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『WIRED』VOL.34 [持続可能な開発]

WIRED (ワイアード) VOL.34 「ナラティヴと実装 ~ 2020年代の実装論」(9月13日発売)

WIRED (ワイアード) VOL.34 「ナラティヴと実装 ~ 2020年代の実装論」(9月13日発売)

  • 作者: Condé Nast Japan (コンデナスト・ジャパン)
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2019/09/13
  • メディア: 雑誌
内容紹介
2020年代に向けて、社会実装の可能性を探るべく「ナラティヴと実装」を総力特集
これまで、IDEAS + INNOVATIONSを掲げ、0から1を生み出すアイデアやイノヴェイションの最前線に身をおいてきた『WIRED』日本版。しかし、本当に困難で死屍累々の墓場となっているのは、実は0→1ではなく1→10の実装局面ではないだろうか。そんな仮説から始まった本特集は、プロダクトやビジネスモデル、クライメートアクションからLGBTQIA+までの社会課題、あるいは特区や規制といったルールまで、2020年代の主戦場で展開されるあらゆる実装に迫っていく。デジタルにおいて「計算不能」を意味する[NaN](Not a Number)がイノヴェイションの培養地となり、そこにナラティヴが生まれることで社会へと実装されていく[NaN→10]の一気通貫から見えてきた、2020年代の実装論をお届けします。

正月休みに『WIRED』の最新号を購入して読んでから、ひょっとしてバックナンバーだったら市立図書館で借りられるかもと思い、調べてみたらやはり借りることができるようだった。さっそく借りたのは、1号前の、昨年10月に出た34号で、特集は「ナラティヴと実装」であった。

「ナラティブ」(本書は独特のカタカナ表記を使っているが、僕的にはこちらの方がしっくり来る)は最近何かと耳にする機会が増えた言葉である。英語での会話の中では昔から時々耳にしていた言葉だが、ネイティブが使っているのに聴いていただけで、僕自身が自由自在に使いこなせるタイプの言葉ではなかった。それが日本語にも入ってきたということなのだが、英語でも使用する文脈がイマイチ理解できてなかったものを、いきなり日本語で出てきたからといってすぐに理解できるわけではない。

そういう人間からすると、本書は読み手を選ぶなと思わざるを得ない。誰もが「ナラティブ」という言葉を理解しているという前提で特集が組まれていて、そもそも「ナラティブ」ってどういう定義なのか、理解もできない中でページをめくっていくことになった。

半ば過ぎになって、池田純一の寄稿の中にあった「論証となるファクトではなく、語り手の気配から立ち上がるコンテクストによって聞き手や読み手に入り込む一連の「お話」」というのが、この本の中にあった定義らしい定義だったかと思う。

僕ですらよく用いる「文脈」という言葉も、この定義では「コンテクスト」と言い換えられている。「インスタレーション」っていうのも、「インストールすること」を指しているらしいが、パソコン用語で「インストール」と言ってもらえばまだしも、そんなの知ってるだろと言わんばかりに「インスタレーション」って言われちゃうと、初心者にはかえって理解しづらい。

収録されている各記事が、特集との関連記事なのかどうかもわかりにくい。どれが特集と関連している記事なのか、理解できないものも多かった。そういうものがごっちゃに収録されていると、なんかわかりにくいけどなんか面白い、ってな感じの雑誌になる。このへんのセンスは、僕には理解がしづらい。そういうごっちゃの中で読み進めていくと、結局、「ナラティブと実装」って特集で、いったい何を言いたかったのかがよくわからなくなってしまった。

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『科学技術政策』(日本史リブレット) [仕事の小ネタ]

科学技術政策 (日本史リブレット)

科学技術政策 (日本史リブレット)

  • 作者: 鈴木 淳
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2010/07/01
  • メディア: 単行本
内容紹介
科学技術という言葉はいつどうして現れたのだろうか、現在の科学技術政策はどのようにかかわるのだろうか。明治初年に「科学」「技術」という言葉ができてから、科学技術政策が発足するまでの歴史的過程をたどる。

