『WIRED』日本語版VOL.54 [持続可能な開発]
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久しぶりに隔月刊のWIREDを読んだ。特集は「The Regenerative City~未来の都市は、何を再生するのか」である。勿論、この特集テーマに興味があったので読んだ。WIRED誌が過去に使っていたかどうかは調べてみないとわからないが、僕がこの夏に参加したFab City Challengeの源流にある「ファブシティ」(2054年までに、そこで消費されるものはそこで生産される都市の実現)に僕はアラインしていかねばと思っているので、「都市」をキーワードとする特集があれば、まあ読んでみようかという気にはなる。
本書では、「サステナブル(持続可能)」に「再生可能」をくっ付けて「リジェネラティブ」を使っている。サステナブルよりも未来志向要素を強めた表現が「リジェネラティブ」なのだろう。ファブシティへの言及がまったくないのは、ファブシティがサステナブルに近い語感を持っているからかもしれない。まあ、記事の多くがサステナブルを否定的には捉えていないので、そう目くじらを立てる要素でもないが。リジェネラティブを使うことで、SF作家とかSF小説の読者とかも語りに加わりやすいのかもしれない。
で、60代を既に迎えているオジサンが、「未来志向」の特集について語るのはおこがましいが、良かった点と良くなかった点をいずれも挙げておきたいと思う。
先ず良かった点は、第1に、ここ数年、東京近郊での貸し農園の経営を考えて着々と準備を進めている僕の妻に読んでもらいたい内容であること。第2に、東京の都市計画の歴史に関する記事があること。これは勉強になった。
そして第3に、記事の1つの中で紹介されている建築事務所の室内に3Dプリンタ―を見かけたことだ。(そう、建築やっていると3Dプリンタ―は結構使うと思いますよ。)シビッククリエイティブベース東京(CCBT)という存在が知ったこともありがたいポイントではあるのだが、ロケーションが渋谷だと知り、結局都心かよ、郊外在住のオジサンが気軽に行ける土地ではないなとがっかりしたが。
で、ここからは良くなかった点を述べる。
第1に、都市プランナーがビルの緑化や公園デザイン等でリジェネラティブ要素だと述べているが、誰がその緑を維持管理するのかがあまりはっきり述べられていなかった点。妻や実家の母が毎年苦労しているのは雑草対策で、特に夏場の雑草の繁殖力には心が萎えるとよく聞かされている。プランナーや本誌の編集部がこのリジェネラティブの最たるものとも言える雑草をどう捉えているのか、今は美しいビルや街路の景観が、ひと夏を越えても美しさを保てるのか、遠い未来よりも、直近の夏のことの方が気になる。
第2に、今回の特集がどう見ても「東京」のリジェネラティブ化を意図したものであり、しかも「都心」のリジェネラティブ化について主に論じているという点である。都心と郊外のリンク、郊外の効能についての言及もないことはないが、記事を読んでいると都心に住むことが未来志向なのかと思えてくる。
第3に、東京を離れることや二拠点生活を決意した22人の著名人に、「東京がどんな都市になれば再び戻ってきたいか」を尋ねた特集が、地方や海外在住者の意見ばかりなのは仕方ないとはいえ、それ以外の記事でも、インタビュー相手や寄稿者が地方や海外在住という人が結構いて、「東京と比べてこちらは…」という比較で、東京がダメな点を挙げておられるところ。これは、東京近郊での生活がデフォルト化しているオジサン読者からすると、やっぱり若くて活力ある人の発想だなと諦観してしまう。まあ、あと20年生きるかどうかもわからないオジサンはともかく、自分の育ててきた、特集記事に登場するほとんどの識者ほど能力も知見もなく、地方や海外に移住する勇気も決断力もない我が子どもたちの未来はどうなっちゃうんだろうかと考え込んでしまった。
この特集記事の編集に関わった人や、取材された人々の考えはともかく、そうした指向性を持ったこの人たちの親はどのように見ているのだろうか―――そんなことまで気になった。
総じて興味深い特集だったのだが、読後感は複雑だった。最後にあった建築家と衣服の記事は、特集とは全く関係ないと思うが、この方が着ておられた衣服が、一着56万円とか163万円とか書かれていると、売れっ子建築家ってどんだけ金持ってんだよという驚きと、それに倣えっていうのかよという戸惑いが大きかった。ある意味、この提灯記事が本誌最大の衝撃だったかもしれない。
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