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ブータン南部のキウイ栽培 [ブータン]

チランの農家、YouTubeでキウイ栽培を学ぶ
Youtube helps a farmer in Tsirang to manage kiwi farm
Kuensel、2018年7月24日、Nirmala Pokhrel記者(チラン)
http://www.kuenselonline.com/youtube-helps-a-farmer-in-tsirang-to-manage-kiwi-farm/

2018-7-24 Kuensel.jpg

【ポイント】
チラン県ドゥーングラガン・ゲオッグ(郡)の農家、カリヤン・マハトさん(44歳)は、高収入の現金作物としてキウィに注目、オレンジやカルダモンに加えて、レッド、ヘイワードという2種類のキウイを栽培している。2015年に3エーカーの農地に300本の苗木を植えた。通常、商業ベースに乗るには苗木植え付けから5年かかると言われているが、マハトさんは既に今年、少なくとも1万個のキウイを収穫した。輸入物のキウイは、1個50ニュルタムで売られている。

マハトさんは元々は雑貨店経営や電気店経営等をしてきたが、2015年に帰農し、園芸作物の商業生産を始めた。苗木はネパール東部のイラムから輸入し、YouTubeの動画を見て、キウイ栽培の技術ノウハウを独学で学んだ。キウイ作付の前は、彼の農地の半分は不耕作地となっていた。彼の両親は柑橘類を栽培して生計を立てていたが、近年のグリーニング病のために、放棄を余儀なくされた。それでも当初は父のサンタ・バハドゥルさんは、息子が新たな現金作物に手を出すことには賛成ではなかった。「緑の農園を見ていたら、自分は間違っていたと思いました」とサンタ・バハドゥルさんは言う。マハト家ではさらに3エーカーの土地を近隣で購入し、キウイの他に、アボカド、ドラゴンフルーツ、ヤーコン、イチゴ、カルダモン、柑橘類等を育てている。

マハトさんによれば、苗木100本を植えてうまく育てれば、年間90万ニュルタムぐらいの収入が得られるという。1本当たり平均で50㎏程度の収穫があるが、うまく農園管理できれば、これが少なくとも100㎏にもなるという。マハトさんは近隣農家にも、せめて1本でいいから苗木を植えて放っておいてみて欲しいと期待している。そのために、キウイの苗木販売も行っている。ヘイワード種であれば、1本3500ニュルタム。レッド種については苗木販売の許可が未だ得られていないとのこと。

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『おどろきの金沢』 [読書日記]

おどろきの金沢 (講談社+α新書)

おどろきの金沢 (講談社+α新書)

  • 作者: 秋元 雄史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/21
  • メディア: 新書
内容紹介
人口46万人、観光客は800万人! なぜそんなに人気? 金沢21世紀美術館特任館長が見た、聞いた、本当の金沢。情緒あふれるまち並み、穏やかな古都? いえいえ、とんでもない! 伝統対現代のバトル、旦那衆の遊びっぷり、東京を捨て金沢目指す若者たち。実はそうぞうしく盛り上がっているのです。よそ者が10年住んでわかった、本当の魅力。

著者の近著『直島誕生』については既にご紹介した通りであるが、『直島誕生』では、後に瀬戸内国際芸術祭に発展していく直島でのベネッセの取組みのモデル構築までが描かれている。時期としては2006年頃で、ここからベネッセは直島のモデルを近隣の島にもロールアウトする方向に舵を切るわけであるが、直島のモデルを福武会長の下で創り上げてきた著者は、この方向性に違和感を感じ、ベネッセを後にしている。そして、同じ時期に金沢市の山出市長(当時)から声をかけられ、金沢21世紀美術館の館長に就任するのである。

従って、本書は『直島誕生』の続編ぐらいの位置付けで、著者が金沢21世紀美術館の館長として過ごした10年間の足跡をたどりたいと考えて読み始めたものである。

僕は金沢とは縁もゆかりもない。周囲に金沢大学出身者はいるし、ブータンにいるとShare金沢の話は時々耳にもする。金沢にいらっしゃる方からの問い合わせもたまにある。でも、僕が金沢を訪れたのは社会人1年目の最初の夏休みに1人で能登半島1周ドライブを敢行した際の1回きりである。なので、金沢を知りたいというよりは、著者が金沢で10年間、何をやり、何を見てきたのかを知りたくて本書は手にしたに過ぎない。

