『知的障害のある人のためのバリアフリーデザイン』 [仕事の小ネタ]
内容(「MARC」データベースより)【大学図書館】
知的障害のある人たちのためのバリアフリーデザインの提案と、環境整備の考え方について紹介し、さらに、有効な福祉機器や、スウェーデンの福祉施設の取り組みも解説する。
今月、大学の図書館で借りた本の2冊目。はしがきの冒頭で、著者は次のように述べている。
バリアフリーデザインといえば、段差解消とかスロープ化などの建築的、物理的なバリアの解消を想像する人が多いかもしれません。一方で、知的障害のある人というと、車椅子を使っている姿をすぐには想像しにくく、よくいわれる物理的なバリアフリーとは一見関係のない存在のように思われるかもしれません。
障害者向けの自助具製作のような分野に関心を持って経験値を高めようと指向している今の自分にとって、迷い込みやすい思考の隘路だと僕自身も自覚がある。肢体障害や視覚・聴覚の障害なら、目で見てすぐに認識でき、どのような物理的な自助具のソリューションを考え始めることが可能だが、知的障害のある人の自助具とは一体どのようなものなのか、なかなかイメージができなかった。
そこをなんとか克服したいと思い、豊富なデザインの事例を見るだけでなく、今後新たなデザインを考えるための、思考の枠組みのようなものを得るために、本書を手に取った。具体的な事例や、どのような検討枠組みが提示されたのかをブログ記事の中で紹介するのは難しいが、いずれも有用だと思ったので、中古で購入し、座右に置いて時々読み返してみるのに使うことにした。
本書のベースとなっているのは、著者のチームが2001~02年頃に行った調査で、知的障害のある人の特性から生じる日常生活での不便さやトラブル(=バリア)をハード的に解決するものとして、具体的なバリアフリーデザインの事例を収集するというものである。
知的障害のある人は一般に、次のような特性があると指摘されている。
①抽象的な概念が理解しにくい、
②突発的な出来事に臨機応変な対応ができない、
③適当かどうかという判断が難しい、
④ことばによるコミュニケーションが苦手、
⑤刺激に過敏な人や固執性を持つ人がいる、
⑥知的な障害が原因で、身体的発達や運動機能が遅れている人がいる
そう考えていくと、単に加算的発想で何らかのハード的ソリューションを導入するだけでなく、余計な刺激をもたらさないような減算的発想があってもいいし、ハードも大きな構造物ではなく、ピクトグラムやカラーリングというのも検討可能である。作業の仕方自体を見直せば、間違いを防止し、より集中して作業に取り組んでもらうこともできる。アロマやBGMすら本書では事例として登場する。
ページをめくっていくうちに、どんどん思考が柔らかくなっていくような気がした。
去年、ADHDの生徒さんを前にして思考停止し、無力感に襲われる恥ずかしい経験をしたことがある。なぜその子が動き回るのかなかなか理解できず、何をしたらいいのかまったくわからなかった。本書を読んでみて今思うのは、日常とは異なる刺激の多い環境にその子を置いてしまった自分の配慮のなさがあったような気がするし、その子に対する接し方は、別のアプローチがあったと思う。
本書を読もうと思った動機のかなりの部分は、その時に感じた無力感に端を発する。読了した今なら、あの時こうしていればよかった、もう少し落ち着かせることができたかもしれないと、少し前向きに考えることができるようになった気がする。
2003年の発刊だが、今でも有用な本だと思う。
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