SDGsの時代になって、「科学技術イノベーション(STI)」という言葉が高い注目を浴びるようになってきた。僕ですらよく用いる言葉であるが、「科学技術」という言葉が組み合わせて使われるようになったのは意外と最近らしい。本書を読んでると、「1940年」と出てくる。科学技術という言葉は、大東亜戦争中の戦力増強のために用いられたらしい。

ただ、「科学」だけとか、「技術」だけとか、そういったバラバラでの使用については、これは明治維新後の富国強兵策の中で登場してきている。山川出版社という歴史関係の書籍に非常に強い出版社から出されたこのブックレットは、当然ながら明治初期からの科学技術振興策の変遷を描いている。

「政策」と付いているぐらいだから、本当に政府の政策制度整備の変遷の歴史が中心の記述である。本当は、「科学技術」という言葉で、具体的にどんな科学技術を意味するのか、イメージできたら良かった。例えば、明治時代と言えば僕にとっての関心は繰糸機の改善改良の歴史なのだが、そういうのにはあまり言及がない。勿論、民間主導で行われていた改善改良が、本書のカバー領域だったのかどうかは疑問だし、そもそも繰糸技術は技術ではあるが科学かといったらちょっと違う気もする。

そう考えると、こういうところで書かれるべきで書かれていない具体的な科学技術って何なんだろうか?原子力?ノーベル賞?日本にも多くの研究業績はあると思うが、それって政策の結果なのだろうか?あまり知らない領域の話なので、いろいろな疑問符を残しつつ、1時間程度の読書を終えた。

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『美術手帖』2019年4月号 [読書日記]

美術手帖 2019年4月号

美術手帖 2019年4月号

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: 雑誌
内容紹介
特集 100年後の民藝
 「民藝」という言葉が生み出されてから、間もなく100年が経とうとしている。20世紀前半につくられた造語である「民藝」は、それまで評価されることのなかった日用品や雑器を「民衆的工藝=民藝」として価値づけ、そこに美を見出したことに始まる。宗教哲学者の柳宗悦と、その思想に賛同した工芸家らによって推し進められた「民藝運動」は、美術品に劣らない美が生活道具に宿っており、ひいては生活のなかにこそ美があると提唱した。その思想は時代の浮き沈みのなかで文化運動や芸術へも変化し、矛盾をはらんだ活動と指摘されたこともあるいっぽうで、私たちの現在の生活文化にも影響を与えている。
 特集「100年後の民藝」では、既存の評価をなぞるのではなく、自分の評価基準でものを見ることを提示した「民藝」を参照する。デジタルテクノロジーの発達や大量生産・大量消費、そして大規模災害などを経験し、私たちとものとの関係は様々に変わっている。草創期の「民藝」や、ものを思考し活動するデザイナー、アーティストらへのインタビュー、同時代の動向などを見渡し、誕生から100年後の新しい「民藝」を考える。いまあなたにとって、本当に価値のある大切なものとはなんだろうか?

先月、明治大学の鞍田崇先生のトークイベントをたまたま聴く機会があり、その時にこの月刊誌の「民藝」特集を紹介されていた。バックナンバーだったし、図書館なら入っているだろうと思い、借りて読んでみることにした。

そもそも鞍田先生の登壇されるイベントに行ってなければ、「民藝」という言葉も、柳宗悦という人のことも知らなかったので、まったくの初心者と言ってよい。なので、そもそも民藝って何というところを軽く知っておきたいと思って、入門書として手に取った。同じイベントで別の登壇者が言及しておられた、「アーツ・アンド・クラフツ運動」とウィリアム・モリスについても、この特集号では紹介されていたので、一挙両得だった。

本気で勉強するなら、柳宗悦やら岡本太郎やらの著作物を読まなければならないのだろうが、そこまでの読者ではないので、ファクトをざっと押さえられればそれで十分で、その意味では、年表や人物相関図、ブックリスト、全国民藝館リスト、ギャラリー・ショップリスト等は有用だ。逆に、インタビュー記事等は、そもそも拠って立つ基本的知識がない中で読み始めるから、読んでいてついていけなくなった。