ただ、結果的には、この本は勉強になった。金沢で暮らしていらっしゃる方が、なぜそういう発言や行動をされるのか、なぜブータンでそういうことをやろうとされているのか、そんなことを理解するのには、金沢がどんな街なのか、予め知っておくのは意味があることだと痛感させられた。

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今年のマグサイサイ賞受賞者は… [インド]

2016年に青年海外協力隊、2017年には上智大学の石澤良昭元学長が受賞され、日本人としては割と身近に感じるラモン・マグサイサイ賞。今年の受賞者に、一見、「ブータン人?」とおぼしき名前があった。

ソナム・ワンチュク―――。残念ながら、ブータン人ではなく、ラダック生まれのインド人ということである。インドのメディアは、今回の受賞を既に大々的に報じているが、今年のインドからの受賞者は同氏の他にもう1人(バラット・ヴァトワニ氏)いるが、どう見てもソナム・ワンチュク氏の取り上げ方の方が大きい。それはなぜかと言うと、アーミル・カーン主演で2009年末から公開され、インドで大ヒットした映画『3 Idiots』(邦題『きっとうまくいく』)の主人公、ランチョーのモデルがソナム・ワンチュク氏であるからだ。


ソナム・ワンチュク氏を有名にしたのは「氷の仏塔(Ice Stupa)」だ。冬場に導水管から水を散布して、円錐状の氷の塊が形成されていく。この形状だとなかなか溶け切らないので、春から夏にかけての農繁期の水不足の軽減に役立つのだという。マグサイサイ賞受賞がきっかけなのかどうかわからないけれど、この氷の仏塔は日本語スーパー付きの動画でも紹介されているので、それをご覧下さい。結構衝撃的である。これがレーあたりでできるのなら、こういう装置が役に立ちそうなブータンの高地民集落もあるかもしれない。(労働許可証保有者は行かせてもらえないからわからない。)


ところで、マグサイサイ賞を過去に受賞したブータン人っているんだろうか―――それが気になって過去の受賞者リストを調べてみたけれど、残念、一人もいないことがわかった。特段の理由があるわけではなさそうなので、将来的に受賞者を輩出する可能性は十分あると思うが。何人かはひょっとしたらと思わせるような候補者は思い付くのだが、この「氷の仏塔」を見ちゃうと、まだまだ先だろうなという気持ちにもなってしまう。

『3 Idiots』をまた見てみたくなった。まあ、ブータンにもDVDを持ってきているぐらいだから、見ようと思えばいつでも見られるのだけれど(笑)。

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『直島誕生』 [仕事の小ネタ]

直島誕生――過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録

直島誕生――過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録

  • 作者: 秋元 雄史
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
“現代アートの聖地"はなぜ、どのようにして生まれたのか?仕掛け人が明かす圧巻のドキュメンタリー
「一生に一度は訪れたい場所」として、国内のみならず世界中から観光客がこぞって押し寄せる、瀬戸内海に浮かぶ島・直島。そこは、人口3000人ほどの小さな島ながら、草間彌生や宮島達男、安藤忠雄ら錚々たるアーティストたちの作品がひしめきあう「現代アートの聖地」となっている。
世界に類を見ないこの場所は、いったいなぜ、どのようにして生まれたのか?
今まで、その知名度とは裏腹にほとんど語られてこなかった誕生の経緯を、1991年から15年間、ベネッセで直島プロジェクトを担当し、「家プロジェクト」や地中美術館などの画期的な作品群・美術館を生み出した仕掛け人が、2006年に島を離れて以降初めて、自らの経験をもとに語り尽くす。
そこには、暗闇のなかでも諦めずがむしゃらに挑戦し続けるひとりの人間の姿があり、その苦闘の末に生み出されるのは、あらゆる理不尽を飲み込み時代を超えて受け継がれる奇跡のようなアートの数々である。

