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サステナブルツーリズムは何処へ? [ブータン]

エコツーリズム商品開発ワークショップ
Training Workshop on Ecotourism Product Development
無記名寄稿、Kuensel、2022年7月16日(土)
https://kuenselonline.com/training-workshop-on-ecotourism-product-development/
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【要約】
ブータン観光評議会(TCB)が7月5日からブムタンで開始した4日間にわたるエコツーリズム商品開発ワークショップには、各県の経済開発官(EDO)、計画官、環境担当官、ゲオッグ事務官(GAO)、森林技官等全国から30人が参加。プロジェクトの利害関係者の能力の底上げとプロジェクト調整員間の知見の共有が目的。

このワークショップはGEFのファンディングによる「生物多様性を観光部門で主流化する」というエコツーリズムプロジェクトの一環。プロジェクトの進捗について情報共有され、エコツーリズムが他のツーリズム概念とどう違うのか、エコツーリズム起業や商品開発における環境社会配慮ガイドラインとその実施プロセス等を学んだ。

その上で、参加者は、各々代表する県において有望なビジネスや商品アイデアを紹介した。

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エコツーリズムの定義で最も受け入れられているのは、1990年に国際エコツーリズム協会(TIES)が定めた、「環境を保全し、地域の人々のウェルビーイングを改善させるような、自然の中を訪れる責任ある旅」である。しかし、ブータンのエコツーリズムは「文化や自然の遺産を守り、訪問者と受入側にポジティブで記憶に残る体験機会を提供し、地域の人々に目に見える恩恵をもたらし、GNHの4本柱にの実現に貢献する、高価値低インパクトの旅」というものである。「高価値低インパクト」とは収入創出の面だけでなく、そのサービスの水準とユニークな体験を提供できるかどうかという点も問われる。

プロジェクトの専門家であるジグミ・ドルジ氏によると、ブータンは、エコロジカルなサービスを観光客に提供するという点においては未開拓の状況だという。

ワークショップのトレーナーやリソースパーソンは、UNDPブータン事務所や労働人材省、TCBのプロジェクト運営チーム(PMU)から派遣。TCBはGEFファンディングによるエコツーリズムプロジェクトを昨年9月から開始。GEFからの資金はUNDPブータン事務所を通じて拠出され、農村開発に変革をもたらすことが期待されている。農業が主流を占めてきた農村経済に、野生動物も交えた新たな経済活動を促進し、自国民による内国ツーリズムの活性化、雇用機会の創出、地域コミュニティの強靭性と自然とのつながりを強化することが期待されている。

TCBとUNDPのプロジェクト関係者の誰かが執筆し、クエンセルに寄稿したものである。僕も昔は多用していた手法で、いつまでもネット上で記録には残るし、これをつなぎ合わせればちょっとしたレポートにだってなる。でも、僕がいちプロジェクトの専門家の立場として今この手法を用いるには、プロジェクトにおける明確なマイルストーン的イベントがないと難しい。また、何のためにそれをやるのかを考えた場合、専門家いち個人ではなく、それをやった方がいい組織や人が他にいるような気もする。

さて、僕はこの「エコツーリズム」という言葉を目にすると、かなり不快な気持ちに駆られるというのを告白しておきたい。この言葉がブータンで目立って用いられるようになったのは2018年頃のことで、それ以前に、日本のNGOが、ブータンのRSPN(王立自然保護協会)と組んで、「CBST(Community-Based Sustainable Tourism)」という概念の普及に取り組んでおられた時期がある。しかし、この事業が終了し、日本側関係者が引き揚げた後、某国際機関によって「エコツーリズム」という言葉が持ち込まれて、「CBST」は押し流されてしまった。

いわば、概念普及で、「CBST」は「エコツーリズム」に競り負ける格好になってしまった。もっと象徴的な言い方をするならば、日本が普及発信力で国際機関に競り負けたとも言える。

