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『こころのつづき』 [森浩美]

こころのつづき (角川文庫)

こころのつづき (角川文庫)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/12/25
  • メディア: 文庫
内容紹介
"やさしさ"はきっと近くにあるから――日常の些細な出来事を丁寧に掬い取った、心あたたまる感涙の家族小説集。ロングセラー『ほのかなひかり』に続く、シリーズ第二弾。

前回森浩美作品を読んだのは2017年3月の『終の日までの』以来であった。今、とんでもない大部の本と格闘していて、あまりにも読み込みスピードが遅くなっているので、息抜きに小説でも読もうと思って贔屓の作家の新作はないかと当たってみた。久しく読んでいないという意味では重松清なんかもそうなのだが、キンドルでダウンロードできないので諦めた。今回探し出した『こころのつづき』は新作ではないが、森浩美は続けて読むとありがたみが落ちるので、ある程度間を置こうとあえてリザーブにしていたのだと思う。

お陰で森作品を読み始めた頃に感じたような新鮮さを感じながら、改めて読むことができたと思う。重松清と扱うテーマがわりと似ているけれど、重松作品のように読者にある価値観を押し付けてくるようなところがなく、ある程度読者側の感受性に委ねてくれる余韻を残して終わらせてくれるほどよい作品が多いという印象。収録作品は順番に「ひかりのひみつ」「シッポの娘」「迷い桜」「小さな傷」「Fの壁」「押し入れ少年」「ダンナの腹具合」「お日さまに休息を」である。どうも同じ短編集の中でも限界効用逓減の法則は働くみたいで、個人的には最初の作品「ひかりのひみつ」がいちばん良かった。

ただ、本書はどうやら作品の並べ方にも仕掛けがあるようで、最初の「ひかりのひみつ」と最後の「お日さまに休息を」は対を成していたりする。シングルマザーに育てられた女性が、結婚を翌年に控えた12月、自分が生まれる前に死んだと聞かされていた実の父親が軽井沢で働いていると聞き、ひとり訪ねて行って、ランタンが灯る教会で意外な真実を聞かされるという前者は、これだけ読めばウルっと来る話なのだが、結婚前に実父に会ってわだかまりを解消できた後のこの主人公が、結婚後に新郎の親族からどのように見られているのかというのが最後の「お日さまに休息を」では登場する。この主人公・奈々にしてそうなのだから、他にも「周囲は自分のことをこう見ているんだけど、実際の自分はこうなんだ」という意外性をどこかに残しながらどの話も展開していく。驚きがあるわけではないけれども、ものの捉え方は当事者ひとりひとりによって異なるものなのだというのが改めての学びかと思う。

一方でちょっと難しかったのは、55歳という年齢のオッサンがこの8つの短編の中でどのように位置付けられるかという点。最愛のペットの死とか、いじめとか、姉さん女房とか、設定的に僕の世代の男性が登場しにくい話だったりして作品世界にイマイチ入り込めなかったところもあったし、名前としては登場しても、実物が作品の中に出てこないところで僕らの世代のオヤジが語られている作品もあった。実際にその人も登場して主人公と会話も交わすというシーンがあるという点でも、最初の作品「ひかりのひみつ」は良かった。

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