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『たんぽぽ団地』 [重松清]

たんぽぽ団地

たんぽぽ団地

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/22
  • メディア: 単行本
内容紹介
昭和の子どもたちの人生は、やり直せる。新たなるメッセージが溢れる最新長編。元子役の映画監督・小松亘氏は週刊誌のインタビューで、かつて主人公として出演したドラマのロケ地だった団地の取り壊しと、団地に最後の一花を咲かせるため「たんぽぽプロジェクト」が立ち上がったことを知る。その代表者は初恋の相手、成瀬由美子だった……。少年ドラマ、ガリ版、片思い―― あの頃を信じる思いが、奇跡を起こす。

海外赴任まで残り2カ月となり、赴任前に読んでおきたい本をできるだけ読み漁りたいと思っている中、意外にも早くチャンスが巡ってきたのが、未だ昨年末に出たばかりの重松清の新刊。購入しようかどうしようかと考えていたところ、偶然にもコミセン図書室の新着本コーナーで発見。直前に返却してくれた借出し第1号の方に感謝したい。

こうして幸運に恵まれて早めに読むことになった重松作品、団地が舞台ということで、どうしても『ゼツメツ少年』や『一人っ子同盟』との比較で書いてみたくなる。どちらも団地やニュータウンを舞台にした、最近の重松作品だ。

『たんぽぽ団地』は時空を飛び越えて過去と現在がつながるファンタジーだが、『ゼツメツ少年』は小説家の先生の物語の中に、現在を生きている子ども達を紛れ込ませるというものだ。現実の描写という手法はとらず、現在と過去、現実世界とフィクションの世界を行ったり来たりする話の展開になっている。正直言うと『ゼツメツ少年』は、各節の間で現実と虚構とのぶつ切りになっていたので話の展開がわかりにくかったが、『たんぽぽ団地』の方は、少なくとも展開自体は時系列順でつながっており、読みやすかった。

『ゼツメツ少年』はいじめや自殺という今の社会問題を正面から取り上げている。これに対して、『一人っ子同盟』と『たんぽぽ団地』は、そもそもが団地生活を取りあげている。『一人っ子同盟』は1970年代の話で、基本的にはその70年代の世界だけで話が展開する。成長した主人公が現在から70年代を振り返るシーンはないこともないけれど、現在と過去をつなげることはあまり意識されておらず、もっぱら70年代の団地のお話だ。

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『なきむし姫』 [重松清]

なきむし姫 (新潮文庫)

なきむし姫 (新潮文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 文庫
内容紹介
霜田アヤは、二児の母なのに大のなきむし。夫の哲也は、そんな頼りないアヤをいつも守ってくれていた。ところが哲也は1年間の単身赴任となって、アヤは期間限定のシングルマザーに。そこに現れたのは幼なじみの健。バツイチで娘を育てる健は、夫の不在や厄介なママ友に悩むアヤを何かと助けてくれて……。子供と一緒に育つママの奮闘を描く、共感度満点の愛すべきホームコメディ。

久々の重松作品である。昨年は結局、『アゲイン~28年目の甲子園』しか読んでない。『ファミレス』、『ゼツメツ少年』、『一人っ子同盟』と続いたハズレ感から立ち直れてないのである。

とはいえ、新刊が出たら読みたくなるのが、このブログ開設当初から作品を読み続けている重松ファンの悲しい性。年末にブックオフに大量の本の買い取りを持ち込んだ際に、代わりに購入した1冊が本日ご紹介の『なきむし姫』であった。

この冬休みはカレンダー通りで、年末年始のお休みは6連休だった。訳あって東京で過ごしたが、お陰でほぼ計画通りの生活を送ることができ、少しだけ時間の余裕もあったので、小難しい専門書よりも、文庫版の小説でも1冊読もうかと考え、『なきむし姫』を選択した。空いた時間にリラックスして読むにはちょうど良い分量と内容だ。そして、少し前までの重松作品なら当然のように感じられた、ちょっと幸せな気持ちになれる読後感を久々に味わうことができた。『ファミレス』のスラップスティック感は読んでて腹が立ってきたから。