以前、野中郁次郎・廣瀬文乃・平田透『実践ソーシャル・イノベーション』という本をブログで紹介した。まちづくりや村づくり、地域の問題解決の活動等で起こるイノベーションのことを「ソーシャル・イノベーション(社会変革)」と呼び、知識視点からこのイノベーションを起こせるコミュニティをどう創っていくのかが論じられているこの本、今は手元にはないが、ブータンとの絡みで言えば島根県隠岐郡海士町や徳島県上勝町・神山町の事例が紹介されていて、ブータン好きの人にはお薦めの意外な1冊といえる。ついでに言えば、僕の自宅は東京都三鷹市であり、三鷹のソーシャル・イノベーション事例を扱っているという点で、さらに僕自身にとってはコスパが良い1冊だった。

その本の中に、株式会社ベネッセホールディングス・福武財団の「アートサイト直島」の事例も出てくる。2010年から始まって3年おきに開催されている「瀬戸内国際芸術祭」が実現に至るまでの地域おこしのイノベーションの経緯が詳述されていたとうっすらと記憶はしているのだが、この時点では仕事上の接点などなく、現代アートへの造詣もなかったから、「ふ~ん」という程度で終わってしまっていた。瀬戸内国際芸術祭について知ったのは、『実践ソーシャル・イノベーション』を読んだのがきっかけであった。

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旧道が置いてきぼりを喰わないためには? [ブータン]

バイパス開通し、ツィマシャムのビジネス萎む
As Damchu-Chukha bypass opens, business at Tsimasham closes
Kuensel、2018年7月21日、Rajesh Rai記者(ツィマシャム)
http://www.kuenselonline.com/as-damchu-chukha-bypass-opens-business-at-tsimasham-closes/
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◇◇◇◇

今月18日に、ダムチュ~チュカ間のバイパス道路が開通したという話は、「政権任期末の駆け込み完工」と題した記事の中でご紹介した通りである。ティンプーからプンツォリンに南下する際、川沿いのハイウェイから急に山岳道路に変わるポイントがあるが、そこらあたりがダムチュ分岐点で、バイパス道路はチュカ県北部のチャプチャ、ブナカ、ツィマシャムといった山の中腹の集落を通過せず、川沿いを走り続けてチュカの町の手前あたりで元々の国道と合流する。これでティンプー~プンツォリン間は約1時間は近くなったと言われている。

当然、旧国道沿いのチャプチャやブナカ、ツィマシャムの集落にある雑貨屋や定食屋、ホテルなどは客足が鈍るだろうと思っていたら、まさにそんな記事が21日付のクエンセルに掲載されていた。ツィマシャムの町のホテルや定食屋が営業規模を縮小し、バイパス道路沿いに新たなお店を新設しようとしているとの内容だ。但し、バイパス道路沿いは地価が値上がりして採算が合わなくなってきており、移転も断念した店主もいるようである。

それに、バイパス道路沿道にお店を作ったからといって、通行客が止まってくれる保証はない。ティンプー~プンツォリン間を3時間30分でカバーできるとしたら、最初の2時間は頑張って、チュカの町か、それとももうちょっと頑張ってインド工兵隊(DANTAK)のキャンティーンか、さらに頑張って、ゲドゥの町あたりまで走ってから食事休憩にすることが多いと思う。バイパス道路なんだから、沿道のお店もバイパスされてしまう可能性は否定できない。

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増える車をどうする? [ブータン]

是正措置導入にも関わらず、車両は増加
Vehicle number grows despite fiscal and monetary measures
Kuensel、2018年7月21日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/vehicle-number-grows-despite-fiscal-and-monetary-measures/
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◇◇◇◇

ブータンを走る車の台数については、これまでも時々話題として取り上げてきたが、長期的なトレンドを知るには良いグラフが記事に挿入されていたので、このグラフを見るだけでも一目瞭然、多言を要しないだろうと思う。僕が初めてブータンを訪れたのは2007年だから、当時は3万5,704台。今は9万6,307台だから、なんと10年間で6万台増えている。均すと年間6,000台となるが、実はそうではない。2013年の経済危機の前後は、そんなに輸入が増えていないが、2014年から2015年にかけて増勢に加速がかかり、5,588台(2014⇒05)、9,107台(2015⇒06)、7,711台(2016⇒07)と増えている。2018年は最初の半年で4,300台増えたから、年間を通じてだと8,000台ぐらいにはいくだろう。

