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『変な家2』 [読書日記]

変な家2 ~11の間取り図~

変な家2 ~11の間取り図~

  • 作者: 雨穴
  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2023/12/15
  • メディア: Kindle版
内容紹介
あなたは、この「11の間取り」の謎が解けますか?前作に続き、フリーライターの筆者と設計士・栗原のコンビが不可解な間取りの謎に挑む。「行先のない廊下」「闇をはぐくむ家」「林の中の水車小屋」「ネズミ捕りの家」「そこにあった事故物件」「再生の館」「おじさんの家」「部屋をつなぐ糸電話」「殺人現場へ向かう足音」「逃げられないアパート」「一度だけ現れた部屋」、後編「栗原の推理」———すべての謎が一つにつながったとき、きっとあなたは戦慄する!
【人からもらう】
2023年の単行本フィクション部門で第1位と第2位を占めた雨穴という作家のミステリー小説最新作。妻が友人からもらってきた本で、妻が読み始める前に先に読んでしまった。400頁以上あるが、これもその気になれば3時間少々で読了することができる。

フリーのジャーナリストが調査して集めた情報で怪しい間取りの謎を解き明かすというものだったので、最初のうちはノンフィクションだとばかり思っていた。それが、ケースが揃っていくにつれて、なんかある落としどころに向かって無理やりピースを持ってきている感じがどうしても拭えなくなり、終盤に栗原の推理が始まる時点で、いくらなんでもその推理は断定的すぎるのではないかと思えてきた。その時点でこれはフィクションだと気付いているんだから僕も世話ない。

まあ、面白くてページをめくる手が止まらなかったのだから許すけど。

うちももう子どもたちが全員成人しているからいいけど、この著者のシリーズはベストセラーだし、中高生どころか、下手したら小学生でも手にしかねない。そう考えた時に、この真相はほんとうにこれで良かったのだろうかと首は傾げたくなる。

続編は妻が人からもらってきたが、実は第1巻は娘が友人から借りて今読んでいるところだ。そのうち読む機会もあるだろう。

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『ルミネッセンス』 [読書日記]

ルミネッセンス

ルミネッセンス

  • 作者: 窪 美澄
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/07/20
  • メディア: Kindle版

内容紹介
低層の団地群を抱くその町は寂れていた。商店街にはシャッターが目立ち、若者は都会に去り、昔からある池には幽霊が出るという。その土地で人びとが交わすどこか歪な睦み。母の介護にやって来た男はバーで出会った少年に惹かれ、文房具店の女は一人の客のためだけに店を開ける……。終着点は見えている。だから、輝きに焦がれた。瞬く間に燃え尽きてもいいから。直木賞作家のダークサイドで染め上げられた連作短編集。
【コミセン図書室】
なんだか、僕は窪美澄という作家と相性悪いんですかね…。

2014年に『雨のなまえ』の寸評をした際も、「あまり感想を書く気になれない短編集」と短いコメントを残している。それ以来、窪美澄作品を遠ざけていて一度も読んだことがなかったが、『夜に星を放つ』で2022年の直木賞を受賞しているし、2月にはうちの街で講演会も予定されていて、何の気なしに申し込んでしまったので、その前に最新作でも読んでおこうかと手に取った。

結果的には『雨のなまえ』の再来。この作家さんはわりと地元だし、世代も近いので登場人物とか舞台設定とかには惹かれるところも共感するところもある。作品数もそこそこあるのでもっと読んでみたいという気持ちはあるものの、落胆することこれで二度目だ。ここまで嫌悪感を抱く作品に当たってしまう作家というのは僕にとっては初めてで、借りた本も期限までキープせずにとっとと返却したいという思いに駆られた。

読者のそういう反応も織り込み済みで描かれているのだろうか。そうだとしたらそれもスゴイと思うけれど…。本連作短編に登場する中年男性の主人公それぞれについて、置かれている境遇とか、抱いている閉塞感とか、なんか自分自身とも通じるところがあって、僕自身の内面がえぐり出されているような感覚も覚えた。それが怖いもの見たさにつながったと言えなくもないし、読んでみて抱かされた嫌悪感にもつながったように思う。そういうところを狙っている作家さんなのだろうか。

