『はるか、ブレーメン』 [重松清]
内容紹介【購入(キンドル)】
私を捨てた“お母さん”の走馬灯には、何が映っているのだろう。人生の思い出をめぐる、謎めいた旅行会社に誘われた16歳の少女のひと夏の物語。
小川春香、16歳。3歳で母に捨てられた彼女は、育ての親である祖母も亡くし、正真正銘のひとりぼっちだ。そんな彼女が出会ったのが走馬灯を描く旅をアテンドする〈ブレーメン・ツアーズ〉。お調子者の幼馴染、ナンユウととも手伝うことに。認知症を患った老婦人が、息子に絶対に言えなかった秘密。ナンユウの父が秘めていた、早世した息子への思い。様々な思い出を見た彼女は。人の記憶の奥深さを知る。そんな折、顔も覚えていない母から「会いたい」と連絡が来るのだが……。「私たちの仕事は走馬灯の絵を描くことだ。それは、人生の最後に感じるなつかしさを決めるということでもある。」
今月初旬発売されたばかりのシゲマツさんの新作だ。一時帰国から任国に戻る途中、経由地のバンコクでダウンロードし、任国に戻った後、任地に戻る前にティンプーにいる間に読み切った。400頁超の長編で、読み進めるには多少のエネルギーが必要だった。
過去の重松作品の中では、『流星ワゴン』にトーンが似ていた気がする。ファンタジー要素を多めに加えている点で。ブレーメン・ツアーズのやっている、人が死ぬ間際に見るという「走馬灯」をキュレーションするような仕事が、具体的に何をどうやっているのか、情景描写がイメージしづらい点は、読みづらさにちょっと拍車をかけていた気がする。相変わらずシゲマツさんは登場人物のニックネームの付け方がイマイチだなと、「ナンユウ」のネーミングを見て感じた。はるかと同じ能力を持ったナンユウを彼女のクラスメートとして序盤から登場させたことで、そういう能力を持っている人が世の中結構いるのかと思えてきて、作品のスペシャル感を損ねたのではないかと気になった。
それぞれの人の歩んできた道のりや、取った行動の記憶の濃淡が、そうやって見えてしまう能力を持った人が世の中に大勢いるとしたら、自分が大切にしていた思い出に付けた優先順位を人に見られてしまうリスクが相当高いということで、ちょっと嫌だなという気持ちになる。僕だって徹頭徹尾聖人君子で生きてきたわけじゃなく、けっこうぐうたらで人には知られたくないこともある。大切な家族にだって知られたくはない秘密があったりもする。
また、自分が過去の記憶のどの部分に色を付けていて、どの部分はモノクロや空白で放置しているのか、自分でもわからないでいるのに、自分が認知症が進んでそこの判断が余計にできなくなってしまってから、他人にそこを見られてしまうのって、本当に勘弁してほしいと思う。
そういうのが見えてしまう能力を持っちゃった人は大変だ。人間不信にだって陥ると思う。そういう展開も含めて描いているところには感心もするが、走馬灯作りに向けた思い出のキュレーションが仕事になってしまうことや、このツアー会社の葛城父子の「なんでもお見通し」的な言動には、自分はお近づきにはなりたくないなと思わされてしまった。
ただし、情景がイメージしやすく、泣けるシーンもある。そこを味わいたい読者には本作品はお薦めできる。ネガティブな要素ばかり並べたが、重松作品の中でも『流星ワゴン』が好きだという人には本作品は向くだろう。
そのうちドラマ化でもされるんじゃないかな。
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