今の政権は、2013年の経済危機をボトムにして、その後の経済成長率の底上げができたというのを売りにしている。でも、その間に車の台数も急増させた。記事によると、財政措置として、課税ポイントを車両の輸入時から国内での車両の販売時に切り替えて納税者に税負担を意識させる政策を取ったり、金融政策として、自動車ローン申請の際にディーラーから車の販売価格の費用構成の情報を提出させたりしているという。これが無秩序な車の増加に歯止めをかけられるのかどうかはよくわからない。特に金融政策の方は、意図している政策目標が車両の台数の抑制ではないように思える。一方で、記事によると、バスなど大量輸送に資する車両の台数はさほど増えていないそうだ。

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今頃再読?『未来国家ブータン』 [ブータン]

未来国家ブータン (集英社文庫)

未来国家ブータン (集英社文庫)

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/06/23
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
「雪男がいるんですよ」。現地研究者の言葉で迷わず著者はブータンへ飛んだ。政府公認のもと、生物資源探査と称して未確認生命体の取材をするうちに見えてきたのは、伝統的な知恵や信仰と最先端の環境・人権優先主義がミックスされた未来国家だった。世界でいちばん幸福と言われる国の秘密とは何か。そして目撃情報が多数寄せられる雪男の正体とはいったい―!? 驚きと発見に満ちた辺境記。

この本を単行本の時に読んだのは2013年2月だった。その時のブログ記事を読んでいただければおおよその紹介文にはなっていると思う。「教育は伝統を破壊するよ。確実に。中等以上の教育を受けたら、牛やヤクの世話をしたり、畑を耕したりはしなくなるもの」という引用のくだりは、ブータンに来て2年以上が経つ今読み直しても心に刺さる。今もまさにその方向に進んでいると思うし。地方には仕事がないとよく言われるが、正しくは、学校教育が活かせるような「よい仕事」がないのだと著者は言う。僕に言わせると、「よい」だけではなく「クールな仕事」という要素も重要な気がする(笑)。

さて、初めて読んでから5年以上経過して改めて今回読み直してみたのは、あの、ニムラ・ジェネティック・ソリューションズ(以下、NGS)の仕事はその後どうなったのか知りたかったからだ。本書の読者ならご存知だと思うが、著者の未確認生物(UMA)ハンター高野秀行氏のブータン入りを依頼したのは、NGS代表取締役の二村聡という方で、NGSのHPを見れば、2009年8月17日付で、ブータン農業省と同社が、生物資源探索を共同で実施する契約を締結したとある。5年間の契約だから、既に2014年に終わっている筈である。本書の中では結局著者の雪男探査の旅になってしまっているが、著者は少しはブータンの薬草について調べることができたのか、それが知りたくて、もう一度読み直してみたのである。(当然のことながら、NGSのHPを見ても、その後この契約に基づいてNGSがブータンで何をやったのかは書かれていない。)

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政権任期末の駆け込み完工 [ブータン]

アモチュ橋、通行開始で地域がつながる
As it opens to traffic, Amochhu Bridge connects communities
Kuensel、2018年7月16日、Rajesh Rai記者(プンツォリン)
http://www.kuenselonline.com/as-it-opens-to-traffic-amochhu-bridge-connects-communities/
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アモチュ橋建設秘話
Construction of Amochu Bridge on Samtse-Phuentsholing Highway
Kuensel、2018年7月14日、Karma Wangdi and MN Lamichaney(公共事業省道路局)
http://www.kuenselonline.com/construction-of-amochu-bridge-on-samtse-phuentsholing-highway/
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ダムチュ~チュカバイパス、通行可能に
Damchu-Chukha road opens to traffic
Kuensel、2018年7月19日、Rajesh Rai(チュカ)
http://www.kuenselonline.com/damchu-chukha-road-opens-to-traffic/
2018-7-19 Kuensel01.jpg

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『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』 [読書日記]

伝説の編集者 坂本一亀とその時代 (河出文庫)

伝説の編集者 坂本一亀とその時代 (河出文庫)

  • 作者: 田邊園子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/04/23
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
文芸誌「文藝」の復刊と新人発掘のための「文藝賞」創設に尽力し、気鋭の戦後派作家たちを次々と世に送り出した編集者・坂本一亀。青春時代に体験した戦争を激しく憎悪し、妥協なき精神で作家と文学に対峙した坂本が、戦後の日本に問うたものとは何だったのか?新しい文学の胎動に寄り添い、“戦後”という時代を作った編集者の類まれなる軌跡に迫る、評伝の決定版。

