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『家族の言い訳』 [森浩美]

家族の言い訳 (双葉文庫)

家族の言い訳 (双葉文庫)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/12/10
  • メディア: 文庫
内容紹介
家族に悩まされ、家族に助けられる。誰の人生だってたくさん痛み、苦しみ、そして喜びに溢れている。作詞家森浩美がその筆才を小説に振るい、リアルな設定の上に「大人の純粋さ」を浮かび上がらせた。「ホタルの熱」「おかあちゃんの口紅」はラジオドラマや入試問題にもなった出色の感動作。あなたのなかの「いい人」にきっと出会える、まっすぐな人生小説。
『夏を拾いに』の印象がわりと良かったので、先週末コミセン図書室を訪れた時、他に森浩美作品がないかと思って探してみた。見つけたのはこの短編集だけだったが、こちらの方も良かった。

こちらの作品も、有名私立中学の入試問題として出題されたことがあるらしいし、また収録されている作品の1つ「ホタルの熱」はNHKラジオの小説朗読番組で題材として取り上げられたこともあるらしい。家族を中心テーマとして取り上げているという点では重松清と似ているが、その「家族」というテーマの中で扱う作品の幅の広さという点では、森作品にも惹かれるところがあった。「ホタルの熱」の一児の母や、「乾いた声でも」で夫に先立たれた妻といった主人公の設定は、重松作品ではあまり記憶がないし、「カレーの匂い」のように気がつけば適齢期を過ぎかけている女性とその親との関係性を娘の側から見るような作品も、重松作品ではあまり読んだ記憶がない。逆に主人公が男性である場合であっても、「柿の代わり」や「イブのクレヨン」といった作品は重松作品にはないだろう。逆に重松的テーストを感じたのは「おかあちゃんの口紅」と「粉雪のキャッチボール」で、いずれも(多分)40代と思しき男性を主人公として、それまで主人公が必ずしも十分なコミュニケーションを取れず理解し合う機会を持ってこなかった老いた母親ないし父親との関係の変化を描こうとしている作品だった。

聞くところによるとこの著者は元々放送作家からスタートし、作詞家としてもかなり有名な作品を世に送り出している。古くは荻野目洋子「Dance Beatは夜明けまで」、森川由加里「SHOW ME」、田原俊彦「抱きしめてTONIGHT」、ブラックビスケッツ「タイミング」「スタミナ」で、僕がカラオケに行くとわりとよく選曲していたSMAPの「青いイナズマ」「SHAKE」「ダイナマイト」も森浩美の作曲だと言う。イマジネーションが膨らむ情景を短い言葉で描くのが上手い人なのだろうなと思う。群馬県ご出身であろうことは『夏を拾いに』でだいたい想像がついたが、ついでに言うと三鷹が意外と頻繁に場面として登場するということは、このあたりにお住まいなのだろうか。

小説家として作品を世に出し始めたのはまだ最近のことらしい。これからも応援していきたい作家である。
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『夏を拾いに』 [森浩美]

夏を拾いに (双葉文庫)

夏を拾いに (双葉文庫)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/05/13
  • メディア: 文庫

内容紹介
「お父さんが小学生のときはな……」父が息子に誇りたい、昭和46年のひと夏――小五の文弘は、祖父から町に不発弾が埋まっている話を聞く。様々な家庭の事情を抱えた仲間四人で、不発弾探しを始めるが。「家族の言い訳」シリーズをヒットさせた著者が描く、懐かしく爽やかな青春小説。
水曜日、ささいなことで小6の娘を泣かせた。何度も練習して鉄棒の逆上がりができるようになることなど大人になっても何の役にも立たないと言われてカチンときたので、それじゃあ今までに努力してできるようになったことが何かあるのかと娘に尋ねた。娘は少し考えて「塾で他の子が答えられなかった問題に私だけ答えられた」と答えた。僕はそれを無視してこう言ったのである。「塾で先生の質問に答えられたというのは努力の結果じゃないよね。それで何か達成感が得られたわけ?いつも勉強しているのはお父さんもお母さんも認めるけれど、それはプロセスであって結果じゃない。こつこつ努力を続けてそれで結果を出さなきゃやり遂げた達成感は得られないし、お父さんもお母さんも褒めてはくれないよ」―――こんなやりとりだった。

勉強の方がどれだけできるようになるのかはわからないが、親としては子供達に子供のうちにこれはやって欲しいということがある。それは「やり遂げた達成感」を何でもいいから沢山味わっておいて欲しいということである。僕は娘に今までに何かを根気よく続けていてできるようになったことはあるかと尋ねたが、娘はそんな経験は今まで一度もしたことがないと言った。それじゃ人生楽しくないじゃない?どんなに勉強ができなくてもいいが(この親にして過剰な期待を子に対してすべきじゃない)、あっちでぶつかり、こっちでぶつかりしながらも、続けたからこそ得られる達成感を味わって欲しい、お父さんはそう思っている。

この本を購入した理由は、本の帯に「今年の有名難関市立中学・入学試験に、最も多く選ばれた小説のひとつ」とあったからである。中学受験だなんだと小5の今頃から塾通いをしている我が娘の、とりえといったら詩のセンスだと思う。本人は中学に入ったら漫研に入って将来漫画家になりたいようなことを言っているが、どうせだったら詩と抱き合わせにして絵本作家になってくれる方が親としては嬉しい。でもそのためには折角の詩のセンスを、下らない受験勉強のために廃れさせてしまうことにはならないよう、たまには小説でも読んで欲しい。とまあオヤジとしては思ったわけです。

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