抱える経済・政治・社会の歪みを鋭く分析。貧困・格差の深刻化と民主主義の機能不全に陥る日本社会への警鐘ともなる、必読の書。

先にフィル・ナイト『SHOE DOG』の方を紹介してしまったので順番が前後したが、実は読了はこの本の方が先で、しかも、本書読了により、今年の1つの目安だった「年間200冊」を達成することができた[黒ハート]

この、本文だけで420頁もあり、価格が4600円(税別)もする大著を、今読もうと思った理由は、今月初旬に再読した浅沼信爾・小浜裕久『ODAの終焉』(勁草書房)の中で、本書におけるアマルティア・センとジャン・ドレーズによる「貧困削減路線の継続」提唱に対して、批判的な見解が示されているのを目にしたからである。セン=ドレーズの主張は、基本的な公共サービスとして考えられる教育(特に初等教育)、保健、食料援助(実際はソーシャルセーフティネットのことだが)、環境保護分野に対する政府の関与と財政資金の割り当てを飛躍的に高めよというものだが、浅沼・小浜は、「そのために必要とされる財政資金をどうやって調達するか、あるいはどのような財政資金の配分、すなわち貧困削減プログラムに重点的に財政資金を割り当てることが、経済全体の成長政策とどのうようなトレードオフを引き起こすのかについては一言半句も触れられていない。国の開発戦略としてはまったく不完全だ」とこき下ろしている。

本当にそうなのかというのが気になったので、読んでみたわけだが、セン=ドレーズが本書の中で経済成長路線を否定しているわけではなく、むしろ経済成長自体は貧困削減に必要な要素だと認めてもいる。肝心なのは成長をどう貧困削減につなげるのかという公共政策の部分だと思えるが、その欠如をセン=ドレーズは確かに批判しているようである。そこをあげつらって「戦略として不完全」と言うのもどうかと思う。(浅沼・小浜前掲書は、これに言及した見開き2頁の間に、誤植が5カ所もあり、しかも「バンガロールがグジャラート州にある」等という事実誤認もやらかしているので、舌鋒鋭い論調もちょっと白けてしまう。)

確かに、セン=ドレーズの著書を読むと、同時期にバグワティ=パナガリヤから何かしらの批判を受けていて本書でその反論を試みたと思える記述もあるので、そういう論争はあったには違いない。バグワティ=パナガリヤの著書は翻訳されていないが、浅沼・小浜はそちら寄りなのは明らかだから、読んでおくならセン=ドレーズの共著の方が先だろう。ということで、今回はこんな大著に挑戦することにした。

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『SHOE DOG(シュードッグ)』 [読書日記]

SHOE DOG(シュードッグ)―靴にすべてを。

SHOE DOG(シュードッグ)―靴にすべてを。

  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2017/10/27
  • メディア: Kindle版

内容紹介
父親から借りた50ドルを元手に、アディダス、プーマを超える売上げ300億ドルの会社を創り上げた男が、ビジネスと人生のすべてを語る!
1962年晩秋、24歳のあるアメリカ人が日本に降り立った。彼の名はフィル・ナイト。のちに世界最強のブランドの一つとなる、ナイキの創業経営者だ。
オニツカという会社がつくるシューズ「タイガー」に惚れ込んでいた彼は、神戸にあるオニツカのオフィスを訪れ、役員たちに売り込みをする。自分に、タイガーをアメリカで売らせてほしいと。
スタンフォード大MBA卒のエリートでありながら、なぜあえて靴のビジネスを選んだのか? しかもかつての敵国、日本の企業と組んでまで。
「日本のシューズをアメリカで売る」―――馬鹿げたアイディアにとりつかれた男の人生を賭けた挑戦が、このとき始まった!

2017年11月、本書の発刊直後、当時ブータンにいた僕は、GNH国際会議出席のために日本から来られた神戸のアパレル生活雑貨企業の社長さんに、2冊の本を薦められた。1つめは『ビジネス・フォー・パンクス』で、これは社長がお帰りになった直後に電子書籍版で読み、すぐにブログで書評を書いている。もう1冊が、ナイキの共同創業者であるフィル・ナイトが著した『SHOE DOG(シュードッグ)』であった。こちらの方はベストセラーになりそうな予感があり、なんとなくいつでも読めるかなと思って放置してしまったのだが、あれから3年が経過して、そろそろ「読みたい本」リストに載っている根雪のような本を少し解消したいなと思いはじめ、その一環として今回コミセン図書室で借りて読んでしまうことにした。

ちなみに、僕のランニングシューズは、アシックス→ミズノ→ニューバランスと変遷してきていて、ナイキユーザーではない。ナイキのランシューはソールが全般に柔らかいので、僕には向かないなと思っているので。けれど、人生で一度だけ購入履歴のあるテニスシューズ(1985年)、バッシュー(1986年)はいずれもナイキである。バッシュ―に関しては、エアジョーダンが出始めた頃に購入しているが、あれは高すぎて手が出せなかった。