本来なら、当時これに関わっていた現地の日本側関係者は、たとえ駐在の方が引き揚げた後でも、CBSTの概念普及には引き続き努める必要があった筈だ。しかし、当時新たにはじまった某国際機関のエコツーリズム支援プロジェクトの対象にもなっていたハ県では、それまで「CBST」と言っていた県庁関係者であっても、コロッと「エコツーリズム」に宗旨替えし、「CBST」という言葉を使わなくなった。事業が終了すれば資金の流れも途絶えるし、研修に参加する機会も途絶える。そこに新たな研修機会を提供してくれる新たなドナーが現れたら、そちらに乗り換えるのは現地側関係者からしたら当たり前の行動だ。

「プロジェクトの忘れられ方」———そんなことを思ってしまう。

この概念普及には僕も絡むべき立場にあったので、こうなってしまった責任の一端は、僕自身にもあると思う。僕なりの言い分もあるのだけれど、今さらそれを言っても仕方がない。

そして、こうしてはじまった新しいスポンサーによる新しいプロジェクトも、寄稿の内容を見ると、新味なのは2019年頃から配置がはじまった県経済開発官(EDO)の存在ぐらいなのではないかと思える。EDOはまだ新設のポストで、各県での小規模零細産業(CSI)の振興を進めるのがその役割だろう。僕が度々言及する、2019年にJICAが提出した「ブータン全国総合開発計画2030」でも触れられており、常に業務多忙の県計画官をサポートし、地方での産業振興のキーパーソンとして要注目だというのは間違いない。

EDOの役割に新たな意味づけを与えるという意味では、こういうワークショップはやったらいい。想定しているツーリストも外国人というよりも内国人のようだし。ティンプーあたりに集住する富裕層に旅してもらう想定で、中部東部の観光資源開発を検討するというのは、悪い話ではないだろう。ただ、よくわからないのは、純粋な観光を目的に国内を移動するブータン人って今どれくらいいるのかという点だ。

「ブータン人ツーリスト」って、どんなイメージで捉えたらいいのだろうか。公務、私事を問わず、何かの用務で地方に行くという人は確かにいる。でも、「観光してきました~」「あそこ良かったよ~」というブータン人の話は、あまり聞いたことがない。私事で行っている場合は、たいてい、何らかの縁がある土地に行っているような気がする。

ティンプーやパロの市民が、ピクニックがてら郊外に行くというのならあり得るかもしれない。プナカやハあたりだったら、日帰り圏内だろうし。同様に、ジャカールに住んでる人がウラやシンカル、チュメあたりまでピクニックで足を運ぶというのもあり得る話かもしれない。でも、そうすると、「ブムタンだからブムタンっぽい商品を開発しよう」という発想ではなく、「あそこの食事は結構美味いらしい」「あそこは美味しいケーキがあるらしい」「あそこの町にはカリスマ的ヒーラーがいる」といった、必ずしもその地域の伝統的な特色ではない、別の「売り」を考えた方がいいのではないかとすら思える。

各々のブータン人の生活圏域を越えて旅を促すには、単に訪問する地域の伝統文化や自然資源上の特色を生かした売り方とは違う、それでもそこに行きたくなるような何かが必要ではないかと思う。人々の噂にのぼる「何か」を持った場所だ。

例えば、「問題解決ツーリズム」とか、「ドローン飛ばし放題ツアー」とか、「科学実験ツーリズム」「天体観測ツーリズム」とか。そこに行ったらワクワクする新たな何かを学べるとか、そういったツーリズムで、それは、自然や地域の伝統文化といったものとはちょっと違う。

また、どちらかというと子供にこういうツアーに参加させたいと思う親に訴求するというアプローチに的を絞り込む方が、イメージも湧きやすいのではないだろうか。僕の言っているものに近いとすれば、Camp RUF(Rural-Urban Friendship)が主催するウィンターキャンプなんかはこれに相当するのではないか。

この記事は読んでて不快感もあったが、その一方で、ファブラボCSTを起点にして周辺の県にアプローチする場合、県庁のEDOにこういう話を持って行ったら受けるかも、というイメージづくりには役に立った。

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