特に、民藝って無名性を強調していると言われているわりには、特集の中で名の売れたデザイナーが民藝を論じているし、「もの」の美と言っているわりにはその「もの」自体をフィーチャーしている感じを受けない点、さらに、無名性という意味ではそうかもしれないけど、MUJIの商品って民藝の文脈で語れるものなのかとか、読んでて頭が混乱して来た。MUJIっておそらくプロダクトデザイナーがデザインしていると思うんだけど、そのプロダクトデザイナーの生活の中にある美が商品に体現化されているわけではないような気がする。

本書を読んだ上で、東京に暮らす身としては、日本民藝館(駒場)や備後屋(新宿区若松町)、cotogoto(高円寺)あたりを覗いて来ようかな。取りあえずは街歩きのネタとしてキープしておく。


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『あかね色の空に夢をみる』 [読書日記]

あかね色の空に夢をみる (文芸社文庫NEO)

あかね色の空に夢をみる (文芸社文庫NEO)

  • 作者: 吉川 結衣
  • 出版社/メーカー: 文芸社
  • 発売日: 2019/01/16
  • メディア: 文庫
内容紹介
同級生・宮里の突然の死を未だ受け入れられない茜は、彼女との思い出を繰り返し夢に見ていた。家族との問題に苦しみながらも、自分が変わってしまえば宮里を本当に失くしてしまいそうで、一歩を踏み出すことができずにいた。茜の葛藤を描いた青春小説。第1回文芸社文庫NEO大賞受賞作品『あかね色の空に君を想う』とその後の物語『思い出のハンバーグ』を併録。

「北高の生徒が文学賞を獲った。」

正月休みの里帰りの期間中、父がそう言った。ああ、朝井リョウの直木賞のことでしょ?あるいは中村航?そう、彼らは僕らよりずっと世代が下の母校の後輩である。

ところが、話を聴いていくとどうやら現役の高校生らしい。調べたら誰だかすぐにわかった。

岐阜県出身の小説家はもれなく応援する主義の僕としては、たとえそれが高校生や中学生が主人公の作品であっても取りあえず読み、そしてこのブログで紹介することにしている。

ということで、吉川結衣さんの『あかね色の空に夢をみる』のご紹介となった。文学賞は獲った作品だが、文芸社の文庫って書店の棚を占めるスペースが極めて少なく、近所にある書店を5カ所以上探したけれども見当たらず、やむなくKindle Unlimitedでダウンロードして読んだ。(文庫版が見つかれば、購入してもいいと思っている。うちの子どもたちに読ませてもいい作品だから。)

感想を言うにはオジサンは歳をとり過ぎている(笑)。印象だけ言っておくと、女子高生が同世代の男子生徒を描くとこういう作品になるような気がする。登場人物が皆やさしく、そういう登場人物に対してつらく当たった人々は、作品には回想シーンとしてしか登場しない。

それにしても、この複雑な家庭の事情。DVやら離婚やら、こういう事情を抱えている人が増えたんだなというのを改めて実感させられた。重松清のようなオジサンと同世代の作家が描く作品の劇中にはよく出てくるシチュエーションだが、現役の高校生が描く作品の中でそういうのが出てきているのに驚く。

そういうのがよく見えている子なんだろうな。これからも期待してますよ。

タグ:吉川結衣
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『いきるためのメディア』 [読書日記]

いきるためのメディア―知覚・環境・社会の改編に向けて

いきるためのメディア―知覚・環境・社会の改編に向けて

  • 作者: 渡邊淳司、藤木淳、丸谷和史、ドミニク・チェン、坂倉杏介、田中浩也
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2010/08/04
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
拡張現実、クラウド型コミュニケーション、情報を物質に変える3Dプリンタ。日常に浸透する情報技術によって私たちの生活はどう変化するのか。最前線の探究例から、“未来”を描き出す。

僕たちは、「メディア」というと新聞・雑誌、ラジオ、テレビなどを想像してしまうが、ここ数カ月の間に、実は「メディア」の定義ってもっと広いんだというのを考えさせられる出来事が幾つかあった。例えば、大勢の人がメッセージ付きの同じTシャツを同じ日に着るとしたら、Tシャツですらがあるメッセージを伝えるための有効なメディアになる。何かを伝えたい時に、活字や音声、映像以外の手段は確かにあると思う。そういうことを考え始めた数ヵ月であった。

