『コーヒーと恋愛』 [読書日記]
内容紹介【購入】
まだテレビが新しかった頃、お茶の間の人気女優 坂井モエ子43歳はコーヒーを淹れさせればピカイチ。そのコーヒーが縁で演劇に情熱を注ぐベンちゃんと仲睦まじい生活が続くはずが、突然“生活革命”を宣言し若い女優の元へ去ってしまう。悲嘆に暮れるモエ子はコーヒー愛好家の友人に相談……ドタバタ劇が始まる。人間味溢れる人々が織りなす軽妙な恋愛ユーモア小説。
今年5月、生活の拠点を長岡に移した際、それでも毎週末東京に戻らなければならない事情があって、毎週夜行バス&電車のお供が必要だと思い、軽い小説を何冊か買った時期があった。転居先の地での市立図書館利用も事情があってすぐに始めることができず、いい機会だからと新刊本を購入した。
獅子文六作品を「新刊」というのはいささか変だが、実は中央線沿線三鷹駅近くの啓文堂には平積みの本書が大量に置かれていた時期があった。表紙が春の桜だったから、季節もちょうど合っていたし、作品中一時話題に上った主人公・モエ子の「洋行」話も4月のことだったから、表紙の桜はそれに合わせたものだったのだろう。また、舞台も荻窪や吉祥寺だったから、同じ中央線沿線のよしみでの売りとなったのだろうと想像する。
今まで、獅子文六なんて、高校1年の時の現代国語の先生の影響でやたら小説を読み始めた僕でも、書店ではすでに文庫化されていた作品しか目にする機会がない作家だった。現国の先生の話題に一度も上らなかったので、作品を読んだことは一度もない。書店で平積みで置かれている本作品を目にした時、何か新鮮な気がしたし、ちょっとした懐かしさも覚えた。これも縁だと思って購入したが、もったい付けて後回しにしていたら、読み始めるのが今の時期になってしまった。
時代はたぶん1960年代前半いだろう。ちょっと調べてみたら、インスタントコーヒーが日本で初めて製造されたのが1960年だったようだ。今から60年も前の話だが、今読んでもそれほど古めかしさは感じない、軽く読める文体で、会話のテンポも良くて、僕が生まれた頃にこういうタイプのユーモア小説が書かれていたというのはちょっと驚きでもあった。どういう読者が当時獅子文六作品を読んでいたのだろうか。
結末もスッキリして読後感も良かった。モエ子さんに絡んでくる男2人がどちらも帯に短したすきに長しで、この二択はどちらを取っても落としどころとしてはスッキリしないなと思いながら最後の方まで来たら、「その落ちがあったか」と思わず膝を叩きたくなるような展開となった。モエ子さんに幸あれ。
但し、読みやすいとは言ったものの、獅子文六は読点を相当小まめにふる作家であるようで、慣れるまではその読点の多さが気になって仕方がなかった点も付しておく。
ところで、5月に買ったのにもったい付けて今まで読んでいなかった本作品を、なぜ今頃読んだのかというと、事情があって市立図書館の利用を中断していることと、そんな中での久々の夜行バス移動を行ったことがある。バスを使ったのは6月以来で、先週末の三連休は、往路も復路も夜行バスだった。
当然、その旅のお供に本書を手に取ったのだが、往路はともかく、三連休中も復路のバスでも、読書などしている余裕が全くなかった。少し前に木工家具作りの本を紹介したことがあるが、その1つのターゲットはこの週末で、義実家で長年使っていた収穫野菜の無人販売所のリメイクを行った。材料調達から塗装に至るまで、3日間で終えねばならず、ほぼ終日この作業に充て、ゆっくり読書している時間は日中はほとんどなかった。
本作品については、早朝、家族が誰も起きていない時間帯で読み進めてなんとか読了を迎えたが、もう1冊携行していた本の方は、ラスト40頁というところで疲労困憊で連休中の読了は断念せざるを得なかった。
コメント 0