『世界地図の下書き』 [朝井リョウ]
内容紹介今年も夏の里帰りの時期が近付いてきた。昨年は僕にとっては卒業以来となる小学校の同窓会が開かれ、懐かしさに浸る思い出深い夏休みとなったが、そこで、小3か小4の頃好きだった子のお嬢さんが、高校時代に朝井リョウ君と同級生だったと聞かされ、2人の間で話が盛り上がったことがある。このブログでは度々述べている通り、朝井クンは僕の高校の後輩にあたるので、彼がどのような作品を書こうと必ず読むようにはしてきた。それが同窓会の場で盛り上がる話のネタになるのだから、何が吉と出るかわからないものだ。(何が「吉」なのかもよくわからんが…)
「青葉おひさまの家」で暮らす子どもたち。夏祭り、運動会、クリスマス。そして迎える、大切な人との別れ。さよならの日に向けて、4人の小学生が計画した「作戦」とは……?著者渾身の最新長編小説。
そんなわけで、帰省を前にして、彼が直木賞を受賞した後の最初の作品を幸運にも読むことができた。応援していると言いつつ、それでも図書館で借りて読んでいるセコさはさておき、新刊本を発刊直後に図書館で借りて読めるなんて、超ラッキーだと思いませんか?入庫したばかりの新着本が図書室の新刊コーナーに並ぶのとほぼ同時に図書室を訪れたのが良かった。(その日は日曜日で、午前11時開場となるコミセンの屋外プールに次男と出かけ、図書室が貸出業務を開始する午後1時にはプールから上がって図書室に立ち寄った。このタイミングなら新着本をすぐにゲットできる確率がかなり高いのかもしれない。)
作品の舞台は児童養護施設「青葉おひさまの家」、主人公は、第1班の5名――高3の佐緒里、小6の太輔と淳也、小5の美保子、小4で淳也の妹の麻利である。それぞれが様々な理由で家族や兄弟と一緒に暮らせないでこの施設に身を寄せ、そこから高校や小学校に通っているという設定だ。この町には毎年夏になると提灯を熱した空気で上昇気流を作って空に浮かせるという行事があったが、3年前から途絶えてしまった。太輔は、そのお祭りに行きたいと母親にねだったが、父が仕事だったことと、母が風邪気味だったことから、お祭りに連れて行ってもらえなかった。この提灯飛ばしは、家族全員で願いを込めて行なうものだと言われて。その夜、母が父を迎えに車で駅まで向かったところ、その帰り道で交通事故に遭い、2人同時に命を落としてしまった。それが施設入所へとつながっていく。
お話は、この家族同然の5人のうち、最年長の佐緒里が高校卒業後に施設を退所して北海道の叔父の家業を手伝うために旅立っていくことがきっかけとなり、残される4人が佐緒里を送り出すのに何かできないかと考えるところから大きく展開する。そのうちに美保子も母親の再婚相手と一緒に暮らす決意をし、学校でいじめに遭っていた淳也と麻利の兄妹も、提灯飛ばしを自分たちで成し遂げたのをきっかけに、他の施設へと移って胸を張ってやり直す決意を固めたところで話は終わる。読んでいる途中からある程度想像がついたエンディングだ。
朝井クンの作品は、彼と同世代の若者を描いているものと、年齢の違うさらに若い子供たちが助け合い、支え合って生きていく姿を描いているものとに大きく分かれる。この作品は明らかに後者で、『星やどりの声』とよく似た読後感を味わうことができる。子供たちの心をどれだけ描けるのかは朝井クンにとってもチャレンジであったに違いない。時系列順で話が展開していかず、所々で過去の出来事が挿入されているので、読みにくいところも正直言うとあった。
読了したのはくしくも日本経済新聞の日曜書評欄で紹介されたその日であった。朝井クンはこの作品を描くことで、何かから逃げることも時としてありなんだよというのを読者に伝えたかったのだという。いじめに勇気をもって立ち向かうという対処の仕方ではなく、勇気をもって逃げるというのもありなんだということなのだろう。それは、淳也と麻利の兄妹の処し方によく描かれていると思う。(美保子もかな。)
ただ、僕が急いで読んだからだと思うが、佐緒里と太輔という作品の軸ともいえる2人については、何が「逃げることもあり」だったのか、あまりよくわからなかったというのが正直なところ。読後感は悪くはないんだけれど、すごく明るい未来を予感させるような終わり方でもなかった気がする。現実世界というのはそういうものなのだろう。
淳也と麻利の兄弟の言葉がもろに「岐阜弁」であるところに、朝井クンの故郷の言葉が垣間見えた。
2013-08-06 19:00
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