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『イトウの恋』 [読書日記]

イトウの恋 (講談社文庫)

イトウの恋 (講談社文庫)

  • 作者: 中島 京子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/03/14
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
維新後間もない日本の奥地を旅する英国女性を通訳として導いた青年イトウは、諍いを繰り返しながらも親子ほど年上の彼女に惹かれていく―。イトウの手記を発見し、文学的背景もかけ離れた二人の恋の行末を見届けたい新米教師の久保耕平と、イトウの孫の娘にあたる劇画原作者の田中シゲルの思いは…。
コミセン図書室で本を3冊借りる際、1冊ぐらいは小説を加えようかと思い、手に取った作品。舞台の半分は明治時代だし、明治の日本はどんな様子だったのかを現代風のペンタッチで描かれていれば読みやすいだろうという期待もあって、借りてみるとことにした。この著者の作品を読むのは初めてだ。

ここで登場するの英国人女性旅行家I・Bというのはイザベラ・バードのことである。イザベラ・バードの著書『日本奥地紀行』は、挿入されているイラストが面白そうなのでいずれ読みたいと前々から思っていたが、分厚いのでなかなか手が伸ばせなかった。1878年来日のバードは、横浜から東北、北海道を旅してそれを『日本奥地紀行』に纏めている。明治初期の日本を知る大変貴重な資料だし、外国人の眼に日本がどう映っていたのかを知るのにも役立つ。バードはこの旅を1人でしている。お供したのは日本人の通訳イトウ1人だけ。『日本奥地紀行』にもイトウは登場する。このイトウにもモデルは存在するらしい。日本の職業通訳の草分けだと『イトウの恋』では紹介されているが、その通訳の草分けとバードをお供したイトウが同一人物かどうかは実際にはよくわからない。また、イトウがバードに仕える前に働いていたハリーズも、明治の毒婦として世に騒がれたDというのも、実在の人物がモデルになっているが、本当にバードやイトウと関係があったのかどうかはよくわからない。おそらく、実在の複数名の人物を絡めたフィクションなのだろうが、時代の整合性が取れているので、そういうことが起っていても不思議ではないとは思う。時代考証をしっかりした上で描かれている作品で、とても面白かった。現代の登場人物とも絡めているので歴史小説とはカテゴリー付けできないけれど、こういう小説を読むと歴史には非常に興味が湧いてくるのは僕だけだろうか。

当時のバードは47歳、伊藤は17、8歳といったところで、両者の間に恋が成立するのかどうかと言われると、僕と同世代の女性が男子高校生に恋するような話が絶対ないとは言い切れないので、「ひょっとしたら…」という気はしてしまう。伊藤の目から見れば、年上の女性に惹かれることはそれはあっても不思議ではないと思う。晩年のイザベラ・バードの写真を見ると、ちょっとそりゃないかなと思えるようなごっついオバサンなので、その写真から20年前のイメージを想像しにくいけれど、おそらく脚色が入っているんだろう。実際、47歳で日本を初めて訪れた当時、バードは確かに結婚しておらず、母国に帰還した後、50歳ぐらいで初めて結婚している。(しかも、お相手の男性とは6年で死別している。)たった2人だけでの日本奥地紀行だったし、バードの著書にはイトウのことは頻繁に出てくるので、両者の間のやり取りが相当頻繁にあり、バードは訪れる先の日本の農村社会だけではなく、イトウ自身も日本を見る1つの対象としていた様子が窺える。

但し、バードの著書に出てくるイトウは、第一印象が「信用ならない、狡猾な人物」というように映ったようだ。旅を進める過程で徐々にこの若手通訳が意外なほど誠実な人物だということがわかってくる。実は本書を読んだ後、僕は今、宮本常一著『イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む』を読んでいるところである。そこでわかってきたのは、当時の外国人にとって、最初のイトウのイメージというのは言ってみれば外国人が日本人全般に抱いていたと思われるステレオタイプ的イメージだったということである。
 日本人の中には2つのタイプがはっきりもうこの時から存在していた。それはつまり笠に着るタイプと実力でいこうというのがあって、一般民衆は実は伊藤的な自分の力でもって働き地位を保っていこうとする、あるいはうそはつかないという、そういうグループが大きな厚みで最下層のところにあった。すぐその上にあるいはその端々にはごまかしたり、笠に着て生きている人たちがいたわけです。ところが外国人たちはその笠に着た人たちとの付き合いが多かったのではないかと思います。だから、もう1つの日本人の姿を彼女は旅先で痛いほど見ることができて、感激をおぼえるのです。うそもごまかしもそこにはない。今もそのとおりだと思います。(p.47)
―――なんだか、今のインドやネパールに行って、日本語の通訳ガイドの現地人を雇ったり、そうでなくても駐在する際に現地人のお手伝いを雇って働いてもらう際に僕らが感じることととてもよく似ているような気がする。「〇〇人を信用するな」という言葉を日本人の駐在の方から聞くことは非常に多いが、実際に僕が雇って働いてもらった現地人の人々は、皆が実直で気のいい人々であった。

『イトウの恋』を読んだのも何かの縁かなと思う。いよいよ、イザベラ・バードの『日本奥地紀行』に挑戦する時期が来ているような気がした。

イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む (平凡社ライブラリーoffシリーズ)

イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む (平凡社ライブラリーoffシリーズ)

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2002/12
  • メディア: 単行本

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

  • 作者: イザベラ バード
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2000/02
  • メディア: 文庫



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コメント 1

rezare

私がインドネシアで仕事をしたときの印象も
Sanchaiさんと同じです。

なかには一所懸命、現地のスタッフや町の人にだまされまいと、
肩に力が入っている人もいましたが、
そういう人に限って痛い目に遭っていたような気がします。

初めから色眼鏡で見ていると、見極められないということでしょうか。

私もイザベラ・バード、挑戦してみようと思います。
by rezare (2011-03-28 20:13) 

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