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『原敬』 [仕事の小ネタ]

原敬 「平民宰相」の虚像と実像 (中公新書)

原敬 「平民宰相」の虚像と実像 (中公新書)

  • 作者: 清水唯一朗
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/07/20
  • メディア: Kindle版
内容紹介
初の「平民」首相として、本格的政党内閣を率いた原敬。戊辰戦争で敗れた盛岡藩出身の原は苦学を重ね、新聞記者を経て外務省入省、次官まで栄進する。その後、伊藤博文の政友会に参加、政治家の道を歩む。大正政変、米騒動など民意高揚の中、閣僚を経て党の看板として藩閥と時に敵対、時に妥協し改革を主導。首相就任後、未来を見据えた改革途上で凶刃に倒れた。独裁的、権威的と評されるリアリスト原の軌跡とその真意を描く。
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いつの頃からだっただろうか。たぶん、2007年にインド駐在が始まった頃からだったような気がするが、隔週刊の『ビッグコミックオリジナル』を読むようになった。当時連載がすでに始まっていて、今も続いているのは、かざま鋭二『風の大地』と北見けんいち『釣りバカ日誌』、弘兼憲史『黄昏流星群』、西岸良平『三丁目の夕日』など。連載を長く続けることが読者つなぎ止めのアプローチだといわんばかりの長寿連載だ。しかし、このうち、かざま鋭二さんは体調を崩されて夏から療養に入られ、秋にはお亡くなりになった。今は過去の回のリバイバル掲載が続いている。

最初は、南デリーにあった日本食レストラン「田村」の店内に置かれていた棚にあった雑誌の中から、日本人の来店客が置いて行ったであろう「オリジナル」を拾って、注文待ちの間に読んでいたが、2010年に帰国した後ぐらいから、職場からの帰路に駅のキオスクで「オリジナル」を買って、帰りの電車の中でパラパラめくるようになった。隔週刊なので、マンガを読むのにさほど抵抗があったわけでもない。ちょうどよい息抜きだった。

「オリジナル」には、編集部が重用している作家がいる。現在連載中の作家でいえば、『テツぼん』の永松潔、『スティグマ』の井浦秀夫、シリーズ『父を焼く』の山本おさむなど。他にも、今は連載していないが、自分が知る限り過去に複数の連載を持った作家には、テリー山本、尾瀬あきら、一丸などがいる。

能條純一も重用されている作家の1人といえる。リアルでちょっと怖い描き方をする漫画家で、作風はあまり自分の好みではないが、現在連載中の『昭和天皇物語』は毎号楽しみにしている作品の1つだ。初期に出てきた元老・山県有朋や今も時々登場する西園寺公望は、写真で見るご本人の肖像とすごく似た描き方がされている。その他ほとんどの登場人物が、たぶんそんな感じだったんだろうと思わせるリアルさである。

そんな中で、巷間知られているご本人の写真と作品中での描かれ方が極めて異なる登場人物が1人だけいる。それが原敬である。

小中学校や高校の日本史で、明治・大正・昭和期は三学期になってしまって、あまりしっかり教わらないというのが今でも一般的なのではないかと思う。明治維新の功労者はまだいい。伝記が多く出ているし、NHK大河ドラマでもよく題材として扱われて、名前はよく知っているという偉人はいっぱいいる。昭和も、戦後になれば自分自身の記憶として刷り込まれている出来事が多い。ところが、明治末期から大正、昭和初期にかけては、認知の空白地帯。自分自身がよっぽど意識して勉強でもしないと、理解すること自体が難しい。

原敬の肖像は、日本史の教科書なら必ず出てくる。真っ白な髪で、明治維新の功労者たちと違って、尖ったところがほとんど感じられない穏やかな表情。そして、キーワードとして使われるのが、「平民宰相」「日本初の政党内閣」といった記述。でも、日本史ではちゃんと教わらないし、政治経済でも、政党の歴史や政党内閣発足の経緯、もっと遡れば、自由民権運動や大日本帝国憲法について学ぶ機会もない。

だから、原敬のことも、肖像とキーワードだけの断片的な情報でしかイメージを作れていない。原敬が東京駅で刺殺されたのは原が65歳の時のことだが、能條『昭和天皇物語』の原は、もっと若い、40代後半ぐらいじゃないかという描かれ方がされている。若いが、すでに元老から組閣を申し渡され、首相となって作品には登場する。そして、皇太子時代の昭和天皇の訪欧や摂政就任、婚姻を推し進める、有能な政治家として描かれている。

写真とマンガのイメージのギャップがあまりにも大きかったこと、また作品初期に登場した裕仁皇太子周辺の人物の中でも、とりわけクールかつパワフルで、旧い慣習を打ち破って新しいものを取り入れていく印象的な描かれ方だったこともあって、いちどは原敬の評伝でも読んでみたいと思っていた。中公新書がようやく本書の電子書籍版を出したことに気付き、そろそろ読んでみようと思った。

本書は、本当に原敬殺傷事件で終わっていて、それがもたらした影響についてはあとがきで少し触れるにとどめている。もし存命であったら世の中はどうなっていただろうかとか、著者の想像であっても言及してもらえると良かったのかもしれないが、原の生涯はだいたい本書で理解できたし、学校の教科書程度ではぽっと出とぐらいしか思えない原が、そこに至るまでに歩んできた、司法省法学校、新聞記者、外交官、外務官僚、政治家といったステップを振り返ることで、なぜそこに辿り着けたのか、ようやくつながったような気がした。

特に法学校に入るまでの勉強や、学校での勉強、さらに駐仏公使時代の勉強など、とにかくフランス語をよく勉強して哲学の原書まで読みこなせるまでになったというのはすごい。

また、なんでもかんでも自分でやるというでもなく、若手の能力を見抜いて抜擢し、ちゃんと役割を与えて、その仕事の責任は最後は自分で取るという、「人を見る眼」と「人を信じて待つ」ということができた人らしい。人気取りに走らず、冷徹と見られるところも実際あったそうだが、着実に今やるべきことをやり、かつ後進を育てることにも力を注いでいたように思える。

原首相の在任期間中に、スペインインフルエンザも第一次世界大戦の戦後処理、インフレと社会不安なども起きている。今日本の国の内外で起きている一連の出来事を見渡すにつけ、原首相在任当時の様子をもう一度よく振り返ってみる必要が今あるような気はしてしまった。

でも、今の中央政界に、そこまでやっているという人っているのだろうか。今の内閣で、宗教界との癒着を疑われた経済産業副大臣に続いて、今度は本人の失言によって法務大臣も辞任に追い込まれた。お二人ともご経歴は立派な方だが、人としてはどうだったのだろうか。任命した総理の人を見る眼も問われるのではないだろうか。

今の自民党につながる政友会の礎を築いた人の生涯を学ぶにつけ、今の自民党、ひいては野党も含めた政党政治全般、大丈夫なのだろうか。

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