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『ゼロからトースターを作ってみた結果』 [読書日記]

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

  • 作者: トーマス ・トウェイツ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/09/27
  • メディア: 文庫
内容紹介
トースターをまったくのゼロから、つまり原材料から作ることは可能なのか? ふと思い立った著者が鉱山で手に入れた鉄鉱石と銅から鉄と銅線を作り、じゃがいものでんぷんからプラスチックを作るべく七転八倒。集めた部品を組み立ててみて初めて実感できたこととは。われわれを取り巻く消費社会をユルく考察した抱腹絶倒のドキュメンタリー!『ゼロからトースターを作ってみた』改題。

少し前に、ルイス・ダートネル『この世界が消えたあとの科学文明のつくり方』をこのブログでもご紹介したが、この本の中で、ダートネルはトーマス・トウェイツという英国人美大生が、トースターをゼロから作るという取組みを行ったことに言及している。文明が滅びるような事態が本当に起きて、その場に自分ひとりだけが生きて取り残された場合、当然僕らは生きのびることを考えなければならない。ダートネルは、その生き残った人々が歩む途は単に今ある科学文明をなぞっていくわけではなく、衣食住の各局面において、何らかの調整が迫られる可能性もあることを示唆している。

トースターなんて簡単な構造で、部品の数も少ないのだから、ゼロから作るのは比較的簡単だろうと思われがちだ。しかしそのトースターでも、既存の低価格モデルを分解してリバースエンジニアリングをかけてみると、なんと400個もの部品から形成されていたという。それは、鉄だったり銅だったり、マイカ(雲母)だったり、プラスチックだったりする。熱を発するニクロム線は、ニッケルとクロムの合金だし、銅線を被覆する塩化ビニール樹脂も、色を付けるためには様々な染料を確保しなければならない。

それらは秋葉原のようなところに行けば手に入るような代物ではない。本当にゼロから作るということは、鉱物資源は各々を産出する鉱山に足を運ぶ必要があるし、英国人が石油を確保しようと思ったら向かう先は北海油田だったりする(著者は結局は北海油田まで行って原油を分けてもらうことはできなかったのだけれど)。そういう、原材料集めのところから細かくルポしているこの本、笑えるけれどもこの着眼点はスゴイと唸らされる。院生が卒業制作として取り組んだテーマだったようだが、これだけでも立派な研究成果になり得ると感じた。

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