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『昭和の怪物 七つの謎』 [読書日記]

昭和の怪物 七つの謎 (講談社現代新書)

昭和の怪物 七つの謎 (講談社現代新書)

  • 作者: 保阪 正康
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/19
  • メディア: 新書

内容(「BOOK」データベースより)
昭和史研究の第一人者が出会った「戦争の目撃者たち」。東條英機、石原莞爾、犬養毅、渡辺和子、瀬島龍三、吉田茂が残した「歴史の闇」に迫る。

このところ、戦前戦中の政治家や軍人の動きに関する本ばかり立て続けに読んでいて、どうもつかみどころがないなと感じていた人物が1人いる。石原莞爾である。満州事変の仕掛人であり、二・二六事件の時には参謀本部にいた。相当に頭の切れた人だったらしいとの評伝も耳にした。

元々、僕は日本を戦争への道へと向かわせるにあたって、歴史上登場してくる人物のうち、誰がグッドガイで誰がバッドガイなのか、あまり峻別できていなかった。東京裁判で有罪判決を受けた被告人ならだいたい「まあそうだな」と納得も行く。東條英機なんて誰がどう見たってそうだろう。でも、石原莞爾はどうなんだろうか。

この本で同時代を扱う本は3冊目になるが、ようやく石原莞爾という人物の捉え方が少しわかって来た気がした。著者本人も認めておられるように、石原にはいろいろな顔があり、一時代の石原の言動だけを取り出して描くのでは全体像が見えにくくなる。その意味ではこれで全てではないとは思うが、理解に一歩だけ近づけたような気がした。

逆に、3冊を続けて読んでみて、東條英機のバッドガイぶりの描き方にも、濃淡が相当あるのだなというのもわかってきた。3冊中、保阪正康の東條の描き方は最もボロクソである。ジャーナリストとして、それなりの取材をした上でその人の人物像に迫っていて結果としてこの描き方になっている。

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タグ:保阪正康
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『美術手帖』2018年6月号 [読書日記]

美術手帖2018年6月号

美術手帖2018年6月号

  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2018/05/07
  • メディア: 雑誌
内容紹介
特集 アートと人類学
人間存在にまつわるあらゆる事象について探究するため、観察し、参与し、記述するという手法をとる、人類学。体験に重きをおくその実践は、ときにアーティストたちに影響を与え、そして人類学もまた、美術の手法に学び、表現の営みについて考察してきた。本特集で取り上げるのは、フィールドワークによる作品から研究機関でのプロジェクトまで、美術と人類学のクロスポイントにある実践の数々。その多様な交点をめぐり、領域を横断し、人間と世界、表現についての大きな問いに挑む試みをたどりたい。

年明け以降、僕がバックナンバーを図書館で借りて読み始めている雑誌の1つに『美術手帖』がある。全くの門外漢の僕にはなかなか手出しがしづらい雑誌であるが、「美術(あるいはアート)[×]〇〇」の掛け合わせの部分に何かしら自分の関心があるテーマがはめ込まれていれば、特集記事は読む価値があるかもと思うようにはしている。僕自身が美術に関心があるわけではないが、そういう形であれば、美術との接点領域は見出し得るかなと思える。

2018年6月号を借りた理由も、人類学への関心からだ。自分は人類学専攻じゃないので、ちゃんとした勉強はしていない。それでもフィールドワークというのがどういうもので、外部者としてフィールドでどうふるまうべきかの最低限のお作法は理解しているつもりだ。ただ、その人類学が、美術や芸術とどう絡んでくるのか、その部分が理解しづらいなという気持ちは、読む前からあった。ただ漠然とではあるが、以前かじった瀬戸内国際芸術祭大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレのような、「アーティストと地域住民とが協働し地域に根ざした作品を制作」(Wikipedia)というコンセプトには、アーティストが行うフィールドワークというニュアンスが少なからず感じられて、僕はそういうものに興味が少しだけあって、それで本号をちょっと読んでみたいと思ったのだと思う。