本書のメインは、1980年のナイキの株式公開までなので、僕らがナイキのシューズに触れ始める頃の話はサラッとしか描かれていない。「ナイキ(NIKE)」ブランドとあの印象的な「スウォッシュ」デザインを見かけ始めたのがいつだったか、思い出すことは難しい。僕らが中学高校で過ごした1970年代後半から80年代初頭は、陸上といえばオニツカタイガーだったし、そこにミズノやプーマ、アディダスあたりがランシューの中心だったという記憶だけはある。当時はナイキはまだ新興勢力だったわけで、それがアディダス、プーマ、オニツカなどに割って入って台頭してくるところの歴史は、本書ではかなり克明に描かれている。

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『Tinkercadではじめる3D-CAD』 [仕事の小ネタ]

Tinkercadではじめる3D‐CAD―「3Dプリンタ」や「マインクラフト」の3Dモデルが簡単に作れる! (I・O BOOKS)

Tinkercadではじめる3D‐CAD―「3Dプリンタ」や「マインクラフト」の3Dモデルが簡単に作れる! (I・O BOOKS)

  • 作者: 雅延, 東山
  • 出版社/メーカー: 工学社
  • 発売日: 2017/11/01
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
ブロックをレゴのように組み合わせるだけ! 基本的な使い方や作品を3Dプリンタで出力する際のポイントなども詳しく解説。カメラ型キーホルダー、トランシーバ用のハンガー、電子回路用保護ケース、ネームプレート、リモコン・ホルダ、おもちゃの電車、スマホケース…スグに作れる! 作例11種。

先週、3Dデザインの入門CADソフトの研修で教えるならどのソフトウェアがいいかというのが知り合いとの間で話題になり、「そりゃあTinkercad(ティンカーキャド)ですね」という話になった。Tinkercad?僕はどこかで聞いたことはあったが、操作したことがなかった。

その会話をした直後、僕はTinkercadをグーグル検索してみた。Wikipedia英語版の日本語訳によると、「Webブラウザーで実行される無料のオンライン3Dモデリングプログラムで、そのシンプルさと使いやすさで知られています。 2011年にリリースされて以来、3Dプリント用のモデルを作成するための人気のプラットフォームとなり、学校での建設的なソリッドジオメトリの入門レベルの紹介にもなった」とあった。

確かに、すぐに使用開始できた。日本語環境も設定できるが、多分僕は英語環境での使用を想定しなければいけない立場なので、そのまま英語環境で操作を開始した。

ある程度は直感的にマウス操作で動かせるプログラムである。やっててなんとなく操作できるようになっていけたが、念のために独習書でもないかなと思って調べたところ、わずか1冊だが存在することがわかった。それが本書である。

さっそく取り寄せてざっと読んでみた。週末だけである程度操作に慣れることができた。解説書が必要なほどややこしい操作が必要なソフトではないが、使っているうちに覚えられる操作法だけではカバーしきれない「裏技」的な操作法は、やっぱりこういうのを読むので参考にできる。

Dazzling Kasi-Waasa.png

Controller Holder.png

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『道誉と正成』 [読書日記]

道誉と正成

道誉と正成

  • 作者: 安部 龍太郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2009/08/05
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
時は鎌倉末期。後醍醐天皇率いる軍勢が挙兵し、倒幕の気運が高まっている。強いものにつく変節漢とののしられても己の道を貫いた「バサラ大名」佐々木道誉。天皇への忠節を貫き、華々しく散った愛国の士ともてはやされる「悪党」楠木正成。しかし、二人には意外な共通点があった…。未来を予見し、この国の運命を決した両雄の選んだ道は―? 南北朝の真実に迫る長編小説。

NHK-BSで再放送中の大河ドラマ『太平記』では、先週から今週にかけて、湊川合戦が描かれている。ずっと足利尊氏主人公で話が展開してきているが、この2週にわたっては武田鉄矢演じる楠木正成に主人公が交代している。河内国に引っ込んで農作業に従事していた正成が帝の命によって京に召喚され、九州から京奪還を目指す尊氏を迎撃せよとの勅命に対し、新田義貞を切って尊氏と手を結び、尊氏に武家政権樹立を認めて公武併存を図れと提言する。その諫言が後醍醐天皇に聞き届けられないとわかると、死を覚悟して湊川に出陣していく。

このあたりの展開は、南北朝時代に多少詳しい人には常識なので、小説だからと言って大きく変えようがないが、そうした大枠の中で、それでもグレイの部分をうまく用いて、自分なりの解釈でストーリーにエンターテインメント性を持たせる―――それが歴史小説の醍醐味であり、作家冥利に尽きるところでもある。この時代でいえば、「グレイな部分」としては幾つか挙げられる。
◆大塔宮護良親王は本当に足利直義の命で鎌倉で殺されたのか?
◆楠木氏の由来は? 正成の前半生は?
◆天皇の取り巻きの公家連中の話し言葉は?
◆楠木正成と弟正季、足利尊氏と弟直義、兄と弟との性格や戦略性、武芸の練達度の違い。
◆佐々木道誉は足利軍九州入りの際、どこにいたのか? 湊川合戦での彼のポジションは?


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