『スペードの3』 [朝井リョウ]
内容紹介忘れた頃に図書館の貸出の順番が回ってきた。あまりタイミングは良くなかったんだけど、後ろにも順番待ちの貸出希望者がいそうだから、早めに読むことにした。
ミュージカル女優、つかさのファンクラブ「ファミリア」を束ねている美知代。大手化粧品会社で働いていると周りには言っているものの、実際は関連会社の事務に過ぎない彼女が優越感を覚えられるのは、ファンクラブの仕事でだけ。ある日、美知代の小学校時代のクラスメイトが「ファミリア」に加盟する。あっという間に注目を集めた彼女の登場によって、美知代の立場は危うくなっていく。美知代を脅かす彼女には、ある目的があった。
華やかなつかさに憧れを抱く、地味で冴えないむつ美。かつて夢組のスターとして人気を誇っていたが、最近は仕事のオファーが減る一方のつかさ。それぞれに不満を抱えた三人の人生が交差し、動き出す。
待っているだけではなにも変わらない。私の人生は私だけのもの。直木賞作家朝井リョウが、初めて社会人を主人公に描く野心作!
このブログでは度々書いてきたことだが、朝井クンは僕の高校の後輩なので、出された本は基本的にはすべて読むようにしている。と言いつつ、今回はお金を払って本を買うという選択をしなかったのは、この本の内容があまり興味を引くものではなかったからだ。朝井クンが比較的得意としてきたのは、高校生や大学生のキャンパスライフを基本モチーフにしたもので、そこから半歩どころか両足を踏み出して新境地を開こうという作品が『スペードの3』なのではないかと思う。登場するのが舞台女優とそのファンなので、そういう設定の本を購入して手元に置いておこうという気になれなかった。図書館での40人以上の順番待ちでも待ち続けた理由がそのへんにある。
ただ、読んでみて少し印象が変わった。確かに登場人物のほとんどが今の年齢ではアラサーかアラフォーで、やはり舞台演劇の話が中心であることは間違いないが、そこで絡み合う人間のほとんどが小学校、中学校、そして俳優学校(宝塚のイメージ?)の時代に、あまり人に知られたくない「過去」を持っていて、それが現在の行動にも微妙な影響を及ぼしているという設定になっている。作品の4割ぐらいはそうした少女時代の描写であるわけだが、これにミステリー的な要素が加えられていて、本当の話なのかどうかがわからない。オチがあるので、ちゃんと読んでいないと重要な記述を見落とすことにもなりかねない。
そういう意味では朝井クンが新境地に挑んだ作品であるという点で異存はない。登場人物のほとんどが女性で、男性の登場機会が非常に少ないという点で、今までの朝井クンの作品とはかなり違う。ましてや舞台女優とそのファンクラブの関係には知らないことも多く、戸惑うことも多かった。それに、女性ってこんなにいろいろな確執があるのかというのも戸惑いの要素である。舞台女優と別の女優との確執、ファンクラブのメンバー間、それに舞台女優とファンの間にもいろいろあった。女性読者がこの作品を読んだらどう感じるのか、興味あるところだ。
朝井クンが高校生や大学生を描いた初期の作品に見られた荒々しさは、今回はかなりなりを潜めている。作風が変わってきているのかなというのを強く感じたのが今回の作品だ。
2014-08-03 08:00
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