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外国人が見た明治日本 [勝手にブックカバーチャレンジ2020]

先日、リチャード・ブラントン『お雇い外国人が見た近代日本』を紹介したばかりであるが、同じようなテーマでこれまでに読んできた何冊かを一挙に紹介したい。

1853年にペリー率いる米国艦隊が浦賀沖に現れ、江戸幕府が鎖国から開国に舵を切ると、幕府も明治新政府も、政策として外国人専門家を受け入れるようなことを始めた。灯台技師として出色の成果を挙げたブラントンの日本滞在記はその典型例だが、国が開かれたことで、興味津々で日本を訪ねてきた欧州人も結構大勢いた。

その中でも代表的な事例は探検家イザベラ・バードで、彼女が1878年に約3カ月かけて東日本から東北、北海道まで旅をした記録をまとめた『日本奥地紀行』(Unbeaten Tracks in Japan)は、宮本常一の解説や中島京子の小説『イトウの恋』と合わせて読むと楽しめると思う。

イザベラ・バード『日本奥地紀行』
https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2011-07-02-1
宮本常一『イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む』
https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2011-04-02
中島京子『イトウの恋』
https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2011-03-27

順番から行くと、『イトウの恋』を読んでイザベラ・バードを知り、宮本常一が解説書を書いているのを知り、そして満を持して本人の『日本奥地紀行』へと進んだ。

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宮本常一『忘れらた日本人』 [勝手にブックカバーチャレンジ2020]

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今日の日経新聞土曜版「NIKKEIプラス1」で、家にいても旅気分が味わえる10冊というのが紹介されていた。新型コロナウィルス感染に伴う国の緊急事態宣言が出されて、外出自粛して家にいても、在宅勤務の時間帯はともかく、それ以外でできることといったら、適度に体を動かすウォーキングと、こういう時じゃないとできない読書ぐらいかと思う。そんな中で、「巣ごもりにおススメの●●冊」的な需要は確実にあるのではないだろうか。

僕の場合は、こうなったら積読状態で放置されていた洋書を1冊でも2冊でも取り崩そうと格闘中で、すぐに読了してブログでご紹介できるわけでもない。そこで、過去にご紹介した本に、再び脚光を当てる企画でもやろうかと思い立った。

1回目の本は、このNIKKEIプラス1の第3位に挙げられていた宮本常一『忘れられた日本人』である。2010年8月29日にブログで紹介しているが、うち本書に収録されている中でも最も有名だと思われる土佐の馬喰の話「土佐源氏」については、別途2011年5月5日でも取り上げている。

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『英語化する日本社会』 [英語一期一会]

英語化する日本社会―日本語の維新を考える

英語化する日本社会―日本語の維新を考える

  • 出版社/メーカー: サイマル出版会
  • 発売日: 1982/12/
  • メディア: 単行本
内容紹介
古い日本語のパターンでは、もはや今日の日本社会の思想や感情を表現しきれなくなっている。日本語の語彙は遠からず完全に国際化するだろう。過去に中国語が漢字を媒介として完全に日本語の一部になったように、英語の語彙も中心をなすものすべてが日本語に吸収されるであろう―――世界的に著名な文化人類学者で、社会学者、日本研究の権威が、急激な日本語の新しい変化から、日本社会と文化の構造的変容をさぐったエッセー。

昨年、帰省する度に少しずつやっていた僕の蔵書の断捨離。完全には終わっていないけれど、かなり進んだ。思い切って捨てた本が多かった中で、捨てる前にもう一度読んでおこうと思い、実家から東京の自宅に持って来た本も中にはある。ハーバート・パッシン教授の著書もその1つで、僕が学生をしていた1980年代、結構勢いがあったサイマル出版会から出ていた1冊である。

1998年に廃業となったサイマル出版会だが、僕の学生時代にはサイマルから出ていた本を結構購入していた。村松増美『私も英語が話せなかった』、村松増美・小松達也『ビジネスマンの英語』、グレゴリー・クラーク『日本人』、ロバート・ホワイティング『菊とバット』、西尾道子・バーバラ片岡『聖書の英語』、渋沢雅英『日本はアジアか』等々。実家の蔵書を見てたら、僕は結構なお得意様だったと思う。そのほとんどは断捨離の過程で既に処分してしまったのだが、パッシン教授の著書は残した。言語人類学とでもいう領域での日本研究者だったからである。