それで結果はというと、瀬戸内も越後妻有も出てこなかった。まあいずれの国際芸術祭も既に有名すぎてわざわざ美術の専門誌で重点的に取り上げるまでもなかったのかもしれない。とそれはともかくとして、この特集号で取り上げられた記事が素直に理解できたかというと、まったくもって難解。人類学の基礎知識はそれなりに復習にはなったけれど、アーティストが行っている人類学的実践の部分は、なぜそうなるのかがさっぱり理解できなかった。

『美術手帖』は、もう少しバックナンバーを地道に読んでいかないと、理解できる閾値には到達できないな。今しばらく我慢が必要―――そんな苦い思いを抱いた。

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『三体』 [読書日記]

三体

三体

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: ハードカバー
内容(「BOOK」データベースより)
物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?本書に始まる“三体”三部作は、本国版が合計2100万部、英訳版が100万部以上の売上を記録。翻訳書として、またアジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門に輝いた、現代中国最大のヒット作。

1月に頑張りすぎた反動もあるのだろうが、2月に入って読書のスピードが落ちてるなと思ったので、小説読んでかさ上げしようと考えた。先週末、近所のコミセン図書室でたまたま『三体』を見かけたので、矢も楯もたまらず「確保」した。WIRED第35号で、著者の劉慈欣のインタビュー記事を読んでから、いずれ『三体』は読んでみたいと思っていたのである。

この週末、土日の1日半を費やして一気に読んでしまった。仕事の上では「現実逃避」したかったし、月曜日は出勤するけれど、最近出勤すると5割の確率で衝突する隣の席の同僚が休暇取得予定なので、気持ち穏やかに出勤することができる。その心のゆとりが小説に向かわせたところもある。また、新型コロナウィルスがパニック的状況になっているのに、マスクも入手できなない状況だから、いっそのこと週末ぐらいは人が大勢いるところに行かないようにしようかと考えた。

こういう週末は、外出を控えて小説であ~る。

集中して読めたのは、章の区切りが小刻みで、かつ翻訳が良くて読みやすかったことによると思う。物理の知識はあまりないので、読んでてどうしてもわからない記述はいたるところにあったけれど、そこは読み流して先に進んでも、ストーリーの展開を理解するのに支障はほとんどなかった。

そもそもSF小説をほとんど読まない読者が言っても説得力ないかもしれないが、科学知識の少なさが理解を妨げないという点で、SF初心者にも入りやすい作品だと思う。

それにしても驚きなのは、中国からこうした売れるSF作品が出てきたことだろう。僕は最近の日本のSFを知らないので単に印象でしか書けないが、僕自身のSF体験は中高生の頃、小松左京とか筒井康隆あたりで止まっている。ベストセラー作品って日本では出てきているのだろうか。そう考えると、こういう作家が中国から出てくるというところに、中国の勢いも感じざるを得ない。

そのうちに、中国人作家の間から、『復活の日』的な作品が出てきて欲しいなともふと感じた。

タグ:劉慈欣
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『日本人はなぜ戦争へと向かったのか』(上) [仕事の小ネタ]

NHKスペシャル 日本人はなぜ戦争へと向かったのか 上

NHKスペシャル 日本人はなぜ戦争へと向かったのか 上

  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/02/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
新たに見つかった膨大な証言・資料から浮かび上がる太平洋戦争へと至った「本当の」道のりとは。大きな反響を呼んだ「外交」と「陸軍」を収載。第一線の研究者による解説も充実。

最初から宣言しておくけれど、仕事の一環として読む日本の近現代史の書籍は、この上下巻2冊セットでひとまず打ち止めにしておく。歴史は好きだから、金輪際読まないというつもりはないが、義務感に駆られて他の読みたい本を差し置いて読むというのは、これからご紹介する2冊で最後にしておきたい。

1週間ほど前に、北岡伸一『政党から軍部へ』を読了した。そのタイトルが示す通り、この本は政党政治全盛の1920年代からスタートするが、二大政党が政争に明け暮れ、国民の不信感を増幅していくところから軍部の台頭を許す結果につながっていく姿を描いている。