そうしたきっかけがあってこういう本にも手を出したわけだが、ひと言で言って、難解だった。なぜこういう研究プロジェクトをやったのか、どのようなメッセージを相手に伝えるのが難しくてそのプロジェクトをやってみたのか、このプロジェクトをやって社会の何がどう改編できるのか、問題意識があまりクリアな文章になっていない気がした。

3Dプリンタについては、執筆者の問題意識はわかる。また、同じ執筆者が書いた文献を他にも読んでいるので、そこから類推で理解しやすい部分はあった。でも、それは他の文献を読んでいたからであって、他の文献の方が実はわかりやすかった。発刊時期からいって、その文献の方が後だし、より多くの読者を想定してやさしく描かれていた可能性もある。また、この同じ執筆者が本書の他章で紹介されているプロジェクトにおけるソフトウェア開発者としても登場されているが、それになんで取り組んだのかはわかりにくい。

極端に読者を選ぶ本だと思う。内輪で議論を重ねて執筆していったというのはわかるので、一般読者向けというよりは、一般読者にはわかりにくい内輪の問題意識がわかる人には面白さも感じられる本なのだろう。現時点では僕自身が受け入れられるだけの能力を有しておらず、ご縁がなかったということでお許しいただきたい。

でも、アマゾンに唯一載っている書評欄に、「周波数の説明が参考になった。数学や電気が嫌いな人に、周波数で考えるとすごく楽だという話しをなんとか伝いえたいが、なかなか妙案がなかった。また、Cafe-Wall錯視が空間周波数成文にあるとのことで、なるほどと思った」とあったが、これを見て、ああなるほどとは思った。こうした方が伝えやすいメッセージもあるのだろう。その方法をいちいち考えていくのも大変だけど。

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夏目漱石『三四郎』 [読書日記]

三四郎 (新潮文庫)

三四郎 (新潮文庫)

  • 作者: 夏目 漱石
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1948/10/27
  • メディア: 文庫
内容紹介
熊本の高等学校を卒業して、東京の大学に入学した小川三四郎は、見る物聞く物の総てが目新しい世界の中で、自由気儘な都会の女性里見美禰子に出会い、彼女に強く惹かれてゆく……。青春の一時期において誰もが経験する、学問、友情、恋愛への不安や戸惑いを、三四郎の恋愛から失恋に至る過程の中に描いて『それから』『門』に続く三部作の序曲をなす作品である。

正月休みのフィナーレを飾る本は、なんと夏目漱石の『三四郎』であった。

ここまでの本のラインナップから言って意表を突いたチョイスかもしれないが、先月20日だったか、タウンウォーキングの最中にたまたまスマホアプリで聴いた放送大学の専門科目『日本文学の名作を読む』(主任講師:島内裕子教授)が「夏目漱石の小説を読む」という回だったことから、これも縁かと思い、せめて漱石の前期三部作ぐらいは読んでおくことにした。

明治41年(1908年)発表の『三四郎』は、恥ずかしながら勝手に柔道を題材にしているのではないかと思っていたのだが(姿三四郎の刷りこみ)、放送大学の講座を聴いていて、地方の青年が上京してきて大学で学び始める最初の半年間だけを描いた作品であることを知った。しかも、島内先生の解説では、三四郎の上京途中の車中で、既に彼の東京での生き様を予見するような大人の女性や男性旅行客(広田先生)との出会いを特にフィーチャーしていた。

また読んでいて気付かされるのは、それまでの大学では外国人教師が大半を占めていた中で、教員の質に問題も目立ち始め、これなら日本人教師の方がしっかりとした教育をやってくれるのではないかという期待が高まっていた時期だったことである。欧米留学から戻った日本人教師もチラホラ出てきていて、彼らがようやく明治末期になって大学教員のポストに就けるようになってきたのかなと思う。

