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『旧友再会』 [重松清]

旧友再会

旧友再会

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
あの人にいま会えたら、何を伝えますか?子育て、離婚、定年、介護、家族、友達。人生には、どしゃぶりもあれば晴れ間もある。重松清が届ける5つのサプリメント。

市立図書館が貸出業務を再開したことに伴い、借りて読むことができた。発刊当時には既に存在を承知していたが、わざわざ購入してまで読む気にはなれず、図書館に所蔵されるのを待っていた。週末の息抜き読書にはちょうど良いボリュームで、半日あれば読み切れる。

アマゾンの書評欄では五つ星が少なく、四つ星をピークとして最低が二つ星になるような正規分布に近いカーブが描かれている。感情移入できない読者が結構いるということなのだが、僕からすると、登場する主人公のほとんどが作品発表当時の僕と同じ50代前半で、小中高生時代の友人とは疎遠で、でも故郷に残された年老いた両親はいずれかがまだ健在で、一方で我が子との関係の取り方では悩んでいる―――そんな作品の構成要素への共感が強く、僕らの世代の言葉にならない漠然とした不安を、シゲマツさんが代弁して言葉に紡いでくれているような気がしてしまう。これに、舞台が団地だったり、離婚を絡めたり、兄嫁との折り合いの悪さや野球など、作品ごとに別の要素が絡められている。

これらは、僕が重松作品をよく読むようになった2000年代には著者がお得意としていたフォーマットで、僕自身もそれに惹かれて作品を読み始めたので、最近の変にコメディやミステリーを絡めたりする作品群と比べると、僕にとっては受け入れやすい内容になっている。

だからといって、爽快な読後感が得られるわけではない。どの作品も、なんとなく長い下り坂をゆっくりゆっくり下りていく、どろーんとした閉塞感の中で、短期的に起きるちょっとイイ話みたいなものを作品のモチーフにしている。だから、ちょっとした日常の中の救いにはなっても、やっぱり明るい未来はないなと思ってしまう。団地やアーケード街の衰退の歴史も、作品の中に織り込まれている。でも、外から若い人が移り住んできて町おこしのきっかけを作るような、そんな希望を抱かせる要素もなく、衰退途上での日常が淡々と描かれている。

また、収録作品のうち、「旧友再会」と「どしゃぶり」は、クラスの優等生や野球部のエースが高校卒業後に大学進学のために東京に出て行き、その後30年以上が経過してから、年老いた片親を施設に入れて実家を整理するために帰省するという姿が描かれる。これは、優等生だったか部活のエースだったかはともかくとして、同じように故郷を離れて既に40年近くを過ごしてきた僕自身には結構身につまされる話で、読みながら、今も故郷で健在の父母のどちらかが欠けた場合、自分はどうすればいいのだろうかと考え込んでしまった。

地域おこしではキラキラ輝いている若い世代の人が多く写真で紹介されるが、僕らの世代がキラキラしているケースは少ない。重松作品は僕らの世代を描いているから、明るい未来を担う若い人々がなかなか出てこない。それが作品の良さだとも感じるが。

従って、すべての年齢層に受け入れられる作品ではないだろう。

短編5編が収録されているが、「どしゃぶり」だけで180ページ、全体の2/3近くを占めるという面白い構成になっている。

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