工業団地、満杯はまだ先 [ブータン]
ダムダム工業団地で操業開始は未だ2工場
Only two industries operational in Dhamdum Industrial Park
Rajesh Rai記者(サムチ)、Kuensel、2022年7月7日(木)
https://kuenselonline.com/only-two-industries-operational-in-dhamdum-industrial-park/
【ほとんど抄訳】
サムチの人々は、ダムダム工業団地(DIP)が歴史的な経済利益をもたらすと期待しているものの、開発から6年が経過した今も、この団地では成長の兆しがない。2020年末までに建設整備が承認された9つの工場のうち、現在操業中なのは2工場のみだ。
1つはドルック・テキスタイル社で、全国の学校のユニフォームを主に製造する事業所だ。事業主であるツェリン・デンドゥップ氏によると、同社は生産開始からまだ1カ月だという。まだ機械設備の整備は途中であり、パーツ類が簡単に手に入らず、運送会社経由でパーツを輸入するには時間がまだかかると見ている。
市場の状況については、縫製者協会との対話を行っているところだという。労働省を間に挟んだ交渉は第二フェーズに入っており、これが終わればMOUを結んで、全国に衣料品を供給できると見ている。
家具製造のパラヴィ・ファニチャー社も、工場建設が終わった。オーナーであるプララード・グルン氏によると、操業開始は2021年12月だった。しかし、同社は既に電力の問題に直面している。一時的に使用できる電気系統が与えられたものの、それだけで工場を操業するには不十分だ。思ったように操業できていないのが現状だと言う。銀行からの借入金の返済はオーナーが自分の口座からなんとかやり繰りしているが、8人いたスタッフのうち、4人が辞めた。
ブータン・マウンテンコーヒー(BMC)も、同団地に入居する工場だが、設備建設は今年末か来春の見込みだとのこと。労働力不足と原料価格の高騰のせいで遅れているが、建設には踏み切った。しかし、現在はモンスーンのせいで工事がストップしているという。BMCは全国の農家からコーヒー豆を買い付ける加工業者で、サムチには独自のコーヒー農園も有する。
《後半に続く》 .
クエンセルのプンツォリン駐在員のラジェッシュ・ライさん、先週のサムチ出張記事に加え、今週ももう1本記事を書かれた。さすが、1回の取材旅行で複数の記事原稿を書き上げる。それも、批判的な要素が含まれていて、ある意味ジャーナリストのあるべき姿だともいえる。長期的な視点も持ちつつ、取材対象を多面的に見て、記事をまとめておられると思える。
経済省産業局(DoI)によると、DIP入居に関心表明した事業者は計68件。うち4件について事業承認と操業許可の発給手続き中とのこと。15事業者は土地利用許可証は発給されたが、リース契約の履行のため、サムチ県庁を訪問した事業者はいない。また、別の15事業者はリース契約には署名したが、工場の設計計画書を未提出である。
23事業者の設計計画書は承認されたものの、建設工事は始まっていない。DoI関係者の1人は、建設開始に必要な便宜供与はすべて経済省側から提供してきているとのこと。しかし、ほとんどの事業者は、金融機関からの融資実行の遅れにより着工ができない状態。加えて、原料価格の上昇や技能労働者の供給不足の問題にも直面している。
電力供給制約については、DoI関係者によると、モンスーンの影響だと言う。しかし、ダムダム用地管理事務所はブータン電力サムチ事務所と密に協議し、停電時の電力供給復旧での便宜についても検討中とのこと。同事務所は、建設に着工した事業者への電力供給でも便宜を図るとのこと。
DIPは2016年8月にオープンしたが、現在まだ完成していない。当初は349エーカーの整備予定だったが、その後、サムチ~プンツォリン間の新国道との接続を改善するため、工場用地は342エーカーに縮小された。用地はポケットAからB、Cに分割され、ポケットAは、一部の水供給網を除けばほぼ開発が終わっている。ポケットCについては整備事業の85%が終わっている状況。第1フェーズでは、この2つのポケットが整備されるとの計画だった。
団地は、道路や送排水網、街路灯、歩道といった基礎インフラの整備も含めて、2022年12月までにポケットAとCが完成予定。
サムチの地域経済って、僕の印象では以下の要素で成り立っているように思う。
①インドからの原材料輸入、またはサムチでの原材料調達
②インドからの労働力輸入
③インドの輸出市場
いずれにしてインド頼みな要素が強い、一種の加工貿易のようなことが国境沿いでは行われている。家具も同様だ。実際この工業団地ではないが別の家具工場を見学させてもらったことがあるが、そこも、作業員は主にインドのアディバーシー(先住民)で、パンデミックの間の労働力確保で大変苦労したとオーナーが仰っていた。また、原料となる合板はシリグリの木材市場で調達し、出来上がった家具の市場も、もちろん国内市場もあることはあるが、インド側の需要に依存しているとのことだった。
なにせインド国境は目と鼻の先だ。今は物流のみ開放されているが、労働力の移動は各事業所毎にクォータが決まっているそうで、労働集約的な生産工程や生産現場では、もっと労働力が欲しいという声を聴いた。豊富な森林資源がある筈のブータンだが、これを使用するには伐採に関する許可制度がかなり厳しく、なかなか手が出せないのだという。
おそらく、コーヒーについても同様に輸出市場を狙っていくのだろう。テキスタイル工場については、学校ユニフォームと言われていたので国内市場向けで同様のパターンの生地を大量に生産している。これも、糸はインドからの輸入なのだろう。
9月下旬に国境跨ぎでのインドからの入国の規制が取っ払われるらしいが、それでも労働省が設けている外国人雇用に関するクォータ制は依然として課題として残るのかもしれない。
実態を明らかにする記事なので、記事の内容にどうこう申すつもりはないのだが、少なくとも先行して入居している数少ない企業が、どのような事業を行っているのかを知るにはいい記事なのではないかと思う。先週のサムチ日帰りは、集中豪雨の最中の強行軍だったこともあり、短時間でのタッチアンドゴーだった。サムチの地域経済がこれだけで把握できたとも当然思わない。また行く機会が必ずあると思う。
そういう時に、どこを見たらいいか、どこにどう「営業」をかけたらいいのか、具体的に考えるには、モチベーションがホットな今の時期に、こうした記事が出てきてくれたことには感謝しかない。
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