こういう時代のことを知りたければ当時を描いた小説でも読むのは一案かも。ただ、何からどう手を付けていいかわからなかった中で、放送大学のラジオ番組と出会えたことは僥倖だった。(昔、TBSラジオの番組を聴いていて、堀辰雄『風立ちぬ』とか林芙美子『浮雲』とかを知り、それで読んでみたことがあったが、残念ながらそういうコーナーを持つ番組が終了してしまった。)そういう、名作を何分かでサラッと紹介するようなテレビかラジオの番組があれば、僕らのエントリーにはちょうど良いのだけれど、思い付かないので取りあえずは漱石の前期三部作から今年は攻めていきたい。

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『WIRED』VOL.35 [持続可能な開発]

WIRED (ワイアード) VOL.35「DEEP TECH FOR THE EARTH」(12月12日発売)

WIRED (ワイアード) VOL.35「DEEP TECH FOR THE EARTH」(12月12日発売)

  • 作者: Condé Nast Japan (コンデナスト・ジャパン)
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2019/12/12
  • メディア: 雑誌
内容紹介
『WIRED』日本版VOL.35は、「地球のためのディープテック」を総力特集。グレタ・トゥーンベリが大人に「おとしまえ」迫るように、クライメートアクションがいま世界中で起こっている。急速に進むこの「深い社会課題」を前にして、単に循環型経済や自然回帰を標榜するだけでなく、文明を大きく一歩前に進めるような「射程の深いテクノロジー」によるブレイクスルーが、いまや人類には必要だ。10億人のための食やエネルギーのイノヴェイションをはじめ、極小のナノボットからドローンや衛星、果ては宇宙進出まで……。人類がテクノロジーを手にして引き起こした問題を、新たなテクノロジーで解決しようとするわれらが文明の大いなる矛盾を真正面から受け止めながら、「地球のためのディープテック」を模索し、「テクノロジーによる自然」を引き受ける覚悟をもつことが、2020年代を生きる上でのもっとも誠実な態度であるはずだ。その先にこそ、「人間中心主義」を超えた文明の手がかりを、ぼくらは掴めるのかもしれない。

少し前に「ディープテック」というタイトルの本を読んで、ブログでも紹介記事を書いた。個人的にはこういう、地球の未来にも関わる大きな問題をテクノロジーを用いて解決していこうというアプローチは好きなので、『WIRED』第12号の特集が「地球のためのディープテック」だと聞きつけ、先月目黒の書店で購入し、お正月休みを使って読み切った。

同名の書籍を読んだ時には、日本の持つテクノロジーでもまだまだ使いみちはあるぞという著者の論調に共感を抱くことができたのだが、『WIRED』の特集記事はジェフ・ベゾスの人工衛星の話とか、オランダの「フード・ヴァレー」の話とか、核融合エネルギーの話とか、レアアース採掘の影響とか、とかく話のスケールがデカすぎて、これを読んだから僕自身が何かのアクションにつなげられるかというところでの展望がほとんど開けなかったのが残念だ。これを読んだら、すごい人はすごいという思い以外に抱けるものが何もない。せいぜい、Spiberのブリュード・プロテインでできた衣類をそのうち買ってみようかな、という程度だろうか。(Spiberの話は、ファッション週刊誌WWDジャパンの2019年11月25日号の特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」でも取り上げられていたから知っていた。)

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『「ついやってしまう」体験のつくりかた』 [読書日記]

「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

  • 作者: 玉樹 真一郎
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2019/08/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
元任天堂の企画開発者によるビジネスに活かせる発想法を大公開!
わかりやすく作ったつもりなのに人気の出ないサービス、盛り上がるよう企画したのに誰も来ないイベント、性能が優れているのに売れない商品、ビジュアルを工夫したのにウケの悪いプレゼン、将来のためにと「勉強しなさい」と言ってもまったくやらない子供たちetc<.br>相手のことを思って一生懸命伝えようとしているのに、なぜわかってもらえないのだろうか…。それは「人が動くしくみ」を知らないから。
人の心を動かし「ついやってしまう」仕組みと手法について体系的にまとめたのが本書です。
ついやってしまう・思わず夢中になる・誰かにすすめたくなる商品・サービスのしくみとは?
企画・開発・マーケティング・営業等、幅広く役立つ体験デザイン(UX)の入門書です。入門書といっても、専門的な解説は一切なく、だれもが遊んだことのある有名ゲームを題材に、「つい」の秘密をわかりやすく解き明かしていきます。
売れる商品や愛されるサービス、心を一瞬にしてつかむプレゼンは、説明がなくても自然とその商品を手にとったり、知らず知らずのうちにそのサービスに夢中になってしまったり、期待をしていなかったプレゼンなのに最後はスタンディングオベーションで拍手をしたり。「人が動くしくみ」を使えば、こちらが命令せずとも、相手が勝手に動いてしまいます。
そのような「人の心をつかむ商品・サービス」のつくりかたを、一冊にまとめました。
商品・サービス・アプリ・イベント等の企画・マーケティング・開発・プロデュース担当者必読の一冊です!