ただ、「ちょいハッピー」ぐらいの感じでしかなくて、冷静に考えたらアヤさんの泣き虫ぶりが克服されたという感じはないし(元々そんなに泣き虫という感じでもなかったけどね)、過保護ママの留美子さんの暴君ぶりにも変化があったとは思えない。僕はこの留美子さんをギャフンと言わせるようなカタルシスが欲しくて読み進めたけど、結局成長してない。そして、相変わらず重松さんは登場人物に付けるニックネームのセンスがイマイチだ。

それでも、長男の文太クンの成長ぶりだ。最後の章でのクラスのまとめ方、そしてそれを黙って見守ろうとした健の姿勢には感動する。参加型の問題解決のお手本を見るようで、久しぶりに重松作品を読んで目頭が熱くなるのを感じた。最近の作品ではほとんどなかったことだ。はじめのうちは、健に対しては留美子さん同様、『ファミレス』的なうざったさを感じてイライラしっ放しだったが、最後の章だけはものすごく良かった。救われた気がした。

最終章を読むためだけに、読み進めることをお薦めしたい。


余談ですが、哲也が関西に単身赴任させられて携わった「プロジェクト」の中身、何だったんだろうか。接待以外には具体的な言及がなく、哲也がGWや夏休み、クリスマスを返上してまで関わらされた仕事っていったい何だったのか、ほとんど想像がつかなかった。

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再読・『流星ワゴン』 [重松清]

気が付くと、最後にブログ更新したのが1月25日。それから約2週間、全く更新できておりません。誠に申し訳ございません・・・というか、その1月25日から、土日も休みなく出勤しております。仕事がたまっていて残業が深夜に及んだという日もありましたが、どうしても休日にやらないといけない作業があったり、はたまた家にいては論文執筆に集中できないからという理由で、職場に出かけたという日もありました。今日(土曜日)も、実は事情があって出勤です。日曜日も本当は論文が15日締めと期限が迫っているため、職場に行きたいところ。ですが、会社の入居しているビルが全館停電となるらしく、その日だけは強制的に休みを取ることになります。

そんな状態なので、なかなかブログ更新している余裕がないのですが、不思議なもので、その間にブログの閲覧ランキングが結構な急落をしたのもあまり気にならなくなってきました。更新してなきゃ読まれないのは当たり前のことなので、これ自体は仕方ありません。ただ、それでもちょっと気になっているのは、アウトプットの機会を疎かにしていると、インプットの機会を確保するのも疎かになりがちであるということです。この間本を読んでいなかったわけではないのですが、明らかに読書のペースが落ちました。せっかく読んでもすぐにブログの記事にしないから、書かれていた内容を忘れてしまう。忘れてしまうから、ブログの記事がすんなり書けない、そんなのがどんどん溜まっていってしまうから、新しく読む本にもなかなか身が入らない―――そんな悪循環ですね。

そういう時には先ず小説ですね。そんなわけで、TBS日曜劇場でドラマも始まった『流星ワゴン』を久し振りに読んでみることにしました。(ここからは「~である」調で書きます。)


流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02/15
  • メディア: 文庫
内容紹介
38歳、秋。ある日、僕と同い歳の父親に出逢った――。僕らは、友達になれるだろうか?
死んじゃってもいいかなあ、もう……。38歳・秋。その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。そして――自分と同い歳の父親に出逢った。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。やり直しは、叶えられるのか――?「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた傑作。

いかに日曜が出勤になろうと、さすがに午後9時には帰宅している。最近、日曜夜はTBSのドラマを見て終わるというパターンが定着しており、僕としては最もテレビの前にいる確率が高い時間帯となっている。『流星ワゴン』がドラマ化されると聞いての最初の印象は、オデッセイを運転する橋本父子を考えれば親子で見ても十分面白いだろうという漠然としたポジティブ感だった。ただ、同様に10回シリーズでドラマ化された重松作品『とんび』に比べると、展開が短期間に凝縮されており、どうやったら10回ドラマに引き延ばせるのかというのも気にはなった。

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『アゲイン 28年目の甲子園』 [重松清]

アゲイン 28年目の甲子園 (集英社文庫)

アゲイン 28年目の甲子園 (集英社文庫)

