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再読『卒業』 [重松清]

卒業 (新潮文庫)

卒業 (新潮文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/11/28
  • メディア: 文庫
内容紹介
「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、14年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが――。悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。著者の新たなる原点。

この週末は息抜き、読書三昧をと決め込んでいた。前回ご紹介した『Never Lost Again』を土曜日に読了し、日曜日は大学院で使っているテキストを4章読み込み、さらに息抜きで重松清の中編小説集『卒業』を読んだ。『卒業』は、日曜日のうちに読了した。月曜以降の仕事を多少窮屈にする可能性もあったけれど。

僕自身が勝手に、重松清作品史上、最もおススメだと思っているのが『卒業』である。僕は2006年8月に一度読んでいて、その後受けた当時の職場の社内報でも、おススメの1冊として『卒業』を挙げている。12年ぶりの再読に期待したのは、今でもおススメなのかの確認だ。当時の僕は、収録された4編の中編小説に出てくる主人公とほぼ同じ40代の前半だった。だから余計に感じたものがあったのだとも思う。

特に、僕らを育ててくれた肉親の死というのを初めて眼前に突き付け、読者に考える機会を与えた作品だったように思う。死を近い将来迎えようとする親の今と、何らかの理由で関係がこじれ、長年にわたるわだかまりを引きずることになった昔とをつなげ、和解の糸口を今に見出し、明日を生きていくきっかけになっていく―――そんなパターンの作品集だった。

12年ぶりの再読は、従って主人公よりも歳をとった、55歳の読者によるものである。40代前半で本書を読んだ時は当然、主人公に自分を重ねて、自分と両親との関係を考える読書だった。幸いなことに父母ともに今も健在であり、お陰で僕は異国での仕事について後顧の憂いなく引き受けることができたと思うし、仕事に邁進することもできた。

一方、今回の読書では、40代前半の主人公にではなく、むしろ老いや死を迎えようとする主人公の親に自分を投射しているのに気付かされた。今振り返っても、僕は子どもの頃に親とそれほど大きな確執があったわけではないので、今になってから「赦す/赦される」という話にはならない。でも、僕の子どもたちの間はどうだろうか。親が期待した通りには成長してくれているわけではないし、親が心配するような性格的な問題点もないとはいえない。しかもそれを本人たちにも言っている。そういうのって子どもは、特に本書の多くの作品で主人公となっている長子は、どう感じているのだろうか、父親としての僕を、どのように見ているのだろうか。そんなことを思ったのである。

(但し、本書のタイトルにもなった中編作品「卒業」だけは本書の中での位置付けがちょっとだけ違う。亡くなったのは大学時代の友人で、28歳で自死を遂げている。)

本書を2006年に読んで以降、僕は重松作品を相当読んできたが、最近は新作品の発表自体が少なくなり、この3年間ほとんどご無沙汰となっている。それもあっての再読だった。重松作品はカタルシスに欠けると言われるが、その一方で「泣かせる」作品も多いという評価もある。息を引き取るシーンをもってカタルシスと言うつもりはないが、本書を読んでて涙が出てきた。重松作品で本当に泣かせる作品といったらこれだろう。初読から12年経った今でも言える。やっぱり『卒業』はおススメであると。

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