新米読者が抵抗感なく入っていける窪作品、誰かお薦めいただけないですかね(苦笑)。講演会に来る観客が、窪作品にどのような感想を述べるのか、聴いてみるのも一興だと思う。

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『老いては「好き」にしたがえ!』 [読書日記]

老いては「好き」にしたがえ! (幻冬舎新書)

老いては「好き」にしたがえ! (幻冬舎新書)

  • 作者: 片岡鶴太郎
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2023/07/26
  • メディア: Kindle版
内容紹介
人生を充実させるコツは、心の赴くままに行動すること――。モノマネでブレイクして以降、役者をベースに、ボクシング、絵画、ヨガの世界でも活躍する著者。還暦を機に離婚した現在は、「60代は体が元気に動く最後の時間。漫然と過ごすのはもったいない」と終活には目もくれず、自分のしたいことだけに情熱を注ぐ。常に挑戦をしてきた経験から、「何かを始めるのに年齢やセンスは関係ない」と断言。やりたいことの具体的な見つけ方から、自身も苦しんだ「男の更年期」の乗り越え方まで、老いに負けない極意がここに!
【コミセン図書室】
新年最初の土曜日、ようやく業務再開した近所のコミュニティセンター図書室に出かけた。今後の貸出はバーコード管理するということで、そのバーコードを貼付する作業のために、4カ月近く閉鎖されていたそうだ。なんにせよ、コミセン図書室が新刊を借りるにはいちばんいいので、ここが利用できるようになったのは大きい。さっそく、新着本の棚にあった中から4冊ピックアップして借りることにした。(新しい利用者カード発行手続の際に、司書のシニアボランティアの方が、僕が申込書に記入した個人情報を読み上げながら入力していたので、他の利用者にまる聞こえになっていたのは気分悪かったが。)

冒頭の内容紹介でも書かれている、「60代は体が元気に動く最後の時間。漫然と過ごすのはもったいない」という記述に惹かれ、はずしてもダメージの少ない新書だからというので手に取った。3時間弱で読了した。

著者の始めたことがどれも自分にはあまりフィットせず、正直言えば著者がそうしているから自分もそうせねばとはほとんど思わなかった。片岡鶴太郎の足跡と今を描いたライフヒストリーだと割り切れば、それなりに読める本だと思うが、ここまで徹底してやりたいことを突き詰めるには時間とおカネが必要だし、いい人的ネットワークも必要だと思う。(そして、そういう良質の人的ネットワークを利用して何かをやろうとすれば、それなりにおカネもまたかかる。)自分が好きなことに没頭したいからといって、還暦とともに妻と別れるなんて選択も僕にはとてもムリだし、1日一食も、朝型だか夜型だかわからない深夜の時間帯で起きて3時間のヨガから1日を始めるライフスタイルなんてのも、とてもムリだ。

「やりたいこと」の事例はともかくとして、メタで見れば著者の主張には首肯できるところはある。60代を漫然と過ごしたいとは思わないが、60代にやりたいことのリストの中身の見直しはして、「やるべきではないこと」は思い切って捨てる覚悟も必要だと改めて思った。逆に、「やるべきこと」にもっと投入できる時間を増やすべきだというのもそうだと思う。

個人のライフスタイルの紹介だと割り切って読むには軽く読める1冊。自分がどうあるべきかは自分で考えるしかない。

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『きみと暮らせば』 [読書日記]

きみと暮らせば〈新装版〉 (徳間文庫)