  • 作者: 大森 寿美男
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/12/16
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
もう一度、甲子園を目指しませんか―。40代半ばの元高校球児、坂町は見知らぬ女性に突然、声を掛けられる。彼は高校時代、ある出来事が原因で甲子園への夢を絶たれていた。記憶の蓋をこじ開けるような強引な誘いに苛立ちを覚える坂町だったが、かつてのチームメイトと再会し、ぶつかり合うことで、再び自分自身と向き合うことを決意する。夢を諦めない全ての大人におくる感動の物語。

この歳で『アゲイン』と聞くと、楳図かずおが少年サンデーで連載していた漫画を連想してしまうのは私だけでしょうか(笑)。すみません、いきなり余談でした。

17日公開のこの映画、原作が重松清だということで、来週末にでも映画館に足を運ぼうかと思っている。その前に、この映画の撮影を指揮し、脚本も手がけたという大森寿美男の書き下ろした文庫版の物語を、予習のつもりで読んでみた。ちなみに、大森氏はNHK大河ドラマ『風林火山』や朝の連ドラ『てるてる家族』などの脚本を担当し、映画では『風が強く吹いている』などの脚本・監督を務めている。年齢的には僕の4つ下。つまり、この映画の主人公、坂町と同い年である。

この作品、原作となっている重松清の作品というのがルポであるため、小説ということでいえば大森監督のまったくのオリジナルだと思っていい。そのあたりのことがちゃんと理解できずにこの本を読むと、読点の打ち方とか、それなりにクライマックスシーンを設けているところとか、いつもの重松作品とはちょっと違う印象を受ける。重松清の小説でちょっとツラいと感じる、これでもかこれでもかと描かれるお涙頂戴の展開は、この大森版の小説でも繰り広げられるが、登場人物の心の中の葛藤をそれほど描いていないので、僕にとってはいいさじ加減だったように思う。

坂町が高校時代に甲子園出場の夢を断たれた事件というのは、埼玉県予選の決勝前日、チームの補欠だった同級生の起こした暴力事件だった。そのために決勝戦は辞退を余儀なくされ、坂町たちの最後の夏は突然終わった。「負けるなら、ちゃんと負けろ」という言葉がひとつのキー・フレーズになっている作品だが、地区予選の決勝を、勝っても負けてもちゃんと試合をやれなかったというのが、キャプテンだった坂町をはじめ、エース高橋、キャッチャーで主砲だった山下らの悔いとして今まで引きずってきたのだろう。

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『一人っ子同盟』 [重松清]

一人っ子同盟

一人っ子同盟

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/09/22
  • メディア: 単行本
内容紹介
あの時のぼくたちは、「奇跡」を信じて待つことができたんだ――。両親がいて、子どもは二人。それが家族の「ふつう」だったあの頃。一人っ子で鍵っ子だったぼくとハム子は、仲良しというわけではないけれども、困ったときには助け合い、確かに、一緒に生きていたんだ。昭和40年代の団地で生きる小学校六年生の少年と少女。それぞれの抱える事情に、まっすぐ悩んでいた卒業までの日々の記憶。

なんだか久しぶりの重松作品だな。作家には、ネタの仕込みの時期と本として世に作品を出す時期というのが交互に訪れるということなのかもしれない。本書も雑誌に連載されていた小説を単行本化したものだ。

想定読者は誰なのか、不思議な作品である。小学6年生の主人公の1年間を描いているという点では、想定されるのは小学校高学年なのかもしれないが、舞台は1970年代の、伝統的な市街地の郊外に団地が出来始めた頃だし、使用されている漢字も小学生が読むにしては難しい。うちの末っ子も来年は小6なので、こういう作品にはチャレンジさせたい気持ちもやまやまだけど、舞台が舞台だけに今どきの小学生にはピンとこないところもありそうだ。

当時は2人兄弟、3人兄弟が普通で、一人っ子というのは確かに珍しかった。元々その地域に住んでいた世帯は特に家族数も多かった時代で、その郊外に建ちはじめていた団地の入居者に、核家族化が見られ始めた時期だろう。ただ、それでも一世帯に子供が1人というのはまだまだ珍しく、いたとしても、兄弟を事故や病気で亡くしたか、家庭の事情で早い時期に母子家庭になってしまったか、或いは逆に両親がともに亡くなって孤児になってしまったか、要するに「わけあり」の子だったというパターンは多かったと思う。

