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『工業化の軌跡-経済大国前史』 [仕事の小ネタ]

工業化の軌跡―経済大国前史 (20世紀の日本)

工業化の軌跡―経済大国前史 (20世紀の日本)

  • 作者: 岡崎 哲二
  • 出版社/メーカー: 読売新聞社
  • 発売日: 1997/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
日清戦争以後、途上国日本の経済は、戦争と平和の波間で成長を続けた。市場メカニズムと計画メカニズムが葛藤した太平洋戦争の戦時体制下で、戦後の高度成長を準備した諸制度が生まれ、焼け跡の中に残された。マクロ経済の手法と豊富な図表を駆使し、20世紀前半の日本経済の変転を探る。

以前、自分で本を書いたとき、日本の製糸業の勃興期のことを調べていた。そこがメインでなかったので、そんなにたくさんの文献を読み込んだわけではないけれど、検索する際のキーワードを製糸だとか蚕糸業だとか養蚕だとかに絞ってやっていたので、工業化とか産業政策といった切り口で情報探索の網をもっと広く張っていれば、知りたいことがもっとクリアに知れた可能性がある。

このことを改めて痛感させられたのがこの本である。

冒頭囲みの紹介では、「20世紀前半の日本経済の変転」とあるが、実際のこの本のスタートは1885年頃であり、日清戦争よりもさらに10年ほど前からである。別の本で最近読んだが、日本において機械制工業が定着して産業や社会の大変革が始まった産業革命期というのは、1886年(明治19年)頃から1890年にかけての企業の勃興期だというのが定説らしい。ただ、こと生糸の輸出に関してはそれ以前に始まっている。だから、本書の場合も、囲みの紹介だけでは本当は説明が不十分で、実際はもっと広く工業化の歴史を描いている。

幕末の開国後に始まった外国との貿易は、1870~80年の輸出額の約3割が生糸だった。生糸の国内生産のうち、6割から7割が輸出に充てられていたと言われている。実際の本書の説明は、このあたりからちゃんとスタートしているのである。

スタートが明治初期であるとして、では終わりはどのあたりまで描かれているのだろうか。目次をベースに見てみよう。

 第1章 工業化と近代的諸制度の導入(19世紀末から20世紀初頭)
  -輸出志向工業化
  -産業基盤整備と重工業の育成
  -工業化のための制度整備

 第2章 対外経済関係の変動と重化学工業化(戦間期~第一次世界大戦、1920年代、1930年代)
  -産業構造の変化(重化学工業化)
  -制度の適応的進化(銀行、財閥と資本市場、雇用)

 第3章 戦時経済
  -計画経済への移行と運用
  -戦時経済下での制度改革

 第4章 戦後経済復興と市場経済への移行
  -復興期のマクロ経済
  -傾斜生産方式と産業合理化

そう、後ろは戦後の復興に向けた産業政策までが描かれている。高度経済成長期、例えば全国総合開発計画(全総)とかは出てこない。もっと言えば、朝鮮戦争あたりまでだと思う。

昔、学生時代に開発経済学を習っていた頃、篠原三代平、南亮進、速水佑次郎、大川一司、有沢広巳あたり(順不同)の著書を読んで勉強していた。もっと言えば、僕が経済学部で聴講していた授業の中には、内野達郎先生の「日本経済論」があったし、そこで読まされた本の中には、藤村道生『日本現代史』ってのもあった。開発経済学ではガーシェンクロンの後発性利益を習った記憶もある。そういう方々が、次から次へと参考文献で登場されている。

図表や写真も多く使われていて、270頁もある割には実質180頁ぐらいで読み切れる1冊。戦後の経済成長に関してはいっぱい書籍があるが、明治から戦後復興あたりまでをまとめた本は少ないので、通史で経済史を学べる貴重な1冊だ。しかも、著者のベースに経済学があるので、経済学の復習にもなる。

1990年代後半に出た本で、20年以上前の発刊だが、歴史の本は時間が経過しても価値が落ちない。むしろ今だからこそ有用な1冊だと思う。

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