それを読んだうえで、次どうしようかと考えたところ、先週末に訪れた近所のコミセン図書室で、NHKスペシャル取材班のこの2冊セットを見かけた。とりあえず上巻だけ借りて、読んでみることにした。

もとになったのはNHKが2011年1月に放送した4回シリーズのNHKスペシャルで、本書はその前半2本分―――「“外交敗戦”孤立への道」と「巨大組織“陸軍”暴走のメカニズム」での番組放送分のドキュメンタリーを文章化したものである。NHKスペシャルの書籍化は、番組で取り上げられた内容の詳述を中心に、あとは取材班のメンバー自身が書き下ろした追加情報で構成されるものが多いが、本書はそれは少なめにして、外交については、1930年代の日本の空気や、陸軍の暗号解読能力とそれを外交に生かせなかった組織的事情、それに当時の日本を取り巻く国際情勢、陸軍については、人事システム、組織論からの分析、内向き論理等の問題点を、外部の有識者による寄稿という形で構成されている。

この辺の寄稿は、やり始めたらきりがなくて、以前読んだ江利川春雄『英語と日本軍』のように、陸軍のエリートの学んだ外国語がドイツ語偏重で、米軍を相手として想定した英語の能力が低かったなんて分析をしている論考もある。

下巻を読んでいない中で感想を述べるのは時期尚早だが、本書は満州事変のあたりからスタートしているので、印象としてはこういう複合要因を遡っていったところにある根本要因に対する切り込みが少ないとの印象を今のところ受けている。石原莞爾が言ったような、「そもそも日本は鎖国していたのだから、それを圧倒的な軍事力を見せつけて開国を迫ったペリーが悪い」なんて話にもなっていってしまうのだが、それは置いておいて、せめて、二大政党時代の政党の体たらくぐらいは下巻で取り上げて欲しいと思う。

さて、残るはあと1冊。
タグ:NHK
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ソトコト2019年8月号「地域と関わる小さな求人ガイド」 [読書日記]

ソトコト (2019年8月号)

ソトコト (2019年8月号)

  • 出版社/メーカー: RR
  • 発売日: 2019/07/05
  • メディア: 雑誌
内容紹介
【特集】地域と関わる小さな求人ガイド
明日からできること、やりたいことを見つけよう!
・求人と求職にまつわる新しいウェブサイト。求人メディア『すみだの仕事』に学ぶ、働く人の探し方。
・福岡県宗像市内を右へ左へ。埋もれた地域資源をデザインの力で輝かせる、谷口竜平さん。
・働くこと、仕事をすることへの肯定感。『HELLOlife』は、働き方・暮らし方を共に考えます!
・仕事に合った人ではなく、人に合った仕事を。
 『コトハバ』は、テレワークや リモートワークで働ける場を提供します。
・小さな求人をマッチング。「田舎」と「都会」をつなぐ、『いなかパイプ』。
・月火水木金土日。大阪市北区中津の『キタの北ナガヤ』での小商い。
 毎曜日違うお店が立つカウンター型シェアキッチン、『キタナガKITCHEN』。
・里山に関わりたい人へ。山とまち、人を結ぶ、森庄さんの目指すもの。
・東京・荒川区で約30年、眠っていた映画館。
 場所のおもしろさを活かし、新しい物語を生み出す、『元映画館』の館長を募集中。
・まちづくりとまちしごとの求人サイト。自分で「見つける」楽しみを!
 『イタ』はローカルと人とをつなぐ掲示板です。
・あなたの「役どころ」が、ここにある。日替わり店長、やってみませんか?
・「やってみたいこと」で踏み出し、生かしてゆく。2枚目の名刺の作り方、使い方。

1カ月の間に3冊も『ソトコト』のバックナンバーを読むと、何だか息切れ感がすごい(苦笑)。紹介されているどの取組みも素晴らしいのだが、何が何だかわからなくなる。関わっている人のほとんどがウェブデザイナーだったりする。結局ウェブデザイナーを先ず目指すのが常套手段なのかと思いたくなる。

