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『和僑』 [読書日記]

和僑 (祥伝社文庫)

和僑 (祥伝社文庫)

  • 作者: 楡周平
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2017/08/08
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
宮城県緑原町に老人定住型施設「プラチナタウン」が開設され四年。町は活気を取り戻し居住者は増えた。だが、町長の山崎は不安を覚えていた。いずれ高齢者人口も減り、町は廃れてしまう―。山崎は、役場の工藤とともに緑原の食材を海外に広め、農畜産業の活性化を図ろうとする。だが、日本の味を浸透させる案が浮かばず…。新たな視点で日本の未来を考える注目作!
【購入(キンドル)】
『プラチナタウン』の続編だということで、10年前に前作を読んでいた者としては、続編を読まないわけにはいかない。前作を読んだ当時も、これって一時的には効果があるけれども根本的な課題解決にはならないだろうなとは予想はしていた。いくら元気な高齢者を外から集めてきて需要を創出したからといって、その高齢者が20年もしたらどんどん鬼籍に入るし、国はこういう成功事例にはすぐに飛びついて、こういう事例を全国各地で増やそうと奨励するから、必ず競争が起きる。

ただでも縮小していくパイを増えていくプレイヤーが争奪するという構図で、絶対サステナブルじゃない。そういう感覚は、ちょっと人口学をかじって冷静に見ている者ならわかるのだが、今が良ければそれでよいと思っていそうな地元の住民にとっては、なかなか理解してもらいづらい。

次期町長選挙も絡んでくるので、細かいところでのストーリーの展開には読めないところもあったが、冒頭の紹介文にもあるような方向で、一応落ち着いていく。エンディングは予想通りだが、予想通りであったとしても読後感はまずまずだった。

ただ、よりサステナブルな地域創生に向けたビジネスモデルの形成と実現の経緯を描くのに紙面が取られ過ぎているからか、気になるところもあった。

1つは、『プラチナタウン』の時にも気になっていた、山崎町長の奥様が今回はまったく登場していないことだ。あの、ぼっちゃんトイレを嫌った奥様だが、町長として実績も残した山崎を、その後奥様がどう評価したのかがまったくよくわからない。次期町長候補の擁立で若干ながらジェンダー問題についても触れているわりに、町長夫人を登場させなかったのは何か理由があったのだろうか。87歳にして今も酒蔵を守り続けている父と山崎の対話は一度だけ出てくるが、日々の仕事を終えて帰宅した町長の姿はそのワンシーンしかなかったと思う。

2つめには、ビジネスモデルの検討やら説明を、登場人物各々の口から語らせるシーンが何度もあるが、これがとにかく長い。そんな長ぜりふを1人が延々と説き、周りが聞き役に回って静かにしているなんて光景が、ちょっと現実離れしている。ましてやそれが居酒屋でのトークだったりすると、そういうのありなのかと疑問でもある。小説の体をなしているけれど、実質的には著者のビジネス提案なのではないかと思えてきてしまう。それで町長が周囲を説得するのだから、同じ説明が何度もなされる。

3つめには、フィクションだから話が出来過ぎと感じるところが多々あった。同じ町から、勇躍米国に飛び出してそこで大きな成功を勝ち取った幼馴染みがいて、主人公が悩んでいる時にたまたま何十年かぶりの里帰りをしていたとか、地元の小料理屋のせがれが外に修業に出ていて、その料理の腕前がいいとか、結構な割合で偶然の要素が絡んだ内容となっている。経済小説ってそういうものなのかもしれないが、なんだか続きすぎると食傷気味になる。そうした人々を早くから登場させ、ちゃんと終盤に複線回収しているところは素晴らしいと思うが。

華僑も元は福建省から海外に飛び出して行った中国人がネットワークを作っていったのが始まりだとどこかで聞いたことがあるが、本書で言う和僑というのも、こういうのがきっかけとなってよりスケールアップしていくのだろうか。

いずれにしても、この、一見非の打ち所がないソリューションにも、そのうち国がたかってきて同じモデルを他地域でも推奨したりするのに助成金まで付けはじめたりするのかなと思うと、5年前の刊行のこの作品についても、その後どうなったのかを知るような続々編が見てみたいなという気もする。

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