これまで1年間、政治史や外交史の面から日本研究を眺める視点が業務上求められてきたけれども、僕自身のこれまでの歩みを振り返れば、日本研究の原点は1980年代に大学で英語を専攻するその過程にあった。当時はサイマルをはじめとして日本研究者の著書をよく扱っていたし、もっと遡れば僕が高校生時代に聴いていたラジオ講座『百万人の英語』の木曜講師だった國弘正雄先生が、ライシャワー元大使やパッシン教授の著書を翻訳されていて、よくご自身の講座の題材として使用されていた。いわば、パッシン教授の著書は、僕の英語学習の原風景の1つとも言える。

だから、4月になって政治史や外交史のくびきから解放された今、僕は改めて1980年代までの日本研究の名著を読み返してみようという気持ちにもなれた。

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『木戸幸一』 [仕事の小ネタ]

木戸幸一 内大臣の太平洋戦争 (文春新書)

木戸幸一 内大臣の太平洋戦争 (文春新書)

  • 作者: 稔, 川田
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
木戸孝允の子孫で、日米開戦前から終戦まで内大臣を務めた木戸幸一。彼の軌跡をたどると、陸軍との深い関係、対英米協調路線への反発など、意外な姿が浮かび上がる。その一方で、日米戦回避、終戦に尽力した“天皇側近”の複雑な思考と行動に迫る、初の本格評伝。

巣ごもり読書は続いている。が、本書は積読蔵書の取り崩しではなく、新規購入。しかも、読了後は職場の同僚に譲るつもりで、早めに読んだ。

僕は4月から職場が変わり、その仕事からは外れることになった。居残っていたらやっていたであろうその仕事の中で、わけあって『木戸幸一日記』を読むことになった。図書館の書庫で確認したけれど、上下巻に分かれている『木戸幸一日記』はただでも分厚く、本当に日記だ。誰々とゴルフに行ったとか、そういうことまで記録されている。

こういう、歴史の目撃者的な人物の日記を読むときには、いつ頃どこで何が起こったか、当たりをつけてからその該当時期の日記を読まないと、本当に知りたい情報には当たらない。漠然と大部な『木戸幸一日記』など読んでるのは効率が悪いから、何年何月頃を読めばいいかが予想できるような参考図書があると非常に都合が良い。『木戸幸一日記』を読めと言われたのは割と最近だったから、それなら最近出たばかりの文春新書を参考図書として先に目を通しておいてもよいかと考えた。

ここまでの「勉強」で、僕は木戸幸一という人物にはあまりいい印象を持っていなかった。東條英機を首相に推挙したというのもそうだが、昭和天皇が皇太子の頃に欧州歴訪し、とりわけ英国王室の自由な姿を見て皇室のあるべき姿をそこにイメージされていたにも関わらず、反アングロサクソン路線に国をリードしていく片棒を担いだ。当然東京裁判では有罪だろうと思っていたら、死刑は免れて終身刑になっている。親枢軸路線に固執しながら戦争突入に導き、にもかかわらずドイツの欧州戦線での苦戦と日本海軍の敗北を見ると、一転、東條を見限って「皇室の存続」を第一にと言い始める。そもそも『木戸幸一日記』自体、何かあった時にエビデンスとして誰かに読まれることを想定して、ヤバいことはあえて書いていなかったと思われる節もある。

とはいえ、結局、近衛文麿や昭和天皇の影のようなポジションだったから、読んでいくと結局、この本は通史の概説のような形になってしまう。確かにその節目節目で木戸の果たした役割はあったと思う。でも、それが歴史上のファインプレーだったのかというと、なんかちょっと違う。最後の元老・西園寺公望との接し方とか、口はともかくとして、実際のところは胡散臭いと思っていたんじゃないかという感じがする。なんか、いろんな意味で、明治日本を造ってきた元勲の功労を無にして、かえってグチャグチャにしちゃった印象である。

なんで日本は戦争に突き進んじゃったのか―――それを考えてみる上では、本書も1つの参考にはなる。
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『お雇い外国人が見た近代日本』 [仕事の小ネタ]

お雇い外人の見た近代日本 (講談社学術文庫)

お雇い外人の見た近代日本 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/04/05
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
徳川幕府は慶応2年英・米・仏・蘭と改税約書を締結、日本は列国に対して灯台建設を義務づけられた。ブラントンが新政府お雇い灯台技師として日本に着任したのは戊辰戦争(明治元年)終結直後であった。爾来十数年、わが国は漸く封建制から脱皮し、欧米先進国を範とし、試行錯誤を繰り返しながらもひたすら近代国家を目指した。本書は政府役人と近代技術移植の先駆者との人間関係を通じて開化期日本の姿を描いた貴重な見聞録である。

