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『彼方の友へ』 [読書日記]

彼方の友へ

彼方の友へ

  • 作者: 伊吹 有喜
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2017/11/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
第158回直木三十五賞ノミネート!
「友よ、最上のものを」
戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――
平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――。戦前、戦中、戦後という激動の時代に、情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々を、あたたかく、生き生きとした筆致で描く、著者の圧倒的飛躍作。

2014年6月に『ミッドナイト・バス』を読んで以来の伊吹有喜作品である。そして、『ミッドナイト・バス』以来の直木賞候補作品でもある。

今、あまり小説を読んでいる余裕はなかったのだけれど、近所のコミセン図書室で、年末年始の本の貸出は3週間もの猶予が与えられているのを知り、それじゃ小説も含めて借りておこうかと考えた。伊吹作品は、『ミッドナイト・バス』以降拡充されてなかったが、かろうじて残っていたのが『彼方の友へ』で、しかも扱っている時代が戦前だったこともあり、小説とはいえ時代背景をちょっと知っておくにはいい作品かもと期待して、借りることにした。

『ミッドナイト・バス』とはまた全然異なる主題を取り上げた作品である。本当に同じ作者なのかと思ったぐらいだ。読み始めてしばらくの間は、なかなかエンジンがかからず、ページをめくるスピードが非常に遅かった。それは作品の展開のせいでもあるかもしれないが、読む側の僕の読む姿勢(readiness)の問題も大きかったと思う。そのへんのことは大みそかのご挨拶でも書くつもりだが、今やらねばならないことはそれじゃないだろという罪悪感を感じながら読んでいたのである。要するに現実逃避だったのだ。

多くの読者の方が、この戦前のキャリアウーマンの成長譚を評価しておられる。どうも雑誌の編集部という設定の文章化自体がチャレンジングなのかなと思ったけれど、理解しにくかったところが結構あった。それに、この出版社に入社することになるまでの波津子のもたもた感と、その後彼女が書くことになる作品とのギャップも大きかった。これで彼女が書いた作品の文章でももう少し例示されていれば、もっとイメージがしやすくなったのではないかと思えるが。

その点も含めると、なんとなくこの作品は、将来的にビジュアル化が図られるのではないかという気がする。NHK朝の連続テレビ小説の題材にするのには向いているかもしれない。分量的にはもう少しあった方がいいが、波津子の家の謎の下宿人・望月とか、大陸に渡って音信不通になっている父親とか、結婚して葉山(だったか)に引っ込んだ編集部の先輩・史絵里とか、撒かれておいて回収があまりしっかりされていない登場人物もそれなりに描きこめば、半年放送分ぐらいのボリュームにはなりそうな気がする。それに、読みながら有賀主筆に関してだけは、「長谷川博己」が明確にイメージできてしまった。(もっとも、長谷川さんは既に『まんぷく』で出ちゃっているけどね。)

元々「実業之日本社創業120周年記念作品」と銘打ってるくらいだから、最初からこういう企画でという設定があったのだろうと想像する。たとえ戦時中で印刷出版に必要な物資が徐々に手に入らなくなっていき、男性社員や作家が動員かけられて戦地に赴いてしまうような状況の中でも、絶やさず雑誌を世に送り出し続けた出版人の気概が十分伝わってくる作品だと思う。

タグ:伊吹有喜
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