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『昭和の怪物 七つの謎』 [読書日記]

昭和の怪物 七つの謎 (講談社現代新書)

昭和の怪物 七つの謎 (講談社現代新書)

  • 作者: 保阪 正康
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/19
  • メディア: 新書

内容(「BOOK」データベースより)
昭和史研究の第一人者が出会った「戦争の目撃者たち」。東條英機、石原莞爾、犬養毅、渡辺和子、瀬島龍三、吉田茂が残した「歴史の闇」に迫る。

このところ、戦前戦中の政治家や軍人の動きに関する本ばかり立て続けに読んでいて、どうもつかみどころがないなと感じていた人物が1人いる。石原莞爾である。満州事変の仕掛人であり、二・二六事件の時には参謀本部にいた。相当に頭の切れた人だったらしいとの評伝も耳にした。

元々、僕は日本を戦争への道へと向かわせるにあたって、歴史上登場してくる人物のうち、誰がグッドガイで誰がバッドガイなのか、あまり峻別できていなかった。東京裁判で有罪判決を受けた被告人ならだいたい「まあそうだな」と納得も行く。東條英機なんて誰がどう見たってそうだろう。でも、石原莞爾はどうなんだろうか。

この本で同時代を扱う本は3冊目になるが、ようやく石原莞爾という人物の捉え方が少しわかって来た気がした。著者本人も認めておられるように、石原にはいろいろな顔があり、一時代の石原の言動だけを取り出して描くのでは全体像が見えにくくなる。その意味ではこれで全てではないとは思うが、理解に一歩だけ近づけたような気がした。

逆に、3冊を続けて読んでみて、東條英機のバッドガイぶりの描き方にも、濃淡が相当あるのだなというのもわかってきた。3冊中、保阪正康の東條の描き方は最もボロクソである。ジャーナリストとして、それなりの取材をした上でその人の人物像に迫っていて結果としてこの描き方になっている。

五・一五事件の現場にいあわせた犬養道子が語る犬養毅首相とか、二・二六事件の現場にいあわせた渡辺和子が語る渡辺錠太郎陸軍教育総監とか、事件の目撃者にインタビューをしっかり試みておられるところには感銘を受ける。犬養毅については、僕らが子どもの頃に習った日本史では、どちらかというとあまりいい印象がなく、暗殺されても仕方ない人物だと思ってしまっていたが、その後に犬養家の人々が舐めた辛酸を考えるといたたまれないし、軍の台頭に対する政治側の最後の切り札を失ったようにも思う。犬養にかけられていた嫌疑も、軍部の陰謀説があるらしいし。二・二六事件にしても、政府要人の暗殺を遂行した若手将校を背後で煽った人物の存在が示唆されている。このあたりの真実にまで迫らないと、僕らは歴史認識を誤るかもしれない。ジャーナリストのあるべき姿を見せられた気がする。

改めて感じるのは、この当時の人々が多くの日記を残しておられることである。回顧録として製本されているものもあるが、本当に手記として家族が保管していたものもあったようである。僕の影響力なんて考える必要もない微々たるものだが、記録を残しておくことの重要性を痛感した。

タグ:保阪正康
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