きみと暮らせば〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 八木沢里志
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/05/12
  • メディア: Kindle版
内容紹介
だから今日も、うちに帰ろう。
猫の肉球、ポトフ、あいまい弁当。幸せのにおいがつまった、兄妹物語。
十年前、陽一の母とユカリの父が結婚し、二人は兄妹になったが、五年前に両親は他界。中三のユカリは義母のレシピ帳を参考に料理し、陽一は仕事で生活費を稼ぎ、支えあいながらの二人暮らし。ある日、庭先に猫が現れる。二人は猫を飼い主らしき人へ届けに行くのだが――。のんびり屋の兄と、しっかり者の妹が織りなす、陽の光差すような、猫もまどろむほのぼのあったかストーリー。
【MT市立図書館】
八木沢里志の連ちゃんです。多作な作家ではないため、本作品を読み切ることで、全作品を制覇してしまったことになる。また、1編100頁近くある長めの「中編」作品を読んできた後で、1編300頁ある長編作品を読み切るのはかなりハードな作業で、続けざまに作品を読み進めるとちょっと疲れも感じざるを得なかった。(著者には大変申し訳ない気持ちです。)

ただ、この登場人物の背景設定で、しかもこのタイトルなら、オチはある程度予想がついてしまうものだが、その予想を見事に外してくれたので、その点については著者に感謝したい。

ひょっとしたら「きみ」の対象はこの迷い猫だったのかもしれない。確かに、場面場面ではこの猫「種田さん」は登場してくるが、そのわりには作品を通じて種田さんがものすごく重要な役割を果たすわけでもなかったように思えた。

書き進めるうちにどんどんネタばらしになってきそうだし、オジサンの読書対象としてはちょっと違う気もするので、今日はこれくらいにしておく。ここ2、3週間、読書に関するリハビリのつもりで読みやすい小説を選んで読むようにしてきた。おかげでかなり読書スピードは上がって来たと思うので、ここらへんからもう少し他ジャンルの読み物にも手を出していきたいと考えている。

そういう意味では、ありがとう八木沢里志。
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『しあわせの香り~純喫茶トルンカ』 [読書日記]

しあわせの香り 〈新装版〉 純喫茶トルンカ<新装版> (徳間文庫)

しあわせの香り 〈新装版〉 純喫茶トルンカ<新装版> (徳間文庫)

  • 作者: 八木沢里志
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/01/12
  • メディア: Kindle版
内容紹介
あなたにとって、しあわせの香りとはなんですか——。コーヒー香る『純喫茶トルンカ』で繰り広げられる三つのあたたかな再会。二十年間店に通う高齢女性・千代子によみがえる切ない初恋の思い出、看板娘の幼馴染の少年・浩太が胸の奥深くに隠す複雑な本心、人生の岐路に立つイラストレーターの卵・絢子の旅立ち。ままならない今を生きる人たちをやさしく包み込む。大人気シリーズの第二弾!
【MT市立図書館】
年明けの最初の読書は八木沢里志の「純喫茶トルンカ」シリーズの続編。連作中編が3編収録されていて、それぞれの主人公は異なるが、ほぼ同時並行で起こっていた出来事をそれぞれの目線から取り上げているのがちょっと面白い。

元々、トルンカに出入りしている店員や常連さんの目線で描かれている作品群で、登場人物がものすごく限られているため、このシリーズの本編と続編で収録された中編計6編で、ほぼ全員を主人公にして描いてしまった気がする。残っているのは、このトルンカのオーナーである立花とその妻、また常連さんの中では「滝田のじいちゃん」ぐらいしかいない。こうなると、よほどのことがない限り、「純喫茶トルンカ」のシリーズは今後それほど続かないのだろう。(というか、この作家は2015年以降新作を発表していないので、そもそもシリーズもクソもないのだけれど…)

作品を読みながら、美味しいコーヒーが飲みたくなった。前回『純喫茶トルンカ』を読んだ時にも同じようなことを感じた。僕がここ数年でもう一度飲みたいと思った美味しいコーヒーは三鷹駅南側徒歩圏内にあった隠れ家的喫茶店の一杯で、今のところ、これと同等の味のコーヒーにはなかなか出会ったことがない。2010年頃までは仕事帰りによく立ち寄って、ちょっとだけ読書を進めてから家路についたのだが、今はそのエリアは駅前再開発の対象となり、今は大きなビルに建て替わってしまった。「隠れ家」を1つ無くしてしまった、そんな喪失感に駆られたものだ。

こういう、美味しいコーヒーと人とのつながりが両方期待できるお店はほんとうに少なくなってきた。レア感があるだけに、作品の良さもしみじみ感じた。

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『純喫茶トルンカ』 [読書日記]

