『インクルーシブ・デザイン』 [仕事の小ネタ]
インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン
- 出版社/メーカー: 学芸出版社
- 発売日: 2014/04/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介(出版社からのコメント)【大学図書館】
誰かのためのデザインから、誰もが参加できるデザインへ。子ども、高齢者、障がい者などマイノリティだと考えられてきたユーザーをデザインプロセスに積極的に巻き込み、課題の気づきからアイデアを形にし、普遍的なデザインを導く「インクルーシブデザイン」。これからの「ものづくり」と「デザイン」の実践例を多数収録。デザイナー、エンジニア、建築家、プロダクトメーカー、必読!
この本は、いつの頃だったか読書メーターで僕の「読みたい本」リストに挙がり、なかなか読む機会が訪れなかった。東京に住んでいた頃は近所の市立図書館にも、社内にあった図書館にも所蔵されていなかった。仕方ないのでいっそ買っちゃおうかとも思ったが、中身に目を通さない状態で2000円以上の買い物をする勇気はどうしても起こらず、どうしても覚悟がつかなかった。
長岡に来てからも、最初は市立図書館を探ったがやはり見つからなかった。そこまで探しているなら、いっそ所蔵申請したらどうなのと思うかもしれないが、10年以上前の書籍を購入申請するほどの勇気もなかった。所蔵されたと通知を受けた時点で、まだそこに住んでいるのかどうかはわからないし…。
でも、ここで1つの転換点があった。僕は長岡の市立図書館の本館でいつも借りているが、印象としてはここの蔵書は全体的に古いと感じていた。できれば自分で書架を歩いて、実際に手に取って、ページをパラパラとめくって、良さそうだったら借りるというのがいつものパターンだが、それなら今勤めている大学の図書館の方が蔵書が自分の関心領域に近いので「読みたい」と思う本が多いのではないかと考え直し、大学図書館の蔵書を検索するようになった。
そこで見つけたのが本書である。長年探していた人とようやく巡り会えたような感動があった。
満を持して表紙をめくった本書、さすがに、2014年発刊なので、本書後半の具体的取組事例の報告で挙げられていたお話は、正直言って古さを感じた。中には20年以上前に始まった取組みとかもあり、どうしても、本書で紹介された取組みのその後がどうなったのかには関心がある。しかし、気になって自分なりにネットで調べたりしてみたけれど、「その後」について情報がなかなか見つけられなかった。
20年も前の取組みであっても、今の僕はまだ出発点にいる状態なので、自分事として行動を具体的に考える上では参考にはなる。しかし、当時関わったその人たちが今どこで何をやっているのかは知りたくはなる。たぶん、寄稿した方々もその後関心領域が広がるか、あるいはシフトして、別のテーマで本を書かれている方もいらっしゃると思う。実際、本書の共同編集者がその後書かれた本を既に読んでいたというケースも、1つ2つあった。ジュリア・カセム氏の著書も、その後別のものを読んでいた記憶がある。
とはいえ、インクルーシブデザインの概念枠組みや実践方法については、今でも十分参考にできる記述が多かった気がする。特に、僕は、特定の使用者を想定して、その人が使うための道具を試作することと、特定の使用者は試作プロセスに関わるが、あくまでもリードユーザーという位置付けで、実際は不特定多数の利用者に使ってもらう商品の開発とは別物だと捉え、後者をちょっと遠ざけて見ていたが、本書はそのどちらについても言及があるし、事例として取り上げられている。バランスの取れた論考だと感じた。
結局のところ、第2章「インクルーシブデザインとは何か」(平井康之)の細説「参加者の知を引き出す場づくり」のところに、僕が本書を読みたかったキモの部分はかかれていたような気がする。
インクルーシブデザインが持つ視点転換の力は、体験することこそが何よりも学びの方法である。技術者であれデザイナーであれ、インクルーシブデザインのワークショップに一度参加することで、ユーザーとの関係がいかに固定化されていたかという目からウロコの体験とともに、自らがこれまで蓄積してきた専門知識をどのように生かすことが効果的かに気づく機会となる。
ワークショップとは、主催者から一方通行的な情報を伝達する場ではなく、参加者が主体となって積極的に参加し、アタマや言葉だけの理解ではない、体験に根ざした学びの場であることを指す。(中略)特に重要なことは、当事者の言葉よりも専門家の言葉を過度に重んじてきた知識至上主義的な傾向を払拭し、当事者が「何を感じ」「何を求めているのか」を同じ場を共有しながら共に言葉に変えていく作業の必要性を参加者全員が自覚することである。(pp.63-64)
本当にたまたまなのだが、本書を読んでいる最中、こんなYouTubeライブが開かれていたのを観た。本書の編著者の1人であるジュリア・カセム氏は、今年お亡くなりになっていて、その追悼のイベントが対面とオンラインのハイブリッドで開催されていたのである。気付くのが遅くて前半の部分はまだ観ていないが、本書の共同執筆者も登壇されていたようだし、復習の意味でも後日観てみたいと思っている。
コメント 0