そして、当時はプライバシー侵害に対する意識も低かったから、クラス名簿に住所や家族構成まで詳述されているのが当たり前だった。お陰でクラスメートの家に電話をかけるのは当たり前にできたし、クラスメートの両親の名前まで僕らは知っていたから、遊びに行っても友達の親には普通に接することができた。ただ、逆に住所だけ見て親はその友達のバックグランドを判断することもできたわけで、誰々と付き合うのは要注意だとか釘を刺されたこともないことはない。住んでいる場所で、昔からの住民なのか、新参者なのかが判断できる。古くからの市街地の住民グループと、最近団地に越してきたような新参住民グループとの間には、葛藤もあったに違いない。そういうものも、この作品からは読み取れる。

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『小学五年生』 [重松清]

小学五年生

小学五年生

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
10歳もしくは11歳。男子。意外とおとなで、やっぱり子ども。人生で大事なものは、みんな、この季節にあった。笑顔と涙の少年物語、全17編。
小五の二男がGW用の読書素材として学級文庫から借りてきた本。彼は僕が重松作品の愛読者であることをよく知っており、自分で読むというよりも、オヤジに関心を持ってもらうために借りてきたのではないかと思う。このGWは意外と慌ただしく、連休の合間の平日は全て出勤、しかも長時間の残業を余儀なくされた。軽く読み進められそうな小説であったとしても1冊読み切るのはちょっと大変で、その結果が相変わらずの低いブログ更新頻度につながっている。

いずれにしても、息子が読む前に息子の期待通り僕が先に読ませてもらった。小学校の学級文庫に所蔵されている重松作品としては、小四用には『くちぶえ番長』、小五用に『小学五年生』、小六用に『きみの友だち』が用意されているらしい。妥当な線と言えるだろう。

本書は確かに国語の出題に使いやすい超短編が収録されており、何事にも飽きやすい子供達には読みやすい作品かもしれない。小五の子供が何を考えているのか、何に悩んでいるのかを知るにはいい作品だと思う。でも、17編も収録されていると、読んでいるうちに今どこにいるのかわからなくなってしまうことも度々で、あまりひとつひとつの短編で印象に残ったものがない。なんだか本当につじつま合わせのためだけに読んだという印象だ。

出てくる主人公は全員男子で、女子に関してはそうした男子の目を通してしか描かれていない。そういうところは、男性作家としてのシゲマツさんの制約であろう。

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『ゼツメツ少年』 [重松清]

ゼツメツ少年

ゼツメツ少年

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
小説家のもとに、少年から謎の手紙が届く。「僕たちはゼツメツしてしまいます」少年2人、少女1人、生き延びるための旅が始まる―僕たちをセンセイの書いた『物語』の中に隠してほしいのです。ゼツメツ少年からの手紙は届きつづける。でも、彼らはいま、どこにいるのか。「大事なのは想像力です」手紙は繰り返す。やがて、ゼツメツ少年は、不思議な人物と次々に出会う。エミさん。ツカちゃん。ナイフさん。このひとたちは、いったい、誰―?
『ファミレス』や『みんなのうた』を読んで、「もうシゲマツは読まない方がいい」などと書いていた僕であったが、新刊が出たら出たで、なんとなくsomething newを期待して手にしてしまう。とはいえ、小説は再読する可能性が低いため、結局図書館で順番待ちして、ようやく手にするまで半年近くがかかった。

確かにsomething newは、本作品を読む限りはあったと言える。作品中に登場するゼツメツ少年3人組が小さな旅に出て逃げ込んだのは東京郊外のニュータウン。エミさん、ツカちゃん、ナイフさん―――過去にニュータウンを舞台にしてシゲマツさんが描いた長編作品の登場人物が次々と現れる。『きみの友だち』、『エイジ』、『ナイフ』等に加え、『きよしこ』、『青い鳥』あたりを読んでいると、少し懐かしさを感じるかもしれない。それぞれの登場人物が暮らした舞台は各々の作品中では別々の町だった筈だが、『ゼツメツ少年』の中では1つの町に集結している。そんなことを可能にしたのは、多分これらの登場人物が、作品中で登場するこの物語の作者でもある「センセイ」の想像に基づくからだと思う。「センセイ」がその都度書き足していく物語に、昔別の作品で登場させた人物をぶつけて少年たちに刺激を加えて、フィナーレに向けて展開していくのである。