純喫茶トルンカ 〈新装版〉 純喫茶トルンカ<新装版> (徳間文庫)

純喫茶トルンカ 〈新装版〉 純喫茶トルンカ<新装版> (徳間文庫)

  • 作者: 八木沢里志
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/06/08
  • メディア: Kindle版
内容紹介
東京・谷中の路地裏にある小さな喫茶店『純喫茶トルンカ』を舞台にした3つのあたたかな物語。決まって日曜に現れる謎の女性とアルバイト青年の恋模様、自暴自棄になった中年男性とかつての恋人の娘との短く切ない交流、マスターの娘・雫の不器用な初恋――。コーヒーの芳ばしい香りが静かに立ちのぼってくるような、ほろ苦くてやさしい“奇跡″の物語。各所で反響を呼んだ傑作小説、待望の新装版。
【購入(キンドル)】
これも、伊藤調『ミュゲ書房』同様、久々の読書で読書スピードを上げることをめざし、帰国便の機内で読み切ろうと考えてダウンロードした小説であった。幸い『ミュゲ書房』はすんなり読み切ることができたが、『純喫茶トルンカ』の方は読み始めがバンコク発羽田行きの夜行便の機内となったため、読書よりも睡眠を優先させ、旅の途中で読み始めることもかなわなかった。しかも、帰国して早々にバンク-ミケルセンの評伝を図書館で借りることができたため、さらに読み始めがうしろにずれ込んだ。

小説なので、あっという間だった。「中編」と言った方がよい3編が収録されていて、いずれも通勤の往復でちょうど1編を読み終われるというぐらいのボリューム感。今週月曜から水曜までの3日間の通勤で、全3編を読了した。

八木沢里志というのは「森崎書店」シリーズで知った作家なのだが、僕にはちょうどいい感じの作品が多いと思う。「森崎書店」シリーズは、舞台が神保町だったので昔バイト先通いしていた懐かしさも手伝っていい感じの読後感だった。「純喫茶トルンカ」のシリーズも、僕は勝手にモデルが神保町の老舗喫茶店「ミロンガ」のことだと思い込み、勢いで手に取ってしまった。残念ながらこのシリーズの舞台は谷中だったが、こういう落ち着いた喫茶店があるのなら、そのうち一度は歩いてみたいと思わせる雰囲気を本作品からは感じた。

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『ミュゲ書房』 [読書日記]

ミュゲ書房

ミュゲ書房

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/03/17
  • メディア: Kindle版
内容紹介
そこは、人も物語も再生する本屋さん―――
小説編集の仕事をビジネスと割り切れない、若手編集者の宮本章は、新人作家・広川蒼汰の作品を書籍化できず、責任を感じ退職する。ちょうどその頃、北海道で書店を経営していた祖父が亡くなり、章はその大正時代の洋館を改装した書店・ミュゲ書房をなりゆきで継ぐことに……。失意の章は、本に関する膨大な知識を持つ高校生・永瀬桃ら、ミュゲ書房に集まる人々との出会いの中で、さらに彼のもとに持ち込まれた二つの書籍編集の仕事の中で、次第に本づくりの情熱を取り戻していく。そして彼が潰してしまった作家・広川蒼汰は――。挫折を味わった編集者は書店主となり、そしてまた編集者として再起する。本に携わる人々と、彼らの想いを描いたお仕事エンターテインメント。
【購入(キンドル)】
ブータンから日本に帰国する機中、せめて1冊ぐらいは本を読もうと思い、ダウンロードしたのが本書である。パロ空港の待合室で読込み開始し、経由地バンコクの空港で乗継便待ちの間に読み終えた。所要時間は約5時間。最近本を読んでなかったので、景気づけに小説を選んでスピードを上げようと狙ったが、久々の読書で感覚がつかめず、途中で何度も休憩を入れた。読書の方もリハビリが必要だ。

本書は、1年半ぐらい前からずっと「読みたい本」のリストに入っていた。この書店に関わったすべての人が最終的にはハッピーになれるエンディングで、若干予定調和的な印象は受けるものの、僕ごときの読者には、こういう静かでほっこりする終わり方でもとても嬉しい。

