『工業化の軌跡-経済大国前史』 [仕事の小ネタ]
内容(「BOOK」データベースより)
日清戦争以後、途上国日本の経済は、戦争と平和の波間で成長を続けた。市場メカニズムと計画メカニズムが葛藤した太平洋戦争の戦時体制下で、戦後の高度成長を準備した諸制度が生まれ、焼け跡の中に残された。マクロ経済の手法と豊富な図表を駆使し、20世紀前半の日本経済の変転を探る。
以前、自分で本を書いたとき、日本の製糸業の勃興期のことを調べていた。そこがメインでなかったので、そんなにたくさんの文献を読み込んだわけではないけれど、検索する際のキーワードを製糸だとか蚕糸業だとか養蚕だとかに絞ってやっていたので、工業化とか産業政策といった切り口で情報探索の網をもっと広く張っていれば、知りたいことがもっとクリアに知れた可能性がある。
このことを改めて痛感させられたのがこの本である。
冒頭囲みの紹介では、「20世紀前半の日本経済の変転」とあるが、実際のこの本のスタートは1885年頃であり、日清戦争よりもさらに10年ほど前からである。別の本で最近読んだが、日本において機械制工業が定着して産業や社会の大変革が始まった産業革命期というのは、1886年(明治19年)頃から1890年にかけての企業の勃興期だというのが定説らしい。ただ、こと生糸の輸出に関してはそれ以前に始まっている。だから、本書の場合も、囲みの紹介だけでは本当は説明が不十分で、実際はもっと広く工業化の歴史を描いている。
幕末の開国後に始まった外国との貿易は、1870~80年の輸出額の約3割が生糸だった。生糸の国内生産のうち、6割から7割が輸出に充てられていたと言われている。実際の本書の説明は、このあたりからちゃんとスタートしているのである。