年末年始の読書は、多少いつものジャンルのチョイスから外れたものが含まれているのはお許し下さい。それにしても、この本は外しすぎだけど。

表紙に、こんなにデカく「つい」と書かれていたから、近所のコミセン図書室を訪れた際、つい借りてしまった。書店店頭でもこの目立つ装丁の本は平積みにされているのを見かけたことがあるし、売れているんでしょう。こういう装丁に釣られて借りてしまったところに、ちょっと「やられた」感がある。

ただ、内容的には、なにせ僕は「スーパーマリオブラザース」も「ゼルダの伝説」も、「ファイナルファンタジー」もやったことがない、この手のゲーム機やゲームソフトとはほとんど無縁の生き方をしてきた人間なので、書評などで「面白い」と書いている人の感じる面白さというのが理解できなかった。てんで理解が困難で、ダイヤモンド社の本にありがちな、太字の部分だけを拾い読みしてお茶を濁し、とっとと撤退することにした。

言いたいことはわからぬでもないのだが、こんなに難しい枠組みで考えていたら、考えている間に物事は進んでしまうのではないかと思うし、少し前に出たユニセフの『世界子供白書2017~デジタル世界の子どもたち』で「ゲーム依存症」のまん延が危惧されていたのを覚えていたので、ある意味こうしたゲームに依存させるためのテクニックが解説されている本に対しては、そうした批判的な目で見たくなってしまう。そういうご時世に、「ついゲームをやりたくなる」「つい続けてしまう」方法論を描いているとはなかなか勇気が要る。

どうせなら、これの逆張りで、「ついやってしまう」のを回避する方法論、やらせない方法論、あるいは「ついやめてしまう」体験のつくり方についても解説してくれたら、我が子がゲーム依存症ではないかと悩む世の父親母親には大変感謝されるに違いない(笑)。そういう読み方をする人もいる。

売れりゃなんでもいいのかという、出版社というか編集者の編集・出版姿勢にも、ちょっと疑問は抱いた。


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『遅読家のための読書術』 [読書日記]

遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣

遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣

  • 作者: 印南 敦史
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2016/02/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
積読、解消!月20冊があたり前になる。「1ページ5分」から「年間700冊超」へ!! 人気のウェブ書評家が明かす全メソッド。

年明け最初の読書は、自分の読書法を見直すための読書で始めることにした。この本も、近所のコミセン図書室で年末に借りたもの。4冊中、3冊目の読了となる。これで4日に返却できる目処が立った。

表紙をめくると、扉の部分のリード文にこんなことが書かれている。

ここで1つの結論めいたことを言っておけば、
つまるところ、遅読家というのは能力の有無ではなく、 「本を速く読める人」と
「遅くしか読めない人」がいるのではありません。
「熟読の呪縛から自由な人」と
「それにまだとらわれている人」がいるだけなのです。

このことは、以前フォトリーディングをかじった時にも指摘されたポイントである。そこから導き出される方法論は、読書法の本によってそれぞれ違うけれど、僕にとって受け容れやすいのは、アウトプットを伴うもので、本書もそれに沿った方法論を提示されている。だいたい納得いくものである。僕も、何の気なしに図書館で借りてしまった本で、でも読みづらいなと躊躇しているうちに返却期限が近づいてきている場合に、採用する手はここで書かれているのと大差ない。(僕の場合はページの角に折り目を付けたり、付箋を貼ったりすることはあるので、そういうのを否定的に書かれている著者とは意見を異にするところもある。)

