『インクルーシブデザイン』 [仕事の小ネタ]
内容紹介【MT市立図書館】
アップル、MS、アマゾンも……グローバル企業で活用されるイギリス発祥のデザイン思考。独自ワークショップの威力とは? イノベーションを起こすための力をどのように鍛えていけばいいのか―。本書では、今後我々が直面する超高齢社会などを見据えて、SDGs(持続可能な開発目標)時代における「イノベーション力」を向上させるための方策、課題解決法について紹介します。
市立図書館で「インクルーシブデザイン」で検索して、ヒットした本を3冊借りた。最初のジュリア・カセム『「インクルーシブデザイン」という発想』が自分にとってバイブルともいえる本だったので、気持ちをアゲアゲにして2冊目の本書に臨んだ。中盤のインクルーシブデザイン・ワークショップの実践について語っておられるあたりまでは良かった。だが、その後中1週間の中断を挟んで第3章「「未来志向型リーダー」になるために」あたりから読書を再開すると、「あれ?」と思うことが多くなった。
何か違う―――これが率直な思いだ。良い意味でも悪い意味でも、この本は経営コンサルタントが書いた、自社で主宰しているワークショップへの「誘導」を目的としている。こういうワークショップがあるのはいいことだと思う反面、結局本書は企業組織の変革を推進するため、商品と市場とのフィットを高められる環境づくりを進めるためのワークショップを売っている。「インクルーシブ」という言葉で「誰も取り残さない」というところも担保してますよと言いつつ、ターゲットは企業であるように思えた。
高齢者や障害者を「リードユーザー」としてデザインワークショップに巻き込んでいくのはいい。でも、ステップが進むにつれ、「リードユーザー」の存在が希薄になっていく印象だ。結局、その高齢者や障害者をユーザーとしたカスタマイズドデザインを考えるワークショップの提案ではない。その点において、ジュリア・カセムが述べている「インクルーシブデザイン」とはかなり違う。
僕は著者が問題提起している領域での日本企業の商品開発は、他国と比べても相当進んでいると思っている。インドのようにBOP市場のすそ野が相当広い国なら、そこまできめ細かくないデザインであっても、受益者でも負担可能な水準にまで価格を落とすことができれば、大きく売れる。障害者の人口自体が多いから、障害者をターゲットにしたビジネスも考え得る。本書が提案しているのは、障害者も想定ユーザーに加え、誰にとっても使い勝手がいい製品のデザインをどう作るかという問題意識から来ているように思えた。
また、本書では書かれていないが、「リードユーザー」の参加のインセンティブは単に「他の人の役に立ちたい」ということなのだろうか。僕は、もしそういうワークショップに障害者に来てもらった場合、そのワークショップを終えて会場をあとにする時に、そのリソースパーソンに何を持って帰ってもらうかが気になる。自立生活を送っておられて、ワークショップにも喜んで出て来られる方はまだいい。でも、もっとインクルーシブを突き詰めていくと、自立生活を送りたいという希望がまだ満たされていない人をどう巻き込むかという、もっと難しい課題にも直面しそうだ。
なんとなくだが、「リードユーザー」という言葉で、リードユーザーになれる人となれない人の線引きが行われてしまっているような気がする。そこは、僕自身が目指すようなところじゃないかも。
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