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『ミスマッチ』 [仕事の小ネタ]

ミスマッチ 見えないユーザーを排除しない「インクルーシブ」なデザインへ

ミスマッチ 見えないユーザーを排除しない「インクルーシブ」なデザインへ

  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
  • 発売日: 2019/03/27
  • メディア: Kindle版
内容紹介
ビジネスとインクルージョン(包摂)は両立可能なのか? 元Microsoft、現在はGoogleで「包摂的なデザイン」をリードする著者が送る、現在のプロダクト/サービスづくりには欠かせない視点をもたらす一冊。デジタルプロダクトを中心に、より多くの人々がひとつの製品やサービスに触れるようになりました。それにより、身体的、心理的、文化的に対象ユーザーから排除されてしまう人々や、以前から実は排除されていた人々の存在が浮かび上がるようになってきています。本書は、そうした多様なユーザーを見えなくしている慣習を捨ててインクルーシブなデザインをビジネスで実現させるための、経営者やデザイナーに向けたフレームワークを提供します。思い込みのペルソナからあいまいなユーザー像を対象にデザインするのではなく、いかに個別のユーザーのために設計したプロダクトを、大勢のユーザーへとスケールさせていけばいいのか。「人々のために」ではなく、いかに「人々とともに」デザインしていくことが可能なのか。ユニバーサルデザイン、アクセシビリティ、そしてインクルーシブデザインの違いは何か?モノやインターフェイス、そしてサービスを設計するときに、必ず心に留めておくべきインクルージョンへの指針を与えてくれるでしょう。
【MT市立図書館】
インクルーシブデザインに関する書籍もこれで3冊目となる。2冊目としてご紹介した井坂智博『インクルーシブデザイン』が自分にとってはイマイチだったので、ちょっとモチベーションが下がっていたが、同じビジネスへのインクルーシブデザインの取込みを主張していても、『ミスマッチ』の方がまだ受け入れやすい気がした。おそらく井坂著『インクルーシブデザイン』と『ミスマッチ』は、言っていることの趣旨はほとんど共通なのだろうと思うが、前者の方は自社のワークショップのノウハウを売りたいセールス臭がプンプンしていたのに対し、『ミスマッチ』の方は問題提起にとどめていて、啓発は目指していても、何かをこれで売りたいという印象は受けなかった。

それは、デザインプロセスの初期段階から「排除される人」の関与を意識していても、前者の場合はその人自身がデザインされるものの直接的なユーザーとしては想定されていないように感じられたのに対し、本書の場合はそのプロダクトの利用者としてやはり想定されているからだとも思う。

それは、以下で引用したいくつかの点からも垣間見ることができる。

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 都市でもソフトウェアでも、成長と変化を加速させていくことは度々必要とされる。しかし、それをどのように実行するかがきわめて重要だ。人々はデザインとの感情的な結びつきを築くことで、場所やプロダクトを自分のもののように感じることができる(中略)問題なのは、それは感情的な選択であって、単なる合理的な選択ではないことだ。感情面での重要事項については、ソリューションから最も排除されている人々が、最も的確に説明できる。あるいは、次世代のデザインに接することになる子どもたちを含めた、変更時に最も大きな打撃を受ける人々だろう。次に進むべき道の一番の旅器となるのは、彼らに関与してもらうことである。(pp.102-103)

インクルージョンに転換する方法
●排除の経験者を見つけること。彼らは、あなたがソリューションに加える変更によって、誰よりも打撃を受けたり、最大のミスマッチに直面したりする人々である。

●人々のためではなく、人々とともにデザインすること。排除を経験した者に、あなたのデザインプロセスに関与してもらえるよう有意義な道を進む。

●人々が既存のソリューションにすでに注ぎ込んできた感情的な価値を理解すること。新しいデザインを考案するとき、こうした感情に関わる重要事項を取り入れよう。

●あなたの考え方の不足を補ってくれる排除の経験者のコミュニティを維持すること。排除されたコミュニティを支援する地域団体と関係を築こう。あなたのプロダクトが人々の生活において果たす役割、または果たすかもしれない役割を理解しよう。(pp.106-107)

 比較的少ない人数であっても、時間をかけて人間の深さと複雑さを特定することは、「ビッグデータ」の欠点を補うのに役立つだろう。「シックデータ」とは、人間の行動とその背景を説明するために収集される情報である。これは最初に、人類学者のクリフォード・ギアツが著書『文化の解釈学』で「厚い記述(thick description)」と称したものだ。シックデータは、人々がどのように感じ、考え、反応するかに加え、その根底にある動機を理解する方法である。
 「ビッグデータ」と「シックデータ」はともに、人間の多様性を再びデザインプロセスに取り入れるための特別かつ重要な機会を与えてくれるだろう。デザインにとって、ビッグデータは興味深い調査領域を示すヒートマップのようなものだ。人々がデザイナーの予想通りにソリューションを使わないときに、ヒートマップはそのパターンが存在する箇所を教えてくれる。
 補足的にシックデータを使えば、私たちは本当に起きていることに焦点を合わせた理解が可能になる。シックデータによって、ビッグデータのパターンが存在する根本的な理由を特定できるし、また大きなトレンドに関与する人間の行動を突き止められる。ビッグデータとシックデータを合わせて使えば、プロダクトと環境の両方のどこで排除が生じているかを理解できる。
 万人に対する考え方を導くためのひとつの普遍的なモデルを追求することは困難であるし、有害なこともある。しかし、ひとりのために解決すべきある特定の問題を深く理解することは可能だ。(p.121)

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たとえ目指す方向性は同じであっても、「排除」や「ミスマッチ」といった言葉を含め、本書の読者はまだマスのマーケットよりもその人ひとりひとりをしっかり見ようという姿勢は維持していて、その分好感が持てる。

余談だが、僕が駐在していたブータンでは、先週、障害児向け自助具を短期間でデザインするという「メイカソン」が首都で大々的に開催されたらしい。ちゃんとニードノウアを最初から巻き込んで、目の前にいるその子の日常生活での動作を少しだけ改善できる自助具を作ろうと試みたという点で、注目したい。僕がいたプンツォリンのファブラボCSTがブータンでは最初に始めた取組みが、ようやく首都でも注目されるようになったのは嬉しい出来事だった。

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