但し、扱っているテーマは「いじめ」や「自殺」である。シゲマツさんお得意の交通事故死やガンによる病死といったものは、少年たちの肉親や姉の死といった形で、この物語が始まる前の出来事として描かれているだけである。小学校や中学校では今も陰湿ないじめが横行している実態を見せられると、残念で仕方がない。そういうものを物語にして描くのは読み手としては悲しさがあるが、メッセージは発信し続けなければならないのだろう。ただ、こういう作品を書き続けている作家の身近なところで、いじめを苦にした女子中学生の自殺や、原因究明が進まない中で心を患った父親である友人を持ってしまったシゲマツさんの無念さは、随所に伺える。きっとこの友人は重松作品を愛読し、暖かい声援を送ってくれていた人だったのだろう。

場面場面の情景を思い浮かべることは難しくはなく、読みやすい作品だと思う。ストーリー自体は追いかけやすいが、どこからどこまでがリアルな話で、どこからが「想像」の産物なのか、途中でよくわからなくなった。取りあえず流れに従って読んで、本書のメッセージが何かは大まかにはわかったけれど、なんでそうなるのかを考えはじめたら、きりがなさそうだ。
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『赤ヘル1975』 [重松清]

赤ヘル1975

赤ヘル1975

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/11/28
  • メディア: 単行本
内容紹介
1975年――昭和50年。広島カープの帽子が紺から赤に変わり、原爆投下から30年が経った年、一人の少年が東京から引っ越してきた。やんちゃな野球少年・ヤス、新聞記者志望のユキオ、そして頼りない父親に連れられてきた東京の少年・マナブ。カープは開幕10試合を終えて4勝6敗。まだ誰も奇跡のはじまりに気づいていない頃、子供たちの物語は幕を開ける。
『ファミレス』を読んで、いい加減重松ファンを辞めようかとも思った僕であったが、前言を撤回する。同じ広島を舞台にしていても、『ファミレス』よりも本書はずっと良い。シゲマツさんの新境地を開いたかなとも思える。むしろ、中国地方出身のシゲマツさんが、作品の中で広島カープや原爆を取り上げてこなかったことが不思議でならない。(勿論、最近東日本大震災を絡めた作品の中で福島第一原発の事故の話にも言及し始めている重松作品の傾向の中で、昨年の広島カープの躍進があって、こんな作品が生まれてきたのかもしれないが。)

昭和50年(1975年)というのは、広島に原爆が投下されてからちょうど30年、そして、広島カープがチームカラーを赤に変更した最初の年であり、古葉監督の下で球団創設史上初のリーグ優勝を成し遂げた記念すべき年である。主人公のヤス、ユキオ、マナブの3人は中学1年生だが、僕はこの年小学6年生で、前年にリーグ優勝を果たした中日ドラゴンズを翌年も応援しつつ、赤ヘル軍団とのデッドヒートの末に敗れた1975年のことは、覚えていないわけがない。とりわけ、ドラゴンズは池谷投手にはやられまくったからなぁ。

本書は、この中1生三人を核としてストーリーが展開していくが、それはカープのリーグ戦の展開ともシンクロし、今のカープを応援するファンの皆さまにとっても、赤ヘル軍団の初優勝がどんな様子だったのかを思い起こすという意味で貴重な読み物とも言えるだろう。当時の広島市民の雰囲気が非常によく描かれているし、また山本浩二のそっくりさんが現れたり、初優勝が決まる試合が平日のデーゲームだったりして、職場の人々だけでなく、学校で学んでいる生徒の中にも、仮病を使ったり、親類の不幸などをでっち上げて、優勝決定のシーンを見守ったりしていたらしい。昨年の東北楽天イーグルスのパリーグ優勝、CS優勝、日本シリーズ優勝決定時の東北って、それに近い様子だったのかなと想像してみたくなる。

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『ファミレス』 [重松清]

