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『SHOE DOG(シュードッグ)』 [読書日記]

SHOE DOG(シュードッグ)―靴にすべてを。

SHOE DOG(シュードッグ)―靴にすべてを。

  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2017/10/27
  • メディア: Kindle版

内容紹介
父親から借りた50ドルを元手に、アディダス、プーマを超える売上げ300億ドルの会社を創り上げた男が、ビジネスと人生のすべてを語る!
1962年晩秋、24歳のあるアメリカ人が日本に降り立った。彼の名はフィル・ナイト。のちに世界最強のブランドの一つとなる、ナイキの創業経営者だ。
オニツカという会社がつくるシューズ「タイガー」に惚れ込んでいた彼は、神戸にあるオニツカのオフィスを訪れ、役員たちに売り込みをする。自分に、タイガーをアメリカで売らせてほしいと。
スタンフォード大MBA卒のエリートでありながら、なぜあえて靴のビジネスを選んだのか? しかもかつての敵国、日本の企業と組んでまで。
「日本のシューズをアメリカで売る」―――馬鹿げたアイディアにとりつかれた男の人生を賭けた挑戦が、このとき始まった!

2017年11月、本書の発刊直後、当時ブータンにいた僕は、GNH国際会議出席のために日本から来られた神戸のアパレル生活雑貨企業の社長さんに、2冊の本を薦められた。1つめは『ビジネス・フォー・パンクス』で、これは社長がお帰りになった直後に電子書籍版で読み、すぐにブログで書評を書いている。もう1冊が、ナイキの共同創業者であるフィル・ナイトが著した『SHOE DOG(シュードッグ)』であった。こちらの方はベストセラーになりそうな予感があり、なんとなくいつでも読めるかなと思って放置してしまったのだが、あれから3年が経過して、そろそろ「読みたい本」リストに載っている根雪のような本を少し解消したいなと思いはじめ、その一環として今回コミセン図書室で借りて読んでしまうことにした。

ちなみに、僕のランニングシューズは、アシックス→ミズノ→ニューバランスと変遷してきていて、ナイキユーザーではない。ナイキのランシューはソールが全般に柔らかいので、僕には向かないなと思っているので。けれど、人生で一度だけ購入履歴のあるテニスシューズ(1985年)、バッシュー(1986年)はいずれもナイキである。バッシュ―に関しては、エアジョーダンが出始めた頃に購入しているが、あれは高すぎて手が出せなかった。

本書のメインは、1980年のナイキの株式公開までなので、僕らがナイキのシューズに触れ始める頃の話はサラッとしか描かれていない。「ナイキ(NIKE)」ブランドとあの印象的な「スウォッシュ」デザインを見かけ始めたのがいつだったか、思い出すことは難しい。僕らが中学高校で過ごした1970年代後半から80年代初頭は、陸上といえばオニツカタイガーだったし、そこにミズノやプーマ、アディダスあたりがランシューの中心だったという記憶だけはある。当時はナイキはまだ新興勢力だったわけで、それがアディダス、プーマ、オニツカなどに割って入って台頭してくるところの歴史は、本書ではかなり克明に描かれている。

本書は、フィル・ナイトの立身出世伝ではない。シューズに魅せられたオレゴンの野郎どもの群像劇のようなイメージだ。一緒にシューズ・ビジネスを世界的なブランドに育てていった仲間たち、ひとりひとりの人物描写がかなり克明で、仲間で長年にわたって一緒に仕事に取り組んでいくことの面白さを十二分に堪能できるストーリー展開だ。

本書の舞台は1962年から1980年までの18年間だが、ナイキブランドの創立は1972年で、それまではオニツカのシューズを日本から輸入して米国で売りまくることを目指した事業を展開してきていた。従って、本書は序盤から日本との接点が多く、オニツカから裏切られた後の善後策でも、日商岩井(現双日)が重要な役割を果たしている。日商岩井がなければ、ナイキはこれだけの成長を遂げられなかった。また、ニクソンショック後の円高で日本製シューズが競争力を失う中、台湾・韓国が台頭、さらにはこれらNIESも競争力を失いつつある中で、今度は中国やベトナムでという、生産拠点の多角化の話も出てくる。このあたりは世界経済の現代史の復習を1企業の視点でやっているような感覚で読み進めることができる。

あまり著者の経営哲学について詳述されているところはないが、強いて挙げるならこのあたりは話のネタとして持っておいてもいいかもしれない。
 勝つことは、私や私の会社を支えるという意味を超えるものになっていた。私たちはすべての偉大なビジネスと同様に、創造し、貢献したいと考え、あえてそれを声高に宣言した。何かを作り改善し、何かを伝え、新しいものやサービスを、人々の生活に届けたい。人々により良い幸福、健康、安全、改善をもたらしたい。そのすべてを断固とした態度で効率よく、スマートに行いたい。
 滅多に達成し得ない理想ではあるが、これを成し遂げる方法は、人間という壮大なドラマの中に身を投じることだ。単に生きるだけでなく、他人がより充実した人生を送る手助けをするのだ。もしそうすることをビジネスと呼ぶならば、私をビジネスマンと呼んでくれて結構だ。(p.500)


それともう1つ。これは著者本人の格言ではないが、映画『最高の人生の見つけ方』の中でのセリフ―――「自分の価値は、自分に関わる人たちで決まる」というのも、本書全体を通じての著者の重要なメッセージとなっている気がする。

創業者視点で見た企業の成長の歴史で、かつその間に現れ、外からないし内から、創業者による企業経営を助けてきた人々への、創業者なりの感謝の気持ちが溢れた本だ。実は、これと似たパターンで、ある事業の創業者の視点で見た事業の12年史を、今その創業者の名前で本として出そうという計画が進行している。ナイキと比較しちゃかわいそうだが、同じようなパターンの本になりそうだ。創業者がその時々に何を考え、どう行動していたのか、周囲の人々をどう見ていたのかがわかって面白そうな内容になるとの期待がある。そしてその中には実は僕も登場する。ナイキのケースで言えば、ヘイズやグッデルに近い役割を僕はになっていたのかなと思っている。

本は来年2月に出る予定だ。今週末はその初校ゲラの校閲作業を手伝う予定。これも、勝手知ったる自分だからこそできることかとは思っている。本書を今読めたお陰で、これからやる校閲作業でもちょっとは参考にできるのではないかと思う。


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