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『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』 [読書日記]

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた (角川学芸出版単行本)

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた (角川学芸出版単行本)

  • 作者: 斎藤 幸平
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/11/02
  • メディア: Kindle版
内容紹介
斎藤幸平、現場で学ぶ。
うちに閉じこもらずに、他者に出会うことが、「想像力欠乏症」を治すための方法である。だから、現場に行かなければならない。(「学び、変わる 未来のために あとがきに代えて」より) 理不尽に立ち向かう人、困っている人、明日の世界のために奮闘する人――統計やデータからは見えない、現場の「声」から未来を考える。
【購入】
タイトル長すぎ…。どこの出版社も新刊書籍のタイトルは著者ではなく編集者か版元の営業担当が命名しているのだと思うし、このタイトルにしたかった気持ちもわからないではないのだが、ただただ長い。

それはともかく、本書は以前ご紹介した八重洲ブックセンター本店閉店日(2023年3月31日)にわざわざ八重洲まで出かけ、そこで購入した4冊のうちの3冊目ということになる。

学者が研究室にこもって頭でっかちな研究にならないよう、現場に出られるというので引き受けたどこかの雑誌の連載がベースになっている。特に著者の場合は、『人新世の「資本論」』で有名になった、研究者というよりも思想家に近い立ち位置なので、「現場のリアリティを知らないで…」というような批判が必ずついて回る。ご本人にもそういう自覚があるようで、実際に現場で見て、聞いて、体験してみて考察を深めたいという思いが人一倍に強かったのではないかと想像する。

取材先も、編集者と相談しながら自身でも提案して決めていかれたらしい。本書で取り上げられたのは以下のようなテーマだ―――「ウーバーイーツ」「テレワーク」「京大での立て看板製作」「あつ森」「若者の林業」「男性メイク」「子どもの性教育」「昆虫色」「培養肉」「ジビエ」「エコファッション」「脱プラ生活」「気候正義」「外国人労働者」「ミャンマー避難民」「釜ヶ崎」「水俣病」「部落差別」「東北復興」「アイヌ」等々。

これらのラインナップと実際の文章を読んでみて思ったことは、第一に、本書は現在大学生であるうちの末っ子に読ませてみたいということだった。自分の子どもが外国に単身赴任しているオヤジと会話を交わすなんてことはほぼないし、同居生活をしていたとしても、息子が男親と気軽に会話することなんかほとんどあり得ないのだが、せめてこういうテーマについて少しは理解していてほしいという思いがある。

今の子は新聞も読まず、スマホでどこまでニュースを追いかけているのかすら怪しい。時々、本当に時事問題についてほとんど知らないのではないかという理解の薄っぺらさがその言動から顔をのぞかせることがあり、これはまずいと僕は心配にもなった。

本書には末っ子と同世代の大学生も何組か登場する。「意識高い系」の子も中にはいるが、肩の力を抜いて飄々と生きているようでありながら、社会の問題の核心を突いた取組みに従事していたりする。そういうのを読んでみて、息子が何をどう感じるのか、訊いてみたい気がした。お節介だと言われようが。

それともう1つ。本書を読みながら、僕は1年前に亡くなられた僕の大学院時代の指導教官のことを久しぶりに思い出した。僕の指導教官はいわゆる「マル経」の経済学者で、本書の著者の勤務先である大阪市立大学で学位を取得された。『人新世の「資本論」』を読んだ時にも何か親近感を感じたが、本書で現場を歩く著者のルポを読みながら、そういえば僕の指導教官も、現場で活動している僕らのところによく来たがられたよなと懐かしくも思い出した。たぶん、現場に行きたいというご希望の深層にある思いは、著者と僕の指導教官とは似たところがあったに違いない。

僕の指導教官が特に批判の対象としていたのは新古典派経済学にもとづく1980年代から90年代にかけて多くの開発途上国で進められた新自由主義的経済政策だった。気候変動や海洋プラスチック汚染などの問題が顕在化してきた2010年代には、既に退職年齢を迎えておられたが、もしその指導教官が『人新世の「資本論」』を読んだら、どう評されるだろうか?―――そんなことを一時考えていた。

さあ、そんなわけで、本書は元々、読了したら当地に置いてくるつもりでいた。『人新世の「資本論」』も、マーカーや付箋を付けまくった状態で、首都のラーメン店の文庫棚に寄贈してきてしまっている。本来なら本書もそうしてもいいと思えるのだが、「愚息に読ませたい」という、湧いてきた思いを、どう処理したらいいのか少し考えないといけない。

そうは言ってもたぶん寄贈はするのだろう。でも、その前に、本書の中で著者が引用した文献のいくつかは今一度チェックして、次に読みたい本のリストには上げておきたいとも思う。

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