『Iの悲劇』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)
一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルを、最終的に解決するのはいつも―。徐々に明らかになる、限界集落の「現実」!そして静かに待ち受ける「衝撃」。これこそ、本当に読みたかった連作短篇集だ。
大みそかに読了した後、元日の予約投稿になります。
今年もよろしくお願いします。
年末年始のお休みなので、少しは小説も読もうと思い、米澤穂信の最新作を手に取った。
里帰りで岐阜に戻ってきているので、岐阜県出身の作家の作品ということで…。
本当は年明けまでにゆっくり読もうと思っていたのだけれど、ストーリー展開が面白かったので、ついつい読み進めてしまい、日付が変わる前に読み切ってしまった。連作短編集とあるが、主人公・万願寺の目でずっと描かれていて、各編だけでなく全体で見てもオチが準備されているので、長編といってもおかしくない。伏線はだいたい回収してくれているので、物足りなさというのはない。タイトルには「悲劇」と付いているけれど、「喜劇」のようでもあり、そしてミステリーでもある。そして、ある意味、「地域創生」というのを風刺している作品としても読めると思う。
僕の身近に外から人を呼び込む取組みで全国的に脚光を浴びている自治体がある。上手くいっているから皆が注目し、政府もそれに群がっている。確かに地方創生のベストプラクティスだと思う。それに倣って全国で同じようなことをやれと政府は旗を振る。
でも、そういうのでIターンしてくる住民が皆いい人だとは限らないし、一人一人はいい人であったとしても、隣り近所に一緒に住んでみたら折り合いがうまくつかないというケースも出てくる。いい人材はどんどんいいところに取られていくのだから、そうでない人材を掴まされる自治体が出てくる可能性は高い。
また、どこの自治体もいい政策スタッフを揃えているわけではないし、予算だって潤沢にあるわけでもない。全国各地で誘致活動を行うと、こういう悲劇的(喜劇的)な出来事が発生する可能性はあると思う。
限界集落の問題はそんなに簡単に解決策などない。外部からの移住者の誘致を図る自治体の職員の間にも葛藤があるに違いない。首長はやる気満々でも、事務方には複雑な心境の人もいることと思う。
フィクションとして読むには面白い作品。でも、こういうオチっていいのかなという後味の悪さは残る。考えさせられる作品である。