ファミレス

ファミレス

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2013/07/23
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
妻と別居中の雑誌編集長・一博と、息子がいる妻と再婚した惣菜屋の康文は幼なじみ。料理を通して友人となった中学教師の陽平は子ども2人が家を巣立ち“新婚”に。3・11から1年後のGWを控え、ともに50歳前後で、まさに人生の折り返し地点を迎えたオヤジ3人組を待っていた運命とは?夫婦、親子、友人…人と人とのつながりを、メシをつくって食べることを通して、コメディータッチで描き出した最新長篇。
今月上旬、『みんなのうた』を読んで、「重松作品はそろそろ潮時か」なんて感想をこのブログでも書いていたにも関わらず、性懲りもなくまたシゲマツに手を出してしまった。図書館で予約していてようやく順番が回ってきたということなので、お許しいただければと…。

この作品は、日経新聞夕刊でずっと連載していたものだ。重松ファンだと言いながら、僕はこの新聞でのこま切れ連載小説を読むのが大の苦手で、この作品も一度は挑戦してはみたものの、1話を読んだだけでは登場人物が誰なのかがわからず、感情移入も全くできずに挫折してしまった経緯がある。新聞の連載小説は第一話から読み続けないといけないものなのだ。

それが6回X51週続くのだから、その分量たるや大したもので、上下二段組みにしても400頁近くあってとにかく長い。僕はこう見えても忙しい身分なので、読み終えるのに4日もかかってしまった。ただ、新聞の連載だから一応お話自体もある程度はこま切れになっており、読書を中断して栞を挟みやすい、それでいて読書再開してもそこまでの展開を忘れていて読み始めに難儀するということはない。

ただ、1年間の連載を想定していたからか登場人物が多く、固有名詞付きで登場する人がざっと数えただけで20人を超えるので、ごちゃつき感は相当にある。いつも正論ばかりを述べる堅物からヘタレまで、食材選びから手間ひまかけておいしい料理をこしらえる人から柿の種やベビースターラーメンを利用して小手先だけどでもおいしいという料理を作る「プロ」まで、そして、単に空腹を満たすだけならコンビニ、ファミレスで十分という若者から、食事は一緒に食べる人がいてお腹だけでなく心も満たしてくれると考える人もいる。いろいろな座標軸を定めて登場人物をそこに置いてみると、極端から極端へと登場人物が大きく分散しており、考え方や行動の仕方が多様であることでストーリーにいい味を出しているような気がしないでもない。

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『みんなのうた』 [重松清]

みんなのうた (角川文庫)

みんなのうた (角川文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/08/24
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
東大を目指して上京するも、3浪の末、夢破れて帰郷したレイコさん。傷心の彼女を迎えるのは、個性豊かな森原家の面々と、弟のタカツグが店長をつとめるカラオケボックス『ウッド・フィールズ』だった。このまま田舎のしがらみに搦めとられて言い訳ばかりの人生を過ごすのか―レイコさんのヘコんだ心を、ふるさとの四季はどんなふうに迎え、包み込んでくれるのか…。文庫オリジナル感動長編!
読書ブログと銘打ちながら、今週は更新がすっかり疎かになっている。その間読んでいた本も何冊かあって紹介したいネタは揃っているのだが、僕がもっぱらブログ記事を書くのに充てている午前3時30分から5時までの時間帯、すっきりと目覚めることができず、書く時間を作れずにここまで来てしまった。

目覚めがすっきりしない理由は、夜の寝つきが極端に悪いからである。僕は今週火曜日から木曜日まで、3日連続で夜に10kmのジョギングをやった。来週末に久しぶりのマラソン(10kmの部)を走るので、その追い込みで走る頻度を増やしてここまで来てるのだが、これをもっぱら夜20時から21時の時間帯で行なうと、なんだか神経が昂って、なかなか眠りに落ちない。僕は朝3時30分に起きるのに夜は22時には就寝するのを日課にしているが、なかなか眠りにつけないので、目覚ましの時刻を少し遅めに設定せざるを得ないのである。それがブログ更新時間のなさに繋がっている。

などとひとしきり言い訳した後で、今週読んだ本のうち、軽いものから先ず感想を述べていきたいと思う。

非常にレアなケースだが、8月の新刊を市立図書館で借りることができた。今回学んだのは、新刊本には貸出開始日が設定されており、それは発売開始日から約3週間後だということだ。相当に早めに予約を入れていたので、1番目か2番目ぐらいで現物にありつけた。人気あるだろうから、さっさと読んだ。感想は―――。

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