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『初秋』 [ロバート・パーカー]

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

  • 作者: ロバート・B. パーカー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1988/04
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい。―スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年、ポールは彼の心にわだかまりを残した。対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ、固く心を閉ざして何事にも関心を示さない少年。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。スペンサー流のトレーニングが始まる。―人生の生き方を何も知らぬ少年と、彼を見守るスペンサーの交流を描き、ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に謳い上げた傑作。

ロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズ、僕は第23作『チャンス(Chance)』までは全て読んでいた。1996年発表のこの作品を何故僕が読めたのかは定かではないが、途絶えるきっかけは1995年の海外赴任であった。毎年年末近くになると恒例の新作発表となるので、第22作『虚空(Thin Air)』は翌年の一時帰国の時、『チャンス』はその翌年の一時帰国の時に読んだのだろう。それ以降は読んでいない。

それがたまたまデリーの日本人会図書室で第7作『初秋』を発見。スペンサー・シリーズの中でも最も人気の高いのが『初秋』であり、この『初秋』と出会わなければ23作目まで読み続けるなんてことはできなかったかもしれない。僕も今まで生きてきた中で随分と多くの本を読んできているが、その中からベストな5冊を挙げよと言われたら確実にその中に入る1冊である。

今回読み直してみようと思った理由は、思春期の子供との向き合い方について、子供すらいなかった当時と、思春期を直前に控えた息子を抱える今との間で感じたことに違いがあるのだろうかと単純に疑問に思ったからだ。『初秋』はこれまでに二度読んだことがある。一度目は学生の時、そして二度目は結婚を控えた時期だった。自分が子を持ったら我が子との関係はこうありたいなと思った。しかし、今回読み直してみて感じたのはもっと具体的なことだ。

12歳の長男は、自分の意思や嗜好をはっきりと口にしなくなった。「別に」とか「どっちでもいい」という煮え切らない態度をとることが極端に増えた。自室にこもることも多くなった。本書におけるポール・ジャコミンとよく似ている。親としてどう向き合っていけばいいのかがわからなくなりそうだ。どうしたらもっと明確な意思疎通ができるのか、我が子が何にやる気を見せるのか、そもそもどんな会話をするのがいいのか、そんなことを考えてみたいと思った。

『初秋』におけるスペンサーのセリフの中で最も人気が高いと思われるのは次の一節だろう。
「得意なものがなんであるか、ということより、なにか得意なものがあることの方が重要なんだ。おまえにはなにもない。なににも関心がない。だからおれは、おまえの体を鍛える、丈夫な体にする、10マイル走れるようにするし、自分の体重以上の重量が挙げられるようにする、ボクシングを教え込む、小屋を造ること、料理を作ること、力いっぱい働くこと、苦しみに耐えて力をふりしぼる意志と自分の感情をコントロールすることを教える。そのうちに、できれば、読書、美術鑑賞や、ホーム・コメディの科白以外のものを聞くことも教えられるかもしれない。しかし、今は体を鍛える、いちばん始めやすいことだから」(p.155)

(家を造ることやウェイト・リフティングとスペンサーが説く「自立」とがどういう関係にあるのかとのポールの問いに対して)「1つには、それが、おれがおまえに教えてやれることなのだ。おれは、詩を書くことやピアノを弾くこと、あるいは微分方程式を解くことなどは教えられない」(p.162)
今読み返してもこの一節はとても印象的なのだが、子を持つ父親の立場に立つと、より味わい深い一節であるように思える。そしてまた、くよくよ考える前に、先ず自分はそもそも子に伝えられるようなものを持っていなければいけないという当たり前のことに改めて気付くのである。

そう、僕はウェイトも挙げられないし、今では10kmも走れない。ボクシングはできないし、小屋も作れない。料理を作るのは珍しいし、美術への造詣もない。ないない尽くしで情けなくなる。でも、探してみればできることもありそうだ。そう考えていくと、我が子への接し方というのは、先ずは自分自身をポジティブに受け止められることから始まるのではないかという気がする。そして、そこから自分をどれだけ伸ばせるかが決定的に大事かとも…。

勿論、力いっぱい働くこと、苦しいことも耐え忍び力を振りしぼれることも必要だ。ストイックに自分を追い込んでいくこともできなければ子供はそれを見抜くだろう。遠く離れて家族と暮らしている今こそ、この部分で自分を鍛え直すことは必要かもしれない。

何から始められるのかはわからないが、次に息子と過ごす機会があれば、一緒に何かを作り上げてみたいと思う。或いはともに苦労してみたり。単に親が子に何かを教えるのではなく、一緒に取り組むことで我が子に何かを掴んで欲しいと考える。

久々の『初秋』で、そんなことを考えたりしていた。


ところで、私立探偵スペンサーといったら、僕のイメージは1985年から3シーズンにわたって全米放映された『Spenser for hire』で主役を務めたロバート・ユーリッヒである。ドラマのOpの動画を見つけたので、併せて紹介しておく。スペンサーの相棒ホークのイメージも、劇中のエイブリー・ブルックス演じるホークそのものである。


さて、『初秋』は僕が今までに読んだ本の中では5本の指に入ると述べたが、パーカーの作品がもう1つここには含まれている。スペンサーのシリーズではない、『愛と名誉のために(Love and Glory)』であるが、この長編小説についてはまた日を改めて紹介したい。
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