かつ、そんな中でも、地方の書店がどんどん閉業していく現状に対して地元の小規模スタートアップに場所を貸して集客の一助にしようとするサバイバル策とか、編集者と新人作家との力関係とか、逆にこだわりの強すぎる執筆者をどうやって編集者がいなしていい本に仕上げて行けるのかとか、装丁デザインやイラストの採用のされ方とか、1冊の本ができ上がっていくプロセスを追体験できる要素も相当盛り込まれていて、読みながらも勉強になった。

僕の親友が数年前から北海道に移住し、全道中で読書の楽しさを普及させる仕事に取り組んでいる。彼とのやり取りでも出てきたことがある「選書サービス」や「書店スペースを使ったイベント開催」等も、本書には登場する。帰国を機会に、彼ともどこかで会ってみたいと思う。

会えば話題は本の話となる。書店や出版、編集、文学賞、作家、図書館、まちづくりといったいくつかの切り口があるが、本書はそれらの要素をひと通り備えた作品として、彼との話のネタの1つにさせてもらえそうだ。


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『すばらしい新世界』再読 [読書日記]

すばらしい新世界 (中公文庫)

すばらしい新世界 (中公文庫)

  • 作者: 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2003/10/25
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより) 途上国へのボランティア活動をしている妻の提案で、風力発電の技術協力にヒマラヤの奥地へ赴いた主人公は、秘境の国の文化や習慣に触れ、そこに暮らす人びとに深く惹かれていく。留守宅の妻と十歳の息子とEメールで会話する日々が続き、ある日、息子がひとりでヒマラヤへやってくる…。ひとと環境のかかわりを描き、新しい世界への光を予感させる長篇小説。
【購入】
12年ぶりに本作品を再読することになった。前回は日本にいて読んだが、ヒマラヤの山岳内陸国でのオフグリッド電源開発について考えるにはいい作品だと思ったので、読了後現地に置いて行くことを前提に、今年4月の一時帰国中に中古書籍を購入してブータンに持って来ていた。

ちなみに、前回読んだ2011年3月4日のレビュー記事はこちら。
https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2011-03-03

先月から取り組んでいる未読蔵書削減計画の一環で読んだ。本当は9月も初旬から読み始めていたのだが、仕事があまりにも立て込んだため、15日までに読了することがかなわず、私事で向かったインドネシアにも携行し、途中の経由地シンガポール滞在中に読了した。旅のお供は長編小説に限る。

こうして久々の再読を楽しみながら、この本をどこに置いていくのがいいのか、ちょっと悩む事態が生じている。当然、僕の当初の想定はブータンの首都で、日本人のODA関係者が出入りするレストランの文庫本棚にサクッと加えてもらうことだったのだが、10月初旬、2泊3日でネパールの首都・カトマンズを訪問することになった。当然、宿泊先は「サンライズ・ホテル」のモデルになった「ホテル・サンセット・ビュー」を考えている。(さすがに「のり子さん」のモデルにはお目にかかれないかもしれないが。)

日本人のODA関係者に会えるのかどうかはわからない。今僕が関わっている仕事は、ODA関係者からはあまり見向きもされてない。新しい概念を外から持って行くと極端に警戒されるのはよくあることだ。

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『親鸞と一遍』 [読書日記]

親鸞と一遍 日本浄土教とは何か (講談社学術文庫)

親鸞と一遍 日本浄土教とは何か (講談社学術文庫)

  • 作者: 竹村 牧男
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/10
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
無の深淵が口をあけ虚無の底に降り立った中世日本に日本浄土教を大成した二人の祖師がいた。定住型の親鸞と漂泊型の一遍という、全く対照的な生き方と思索を展開した両者の思想を、原典に現代語訳を付して緻密に読みこみ比較考量、日本文化の基層に潜む浄土教の精髄を浮き彫りにする。日本人の仏教観や霊性、宗教哲学の核心に鋭く迫る清新な論考。
【購入】
亡き父が今の僕と同じ世代だった頃、真宗大谷派の寺の門徒会の代表みたいなことを務めるようになって、急に朝夕の勤行を欠かさないようになった。この話は過去に浄土真宗や親鸞、蓮如などを取り上げた文献や歴史小説を読んでSSブログで紹介する際によく使わせてもらってきた。