前回のブログで、4月から自分の立場が変わったと書いた。もうシャカリキになって日本の近代史を勉強する必要もなくなったわけだが、それをやってる過程で気になった本もあった。仕事の本質的な部分とはほとんど無関係なので後回しにしていたが、次のステップに向かうためには逆に読んでおいた方がよいと思った。「専門家として開発途上国に赴任すると一体どのような場面に遭遇するのか」―――そんなの今さら何言ってんだと思う人も多いかもしれないが、「昔の日本もそうだった」という視点は結構重要かもしれない。

(ソネブロのAmazonリンクはなんか変で、発売日が「2020年4月5日」と表示される。今日じゃないか!って、そんなことがある筈ない。この本は、1986年8月発刊である。)

ブラントンは生粋の技術者で、それがために彼の日本滞在の記録も、ほとんどが仕事に関するものである。当時の日本人とのプライベートな交流の話はあまり出てこないし、ややもすると港湾整備だの灯台建設だののかなり技術的な記述だの、英国のパークス公使周辺で見聞したような当時の時事ネタのようなものも相当書かれている。ただ、手記のところどころで、日本人の担当役人(今風に言えば、技術協力のカウンターパートってやつか)のどんなところに違和感を感じ、そして衝突していたのかを記している。

いくつか引用してみよう―――。

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『僕たちはファッションの力で世界を変える』 [持続可能な開発]

僕たちはファッションの力で世界を変える ザ・イノウエ・ブラザーズという生き方

僕たちはファッションの力で世界を変える ザ・イノウエ・ブラザーズという生き方

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2018/01/23
  • メディア: 単行本
内容紹介
国籍や人種、宗教や信条を超えて、確固たるスタイルで自らを表現し、同時に自分たちのビジネスに関わる人すべてを幸せにしたい、という井上聡と井上清史。「どこかで、誰かが不幸になるビジネスなんていらない」「僕たちはファッションの力で世界を変える」。青臭い理想論とも捉えられがちな彼らの言葉ですが、ふたりは実際にこうした生き方を貫き、そのためには勇気と希望が必要だと語ります。毎日の生活に追われ、夢見ることを忘れてしまったわたしたちに必要なのは、こんな“純粋で、真っ直ぐな"気持ちなのではないでしょうか?本書には、井上兄弟から現代を生きる人たちへ向けた、「生き方・働き方・人生の捉え方」に関するポジティヴなメッセージが詰まっています。新しい時代の生き方、働き方を模索するすべての人に読んでほしい一冊。

月が替わってしまったけど、読み切ったのは3月31日。これを以って、3月の巣ごもり読書を終えた。5,440ページ、19冊、いずれも多分過去最高である。

読了から4日もかかってようやくブログで記事をアップすることになった。年度の切り替わるこの週、僕自身の立場も変わり、僕の周りの人びとにも異動があった。それまでいた人との最後の仕事の片付けをやり、4月に新しく来る人の仕事のブリーフィング日程を組み、そして直接的に僕の後任になる人への引継ぎを進めた。完全には新しい部署への移籍はまだ済んでいない。それは金曜日に僕の担当で大きな仕事が残っていたからだが、それがコロナウィルス問題で吹っ飛んでしまい、おかげで引継ぎを早めに始めることができた。これも手間だった。結局今週は在宅勤務はしなかった。予約投稿してあった前半を除き、ブログの記事更新はとてもやっている余裕がなかった。

さて、この本は、ライターさんが井上兄弟とそのお母さんのオーラルヒストリーを聴き取り、それを1冊の本に編集した内容となっている。(ひょっとしたら、お母さんに関してはご本人の執筆かもしれないが。)未だにこのファッション・アパレル業界のことを正しく理解できているとは思わないが、特にこの、「ザ・イノウエ・ブラザーズ…」という、欧州を拠点とする企業のことになると今まで聞いたことがなかった。南米アンデス山脈のアルパカの毛を用いた、ファッション性の高い高付加価値の服を仕上げ、それをもって産地の人びとの生活向上につなげていこうという取組みのようだ。趣旨には大いに賛同するけれど、それじゃあ製品を購入して貢献できるかといえば、財布の中身との相談になってしまう。高所得者層から低所得者層への所得移転の仕組みのように僕は捉えている。

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