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『アメリカ大都市の死と生』 [仕事の小ネタ]

アメリカ大都市の死と生 (SD選書 118)

アメリカ大都市の死と生 (SD選書 118)

  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 1977/01/01
  • メディア: 単行本
内容紹介<br>ハワード、ル・コルビュジエにつづく近代的オーソドックスな都市計画と都市再開発の理論を攻撃し、アメリカ大都市の近隣築を自ら探り、街路の多様性などから新しい都市計画の原理を求める。
【大学図書館】
いつかは読みたいと思っていたジェイン・ジェイコブズの著書が勤務している大学図書館にあったので、迷わず借りた。考えてみれば建築学科が存在する今の勤務先の大学なら所蔵してても当然だが、どれくらいの学生に読まれているのだろうか。

これまで都市開発や地域開発に関連した書籍を読むたびにかなりの高頻度で引用されていた本である。原著の発刊は僕が生まれる前だが、本書で描かれているアメリカ大都市のいくつかは、自分でも訪れたことがあるし、それ以前に、1980年代によく見たアメリカの映画で描かれているのを何度も見た。20年ぐらいの時差はあったかもしれないが、70~80年代当時の自分の記憶とすり合わせて、本書で描かれている街路やビル、公園、区画全体等に関する考察や主張は、すごくしっくりくる。

現代の大都市の都市開発を見ても、同様に示唆に富んでいると思う。卑近な例で言えば、公園で遊んでいる子どもの声がうるさいと、近くに住む高齢の住民が市役所にクレームして公園を子どもたちが使えなくなる事例。子どもが近所にいることはその地域の年齢的な多様性を保証してくれているのに、子どもやその親世代が往来できなくなれば、そこに住む高齢者によって同質性が高まり、活力が失われていくというもの。

具体的な街区の例が豊富なので、読んでいてありがたい。

あとがきで、本書の翻訳を手掛けた黒川紀章氏がこう述べている。彼女(著者)にとって、「公園や歩道が「人びとであふれているかどうか」「安全であるかどうか」「子供の遊び場や人びとのつき合いの場になっているかどうか」が、その計画の善し悪しを決める診断の場になる」(p.265)。

街の同質性が高まると、特定時間帯に同じような属性の人だけが往来する公園や歩道になってしまう。そうすると、それ以外の時間帯の人の往来が途絶え、そういうところは安全でもなくなり、余計に住民が出て行ってしまう。だから、著者に言わせれば、住宅区域とか商業区域とかいった目的別の区分けも実はあまり歓迎されるべきではないらしい。

「多様性」———要するに、街には多様性が必要だということだ。「住居地域、商業地域といった用途の多様性ばかりでなく、新しい建築と古い建築の混在する多様性、そしてまた、小規模なものから大規模なものまでというスケールの多様性が、そこに生活する人々に選択の可能性を与える」(p.267)前述した公園で子どもを遊ばせる是非論以外にも、1960~70年代に開発されたニュータウンが今や街全体が高齢化して活力が失われる問題など、本書の示唆は現代的文脈でも当てはまるところが多い。

「ごちゃまぜ」とか「インクルーシブ」とか言い換えてもいいのかもしれない。本書が書かれた時代にはそこまで顕在化していなかったのだろうが、今だったら障害者や高齢者、LGBTなどの方々でも街を歩けて、多くの人と接することができることが、街の活性化につながるのだろう。

本書は、その後、山形浩生訳の別の訳本が出ているそうだが、今回は1977年に出た黒川紀章訳の2003年第八刷で読んだ。日本語訳がわかりづらいと、アマゾンのレビューでは酷評されている。確かにわかりづらい記述は多いが、普通の訳本に比べたら、例が具体的で読みやすいと感じるところも多かった。原書で読む機会が死ぬまでに訪れるのかどうかはわからないが、次があるのなら、せめて山形浩生版の方で読み直してみたい。

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ふるたによしひさ

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by ふるたによしひさ (2025-01-14 16:19) 

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