父の辿った思索の道筋を自分も追いかけてみたいと思い、そうした書籍を時々読んだりするようになったのだけれど、「で、親鸞の思想って簡単に言うとといういうことなの?」という問いに対して、簡単に答えられるような説明はいまだに思いつかない。片手間に読んでいるからそれはそれで仕方がないことなのだけれど、何かと対比させるような論考があったら、わかりやすいかもと思い、こういう書籍を手に取ってみることにした。

で、その比較対象として本書で取り上げられたのは一遍。一遍についてもまたこれまでSSブログの文献紹介で取り上げたことが一度もないが、実は民俗学者・宮本常一の著書でハンセン病患者の歴史が取り上げられていたのを読んでいた頃、一遍上人絵伝で、当時のハンセン病患者が聖絵の中にも描き込まれているという話を知り、2013年春に国立ハンセン病資料館が企画展「一遍聖絵・極楽寺絵図にみるハンセン病患者~中世前期の患者への眼差しと処遇~」を開催していた時、見学に出かけたことがあった。

一遍について多少なりとも勉強するというのは、その時以来となる。


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『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』 [読書日記]

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた (角川学芸出版単行本)

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた (角川学芸出版単行本)

  • 作者: 斎藤 幸平
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/11/02
  • メディア: Kindle版
内容紹介
斎藤幸平、現場で学ぶ。
うちに閉じこもらずに、他者に出会うことが、「想像力欠乏症」を治すための方法である。だから、現場に行かなければならない。(「学び、変わる 未来のために あとがきに代えて」より) 理不尽に立ち向かう人、困っている人、明日の世界のために奮闘する人――統計やデータからは見えない、現場の「声」から未来を考える。
【購入】
タイトル長すぎ…。どこの出版社も新刊書籍のタイトルは著者ではなく編集者か版元の営業担当が命名しているのだと思うし、このタイトルにしたかった気持ちもわからないではないのだが、ただただ長い。

それはともかく、本書は以前ご紹介した八重洲ブックセンター本店閉店日(2023年3月31日)にわざわざ八重洲まで出かけ、そこで購入した4冊のうちの3冊目ということになる。

学者が研究室にこもって頭でっかちな研究にならないよう、現場に出られるというので引き受けたどこかの雑誌の連載がベースになっている。特に著者の場合は、『人新世の「資本論」』で有名になった、研究者というよりも思想家に近い立ち位置なので、「現場のリアリティを知らないで…」というような批判が必ずついて回る。ご本人にもそういう自覚があるようで、実際に現場で見て、聞いて、体験してみて考察を深めたいという思いが人一倍に強かったのではないかと想像する。

取材先も、編集者と相談しながら自身でも提案して決めていかれたらしい。本書で取り上げられたのは以下のようなテーマだ―――「ウーバーイーツ」「テレワーク」「京大での立て看板製作」「あつ森」「若者の林業」「男性メイク」「子どもの性教育」「昆虫色」「培養肉」「ジビエ」「エコファッション」「脱プラ生活」「気候正義」「外国人労働者」「ミャンマー避難民」「釜ヶ崎」「水俣病」「部落差別」「東北復興」「アイヌ」等々。

これらのラインナップと実際の文章を読んでみて思ったことは、第一に、本書は現在大学生であるうちの末っ子に読ませてみたいということだった。自分の子どもが外国に単身赴任しているオヤジと会話を交わすなんてことはほぼないし、同居生活をしていたとしても、息子が男親と気軽に会話することなんかほとんどあり得ないのだが、せめてこういうテーマについて少しは理解していてほしいという思いがある。

今の子は新聞も読まず、スマホでどこまでニュースを追いかけているのかすら怪しい。時々、本当に時事問題についてほとんど知らないのではないかという理解の薄っぺらさがその言動から顔をのぞかせることがあり、これはまずいと僕は心配にもなった。

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