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『僕たちはファッションの力で世界を変える』 [持続可能な開発]

僕たちはファッションの力で世界を変える ザ・イノウエ・ブラザーズという生き方

僕たちはファッションの力で世界を変える ザ・イノウエ・ブラザーズという生き方

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2018/01/23
  • メディア: 単行本
内容紹介
国籍や人種、宗教や信条を超えて、確固たるスタイルで自らを表現し、同時に自分たちのビジネスに関わる人すべてを幸せにしたい、という井上聡と井上清史。「どこかで、誰かが不幸になるビジネスなんていらない」「僕たちはファッションの力で世界を変える」。青臭い理想論とも捉えられがちな彼らの言葉ですが、ふたりは実際にこうした生き方を貫き、そのためには勇気と希望が必要だと語ります。毎日の生活に追われ、夢見ることを忘れてしまったわたしたちに必要なのは、こんな“純粋で、真っ直ぐな"気持ちなのではないでしょうか?本書には、井上兄弟から現代を生きる人たちへ向けた、「生き方・働き方・人生の捉え方」に関するポジティヴなメッセージが詰まっています。新しい時代の生き方、働き方を模索するすべての人に読んでほしい一冊。

月が替わってしまったけど、読み切ったのは3月31日。これを以って、3月の巣ごもり読書を終えた。5,440ページ、19冊、いずれも多分過去最高である。

読了から4日もかかってようやくブログで記事をアップすることになった。年度の切り替わるこの週、僕自身の立場も変わり、僕の周りの人びとにも異動があった。それまでいた人との最後の仕事の片付けをやり、4月に新しく来る人の仕事のブリーフィング日程を組み、そして直接的に僕の後任になる人への引継ぎを進めた。完全には新しい部署への移籍はまだ済んでいない。それは金曜日に僕の担当で大きな仕事が残っていたからだが、それがコロナウィルス問題で吹っ飛んでしまい、おかげで引継ぎを早めに始めることができた。これも手間だった。結局今週は在宅勤務はしなかった。予約投稿してあった前半を除き、ブログの記事更新はとてもやっている余裕がなかった。

さて、この本は、ライターさんが井上兄弟とそのお母さんのオーラルヒストリーを聴き取り、それを1冊の本に編集した内容となっている。(ひょっとしたら、お母さんに関してはご本人の執筆かもしれないが。)未だにこのファッション・アパレル業界のことを正しく理解できているとは思わないが、特にこの、「ザ・イノウエ・ブラザーズ…」という、欧州を拠点とする企業のことになると今まで聞いたことがなかった。南米アンデス山脈のアルパカの毛を用いた、ファッション性の高い高付加価値の服を仕上げ、それをもって産地の人びとの生活向上につなげていこうという取組みのようだ。趣旨には大いに賛同するけれど、それじゃあ製品を購入して貢献できるかといえば、財布の中身との相談になってしまう。高所得者層から低所得者層への所得移転の仕組みのように僕は捉えている。

それと、僕は本書を読む前には、この取組みは井上兄弟が本業で取り組んできたものだと勝手に想像していたが、読んでみるとこのご兄弟はそれぞれ別に本業があり、その本業であげた利益をファッションの事業に投入する、内部相互補助のようなことをされているんだというのがわかった。行間から伝わってくるのは、この本業と社会起業家としての事業との間で、どう時間やエネルギーを配分したらいいのかという葛藤で、本業がうまくいかなくなると社会事業の部分の持続性も危ぶまれることになる、社会事業についても単独で採算が取れるところまで持って行くのと、本業のもうけで耐え忍ぶこととの、我慢比べのようなところがあるのだろうと想像する。こういう事業の難しさの一端を垣間見た気がする。

また、本業が別にある中で、空き時間で取り組んでおられるため、原料産地に出向く期間が割と短めで、その分生産者からは訊けるだけの情報は集める努力はすごくされていると思うのだけれど、参与観察をされているわけではないので、この事業が活況を呈するにつれて起きる、生産者の世帯内での変化、特に、これが子どもや女性の地位をどのように変化させていくのかというようなところまでは、なかなか捉えられていない気がした。「自分たちのミッションは、ものづくりを通して社会的に不利な立場にある人たちをエンパワーメントしていくこと」とあるが、この人々をどれくらい細分化して男性女性や、年齢層等の属性別に見ていけるかどうかも注意が必要なんじゃないかと思う。

絶対に”エシカル”を売りにしたくない(エシカルとは倫理的、道徳上の意。エシカルファッションは、良識にかなって生産・流通されているファッションを指す)。実際はほんの一部の商品だけなのに、それを大々的に謳ってイメージアップに利用するブランドなんかと一緒にされたくないし、恵まれない人たちがかわいそうだからと思って買ってもらうのは、自分たちのポリシーに反している。第一、それだと長続きしない。

貧困地域でつくられたものだから、シンプルで質が悪いと思うのは偏見だ。そこには、その地域に伝わる洗練された非常に高度な技が使われている。

それは世界でも先進的なセレクトショップが、このコレクションを認めてくれたことが証明している。「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の商品が背負っているストーリーを知ってほしい。そして、それに触れることで、身に着けた人の心が少しでも温かくなってもらいたい。そうすれば、ただ服やアクセサリーを買ったという以上の満足感がきっと得られるはずだ。それがファッションの新しいやり方だと思うし、これからのファッションは”エシカル”であることが当たり前の時代がやってくる。

「エシカル」を売りにしたくないという声は、同じ業界にいる僕の知り合いも言ってた。著者兄弟は結局見送ったインド・コットンでは、欧州の小さなブランドがオーガニックコットンを売りにしている話はよく聞くし、デザイナーが現地に行って綿花を摘んでいる光景もよく目にするが、そんなブランドが小ロットで綿花を仕入れてどうやって糸を引き、生地を織っているのか常々疑問だった。去年インドの綿花栽培地帯を訪れた時にその疑問を現地のNGOの人にぶつけてみたところ、デザイナーが現地で摘んだ綿花がそのまま彼らの作る服に使われるような形ではバリューチェーンがつながってないというのがわかった。

だから、著者兄弟がここで言っている主張は腑に落ちるのだが、その後で「エシカル」という言葉を自分たちで使っているところは、「あれ?」と思っちゃったりもした。重箱の隅ですが。

さて、「ボディにコットン素材を使うのには抵抗がある。コットンの世界的生産地であるインドでは、その栽培に使用される農薬による土壌劣化や地下水の汚染、低賃金労働や児童労働などが社会問題化している。それを知っていたふたりにはコットンにネガティヴなイメージがあり、積極的になれなかったのだ」と書かれているわけですが、現在はどうなんでしょうか?実際、著者兄弟と同じような考えをもって2008年頃からインドに入り、有機栽培への移行を支援しつつそこで採れたオーガニックコットン素材を使った糸や服を日本市場で普及させようと取り組んでいる社会起業家とその財団が存在しますが。そういう糸が欧州でも使用されるようになったらいいなぁと個人的には思っています。

前宣伝になるけれど、そのインドの事業の10年史が6月頃に本になる。その時はまたご紹介したい。

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