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『言葉の周圏分布考』 [読書日記]

言葉の周圏分布考 (インターナショナル新書)

言葉の周圏分布考 (インターナショナル新書)

  • 作者: 松本 修
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2022/04/07
  • メディア: 新書
内容紹介
「全国アホ・バカ分布図」の完成から30年! 圧巻の50枚以上のカラー分布図で日本語変遷二千年の謎を解き、方言の豊かさを描き出す。知的興奮とともに、ふるさとの言葉の懐かしさを味わえる1冊。テレビ番組『探偵!ナイトスクープ』の全国アホ・バカ調査で示した分布図で、方言が京都を中心に何重もの円を描いていることを見せ、言語学会を驚かせた著者。その後1991年に全国3000超の市町村へ行った方言アンケートの回答を、膨大な私費を投じて集計、数多くの言葉の分布図を作成した。本書では50数枚の方言分布図を丹念に読み解き、日本語の伝播の経緯と背景にあるストーリーを面白く興味深く描き出す。身近な「どっさり」や「醤油」などの分布図を、方言にまつわるエピソードとともに解説。なかでも源氏物語での「戻る」に注目し、その変遷を史料を駆使してどこまでも深掘りし、波照間島まで旅する論考は圧巻。また、周圏分布の原点に立ち返り、柳田國男が『蝸牛考』でとなえた方言周圏論について検証する。謎解きの強烈な助っ人、「小竹探偵」とのやりとりも楽しい。『全国アホ・バカ分布考』(新潮文庫)、『全国マン・チン分布考』(インターナショナル新書)につづく第3弾!
【購入(キンドル)】
本書は、今年前半に出たのを知っていて、いずれ読もうと思って今日に至っていたもの。1996年発刊の『全国アホ・バカ分布考』は、このブログをはじめるずっと以前、文庫化される前の1993年刊行の単行本を独身の頃に読んでいる。この著者の単著としては、2005年刊行の『探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子』を2009年11月に読み、ブログで紹介している。

著者はこの関西のオバケ番組『探偵!ナイトスクープ』の初代プロデューサーを務めた方だが、その番組で「全国アホ・バカ分布図」を取り上げた後もこの方言の分布というテーマを追求し、本書のタイトルにもある、京都を中心とした方言の「周圏分布」を主張し続けてきた民間研究者でもある。

近刊が出た時も、まだこのテーマを追いかけているんだというのが驚きでもあった。「アホ」と「バカ」の分布にとどまらず、いろいろな言葉が京都から距離が離れるにつれて別の方言に変わっていくケースをこれでもか、これでもかとばかりに紹介していく。読んでいないけれど、前著『全国マン・チン分布考』もそんな内容に違いない。

畢竟、本書は京都を中心として同心円状に広がる方言の分布図をふんだんに取り上げている。同じものを指す言葉であっても、方言の数だけ分布の際のシンボルの数が必要になる。製本版も口絵はカラーのようだ。電子書籍版でも、白黒のKindle Paperwhiteでは読みづらく、デスクトップPCのカラー大画面で読む方がわかりやすいと思う。

僕の故郷である岐阜県西濃地方も方言のシンボルが振られている。全国市町村の教育委員会にアンケートを行った回答だというから、それなりに信憑性が高いとは思うが、「たびたび」のことを「センド」とも「チョイチョイ」とも言わない(「チョクチョク」)だし、「葬儀」のことを「ソーレン」と言ったりするのも聞いたことがない。「ちゃんちゃんこ」も、うちのエリアは「デンチ」となっているが、僕の家では「タンゼン」と言われていた。そういう、教育委員会がどういう基準で代表的方言を選んで回答していたのかがわからないので、100%信頼が置ける調査結果なのかどうかはわからない。

ツッコミどころはあるような気がするが、確かに、ああうちではそう言ってたな~と思い出しながら、楽しく読み進めることはできる。

「方言周圏論」は、元々柳田國男が発見したものだが、当の柳田は晩年その主張のトーンをダウンさせていたという。それを現代に復活させて、現に存在するのだと膨大なエビデンスとともに示そうとした著者の試みは面白いし、注目もしている。京で発生した言葉は、年1㎞のペースで同心円状に広がっていくのだという。その意味では、同心円の外縁の外縁ともいえる琉球には、数百年前に京の都で普通に使われていた言葉が、今でもその名残りを留めて使われているケースもあるのだという。言語学、方言学の面白さを、ちょっと垣間見させてくれる本だといえる。

それにしても、著者もそうだし、本書でほぼ相方として登場されている小竹哲探偵にしてもそうだし、大学で勉強してきたことについて、そのまま大学院に残って研究を続けていれば著名な研究者にもなれるであろう、探求心に富んだ人々だが、そういう人を受入れて、長年にわたって1つのテーマを追い求めることを許す大阪朝日放送って、ある意味すごい会社だなと感心もした。松本氏1人ならず、小竹氏も別の部署で抱えていて、しかも紫式部の『源氏物語』における「戻る」の用法に関する探究がなければ、両者が出会うこともなかったというのだから。いったい、そういう尖がったキャラをどれだけ社内に擁しているんだろうか(笑)。


全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

  • 作者: 修, 松本
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/11/29
  • メディア: 文庫
全国マン・チン分布考(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル)

全国マン・チン分布考(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル)

  • 作者: 松本修
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/02/01
  • メディア: Kindle版


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