日本は7月16日は海の日で祭日だったらしいが、ブータンも同じくブッダ命日という祭日だった。何をやろうかと考え、結局、以前河出書房新社に勤めていた親友から薦めてもらった本をキンドルでダウンロードして読むことにした。

今から9年前、僕は坂本龍一『音楽は自由にする』の読書レビューをブログに書いた。余計な日記も書かれていたのだが、その本について、僕は「音楽の造詣もさることながら、坂本氏は大変な読書家でもあるということを知った。音楽の世界を深めるという意味でも、社会を広く知るという意味でも、小学生時代から読書家だったというのはプラスに貢献していると思う」という感想を述べている。

坂本龍一が小学生時代から読書家だったのは、家に多くの本があったからだ。誰が持ち込んだのかといえば、お父さんが河出書房の名物編集者だったからである。そう、本日ご紹介の1冊の主人公、坂本一亀のことである。

本書は、息子・坂本龍一からの依頼を受けて、父・坂本一亀の元部下である編集者が、各所に保管されてきた膨大な資料を紐解き、新鋭作家を発掘し、書き下ろしの孤独な作業に編集者として寄り添って作品を世に出し、戦後派作家を次々と世に送り出していった河出の名物編集者の評伝としてまとめたものである。この元部下も相当こき使われたようで、坂本一亀を全面肯定しているわけではなく、事実を淡々と述べ、坂本に言われたこと、言われて実際にとった行動などを並べている。評伝というのはこうやって書くのだというのを改めて確認できる1冊だ。

また、親友から聞いたところでは、河出書房新社にはこれらの作家の残したメモだの書簡だのゲラだのといった膨大な史料が保管されているようで、著者はそういうのも紐解いて、丁寧に資料を取り上げて評伝にまとめていっている。坂本一亀の評伝としてまとめられているが、坂本と交流があり、本書で搭乗する多くの戦後派作家がブレークするきっかけとなる作品が、どのように生まれてきたのか、その誕生秘話を知ることができる本でもある。

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『ソーシャルパワーの時代』 [持続可能な開発]

ソーシャルパワーの時代―「つながりのチカラ」が革新する企業と地域の価値共創(CSV)戦略

ソーシャルパワーの時代―「つながりのチカラ」が革新する企業と地域の価値共創(CSV)戦略

  • 編著者: 玉村雅敏
  • 出版社/メーカー: 産学社
  • 発売日: 2016/07/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
出版社からのコメント
大好評『ソーシャルインパクトー価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える』の著者陣による2年ぶりの新刊!最新事例をもとに、ソーシャル・キャピタルを醸成し、つながりのチカラで社会インパクトを創出する方法を解説。共創の時代を見通すための1冊。

6月上旬、当地にお越しになられた慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの玉村雅敏教授と短時間ながらお話させていただく機会があった。そこで玉村先生から謹呈下さったのがこの本で、6月の喧騒がようやく終わったので、三連休となった週末を利用して、ようやく読み終えることができた。

僕と同じ業界の人が執筆陣の取材への協力者として何人も出てくるが、玉村先生から本書をいただいた直後、あとがきで列挙されていた取材協力者の中に、僕が社会人になって最初に勤務した金融機関の支店にお勤めだった先輩のお名前があったので驚いた。「社会価値と経済価値の共創を促すインフラをつくる金融機関」として紹介されている飛騨信用組合の取材協力者の筆頭に名前が挙がっていて、念のために玉村先生にお尋ねしたところ、確かに岐阜の別の地方銀行からひだしんに転出した僕の先輩であった。僕が転職せずに、大学を終えて最初に勤めた地方銀行でそのまま勤め続けていれば、こういう面白い仕事も岐阜でできたのだろうなと思った。

「価値共創(CSV)」というキーワードで、つながりのネットワークを作っていくことが社会にインパクトを作り出していくという具体的な事例を、企業の取組み、地域の取組み、それに国際協力分野でのJICAの取組み等からいくつも取り上げて詳述されている。各々の各論部分での課題といったものにはあまり触れられていない。基本的には良い面が常に強調されていて、読めば自分自身でも何かができるのではないかと思えるヒントが詰まった1冊となっている。

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