僕の2019年の年間読書量は127冊だったが、本書の著者は700冊も読んでいる。1日1冊で週6日のペースで、それを年間続けると年間300冊ぐらいになるが、著者はそれを目指せとおっしゃっている。

ただ、疑問もある。著者は書評を仕事にしているから、毎日読まないといけないという状況の中で、こういう方法論を採用するのはわかる気がする。でも、一般の人は書評家ではない。我々が年間300冊も読まなければならない事情として、何が考えられるというのだろうか?

著者は、小説ではこういう方法論は使いづらいと認めておられる。そうすると、小説を除いて読む本は、だいたいは自分の興味に基づくもので、しかもそれがなんらかの形で自分の仕事や取り組んでいるテーマに収束されていくことをイメージして素材を選び、読み込まねばならない。論文を書く際の参考文献のようなものもある。そうすると、たまには英語の論文や文献だってあり得るのだが、そういうのでも著者の方法論は有効なのだろうか。

さらに、この方法論を受け容れにくくしている理由のもう1つは、1日1冊と言うけれど、著者はこの読書法のために、1日何時間を費やしているのだろうかという、肝心のポイントを明らかにしていないことである。書評を仕事にしていれば、この作業に1日数時間を費やすことは可能かもしれないが、僕らにとっては頑張ってもせいぜい1日1時間である。それにこの方法論が適用可能なのだろうか?

とはいっても、ジャンルの違う本を同時並行的に読むこととか、たまに自分の関心の薄いような本でも取り混ぜて読むこととか、2020年の読書ではとり入れてみたいと思う。目標は1カ月10冊、年間120冊を目指したいと思う。


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『Iの悲劇』 [読書日記]

Iの悲劇

Iの悲劇

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/09/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルを、最終的に解決するのはいつも―。徐々に明らかになる、限界集落の「現実」!そして静かに待ち受ける「衝撃」。これこそ、本当に読みたかった連作短篇集だ。

大みそかに読了した後、元日の予約投稿になります。
今年もよろしくお願いします。

年末年始のお休みなので、少しは小説も読もうと思い、米澤穂信の最新作を手に取った。
里帰りで岐阜に戻ってきているので、岐阜県出身の作家の作品ということで…。

本当は年明けまでにゆっくり読もうと思っていたのだけれど、ストーリー展開が面白かったので、ついつい読み進めてしまい、日付が変わる前に読み切ってしまった。連作短編集とあるが、主人公・万願寺の目でずっと描かれていて、各編だけでなく全体で見てもオチが準備されているので、長編といってもおかしくない。伏線はだいたい回収してくれているので、物足りなさというのはない。タイトルには「悲劇」と付いているけれど、「喜劇」のようでもあり、そしてミステリーでもある。そして、ある意味、「地域創生」というのを風刺している作品としても読めると思う。

僕の身近に外から人を呼び込む取組みで全国的に脚光を浴びている自治体がある。上手くいっているから皆が注目し、政府もそれに群がっている。確かに地方創生のベストプラクティスだと思う。それに倣って全国で同じようなことをやれと政府は旗を振る。

でも、そういうのでIターンしてくる住民が皆いい人だとは限らないし、一人一人はいい人であったとしても、隣り近所に一緒に住んでみたら折り合いがうまくつかないというケースも出てくる。いい人材はどんどんいいところに取られていくのだから、そうでない人材を掴まされる自治体が出てくる可能性は高い。

また、どこの自治体もいい政策スタッフを揃えているわけではないし、予算だって潤沢にあるわけでもない。全国各地で誘致活動を行うと、こういう悲劇的(喜劇的)な出来事が発生する可能性はあると思う。

限界集落の問題はそんなに簡単に解決策などない。外部からの移住者の誘致を図る自治体の職員の間にも葛藤があるに違いない。首長はやる気満々でも、事務方には複雑な心境の人もいることと思う。

フィクションとして読むには面白い作品。でも、こういうオチっていいのかなという後味の悪さは残る。考えさせられる作品である。

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