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『ひこばえ』(上)(下) [重松清]

ひこばえ (上)

ひこばえ (上)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: 単行本

ひこばえ (下)

ひこばえ (下)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: 単行本
内容紹介
世間が万博に沸き返る1970年、洋一郎の父は母と離婚後音信不通に。48年ぶりに再会した父は、既に骨壺に入っていた。遺された父の生の断片とともに、洋一郎は初めて自分と父親との関係に向き合おうとする。朝日新聞好評連載、待望の刊行!

図書館で借りていた積読本もとうとう底をつき、週末の軽めの読書は電子書籍を物色することになった。図書館は閉まっているし、週末ともなるとカフェもファストフード店も混雑が著しい。人が大勢いるようなところでわざわざお金払ってコーヒー飲んで読書などする気にもなれず、もっぱら自宅に引きこもってキンドルとにらめっこの休日である。

そんなタイミングを狙って、出版社もいい本を並べてきた。朝井リョウの新刊、堂場瞬一の新刊も、この週末の前後で出てきたが、3月6日発売という、まさにこの週末狙いで朝日新聞社が出してきたのが重松清の新刊、しかも電子書籍ありである。タイトルがどういう意味なのかはわからなかったが、上下巻合わせて700頁というボリューム感は週末読書にピッタリ。本当はシゲマツさんの別の本をキンドルでダウンロードしたかったんだけど、そちらは電子書籍化されておらず、それで偶然見つけたのが『ひこばえ』だった。

ちなみに、「ひこばえ」とは、「樹木の切り株や根元から生えてくる若芽」(Wikipedia)らしい。1970年の大阪万博開催中の7月に家を出ていった父と、幼稚園年長組ぐらいで父の記憶があまりない息子が、48年ぶりに、遺骨と祖父になった中年オヤジとして再会するという話で、既に55歳になっている息子が「若芽」なのかというツッコミはさておき、主人公の洋一郎と僕とほぼ同じ世代であることから、少なくとも僕にとっては受け入れやすい作品となっている。また、同じく50代後半である著者自身が同じ世代のオヤジを描いているのだから、十八番でもあったことだろう。久しぶりに読み応えある著者の代表作が出てきたのではないかと思える。

うちはまだ子どもたちが社会人にもなっておらず、僕は孫を抱けるような年齢ではないが、50代半ばというのは、少なくとも親は健在で、一方で子どもは家族に含まれる。シゲマツさんがよく使う表現で、「息子であり、親である」というのがあるが、50代半ばになってくると、親は鬼籍に入るケースも増えてきて、親と子の関係性を改めて見つめさせられるし、一方で子どもたちは大人になりつつあり、いつまでも家族団らんだの家族旅行だのといったオヤジの理想に子どもたちが付き合ってくれなくなり、ここでも親と子の関係性を考えさせられる。今回の作品は、そういう端境期の主人公とそれを取り巻く人々がよく描かれている。

また、この作品で特徴的なのは、主人公である洋一郎が、大手生命保険会社から子会社である老人ホームの施設長に出向している点。僕も重松作品は沢山読んできたが、老人ホーム勤務という主人公は初めてかもしれない。当然、多くの高齢者を見ているし、高齢者が何を言われるのが嫌で、どのように接せられると嬉しいのかとか、そういうケースが結構出てくる。さらには都市部の多世代シェアハウスとか、徐々に高齢者の独居世帯が増えていくアパートとか、今の社会の側面を垣間見ることができる。

前半でいろいろ張られていた伏線はフィナーレに向けてほとんど回収されていたし、重松作品では少ないと言われるカタルシスも、本作品に関してはそんなことはなかった。いい終わり方だったと思う。

ただ、連載ものだったらしく、若干の「かさ上げ」が行われているような気もしてしまう。読者に想像する余地も与えて欲しいところもあるのだけれど、なんだか答えが全部書かれてしまっている気がしたし、お陰で結構説教じみたくどい記述もところどころに見られた。

そういうのを除いても、読む価値ありだと思う。50代のオジサンの世代には特におすすめする。

タグ:家族 介護
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