もう1つ多いなと感じるのが、容易に人とつながれる人。こういう人がこの雑誌には極めて多く、輝いている。人間嫌いなどと公言している人間は、そもそもその玄関口にすら立たせてもらえない気がする。

こういう地域づくり、まちづくりの取組みが全国そこら中にあるというのが、日本の凄いところだと思う。そういうのを集中的に取り上げてくれるメディアがあり、取組みが慫慂されているところも素晴らしい。

ただ、続けざまに読むと、明らかに限界効用が下がって来る。ありがたみが薄れて来る。この1カ月、雑誌のバックナンバーを借りるのが僕のブームになっていたが、さすがにちょっと続いた感じがする。これから2カ月ぐらいは間を開けようと思う。

でも、今号の中で気になった記事が1つだけある。それは、写真家・吉田亮人の「撮るだけではなく、被写体に写真を還元する」というReturn Projectの巻頭記事。バングラデシュの首都ダッカの路線バスの15歳の車掌・リアジ君の日常を撮り続けた写真展で、撮った写真をリアジ君とその周りの人々に見せて、気付きを促す取組みだ。開発途上国の直面する課題に、アーティストはどう答えるのか。このプロジェクトはその答えの1つを示唆しているような気がする。

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『政党から軍部へ』(日本の近代5) [仕事の小ネタ]

日本の近代 5 政党から軍部へ―1924~1941

日本の近代 5 政党から軍部へ―1924~1941

  • 作者: 北岡 伸一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/02/02
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
原敬没後、軍部の介入と党内対立に苦しみ続けた政党内閣は五・一五事件で潰えた。軍部は日中戦争を引き起こし、二・二六事件を経て時代は「非常時」から「戦時」へと移っていく。しかし、昭和初期の社会が育んだ豊かで自由な精神文化は戦後復興の礎となったのだ。昭和戦前史の決定版。

僕の高校生の頃は、センター入試も「共通一次」と言われていて、科目の選択方法も割とシンプルで、社会科は2科目選択して受験だった。僕の高校は、1年次に地理と政治経済、2年次に世界史と倫理社会、3年次に日本史を習わせた。現代社会ってのが加わってから、ちょっとパターンが変わったかもしれないが。そうすると、3年次の1月に実施された共通一次試験に間に合わせるには、日本史を選択するのは不利だということになり、国公立大学志望の多くの同級生は、社会科としては政治経済と世界史を選択して共通一次に臨んでいた。

奇特にも日本史を選択する同級生は、学校の授業を先取りして、明治・大正・昭和の近現代もしっかり勉強しておく必要があった。でも、日本史を選択しなかった奴の方が圧倒的に多く、しかも3年次の三学期に入ると、学校の授業はほとんど惰性で行われるようになり、出ても出なくてもとやかく言われない状態だった。インフルエンザにでも罹ろうものなら、クラスメートに迷惑をかけるわけにもいかないから、1週間ぐらい平気で休んだ。正確には当時付けていた日記でも確認しないとわからないが、正直言ってあまり1月、2月に授業に出ていた記憶はない。

要するに、何が言いたいかというと、僕らの同世代の人々の中で、日本の近現代史をちゃんと高校時代に勉強したという人は非常に少ないということである。だから、この歳にもなって改めてそこをやり直す時、ベースになるべき基本情報をほとんど有していない自分自身の無学っぷりに愕然とさせられる。

ー平民宰相・原敬はどこが凄かったのか?
―板垣退助の自由党と大隈重信の立憲改進党は、結党後どうなっていったのか?
―元老って何だ?
―最後の元老だった西園寺公望って、いつ頃までご存命だったんだろうか?
―歴代首相の名前は知ってても、順番はどうなっていたのか?
―歴代首相はなんで辞めたのか、あるいは何でなったのか?
―政党出身者が首相を務めていたところから、軍人が首相を務めるようになったのはいつからなのか?
―政友会と民政党、歴代首相はどちらの出身だったのか?
ーなんで日本は戦争に向かっていってしまったのか?いったいいつどのように道を誤ったのか?
ー近衛文麿や東条英機のどこが悪いのか?

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タグ:北岡伸一
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